ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
――宇宙世紀0079年6月1日。少し遅めのゴールデンウイークを堪能し、その間に改修が終わったJ型ザクの習熟訓練も終えた僕たちは、次なる作戦に臨もうとしていた。
標的は地球連邦軍の前線基地。それなりの規模があり、激しい戦闘が起きることが予測されている。
ただ、今回はサブナック隊だけでなく、新しいヒルドルブを受け取ったソンネン少佐が一緒に作戦に参加してくれることになっていた。
前回の戦闘データを元にこちらも改修を行い、より実践向きの機体になったとのことで、その活躍には期待が寄せられている。
「さて、クロス。今回の標的、お前ならどう攻める?」
「そうですね……」
行軍の最中、ヒルドルブからの通信を受けた僕は、ソンネン少佐からの質問に少し考えこむ。
ややあって、自軍の戦力と敵基地の情報を踏まえた上で、僕は自分の出した答えを少佐に告げた。
「まずはヒルドルブの曲射榴弾による対地砲撃で敵基地の防衛砲台を破壊します。続いてザク部隊が敵基地に進攻、防衛戦力を確実に潰した上で、司令部の破壊を目指す。後方部隊はヒルドルブを護衛しつつ、航空戦力を一緒に迎撃してもらうのがベターかなと」
「手堅い戦略だな。敵が出てくる前に一気に叩き潰すって策は好きじゃねえか?」
「それもありだとは思います。ただ、敵の戦力がどれほどなのかがまだ判明していません。それに、ザクといえど不意を打たれればあっさり墜とされてしまいますから。だったら油断なく、確実に足場を踏み固めて進んでいった方が犠牲が少なくできるはずです」
色々とソンネン少佐に教わったおかげで、こういう作戦プランについても考えられるようになった。
まだ甘いとは思うが、それでも多少は戦術というものを学べて良かったと考えている間に、攻撃目標である基地が見えてくる。
「よし、配置につけ。まずはヒルドルブの砲撃で敵防衛戦力を破壊し、その隙を突いてレッド、ブルー、グリーンの三小隊が敵基地に突入する。基地の戦力が出そろう前に攻撃を仕掛けつつ前進、一陣がある程度進んだところで第二陣が基地に突入し、残存兵力を駆逐しながら共に司令部を目指す……わかったな?」
「了解!」
「ははっ! 良かったな、クロス。ヨハンソンもお前とほぼ同じ作戦を考えていたみたいだぜ?」
先ほどの僕のプランは模範解答に近いと、少し遠回しな言い方で褒めてくれたソンネン少佐へと軽くザクの手を上げることで応える。
多少は学んだことを活かせているかなと思いながら配置についた僕は、少佐のヒルドルブが基地へと砲撃を仕掛ける様を見つめながら、自分の出番まで待機していた。
「攻撃は砲台に命中したようだ。流石の腕前だな」
「これなら楽に攻撃できるね。あ~あ、第一陣の部隊だったら、簡単に手柄を立てられたのにな~……」
「気を抜くなよ、ロバート。いつでも動けるよう、準備をしておくんだ」
ヨハンソン隊長の指揮の下、突撃していく三小隊を見つめながら僕は小隊員であるロバートへと言う。
楽勝な雰囲気はあるが、気は抜けない。敵がどんな動きを見せてくるかわからない以上、何があっても対応できるように心構えはしておくべきだ。
通信機からはガスたち第一陣のメンバーが次々と敵の戦力を破壊している報告が入ってくるし、それを聞いている残りの小隊の面々も手柄を立てたくてうずうずしているようだが、それを制することも僕の仕事だ。
ここで誰かが勝手に動けば、統率が取れなくなる。今後、悪化していく戦況のことを考えると、今のうちから徹底して抜け駆けは禁止しておかないと駄目だと自分に言い聞かせる僕に、ソンネン少佐が声をかけてくる。
「頑張ってるじゃねえか、レオンハート曹長。多少は、威厳らしいものが身についてきたんじゃねえか?」
「からかわないでくださいよ、少佐。こっちはいっぱいいっぱいなんですから」
