ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
――宇宙世紀0079年7月15日。早いもので、僕が曹長に昇進してから二か月以上の時が流れた。
その間、ソンネン少佐から戦術や指揮官としての心得を教わった僕は、多少はマシなひよっこになれたと思う。
まだまだ実力不足であることは間違いないだろうが、小隊長としての立場にも少しは慣れつつあった。
ソンネン少佐とヒルドルブにも合流してからのこの一か月の間、サブナック隊との合同任務で何度も力を貸してもらっている。
MS部隊との共同任務におけるデータ収集という話であったが、少佐の技術とヒルドルブの性能には本当に助けられた。
やっぱりこういう砲戦に強い機体だとか、それを扱いこなせる技量を持つパイロットの存在は色んな意味で大きい。少佐が助かったことで、色んな部分にいい影響が出ている気がする。
少佐もなんだかんだで楽しそうだし、彼が今という時間を謳歌してくれていることが僕も嬉しかった。
僕もリリアのおかげ(?)で舐められなくなった……というより、ガスからの嫌がらせも止まったおかげで勉強に集中できている。
何度かガスの取り巻きのエイダから色仕掛けを受けたが、怖かったので必死に断っていた。
そもそも僕はリリアに手を出していないし、彼女の話が僕の功績云々の時のように尾ひれが付いて出回ってしまったせいで、もう本当にとんでもないことになってしまっている。
そのとんでもないうわさを聞く度に、「僕にはそんな性癖はない!」とか「リリア(というより女の子)にそんなひどいことはしない!」と言っているのだが、全部無視されているから困ったものだ。
とんでもないチューンを受けた
ソンネン少佐からは「もう本当に抱けばいいんじゃねえか?」「いつ死ぬかわからねえし、童貞で死ぬのも勿体ねえだろ?」と言われているが、そんなノリで女の子とそういうことはしたくない。
リリアの方は普段と変わらない雰囲気……だと思うのだが、アクセルから見ると色々といい形に変化しているそうだ。
ちなみに彼女の変化がわからないと言ったら、偶々話を聞いていたリリアに蹴り飛ばされた。ひどい。
そうしていくつかの任務をこなしている間に時間は過ぎ……宇宙ではソロモンが完成したり、なんだか色んな動きがあったようだ。
もうそろそろ白い悪魔たちも動き出すと考えると恐ろしくて仕方がないが、僕としてはどうしようもないのでやれることをやるしかない。
そんなふうに覚悟を固めつつ、キャリフォルニア・ベースで過ごしていた今日、格納庫ではちょっとした騒ぎが起きていた。
サブナック隊に新型のMSが送られてきたと、そういう話を聞いた僕も仲間たちに紛れて様子を窺えば、そこにはとても見覚えのある機体があるではないか。
(うわっ、グフか……! もう完成したんだな……!)
青いカラーリングと肩のトゲトゲとしたスパイクアーマー。
ザクに似ているが、はっきりと違うとあの青い巨星が言い切ったそのMSの名はグフ……陸戦に特化し、また対MS戦を視野に入れて開発された機体である。
有名な機体をこの目で見ることができたことを喜ぶ僕であったが、少しばかり開発時期が早過ぎるんじゃないかという疑問を抱いた。
【機動戦士ガンダム】の作中でもグフが初登場したのはホワイトベース隊が地球に降下し、ガルマ・ザビが戦死してからなのに、まだホワイトベースのホの字も出ていない段階でこいつが完成しているというのは微妙に変だ。
でもどのタイミングでどのMSが完成したかなんて話は聞いたことがないしな……と考える僕へと、ヨハンソン隊長が声をかけてくる。
「MS-07A『グフ』……これからの重力戦線を支える新型MSだ。クロス、グフはお前のG型ザクの実戦データを元に開発されている。有用なデータが大量に届くから、開発部も嬉しい悲鳴を上げていたそうだ。おかげで開発作業も想像以上の速度で進んだらしい。この三機は、そのお礼といったところだな」
「あっ、そうだったんですね……!」
陸戦高機動型ザクを受領した時に、新型MSのデータ収集も任務だと言いつけられていた気がする。
G型ザクはグフの前身というべき機体らしいし、僕の活躍によってグフの開発ペースが上がったと考えれば、この時期に完成していてもおかしくないのかもしれない。
