ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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僕の愛馬は未使用です

「さっきの戦い、どうしてビッグトレーのブリッジを破壊しなかった?」

 

「え……?」

 

 任務を終え、キャリフォルニア・ベースに帰還した僕は、ヒルドルブを降りたソンネン少佐からそんな質問を投げかけられた。

 少し戸惑った後で、僕はその質問に答える。

 

「殺したくなかったから、ですかね……敵も味方も、死なないで済むならそれが一番じゃないですか」

 

「はぁ……甘いな、お前は。本当に変な野郎だ。ただまあ、それができちまう腕前があるから何も言えねえんだけどよ」

 

 確かにソンネン少佐の言う通り、取り付いて即ブリッジを破壊してしまった方が楽と言えば楽だ。

 だけど、誰かを殺さないで済むのならば僕はそうしたい。多少の手間がかかったとしても、それができるのならばそっちの道を歩きたいという思いがある。

 

 無論、時と場合によってはそんな甘さを出す余裕がないことはわかっている。

 ソンネン少佐も僕がただ人を殺す度胸のない臆病者ではないと理解しているからか、それ以上は何も言わないでくれていた。

 

 そこでザクから降りてきたアクセルとも合流すれば、彼もまた僕にこんなことを言ってくる。

 

「貫禄が出てきたな、クロス。ビッグトレーを制圧したこともそうだが、作戦終了後のガスへの返事もなかなかだったぞ」

 

「え? ど、どういうこと?」

 

「あいつを全く相手にしてなかっただろう? 器の差が感じられたし、ガス自身もお前の態度にプライドを傷付けられたようだが、これ以上何を言っても惨めになるだけだと理解したみたいだ」

 

「いいじゃねえか、クロス。威厳が身についてきたな」

 

 これはからかい……ではないのだろう。ソンネン少佐はともかく、アクセルは至って真面目な感じだ。

 でも、さっきも作戦についてミスをしてたし、そんな僕が威厳を身につけられているとは思えないんだけどな……と考えながら格納庫から出て、更衣室に向かおうとした時、通路から外れたところから大きな声が聞こえてきた。

 

「今の声は……ガスか?」

 

 気になった僕たちがそちらへと歩いていけば、ガスとその取り巻きが誰かを取り囲んでいる様が目に映る。

 よく見てみれば、彼らに囲まれているのはリリアで、ガスは彼女に怒りをぶつけるように唸っていた。

 

「リリア……お前も賢い奴だよな。クロスの奴に上手く取り入りやがってさ」

 

「何? どういう意味?」

 

「とぼけるなよ。その立派な()()であいつに取り入ったんだろう?」

 

 そう言いながら、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたガスたちは、パイロットスーツに包まれたリリアの膨らんだ胸部に視線を向けた。

 その視線と彼らの笑みから先ほどの言葉の意味を理解したリリアが目を細める中、ガスたちは言う。

 

「お前ってよ、デカいケツしてる割には尻軽(ビッチ)なんだな! クロスの奴に初めて乗ったのは、あいつに専用機が届いた時か?」

 

「ヒルドルブの救出作戦のメンバーにも選ばれてたし、その頃には取り入ってたんだろ?」

 

「上手いことやるじゃない。パイロットとしての才能はなくても、娼婦としてはピカイチかもね? 今からでもそっちの道に進んだら?」

 

「あいつら……!!」

 

 ガスとその取り巻きの男女がリリアを侮辱する姿を目にした僕は、怒りのままに一歩踏み出した。

 アクセルも見過ごすわけにはいかないといった表情を浮かべて僕に続こうとしたが、ソンネン少佐が静かに待ったをかけてくる。

 

「待て、お前たちが先に行っても事態がややこしくなるだけだ。上官の俺が締めてやった方があいつらも言うことを聞くだろうぜ」

 

「いえ、僕が行きます。リリアは僕の部下だ。僕が守らないで、誰が彼女を守るんですか」

 

 ソンネン少佐の提案を断り、改めてガスたちの方を見やる。

 間違いなく、リリアがあんな目に遭っているのは僕のせいだ。というより、僕に対する嫌がらせが周囲の人間にまで広がったと考えていい。

 ここで僕が何か言ってやらなければ、リリアはこれからもガスたちからああして嫌がらせを受け続けることになるだろう。

 

「……話は終わった? なら、退いてよ。汗かいちゃったし、さっさと着替えたいんだけど?」

 

「おう、だったら俺たちと一緒にシャワーを浴びようぜ。体の隅々まで洗ってやるよ!」

 

「その代わり、お前もそのデカいスポンジで俺たちの体を丁寧に洗ってくれよな!」

 

「そうだぜ、リリア……俺たちにも少しは媚びを売っておけよ。クロスの奴が活躍してるのは、あの新機体の力と運が味方してるだけだ。少しすれば、あいつのメッキも剥がれる。その時にあいつの上にいるのは俺だ。今のうちにデカくて軽いケツを持ち上げて、俺に媚びておけよ。そうすれば、俺が尉官になった時にお前にも目をかけてやるからよ……!!」

 

 もう我慢の限界だ。これ以上、リリアを馬鹿にすることは許さない。

 そう思いながらガスたちへと大股で歩み寄った僕は、怒気を孕んだ声で彼らへと声をかけた。

 

「いい加減にしろよ、ガス。リリアから離れろ」

 

「あぁ……? ちっ、クロス……!! てめえか……!!」

 

