ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「これが、パプアが運んできた……!」
「そう……QCX-76A試作艦隊決戦砲『ヨルムンガンド』。敵主力艦をその射程外から狙い撃つ、大蛇だ」
マイ技術中尉に案内されてドックに向かった僕たちが目にしたのは、巨大な兵器と思わしき何かを組み立てる、大量の整備兵の姿だ。
長細い砲身の周囲に輪を取り付けたような独特な形状をしたそれの名を聞いた僕は、改めて死んだ艦長たちが運んできた試作兵器を見やる。
「随分と、大きい……!」
「その大きさに見合った抜群の打撃力を持つヨルムンガンドは、連邦のマゼラン級をも一撃で撃沈できるとのデータが出ています。必ずや、今後の戦争に於いて、艦隊決戦砲の名に相応しい活躍を見せることでしょう」
技術中尉の説明を聞く艦長とキャディラック特務大尉は、ヨルムンガンドの巨体と壮観な見た目に感激しているようだ。
確かに圧倒的なサイズを誇るこの試作兵器は、一目で強大な力を有していることがわかる。
少し前までの刺々しい雰囲気が嘘であるかのように食い入るようにヨルムンガンドを見つめているキャディラック特務大尉の口から感嘆のため息が漏れる様を目にした僕は、黙ってパプアのみんなの置き土産を見つめていた。
「レオンハート二等兵……君とパプアの乗員たちはこれを守り抜いたんだ。彼らの死は、決して無駄じゃなかった。こいつを見ていると、そう思えるだろう?」
「そう……ですね……」
プロホノウ艦長の言葉に曖昧な返事をしつつ、無理に笑顔を作る。
ヨルムンガンドに圧倒され、その姿を食い入るように見つめている彼は気付かなかっただろうが……僕の胸中には、三人とは真逆の感情が渦巻いていた。
(ダメだ……こいつは、何の役にも立たない兵器だ……)
僕はこのヨルムンガンドという兵器について何も知らない。本当に【MS IGLOO】に登場していた兵器なのかすらもわからない。
だが、そんな僕にですら、艦隊決戦砲という大層な名前が付けられたこの兵器が失敗作であることはわかった。
なにせ、この時代の戦術の中心は既にMSに移りつつある。大艦巨砲主義は時代遅れとされ、これからはMSによる近接戦闘が主流になる時代だ。
その証拠に、僕が見てきたどのガンダム作品にもこのヨルムンガンドは出てきていない。
純粋に時代の真逆を行く兵器であることもそうだが、見る者を圧倒するこの巨体も運用されない理由の一つだろう。
確かに威力は抜群なのかもしれないが、コストがかかり過ぎる。
これを移送し、組み立て、適切な位置に設置して、破壊力抜群の砲弾を撃ち出す……この全てに莫大なコストがかかるだろう。
こんなことするくらいだったら、その費用でザクを量産した方がいい。
少なくとも僕は旧ザク一機でサラミス二隻を沈めることができた。ヨルムンガンドが一発で十隻以上の艦隊を沈められないというのなら、絶対にMSの方が運用しやすいはずだ。
場所を移動し、ヨルムンガンドの詳しい説明を始めたマイ技術中尉の言葉も、この兵器の運用を任されたアレクサンドロ・ヘンメ大尉の挨拶も、僕の耳には届いても頭には入ってこなかった。
詳しくどうなるのかはわからない。だが、僕にはこの先に何が待っているのかが予想できる。
このヨルムンガンドは……兵器として失敗作の烙印を押され、闇に葬られるのだろう。
その失敗作を届けるためにパプアのみんなは死んだのかと、そう思えば思うほどに虚しさがこみ上げてきて、言いようのない感情が僕の胸を満たした。
(これじゃあ、犬死じゃないか……!! パプアのみんなも、艦長も、こんなもののために……!!)