「本来ならばこいつはお前に渡してやりたかったんだがな。他の奴に渡すことにした。許してくれ」
「あ、いえ、大丈夫です。その、オレンジ色のグフには乗りたくないですし……」
これは宇宙世紀の話ではないのだが、オレンジ色のグフだなんて死亡フラグの塊でしかない。
この時代に可変MSがいないことが幸いだが、西〇の兄貴がCVを担当したキャラのようにさっくり退場したくはないため、嫌なものを感じるグフに乗らなくて済んでむしろラッキーだと思っていた。
「あの、ちなみにこの機体は誰に渡されるんですか?」
ただまあ、このグフが誰の手に渡るのかは興味がある。
三機もいるんだし、この戦力をどう活用するのかな~? と考えていた僕であったが、背後から敵意がたっぷりと込められた声が響いてきた。
「俺たちだよ、この新型MS……グフを受け取るのはな」
「ガス……?」
振り返った先に立っていたガスと、彼の右腕的ポジションのダミアン、そして色んな男にちょっかいを出している女性隊員エイダの姿を目にした僕は、あのグフのパイロットが誰になるのかを理解して、思わず苦々しい表情を浮かべてしまった。
そんな僕に対して、ガスは憎しみを込めた目を向けながら口を開く。
「このグフは、お前のザクの実戦データを元に開発された。つまりお前の頑張りは、俺たちの役に立つためのものだったってわけだ。滑稽だな!」
「別に僕はそうは思わないけどね。みんなの役に立てたのなら、それで十分だよ」
「余裕ぶりやがって。本当は焦ってるんだろ? この部隊で最新のMSに乗ってたのに、俺がその座を奪っちまった。今度はエースパイロットの座も奪われるんじゃないかって、内心穏やかじゃないわけだ? 違うか?」
余裕で違う。そういうの、僕にとってはどうでもいい。
でも何を言ってもガスは納得しないだろうなと思い、ただ呆れた様子でため息を吐いた僕へと、彼は得意気に言う。
「もう機体のアドバンテージは消えた。ここからは、俺が大活躍するんだ。このグフを使って、お前の戦功がかすんで見えるくらいの手柄を立ててやるよ。ついでに、お前専用機になったリリアも奪ってやる。楽しみにしてな」
それだけ言って満足したのか、ガスはダミアンとエイダを連れてグフの慣らし運転をするために機体へと向かっていった。
彼らの背中に嫉妬と羨望の眼差しを送る仲間たちを見ながら、改めてグフを見やった僕であったが、そこで違和感に気付く。
「あれ、なんか……?」
「どしたの、クロス? なんか気になるわけ?」
「うわっ!? り、リリアか……!」
「人の顔見て、うわっ!? って何よ? いい加減に慣れなって……」
誰のせいでこんなリアクションを取る羽目になっているんだとは思いつつも、確かにあれから一か月は経つんだからそろそろ慣れるべきなんだろうと考えた僕が咳払いをする。
訝し気な表情を浮かべながら僕を見やる彼女に対して何かを言おうとした瞬間、横からアクセルが声をかけてきた。
「クロス、お前もあのMSを変だと思ったか?」
「あ、ああ、うん……」
「えっ? 変? どういうこと?」
やっぱりアクセルは勘が良い。僕は前世の知識があるから違和感に気付いたが、そうでない彼が初見であのグフの奇妙さに気付くなんて、本当に驚きだ。
普通はリリアのように何も気付かなくて当然なのに……と考える中、僕たちと同じくグフの違和感に気付いたもう一人の人物が声をかけてくる。
「あのMSの奇妙さに気付くなんて……ヨハンソン隊長に認められるだけはあるわね、クロス」
「セシリア……」
隊内成績二位、ブルー小隊の隊長を務めるセシリアもまた、あのグフの奇妙さを感じ取ったようだ。
冷静な彼女らしいなと考える僕の前で、リリアが不満気に言う。
「あのさ~、わかってない私を放置して、三人で話すの止めてくれない? あのMSのどこが変なわけ?」
「……クロス、一つ忠告しておくわ。あなたの好みにドンピシャでどんなプレイにも対応してくれるからといって、こういう馬鹿と深く付き合ってると身を滅ぼすわよ?」
「はぁ? 旧型ザクレベルのスカスカボディのくせに、よく言うよね? 頭が良くっても大した戦果を挙げられてないんだから、偉ぶれないんじゃないの?」
「むっ……!」
「ぬぐぐぐぐ……!!」
「……クロス、曹長として争いを止めろ。役目だろ」
「ええっ!? 僕ぅ!?」