 僕の声に反応して振り返ったガスが、露骨に嫌な表情を浮かべながら吐き捨てるように言う。

 同時に、僕の背後にいるソンネン少佐の姿を目にした彼は、下手なことはできないと考えたようだ。

 

 ここできっちり修正してやらなくちゃ、これからもこんな馬鹿げた嫌がらせは続く。

 僕は上官で、ふざけたことをしているガスを叱責する義務があると……そう自分自身に言い聞かせながら、僕が口を開こうとした時だった。

 

「ぷっ! あはははははは……っ!!」

 

 不意に能天気な笑い声が響き、その声に驚いた僕は開こうとした口を動かすのを止めてしまった。

 僕だけでなくこの場にいる全員が驚く中、その笑い声の主であるリリアが普段のメスガキめいた雰囲気を纏いながらガスへと言う。

 

「あんたが尉官に出世とか、ないない! 絶対にあり得ないって!! 夢を見るのも大概にしときなよ!」

 

「なっ!? てめえ、何を根拠にそんなことを――!?」

 

「そりゃあ、ねえ? 器の小ささって言うか……連邦の豆鉄砲レベルの()()しかぶら下げてない男が、そこまで出世できるわけなくない?」

 

「は? ……はぁ!?」

 

「あははっ! 図星? まあ、器と男の武器のサイズは比例するっていうし、見なくても大体のサイズはわかっちゃうよね~!」

 

 一瞬、何を言っているのかわからないという表情を浮かべたガスであったが……リリアの言葉の意味を理解すると共に、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。

 そんな彼から視線を外したリリアは、ガスの取り巻きであり、自分を馬鹿にしていた女性隊員へと嘲りの笑みを浮かべながら言う。

 

「知ってる~? 他人への悪口は、自己紹介なんだよ~? あんた、私がクロスに体で取り入ったって言ってたけど……あんたが同じことをやってるからそういう発想になるんでしょ?」

 

「っっ……!?」

 

「あ~らら~! 図星みたいだね~? ついでに言うとさ、相手はガスだけじゃないでしょ? オリバーとか成績優秀で小隊長を任されてる男たちにはとりあえず媚び売ってるんじゃない?」

 

「なっ……? おい、エイダ! お前、まさか……?!」

 

「あははっ! またまた図星~っ! 娼婦の才能があるのはどっちだろうね~?」

 

 そう言った後、リリアはガスたちの包囲を抜けて僕の下に駆け寄ってきた。

 唖然とする僕の隣に立った彼女は、妖艶な笑みを浮かべながらガスたちを小馬鹿にした言葉を吐き掛けていく。

 

「ああ、そうだ。いいこと教えてあげる。豆鉄砲レベルのあんたと違って、クロスのはヒルドルブ……ううん、今日戦ったビッグトレーの主砲レベルの大きさだから! それと、私は乗る側じゃなくって乗られる側ね? クロスは女の子にシてもらうことしか考えられないテク無しのあんたと違うんだよ!」

 

「り、リリア!? ちょっ!? な、なに言って――あいだっっ……!!」

 

 なんかとんでもないことを言い始めたリリアにツッコミを入れようとした僕であったが、それより先にガスたちからは見えないように僕の背中を抓ってきた彼女の行動から、「今は何も言うな」という意思を感じ取ると共に口を閉ざす。

 でもこれ、否定しないととんでもないことになるんじゃないかと背中に冷や汗をだらだらと流す僕の前で、リリアは事実無根の話を続けていく。

 

「クロスは夜戦もすっごいよ~! 最初はついて行くので精一杯だけど、いっぱい訓練してもらって……いや~、あれはチューニングかな~? 今ではすっかり私も()()()()()()だし……この間はメロメロにされて、お尻にパーソナルマークと同じタトゥーを入れるって約束もさせられちゃったしな~! ホント、夜はワイルドで困っちゃうよ~!」

 

「な、な、な……っ!?」

 

 助けて、アクセル。助けて、ソンネン少佐。今僕は、とんでもない風評被害に遭っています。

 ガス一派はリリアの話を真に受けて顔面蒼白になりながら唖然としているし、もうどうしたらいいのかがわかりません。

 

「まあ、そういうわけだからさ……あんたらに媚びを売るとか、あり得ないから! せいぜい豆鉄砲と尻軽で仲良くやってな~! ほ~らクロス、馬鹿どもは放っておいて行くよ! 今日もお風呂とベッドで()()()()()()()()()()、しなくちゃでしょ?」

 

 意味深な笑みを浮かべながら僕の手を取ったリリアが、すごい力で僕を引っ張っていく。

 ガスたちが呆然とする中、引きずられていく僕がどうすればいいのかわからなくなる中、苦笑を浮かべたソンネン少佐が言った。

 

「ははは……っ! 女は強し、だな。その子、お前に守られる必要なんてなさそうだぞ?」

 

 笑ってないで助けてほしい、心の底から本気でそう思う。

 無論、その後僕はリリアと何かあったわけではないのだが……この話は瞬く間にみんなの間に広まってしまった。

 

 不幸中の幸いと言うべきか、この日を境に僕に対するガスたちからの嫌がらせはピタリと止まった。

 あとついでに集団でシャワーを浴びてる時に僕の股間に目をやる仲間が増えた気がするし、ガスに『ミニマム・ガス』という不名誉なあだ名が付いたらしい。

 

 状況としては多分好転したのだろうが、これって威厳の力じゃあないよなと思いながら……僕は今日も、自分がどう立ち回るべきかを必死に悩み続けるのであった。

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