ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「僕たちが一番乗りみたいですね」
「ああ、そうだね」
合流ポイントに一番早く到着したのは、僕とサキ軍曹だった。
厳しい戦いをなんとか生き延びた僕たちは、一息つくと共に嫌な想像に襲われる。
僕たちが一番乗りなのではなく、他のみんなが基地からの砲撃で撃墜されていたら……もう残っているのが僕たち二人だけだったら、という恐怖を振り払ったところで、サキ軍曹が声をかけてきた。
「クロス、さっきは助かったよ。あんたが連邦のMSを倒してくれなきゃ、かなりヤバかった」
「いえ、当然のことをしただけですよ」
先の戦い、陸戦型ジムを撃破したことについて軽く触れてきたサキ軍曹へとそう返事をする。
そこで話は終わりかと思ったのだが、彼女はさらにこう深掘りしてきた。
「あの動き、只者じゃなかった。私たちは連邦のMSを初めて見たっていうのに、あんたはもう何度もやり合ってるような動きで三機をまとめて撃墜してみせた……クロス、やっぱりあんた、エースなんだろ?」
「少し前にも言いましたけど、そんなの自分じゃわかりませんよ」
「……じゃあ、こっちの質問の答えならわかる? あんた、本当は別の任務を与えられてるんじゃないの?」
「っっ……!?」
少し前から感じ取っていたサキ軍曹の勘の良さに、僕は小さく息を飲む。
何も答えられずにいる僕に対して、彼女はさらに話を続けてきた。
「おかしいと思ったんだ。私たちウルフ・ガー隊は上から重用されてるってわけじゃない。そんな私たちが砂漠で行方不明になっても、上の連中は助けなんて寄越さないだろう。それなのに補給と捜索を請け負ったパイロットが来た。しかも、専用機持ちのエースがだ」
「………」
「何か他の任務があったんでしょ、クロス? さっきの新型に関係する任務なの? 大尉はあの基地に新型があることを知ってたんじゃないの?」
僕は何も答えられない。下手に答えてしまえば、ブーン大尉のプランを邪魔することになりかねないからだ。
そんな僕に対して、サキ軍曹は苛立ちを募らせる……こともなく、静かに問いかけてくる。
「クロス……正直に言うよ。私は最初、あんたが私たちを消しに来たんじゃないかって考えた。あの新型を破壊できなかった場合、ウルフ・ガー隊の連中を処刑するために送り込まれてきた人間だって思った。でも……あんたはさっき、私を助けてくれた。リスクを背負って、敵のMS部隊に突貫してくれただろ? あれを見て、そうじゃないって思ったんだ」
サキ軍曹からしてみれば、僕が死神に見えても仕方がないだろう。
改めて考えてみても、補給部隊として僕が派遣されたというのはおかしい。何か他の任務を帯びていると考えるのが普通だ。
もしかしたら、隊ごと自分たちを殺すように密命を帯びているのかも……と考えてもおかしくないわけで、その状況から僕を信頼してくれるまでになったのは、幸運でしかない。
「教えてくれ、クロス。あんたを責めたいわけじゃない。私はただ、本当のことを知りたいんだ」
「サキ軍曹……」
彼女を騙し続けている罪悪感が僕の心を責める。
しかし、だからといって真実を彼女に言うわけにもいかない僕が口を閉ざす中、第三者の声が響いた。
「サキ、あまり年下をいじめるな」
「っっ! 大尉……!」
合流ポイントに、イフリートとザクが現れる。
ブーン大尉と、おそらくはハガー曹長だろうと感じ取る中、大尉は静かに言った。
「……お前たちだけか。レイとレスタは、やられたようだな。皮肉なもんだ……」
「……大尉。どうか、本当のことを教えてください。あなたとクロスは、何を隠しているんです?」
サキ軍曹からの質問に、ブーン大尉が小さく息を吐く。
その後、彼は僕たちの前で、全ての真相を語っていった。
△ ▽ △ ▽ △