静かに火花を散らし合うリリアとセシリアに戦々恐々としていた僕は、不意にアクセルに無茶ぶりをされて素っ頓狂な声を上げてしまった。
そんな僕に対して同時に顔を向けた二人は、ほぼ同じことを言ってくる。
「「クロス! 説明して(しなさい)!!」」
「は、はいっ!」
これじゃどっちが上官かわからないと思いつつ、改めてグフへと視線を向ける。
そうして感じていた違和感を確信へと変えた僕は、その質問に対してこう答えた。
「上手く言えないけど、
正しくは、僕の知っているグフと違いが多過ぎる、なのだが……それを言うわけにもいかないため、僕は敢えて言葉を選んだ。
では、どこが違うのかといえば……グフの特徴ともいえる、接近戦特化仕様としての武装がことごとく外れているのだ。
僕の記憶上、グフの左手はフィンガー・バルカンと呼ばれる武装になっていたはずだ。
これにより、右手に近接戦闘用の武器を持ちつつ、左手で牽制射撃を繰り出せる仕様になっていたのだが……あのグフの左手は、普通のマニピュレーターになっている。
そしてもう一つ、グフを象徴する武装ともいえるヒート・ロッドも取り付けられていない。
ヒートサーベルと専用のシールドは装備しているが、グフをグフたらしめる装備が取り外されているという、奇妙な状態になっていた。
「でもさ、それって悪いことなの? 特徴がないってことは癖のない、扱いやすい機体ってことでしょ?」
「確かにそうだね。でもリリア、少し考えてみて。ヨハンソン隊長も言ってたけど、これからはあのグフが重力戦線を支える……つまりは、J型ザクに代わって量産されることになる」
「まあ、完全にJ型の量産がストップすることはないだろうが……あのグフのために、専用のパーツや武装がわざわざ製造されるわけだ」
「新しい機体を作るために専用のラインが用意される。なのに、そこまでして製造されたMSはJ型ザクを少しグレードアップさせたような特徴のない機体。これって費用に見合う効果があると思えるかしら?」
「あっ……!」
そこまで説明されて、リリアも僕たちが言わんとしていることに気付いたようだ。
僕が知っている本来の歴史のグフならともかく、J型ザクに毛が生えたような微妙な機体に仕上がっているというのなら、生産ラインをほぼほぼ流用できるザクをグレードアップさせる形の方が良かったのではないだろうか? ということである。
まあ確かにほぼほぼエースパイロット専用機と化した本来のグフと比較すればこちらの方が量産に向いているような気がしなくもないが、対MS戦を想定しているならば武装が貧弱じゃあないかと考えていたところで、ソンネン少佐が話に入ってきた。
「未完成品だな、あれは」
「えっ……?」
「俺の見立てによれば、あれは完成度八割ってところだ。MSとして実戦投入できるっちゃできるが、それだけ。本来はもっと、何かあったんだろう。それを取り付ける前にここに送られてきたんだろうな」
「な、なんでそんな中途半端な状態で……?」
「簡単だ。聞き分けのないガキを納得させるためさ」
……要するに、こういう話だ。
あのグフは、仮にも最新鋭のMS。それを最近プライドをズタズタにされてフラストレーションが溜まっているガスのガス抜きのために配備したということだ。
あるいは、あのグフは先行量産品で、これから本格的に量産していくまでにブラッシュアップするための試験機としてサブナック隊に持ち込まれた。
ヨハンソン隊長は敢えてそういった話をせず、最新鋭のMSとしてガスに与えて……という感じかもしれない。
多分、後者だ。実際、ガスはこのグフが本来の性能を100%発揮できないものだと知らずに満足している。
これで彼の暴走がなくなるのなら、別に悪くないか……と考えていたところで、ソンネン少佐がニヒルに笑いながら口を開いた。
「ガスみたいな奴もいれば、お前らみたいなマシなひよっこもいる。不安は残ってるが……まあ、いなくなる前に半人前くらいには育てられたか」
「ソンネン少佐? 何を……?」
いなくなる前……という部分が引っ掛かった僕が、その言葉の意味を尋ねる。
少佐はそんな僕に対して少し寂し気な笑みを浮かべながら……こう、答えてくれた。
「……ついさっき、辞令が出た。俺とヒルドルブはオデッサの部隊に配属されることになる。お前たちとは、ここでお別れだ」