ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「えっ……!?」
その報告を受けても、僕は言葉の意味が理解できなかった。
いや、理解を拒んでいたんだと思う。そんなはずがないと、そう思いたかったんだ。
「そんな……い、今まで、僕たちと連携して任務をこなしてきたじゃないですか! MSとヒルドルブの連携は戦術の幅を広げ、より効果的な戦略を可能にしています! これからも北米戦線には少佐の力が必要です! だから――」
「だからといって残れるもんじゃねえんだ、これは。軍隊ってのがそういう組織だってのは、お前だってわかってるだろう?」
ソンネン少佐の言う通りだ。僕たちは命令に従って戦い、各地を飛び回る。どこに行きたいとか、ここに残りたいとか、軍人はそういうわがままを言えるものではない。
頭ではわかっていても……僕はまだ、ソンネン少佐に残ってもらいたかった。
まだまだ僕は未熟だ。教えてもらえていないことも、学びたいことも山ほどある。
出会ってから二か月……あの砂漠で肩を並べて戦ってから、僕は少佐と長い時間を過ごしてきた。
上官であり、戦友であり、そして……師匠でもある少佐との別れは、あまりにもつら過ぎる。
「クロス、あなたらしくないわ。ソンネン少佐の言う通り、私たちは私情で任務や配属部隊を選べない……軍人って、そういうものでしょう?」
「わかってるさ、わかってるよ……」
セシリアにそう言われても、僕はまだ気持ちの整理ができない。
何を言うべきか、何を言わざるべきかを迷って、結局は何も言えない僕のことを見つめたソンネン少佐は、小さく噴き出すと共に口を開く。
「来いよ、クロス。男二人で少し話をしようぜ」
「……はい」
言われるがまま、僕はソンネン少佐について格納庫を出ていく。
しばらく歩き、誰もいない倉庫の裏手に来たところで……少佐は懐から缶を取り出し、その中身を僕の手のひらに落とすと言った。
「ほらよ、ドロップだ。今度は、正真正銘本物のな」
隠語ではなく、本物の飴を僕へと渡した少佐が、近くの壁に背中を預ける。
専用機と同じオレンジ色をしたそれを僕が口の中に放り込めば、少佐は小さく息を吐いてから話をし始めた。
「まったく、本当に変な奴だ。戦場ではエースとしか思えない活躍をするってのに、こんなことでうじうじしやがってよ」
「……少佐には、多くのことを教えていただきました。これからも一緒に戦い続けられると思っていたから、驚いてしまって……」
「はっ……! 馬鹿が、こうなることくらい、簡単に予想できただろうがよ……」
そう言いながら、寂し気に笑ったソンネン少佐は、本当にこうなることを予期していたようだった。
僕が見つめる中、彼は淡々と話をしていく。
「……お前と出会ったあの砂漠での戦闘以降、周囲からのヒルドルブと俺の評価は大きく変わった。役立たずのレッテルを貼られてた俺たちが、たった一日で英雄だ。その後も大々的に活躍をアピールしてもらってよ……今までの人生が嘘みたいな扱いを受けた。でもな、クロス……俺はわかってたんだ、本当の評価は、全くと言っていいほど変わってないことにな……」
「……!!」
「ヒルドルブは量産に値する機体じゃねえ。今日まで北米で戦い続けて、運用の難しさは重々理解できた。お前が言ったように、MSと一緒に運用すれば戦術は広がる。だが、だったら自走砲か砲撃戦用に改造したMSを用意すればいい。こんな馬鹿デカい上に扱いの難しい機体を量産する必要なんて、どこにもねえ……わかってたんだ、俺もヒルドルブも、時代に取り残されたものなんだってことはよ……」
あの日、ソンネン少佐が席を外した輸送機の中でマイ中尉たちと話したこと……ヒルドルブは、あくまでプロパガンダ用の機体でしかないという評価を、少佐は理解していた。
その中で、彼が再び薬に頼るようになってしまうのではないかと危惧していた僕たちであったが、少佐は今の今までそんな様子を見せていない。
むしろ、どこか清々しい……あの日、僕に見せた狂気的な雰囲気が消え去った、満ち足りた表情を浮かべていた。
「クロス、お前は本当に変わった奴だ。俺みたいな男を真っ先に頼って、馬鹿真面目に話を聞きやがってよ……MSの戦術なんて微塵もわからねえって言ってるのに、少佐少佐って話を聞きに来やがって、馬鹿な奴だ。だが……嬉しかったぜ。そして楽しかった。お前と一緒に戦場に出ることも、成長していくお前の姿を見ていくことも、このキャリフォルニア・ベースで過ごした日々は……本当に楽しかった」
「少佐……」
「……まるで、戦車隊の教官をしてた時みたいだった。あの頃の教え子はみんなMS乗りに転向しちまって、もうほとんど生きちゃいないだろう。あいつらに置いてきぼりにされて、空虚な人生を送ってた俺を変えてくれたのは……ヒルドルブとお前だ、クロス」
真っすぐな瞳をした、凛々しい笑みだった。
きっとこれが、キャディラック特務大尉が尊敬していた頃のソンネン少佐の姿なのだろうと……今の彼を見て息を飲む僕の左胸に、少佐が握った拳を置いてくる。
「ありがとよ、クロス。お前のおかげで、踏ん切りがついた。これからの主役はお前たちみたいな若者とMSだ。俺はもう、その舞台に上がることはできない。だけど、お前が忘れないでいてくれれば、俺とヒルドルブは永遠なんだ」
「そんな、僕は――!!」
「胸を張れ、クロス・レオンハート。お前は俺の、自慢の教え子だ。お前は自分が思っているよりずっと立派な男だよ。あとはそのまま驕らず、ブレず、自分の信じる道を突き進め。そして生きろ、このクソッタレな戦争で死んだりするな。少なくとも俺より先には死ぬなよ、クロス」
……口の中に入っている飴は、妙にしょっぱかった。
ゆっくりと拳を僕の胸から離した少佐は、敬礼の姿勢を取ると共に言う。
「また、どこかで会おう! その時まで絶対に死ぬんじゃねえぞ! 馬鹿弟子!!」
「……はい!」
師の敬礼に対し、僕も敬礼で応える。
口の中のドロップは、もう溶けてなくなっていた。
……それから数日後、ソンネン少佐はヒルドルブと共にオデッサへと旅立っていった。
これから彼がどんな道を辿るのかは、僕にはわからない。でも、きっとまた会える……そんな気がする。
こうして、お互いの運命に大きな影響を与え合ったソンネン少佐との出会いは、一時の別れといった形で一旦の幕引きを迎えた。
出会いがあれば、別れもある……でもきっと、生きてさえいればまた出会うことだってあるはずだ。それが、人生というものなのだから。
……そう、出会いがあれば別れもある。その繰り返しが人生だ。
今、こうして一つの別れを経験した僕にも、次なる出会いの時は刻一刻と迫りつつある。
次に僕が出会うのは、同じ北米を舞台に戦い続ける姦しい妖精たち。
そして……復讐鬼と化した一人の男との再会の時までのカウントダウンが今、こうしている間にも進んでいることを、僕は知る由もなかった。