ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「レオンハート二等兵」
ヨーツンヘイムの休憩室。重力が存在しているそこで一人座っていた僕は、不意に声をかけられて顔を上げた。
僕を呼んだマイ技術中尉は両手に持ったコーヒーの片方を差し出しながら、優しい笑みを浮かべて言う。
「先ほどは取り乱した姿を見せて申し訳なかった。見苦しいところを見せてしまったね」
「いえ、そんな……むしろ救われました。技術中尉殿の言葉は、自分が思っていたことそのものでしたから」
軍に属する者として、上層部が発案し、実行している作戦を公然と批判できるはずがない。
ただ、コロニー落としがどれだけの悲劇を生むか知っている僕としては、ブリッジでのマイ技術中尉の言動はむしろ喜ばしいものだった。
ジオン軍の中にも、この作戦をおかしいと思う人がいる……そのことを知れただけでも少し救われた気分になる僕へと、マイ技術中尉が言う。
「君は、訓練校を出たばかりの十八歳だったね? 二つの特別競合部隊に所属している隊員たちも、似たようなものか……若いな」
そういう技術中尉も大学を出たばかりの若々しい青年にしか見えない。
というより、実際にそうなのだろうと思う僕の前で、彼がぽつりと呟く。
「寒い時代、か……君の言う通りだな」
「え……?」
「スペースノイドの独立のためとはいえ、我々は故郷と呼べるコロニーを地球に落とそうとしている。それが、どんな結果をもたらすかを深く考えようともせずに……そして、大量虐殺など生温いと呼べるだけの結果を生み出そうとしているこの作戦に、君と同じ年齢の子供たちが参加しているんだ。本当に、凍えるような寒い時代だよ」
僕が発したその言葉は、ガンダムシリーズで有名な台詞をそのまま口にしたに過ぎない。
しかし、マイ技術中尉はその言葉の意味を確かに理解しながら、同時に戦争の悲惨さを嘆いている。
自嘲気味に笑う彼の寂し気な横顔を見つめていた僕は、思い切って一つの質問を投げかけてみた。
「……技術中尉殿は、どうして評価部門に進んだのでありますか?」
「ははっ! 君も不思議に思うかい?」
「少し、気になったもので……お気を悪くさせてしまったら申し訳ありません」
「大丈夫、学生時代からよく言われたことだ。今さら、気分を悪くなんかしないよ」
僕はこの世界の技術について詳しいわけではないが、マイ技術中尉が優秀な人間であることは【MS IGLOO】で主役を張っているという事実からもわかる。
そんな彼が、どうして評価部門に進んだのか? 兵器開発の道に進めば危険な前線に出ることも、この間のように戦闘に巻き込まれることもないはずだ。
それに、何より――
「……試作兵器の運用試験に参加し続ければ、少なくない失敗作と出会うことでしょう。もしも、もしもの話ですが……ヨルムンガンドが兵器として失敗作という烙印を押されたら、虚しく思いませんか?」
【MS IGLOO】は『負けていくプロジェクトX』と呼ばれる作品。そこに登場する兵器のほぼ全てが実戦運用に堪えないという評価を下され、歴史の闇に葬られる。
ヨルムンガンドも失敗作の烙印を押され、ヘンメ大尉も命を落とすのだろう。そうなった時、全てが虚しくはなったりしないのだろうか?
僕のその質問に対して、マイ技術中尉はコーヒーを一口飲んだ後でこう答えてくれた。
「……僕もそう思うだろう。幾つもの失敗を目撃し、努力が否定される様を目にする度に、虚しさを感じることもあると思う。だが、技術評価は世界にとってなくてはならない存在だ。何故なら、技術開発が未来に通じるドアだとするなら、評価はそれを開く鍵なのだから」
僕にとって、技術中尉の言葉は難解過ぎた。
意味がわからないという思いがそのまま顔に出ていたであろう僕を見た彼は、苦笑を浮かべながら話を続ける。
「新たな技術が生み出されるということは、新たな可能性が見つかるということだ。だが、その技術が本当に問題なく活用できるかどうか、それを見極めなければ可能性は可能性のまま……現実のものにはならない。評価という鍵を用いてその扉を開けられるかどうかを確かめるのが、僕たちの仕事なんだよ」
「……技術中尉殿が持っている鍵が扉に合わずとも、ですか?」
「ああ。扉が開かなかったとしても、兵器に失敗作の烙印を押されたとしても……そこに至るまでの全てが無駄になったわけじゃない。人は何度も失敗を繰り返し、確実な技術を見つけ出し、進歩してきた。大事なのは結果だけじゃない。そこに至るまでの過程も重要だと、僕は思う」
「過程……」
その言葉は、僕の胸に響いた。
この戦争でジオンは敗北し、スペースノイドの独立に命を懸けて戦った人々の多くが死ぬということを僕は知っている。
だけど、彼らの死の全てが無駄になったわけではない。パプアのみんなが僕を生かしてくれたように……過程の中にも意味がある行動だって存在しているはずだ。
僕一人の力で歴史を変えられるとは思わない。だが……何も変えられないわけでもない。
結果よりも大事な過程があることをマイ技術中尉の言葉で気付かされた僕へと、彼が言う。
「偉そうに話したけど、これは受け売りなんだ。でも、技術評価を通じて未来を拓く何かを見つけたいという気持ちは僕自身の本心だ。願わくば、僕はこの艦の中でそれを見つけ出せたらいいなと思っているよ」
「……素晴らしい思いだと、そう思います。お世辞やおべっかを抜きに、僕も同じ気持ちです」
これからきっと、僕は多くの戦いに巻き込まれる。そして、僕が死ぬかジオンが負けるまで戦い続けることになるのだろう。
その中で何か、意味のある行動を取れたなら……マイ技術中尉の話を聞いて、そう思った。
「近々、大規模な作戦を実行するという話が入った。そこでヨルムンガンドの試験運用が行われる予定だ。僕は、君にも見届けてほしいと思っている」
「……はい」
マイ技術中尉が言っている大規模な作戦とは、ルウム戦役に繋がるものなのだろう。
そこできっと、悲劇が待ち受けている。それでも……僕はそれを見届けることを決めた。
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