ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「ハガー曹長」
「ん? おお、クロスか。お前も食っとけ、腹が減っては戦はできぬ、ってやつだ」
焚火の傍、そこで戦闘糧食を食べていたハガー曹長が、僕に気付くと共にその内の一つを差し出してくる。
決して上等とは言えないが、貴重な食糧であるそれをありがたく頂いた僕は、腰を下ろすと共に食事を摂り始めた。
「これが最後の晩餐になるかもしれない……って考えると、ちょっと不満だな。もう少し豪華なディナーを食いたかったぜ。まあ、それでも腹ペコのまま死んじまったレイとレスタに比べりゃ、マシなんだろうけどよ」
レイ・ハミルトン伍長とレスタ・キャロット伍長。
ウルフ・ガー隊のメンバーであり、先の戦いで戦死してしまった彼らとは、まともに話したことすらない。
それでも、同じ隊のメンバーとして時間を共有した彼らの死を悲しむ僕へと、ハガー曹長が言う。
「クロス、お前も俺と同じ曹長なんだよな?」
「ええ、そうですが……」
「お前みたいな若造が、俺と同じ曹長か……俺が犯罪者で、お前がすごいってのもあるんだろうが、ジオンの人手の少なさを感じちまって嫌な気分になるぜ」
どこか物悲しそうにそう呟いた後、残された食事を掻っ込む曹長。
その横顔を見つめながら、僕は不謹慎だとは思ったが気になったことを聞いてみた。
「曹長は、恐ろしくはないんですか? これからあの化物ともう一度戦うことになる。死ぬ可能性が高いっていうのに、どうしてそこまで……?」
「ははっ……! そうか、お前はそっち側か。いいことだ、本当によ」
僕の質問に対し、ハガー曹長は自嘲気味に笑った。
そうした後、僕を真っすぐに見つめた彼は、過酷な作戦を目前にしているとは思えない明るい声でこう語る。
「俺はな、戦いが好きなんだ。もちろん、勝って生き抜きたいとも思ってるが、好きな戦いの中で命を落とすんなら仕方がないって割り切ってる。それは大尉も同じだ。あの新型と決着をつけるためなら、命も惜しくない……今、生き残っているウルフ・ガー隊の連中は、
「でも、それは――!!」
「ああ、馬鹿げてる。でもな、そういうもんなんだ。似た者同士が集まるっていうだろ? ……死んじまったレイとレスタはそうじゃなかったが、だからこそ俺たちも自分たちの気持ちに正直になれてるんだよ」
だから、死ぬことを恐れない。ハガー曹長はそう続けた。
でもそれは僕にとって理解できそうでできないことで、何を言っていいのかわからないでいる僕に対して、彼は言う。
「いいんだよ、それで。死んでもいい理由を抱えるより、生きたいと思う理由を多く抱えるのが普通の人間ってもんだ。クロス、お前は俺たちみたいにはなるな。人生の先輩からのアドバイス、忘れんなよ」
そう言って笑うハガー曹長は、自分を待ち受ける運命を理解しているように思える。
それでも笑える彼のことを、僕はどう思えばいいのかわからなかった。
△ ▽ △ ▽ △
「……ルウムの戦いで、兄が戦死した。それからかな、どれだけ危険な戦場に派遣されてもいいから一人でも多くの連邦兵を倒したいって、それだけを望むようになったのは」
ザクの整備を行う最中、サキ軍曹は自分の死んでもいい理由を僕に語ってくれていた。
目を細め、死んだお兄さんへと思いを馳せたであろう彼女は、こう続ける。
「戦う理由は人それぞれ、私の場合は復讐と兄の無念を晴らすこと。クロス、あんたが戦う理由は何?」
「僕は……」
転生して、気付いたら軍属になっていて、あれよあれよという間に地球の最前線に派遣されることになってしまっていた。
最初はただ死にたくないという思いだけだったが……ヨルムンガンドの一件から始まり、今日に至るまでの全ての出会いと別れを振り返った僕は、軍曹の質問にこう答える。
「……大切な仲間たちと、生き抜きたいと思っています。無理難題だってことはわかってる、でも……誰にも死んでほしくないんです」
「そっか……優しいね、あんたは」