悔しさと虚しさが募り、思わず歯を食いしばってしまう。
転生者である僕だけが知っている残酷な事実をどうにか押し殺そうとしていたその時、艦内にけたたましい警報が響いた。
「なっ、なんだ……!?」
ヘンメ大尉が困惑する中、いち早く動いたプロホノウ艦長が状況を確認すべく、通信手と話をし始めた。
まさか、また敵襲かと、命懸けの戦場に駆り立てられることになるのかと……そう考えた僕の心に、嫌なプレッシャーが走る。
「なんだ、これは……?」
大きく、そして重い圧だった。直接害を成すようなものではない。だが、間違いなくいいものではない何かが、こちらに迫っている。
プロホノウ艦長がヨーツンヘイムの進路を変えるように指示を出し、艦が道を開けるように移動していく中……僕は、窓の外に広がる宇宙を進むそれを見た。
数多くのムサイに囲まれながら進む、白銀の円柱……スペースコロニー。
超巨大なそれが、真っすぐに地球へと向かう様を目にした僕が息を飲む中、隣で同じ光景を目にしていたマイ技術中尉が叫ぶ。
「これは……! これはなんですか!? これはっ!?」
試作兵器の解説をしてきた時の物腰穏やかな雰囲気をかなぐり捨て、怒りに満ちた声で叫ぶ技術中尉の気持ちは、僕にだって理解できる。
そして、同時にジオン軍があのコロニーをどうするのかを瞬時に理解した僕の前で、キャデラック特務大尉が声を震わせながら呟いた。
「ブリティッシュ作戦……」
「まさか……あれを、コロニーを、地球に……!?」
「……地球への落着まで、おそらくあと72時間。今のムサイの艦隊は、あのコロニーを護衛するためのものですね」
「そんな……!? あのコロニーの中に暮らしていた住民はどうなったんですか!? 2000万人はいたはずだ! いや、あんなものを地球に落としたら――!!」
「放しなさい、馬鹿!!」
「マイ中尉!!」
激高して掴みかかったマイ技術中尉を、キャディラック特務大尉が一喝しながら投げ飛ばす。
無重力の空間に放り投げられ、床に叩きつけられた技術中尉の下へ僕が駆け寄る中、特務大尉は自分にも言い聞かせるように言った。
「奇襲は、戦端を開く際の定石である! この作戦は、連邦との戦争を有利に運ぶために必要なもの……レオンハート二等兵が所属している特別競合部隊の隊員たちを始め、多くの兵たちが作戦を成功させるために参加している!!」
「……っ!?」
……正直、そんな気はしていた。僕の本来の所属部隊である特別競合部隊の成績上位者たちは今、あのコロニーを地球に落とすために、護衛任務に就いているのだろう。
コロニー落とし……人類の半分を死に至らしめた戦争の中でも、特に甚大な被害を生み出したジオン最大の凶行。
特に親しくしている友人がいるわけではないが……仲間たちは今、自分が何をしようとしているのかを本当に理解しているのだろうか?
あのコロニーの中にいた2000万人の人々の亡骸と共に、その何倍もの人間を殺すために自分たちが戦っていることを……本当に理解できているのだろうか?
「邪道だ……こんなの、戦の邪道じゃないか。我々は今、スペースノイドの住まい、コロニーさえも武器にしてしまった……!」
振り絞るようなマイ技術中尉の言葉に、誰も何も言えなかった。
ゆっくりと窓に近付き、地球へと向かっていくスペースコロニーを見送る僕へと、キャデラック特務大尉が言う。
「無念? あなたのライバルたちは今、重要な作戦に参加している。きっと戦闘も起きるし、その中で手柄を立てるでしょう。同じ部隊のライバルたちがエリート部隊への転属に近付いてるっていうのに、自分はこんなところで油を売っているだけだなんて、あなたからしてみれば悔しい状況でしょうね」
「キャディラック特務大尉、それは……!!」
特務大尉の言葉に、プロホノウ艦長が物言いをつけようとする。
しかし、僕は黙って首を振った後、ヨーツンヘイムから離れていくコロニーを見つめたまま、口を開いた。
「いえ……そんなことは考えていません。ただ……」
「……ただ?」
「
その言葉の意味が、身を以て理解できた気がする。
心が芯まで冷えていくことを感じながら……僕は、静かにそう答えた。
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