ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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死にゆく者たちへの祈り/命ある者たちの責務

「頼む、これが最後で構わない! だから……僕に応えてくれっ!!」

 

 ピクシーとの戦いの中で感じていたザクの反応の遅れは、もう取り返しのつかないところまで進んでいる。

 限界なんだ、こいつも。今の僕の心と同じように、体が動きについていけなくなっているんだ。

 

 それでも、この一回だけは……最後の一回だけは、僕に応えてほしい。

 それがサキ軍曹を救う、唯一の方法だから……僕は、手にしたヒートホークの狙いをガンキャノンの脚部につける。

 

 キャノン砲による砲撃は先ほどよりも距離が近くなったこともあって、一撃必殺の威力を誇りながらも射撃感覚が短く感じられるようになっていた。

 それでも……僕のザクは、その砲弾の雨を掻い潜り、ガンキャノンへと接近していく。

 

 まるで初めてこのザクに乗った時のような……F型とは全く違う機動性を誇るこのザクを思い通りに動かせたあの日の思い出が、蘇ってきた。

 これはきっと、走馬灯だ。出会って数か月、共に戦い続けてきた愛機の死を感じ取りながら、僕は静かに呟く。

 

「ありがとう……一緒に戦ってくれて」

 

 その言葉と、ヒートホークがガンキャノンの脚部に食い込んだのは、ほぼ同時だった。

 ぐるりと回転して倒れたMSのキャノン砲を潰し、もう片方の脚と腕を叩き斬ったところで、僕は対ピクシー用に準備してあったマゼラトップ砲を取り出す。

 

 ゆっくりと滑走路を走り出した輸送機へと狙いを定め、静かに息を吐く。

 そのまま、スコープの中に捉えた標的を見つめながらトリガーを引けば、銃口から放たれた弾丸が輸送機のどてっぱらに穴を空けた。

 

 二度、三度……同じように引き金を引く。その度に、輸送機に穴が空き、黒煙が噴き出す。

 弾倉が空になるまで引き金を引き続けた僕の目の前で、何度も爆発を繰り返したミデアは空中に飛び立ってすぐに地面に向かって墜落し……大爆発を起こして、ただの残骸になった。

 

「……やったね、クロス」

 

「はい……」

 

 ミデアが墜落する様を目にしたであろうサキ軍曹からの通信が入る。

 一つの仕事は終わった。だが、僕たちの任務はまだ終わっていない。

 まだ……倒さなければならない相手が残っている。

 

 既に機体は限界を迎え、思うように動いてはくれない。

 マゼラトップ砲も弾切れ、ガンキャノンの固い装甲に何度も打ち付けたヒートホークも使い物にならなくなっていて、残っているのは通用するかどうかもわからないマシンガンだけだ。

 

 それでも……やるしかない。自分自身にそう言い聞かせ、僕はザクを動かす。

 その最中、ピクシーと一対一の勝負を繰り広げているブーン大尉へと、僕は通信を入れた。

 

「大尉、輸送機を撃墜しました。サキ軍曹も無事です。今、そちらに向かいます」

 

「そうか、よくやってくれた。なあ、クロス。俺が出撃前に言ったことを覚えているか?」

 

「きっと僕は後悔する……ってやつですよね?」

 

 あの言葉の裏に隠れていたもう一つの意味が、ようやくわかったような気がした。

 ブーン大尉は、僕がこの戦いに生き延びると言ってくれていたんだ。

 

 後悔は、死んでしまったらできない。生き延びてこそ、思い悩み、苦しむことができる。

 それがいいことなのかはわからない。死んで終わりになった方が、もしかしたら幸せなのかもしれないと思うことだってある。

 

 だけど……僕はそんなことを、これっぽっちも望んでいなかった。

 

「クロス、お前はきっと後悔する。この戦いに参加し、多くの死を見たことで苦しむだろう。だが、お前は強い男だ。だから絶対に苦しみも悲しみも乗り越えられる。生き延びることがお前の戦いだ。負けるなよ、クロス。最後まで続けるんだ、お前の戦いを」

 

 そう語るブーン大尉のイフリートが、ピクシーと交錯する。

 何もできず、ただ見守ることしかできなかった僕は……残酷な現実を感じ取り、目を閉じながら首を振った。

 