サブナック隊のみんなや、第603技術試験隊のみんな、ヴィンセントたちマルコシアス隊のメンバーたちも、ソンネン少佐やミアたちノイジー・フェアリー隊のみんなだってそうだ。
難しいだなんてことはわかっている。だけど、誰にも死んでほしくない。
だから、一緒に戦うんだと……そう答えた僕に微笑みを見せてくれたサキ軍曹は、唐突に驚くべきことを言う。
「クロス、あんたって童貞?」
「ぶふっっ!?」
突然の質問とその内容に思い切り噴き出してしまった僕は、何を言うんだとばかりにサキ軍曹を見やった。
その反応にくすくすと笑った彼女は、腰に手を当てながら僕へと言う。
「その反応だと答えはYESみたいだね。だったら、私が相手してあげよっか?」
「うえっ……!?」
「……もしかしたら死ぬかもしれないんだ。童貞のまんま死んじゃったんじゃ、可哀想だろ? あんたさえ良ければ、だけどさ」
「え、えっと、その……」
そう言ってくれるサキ軍曹は本気のようだ。とても気軽だが、僕が望めばそういうことを許してくれる雰囲気がある。
とても美人だし、スタイルもいい。普通に考えればありがたいことこの上ない申し出なのだが……何故だか、彼女からそう言われた僕の脳裏には、緑髪の小さな女の子の姿が思い浮かんでいた。
「……余計なお世話だったか。いるんだね、好きな子が」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「だったら、
「………」
自分でも、はっきりどう言えばいいのかがわからない。
ただ、キャリフォルニア・ベースに帰って彼女の笑顔が見たいし、話もしたい、からかわれたりツッコまれたりの、ここが戦場だとしても普段と変わらない日常を過ごしたいと……そう思ってしまう。
これが生きたいと思う理由だというのならば、きっとそうなのだろう。
左胸を押さえて頷く僕に対して、優しい笑顔を浮かべたサキ軍曹は言った。
「クロス、あんたは死んじゃダメだよ。生きたい理由があるんだ。あんたは、ちゃんと生きるんだよ」
△ ▽ △ ▽ △
「すまないな、クロス。こんな任務に付き合わせてしまって」
「……覚悟は決めました。この先、何があろうとも……後悔しないよう、全力を尽くすだけです」
出撃直前、イフリートに乗り込む寸前のブーン大尉は、僕へとそう言ってきた。
僕のその言葉に対して、大尉は静かに首を振りながら言う。
「……これは俺の勘だ。だが、結構当たる。クロス……お前はきっと、後悔するよ。この任務に参加したことを後悔する。だから、今のうちに謝っておく。すまなかった」
「……大尉には、生きて帰るつもりはないということですね」
その言葉には、たくさんの意味が込められていたのだろう。その全てを理解することは今の僕にはできないが、一番大事な部分だけはわかった。
ブーン大尉も、ハガー曹長も、サキ軍曹も……僕とは対極的なところにいる。
戦いの中で死んでもいいと、そう言えるだけの覚悟があるかないか……それを理解する僕へと、大尉は言った。
「俺たちには死ぬ覚悟がある。だが、お前には生き抜くという覚悟がある。貫き通せよ、最後まで。俺は、それを祈っている」
「はっ……大尉、ご武運を」
ブーン大尉がイフリートに乗り込むまでの間、僕は敬礼の姿勢を取り続けた。
死を覚悟して戦いに挑む彼に、せめて幸運をと祈る僕は、静かに息を吐き、呟く。
「死にゆく者たちへの祈り、か……」
死んだ者に祈りを捧げるのではない、死へと突き進む者たちへの祈り。
皮肉で、悲劇的なそれを、納得して受け入れられるウルフ・ガー隊の三人を思いながら、僕は愛機に乗り込む。
「……お前もそろそろ、限界みたいだな」
先のピクシーとの戦いで、G型ザクの反応がはっきりと遅れていることを感じ取っていた。
激戦に次ぐ激戦に加え、砂漠という悪環境での戦闘がトドメになっているのだろう。
もう、G型ザクの予備パーツに余裕はない。きっとこれが、僕たちにとっても最後の戦いになる。
こんなにも多くの死にゆく者たちがいる中で、僕もまたその葬列に加わるかもしれないと覚悟を決めながら……僕は、ガンダムとの戦いに挑むべく、愛機を走らせていった。