そう言いつつ、ヨハンソン隊長の指示を受けた僕は前進の命令を仲間たちに出す。
一斉に駆け出すザクたちを見送りつつ、最後尾につけた僕は、ヒルドルブを護衛しながら基地へと進攻していった。
「少佐、そろそろ敵の航空戦力が出撃してくるかもしれません。ヒルドルブで対空射撃をお願いします」
「はっ! 師匠に対して指示を出すとは、お前も随分偉くなったもんだな! まあ、俺も同じことを考えてたから、いいんだけどよ!」
ガコン、という音が響き、ヒルドルブが散弾を装弾する。
予想通り、基地の奥から出撃したセイバーフィッシュや爆撃機デプロッグを少佐と一緒に迎撃しながら、僕は改めてヒルドルブの活用方法を考えていた。
(多分、これが正解だよな。単独での運用よりもMSと組んで援護用の自走砲台として扱う方が活躍しやすいと思う)
【MS IGLOO】では文字通り単機で無双していたが、あれは正直正しいヒルドルブの使い方だとは思えない。
長い射程と曲射可能な榴弾や焼夷弾、散弾といった様々な武装を活用してMSの進撃を支える移動砲台としての運用の方が、ヒルドルブの性能を活かせると思う。
これならばソンネン少佐並みの技術は必要ないし、MSと協力することでヒルドルブ自体もできることが増える。
ただこの扱い方だと、それこそ変形機構を取っ払った完全なる戦車でいいんだよな……という問題点を考えていた時だった。
「な、なんだこいつ!? うわあっ!?」
「で、デカいぞ! みんな、気を付けろ!!」
聞こえてきたオリバーの声に彼が進んでいる方向を見れば、そこに巨大な影があることに気が付いた。
巨大な連装砲を機体の至る所に取り付け、さらに対空用の機銃も併せ持つ巨大な陸戦艇は、ザクの接近を拒むように厚い弾幕を張り続けている。
「ビッグトレーだ! 陸上戦艦が出たぞ!!」
「全員、気を付けろ! 主砲の直撃を受ければ、ザクとて撃墜は免れない!」
現時点の連邦軍の戦力の中でも特に注意が必要な対象。
陸上戦艦ビッグトレー……対MS戦用に大量の機銃を取り付けたそれには、ヨハンソン隊長たちも苦戦を強いられているようだ。
こいつを墜とせば大手柄だと考えたであろうガスが取り巻きたちを率いて突っ込もうとしたようだが、あえなく弾幕に押し返されてただただ被害を広げただけで戻ってくる。
その間に少しずつ敵基地から戦力が出撃し、61式戦車たちの砲撃も加わって、状況は少しずつ相手側に傾き始めていた。
「マズいな、このままだと押し返されるぞ」
「少佐! ヒルドルブで狙撃とかできないんですか!?」
「無茶言うな。あれだけの対空射撃があったら、直撃なんてさせられねえよ」
少佐の言う通り、厚過ぎる弾幕がMSだけでなく砲弾をも防ぐ攻防一体の盾となっている。
あれでは弾速の遅いバズーカも撃ち落とされてしまうだろうなと考えた僕は、少し考えた後で小隊のみんなとソンネン少佐へと言った。
「……少佐、対空射撃をなんとかできたら、ヒルドルブで狙撃できますか?」
「あ? ……ああ、多分な」
「了解です。みんな、悪いけど援護を頼む」
「えっ? ちょっ、クロス? 何をするつもり――!?」
リリアの言葉が終わる前に、バーニアを吹かした僕が一気にビッグトレーへと突っ込む。
弾幕の雨を回避し、途中に見えた61式戦車数台をマシンガンで蹴散らしながら、陸上戦艦の懐に潜り込んでいく。
(遠距離から戦ってたら相手のペースに乗るだけだ! こいつをどうにかするには、懐に潜り込むしかない!)
陸戦高機動型ザクの機動力なら、この弾幕もどうにかできる。
マシンガンの有効射程に入り、機銃を破壊して、ビッグトレーを無力化するのだ。
連装砲の砲撃を回避しつつ、陸上戦艦に接近しながら……僕はひりつく感覚にプレッシャーを感じつつも、少しずつ相手との距離を詰めていった。
(ああ、くそっ! やっぱ弾幕厚過ぎだよなぁ!?)