「……そういうことだったんですね。やはり、大尉はあの新型が基地にあることを知っていて……!」
「正しくは三分の一の可能性だったがな。しかし、なんとなく俺たちが当たりを引いている気はしていた」
ゴビ砂漠での遭難は、新型MS破壊任務をウルフ・ガー隊のみんなに悟られないための大尉の作戦だったこと。
僕はその任務の補助要員として派遣されたということ。
任務を隠していたのは、かなり困難な任務の内容を知って、心の弱い隊員が実力を発揮できなくなる可能性を潰すためだったこと。
そして、任務達成の暁には、隊員の犯罪歴の抹消を嘆願するつもりだったこと。
それら全てを語ったブーン大尉は、僕を見やりながら口を開く。
「悪かったな、クロス。まだ若い君につらい思いをさせた」
「いえ……気を使っていただき、ありがとうございます」
「別に俺には言っておいてくれて良かったのに。そんなことで怖気づくタマじゃないってことは、大尉だってご存じでしょう?」
「曹長は少し直情的過ぎますからね。うっかり任務のことを話すかもしれないと大尉も判断なさったのでしょう」
違いねえや、とハガー曹長の笑い声が響く。
明るい彼の態度に少し救われた気分になる僕の前で、ブーン大尉は話を続けた。
「クロスはわかっているかもしれないが、この任務は俺たちウルフ・ガー隊に対する処刑宣告みたいなものだ。他の二か所に向かわせたマルコシアス、サブナックの両隊はザクを数十機有しているのに対して、こちらはクロスを入れてもたった六機だけ。戦力差があり過ぎる」
「そんなところに何故、エース候補であるクロスが派遣されたんでしょう? 死ぬ可能性が高い任務だっていうのなら、わざわざこいつを派遣する理由なんて……」
「……もしかしたら、クロスの存在を妬ましく思っている奴が上層部にいるのかもしれんな。ザビ家も一枚岩ではない。キシリア派の部隊に所属し、頭角を現しているエースパイロットがこれ以上力を付ける前に消してしまいたいと考えている奴がいてもおかしくないだろう」
「……まさか」
「心当たりがあるんだね。まったく、あんたもとんだ貧乏くじを引かされたもんだ」
ブーン大尉の話を聞いた僕は、一つの可能性に思い至る。
ギベオン・グレイズ……ティルナノーグで顔を合わせたあの男は、ジャブローの指揮官を務めるロメオ少将の側近のような立場だった。
そして、ロメオ少将はギレンの指示を受け、キシリア派の部隊であるノイジー・フェアリー隊の士気を低下させるために派遣された男だ。
ギレン総帥の思惑とロメオ少将の無能さ、そしてギベオンの僕に対する尋常ならざる憎しみを考えれば、可能性はある。
ただ、それが確定的なものではない以上、深くは考えるべきではないと判断した僕が自分を落ち着かせる中、サキ軍曹が言う。
「大尉が心配していたのは、レイとレスタのことでしょう? でも、二人はもういない。残った隊員たちは、恐怖心なんて気にしないメンバーだけですから。それに、大尉だってもう任務なんてどうでも良くなっている。あなたの心にあるのは、あの新型との決着をつけることだけだ。違いますか?」
「ふふっ……! 流石だな」
少しだけ、僕は驚いた。任務のことなどどうでもいいと、ブーン大尉が考えていることを知ったからだ。
だけど、そこまで驚きはなかった。多分、僕も薄々勘付いていたのだろう。この人が、強敵との戦いを求める戦闘狂としての一面を持っていることを。
任務はまだ終わっていない。破壊または捕獲対象であるピクシーとの決着は、まだついていない。
もう一度、あの化物と戦う必要があるのだと……そう理解している僕たちの前で、ブーン大尉は静かに言った。
「サキ、ヘンリー、クロス……俺はもう一度、あの基地に攻撃を仕掛けようと思う。そこで、あの新型との決着をつけるつもりだ」
厳しい戦いになる。ブーン大尉の話を聞きながら、僕は自然とそう思っていた。