主砲と副砲による砲撃はもちろん、機銃の斉射も下手に当たれば命取りになりかねない状況。
加えてビッグトレーに辿り着くまでには61式戦車と戦闘機たちの防衛陣を越えていかなければならないわけで、それが実に厄介だ。
ただ、この無謀な戦い方ができるのはG型ザクに乗っている僕だけで……ここで動かなければ、じわじわと状況を逆転されてしまうだろう。
一気に勝負を決めるために突っ込んだ僕は、敢えて61式戦車たちの中に飛び込むと適度に動き回りながら周囲の敵機を撃墜していく。
動きは先ほどよりも小さくなったが、ビッグトレーや上空の戦闘機からの攻撃は全くと言っていいほど飛んでくることがなくなっていた。
(そうだよな? ここで僕を狙ったら、味方の戦車も撃つことになるもんな!?)
敵の数は多い。だが、それを逆に利用してやることもできる。
敵からしてみれば、戦車隊の中で暴れる僕を攻撃してしまえば、味方の部隊も一緒に攻撃してしまうことになる。そんなことができるわけがない。
同士討ちの危険性を考えて何もできなくなっている相手を一方的に蹂躙した後で再びビッグトレーに向かって接近し始めた僕は、飛び交う砲弾を回避しながらどこから取り付こうか考えていった。
(やっぱり後ろからが一番いいよな。防御も薄めだし……)
回り込んで後方から取り付き、機銃を破壊する。これが無難かつ安全な方法な気がする。
問題は、回り込もうにも相手だって動くし、その気になれば圧倒的な巨体でザクを潰すこともできちゃうことだよな……と考える中、後方から飛んできた砲弾がビッグトレーの右側から飛び出していた副砲を貫いた。
「おい、クロス! お前、馬鹿か!?」
「えっ? あ、いや、すいません。結構無謀だとは思ったんですけど、やれるかなって……」
「そうじゃねえ! 普通に考えて、お前が相手に近付けた時点でほぼ勝ちなんだよ! なんで近付いてやることが機銃を潰すなんだ!?」
「あっ……!」
そこで気が付いたのだが……ソンネン少佐の言う通り、僕がビッグトレーに取り付けた時点で、勝敗はほぼ決するではないか。
わざわざヒルドルブに狙撃してもらわずとも、僕が敵の懐に潜り込んでブリッジを潰してしまえば陸上戦艦は動きを止める。つまりは、僕がソンネン少佐を援護するのではなく、ソンネン少佐の援護を受けて敵に取り付く方が正しい戦術なのだ。
「本当に大胆なんだか謙虚なんだかわからねえ奴だな! お前は!!」
「す、すいません……」
ソンネン少佐に破壊してもらった右側へと回り込み、そのままマシンガンを浴びせて機銃を破壊しながら相手の後ろを取るべく動き続ける。
敵の航空戦力はリリアたちがバズーカで蹴散らし、アクセルもマゼラトップ砲で主砲を攻撃して隙を作ってくれたおかげで、ようやく僕はビッグトレーの後ろに回り込むことができた。
「よし、ここまでこれたら……!!」
武器をバズーカに持ち替え、背面に取り付けてある二門の機銃を破壊。
そのまま巨大な砲台を撃ち抜き、後方の攻撃手段を全て奪った僕は、そのままビッグトレーに飛び乗るとバズーカを構えながら警告を発した。
「ビッグトレー、聞こえるか? こちらはいつでもブリッジを破壊できる状態にある。勝負はついた。潔く武装を解除し、降伏せよ」
「……こちら、ビッグトレー。我々は勧告を受け入れ、降伏する」
暫しの沈黙の後、聞こえてきた返事に安堵のため息を吐く。
一時はどうなるかと思ったが、今回も犠牲ゼロで戦いを終えられて本当に良かった。
そう思いながらため息を吐く僕へと、ガスからの通信が入る。
「調子に乗るなよ、クロス。お前がすごいんじゃない、その新型がすごいんだ。そのザクさえあれば、俺だって……!!」
「ああ、そうだね。僕の手柄じゃない。なんだっていいさ、そんなの。みんなが無事なら、それでいい」
「っっ……!!」
ガスの言葉に同意しつつ、武装解除を始めた連邦軍の部隊を見やる。
同時に自分の判断ミスを思い返した僕は、まだまだ隊長としては未熟だなと苦笑を浮かべるのであった。