「ここまでか……見事だったぞ、連邦のパイロット。お前の、勝ちだ……!」

 

 大尉のイフリートが、小さな爆発を起こす。

 がくりと膝をついた機体の中で、ブーン大尉は満足そうに呟いた。

 

「みんな、すまない……それでも俺は、満たされている……!!」

 

 その言葉が合図であったかのように、イフリートが小さくて大きな爆発を起こした。

 コックピットブロックからの出火は、まるで大尉の命を燃やし尽くすかのような明るい炎を巻き上げる。

 

 地面に倒れ、動かなくなったイフリートの姿を涙を流しながら見守る僕の前で、ピクシーもまた四肢から火花を散らしながら崩れ落ちた。

 僕のザク以上に、あいつも限界なのだと……勝ちはしたが、痛み分けに終わったピクシーを見つめる僕の耳に、そのパイロットの慟哭が響く。

 

「俺は、何のために……っ! これは、何のための戦いなんだ!?」

 

 連邦の基地も、ウルフ・ガー隊も壊滅した。脱出を図ろうとしたミデアも撃墜され、動いているのは僕のザクしかいない。

 死んだブーン大尉の満足気な最期とは対照的に、彼に勝ったはずのピクシーのパイロットは答えの出ない疑問に苦しんでいる。

 あまりにも皮肉的で、だけれども彼の心を誰よりも理解できる僕は、それでもマシンガンを構えながら動かなくなったMSに近付くと共に、拡声器を使って言う。

 

「連邦の、MSのパイロット……その機体から降りてください。もう、戦う力は残っていないはずです。投降してください。僕はあなたを、殺したくはない……!!」

 

 この距離なら、マシンガンを撃てば流石のルナ・チタニウム製のボディでも破壊できる。

 ブーン大尉は一騎打ちに敗北した。だが……この作戦の勝者は、僕たちウルフ・ガー隊だ。

 

 唯一動くMSを駆る者として、ピクシーのパイロットへとそう通達すれば、コックピットの中で打ちひしがれているであろう彼からの返事が聞こえてきた。

 

「こちらガンダム・ピクシーのパイロット、ボルク・クライ大尉だ。貴殿の心遣いには感謝する。しかし、この機体をジオンに渡すわけにはいかない……!! 俺は投降を拒否し、この機体と共に自爆する……!!」

 

「っっ……!?」

 

 もう既に、ピクシーにはそんなエネルギーすら残っていないはずだ。

 しかし、この基地に辿り着く前に、僕は少し前に倒した陸戦型ジムたちの残骸を目にしていた。

 

 あの機体たちには、機密保持用の自爆機能が搭載されていたのだろう。

 それと似たようなものがピクシーに搭載されているとすれば……と考えたところで、僕はクライ大尉へと叫ぶ。

 

「MSを自爆させるのならばそれでも構いません! だけど、あなたが死ぬ必要なんてないはずだ! 速やかに降りて、投降を!!」

 

「それはできない。ピクシーのエネルギーが多少でも復活したら、そのエネルギーで自爆装置を作動させるための人間が必要なんだ」

 

 全てに絶望しきった声が、通信機から響いてきた。

 もう彼には生きる気力がないのだと……そう理解し、言いようのない絶望に襲われる僕の耳に、また別の人間の声が響く。

 

「連邦のパイロット! 今すぐにその機体から降りろ!! さもなきゃ、お前の部下を殺す!!」

 

「何……!?」

 

 聞こえた声はサキ軍曹のものだった。

 その脅しに驚いたクライ大尉の声に続き、通信機の向こう側から悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

「た、大尉! 我々のことは気にしないでください!!」

 

「覚悟はできています! 最後まで、あなたとご一緒させていただきますよ……!!」

 

「ダバ! サナ! 生きていたのか……!!」

 

 彼らはきっと、ガンキャノンのパイロットだ。

 コックピットを破壊できなかったことが幸いして、ピクシーのパイロットであるクライ大尉を援護しにミデアから飛び出した彼らは無事だったのだと理解したところで、そんな二人を拘束したであろうサキ軍曹の声が再び響く。

 

「今すぐにお前がそのMSから降りるのなら、こいつらは助けてやる! そうしないのなら、こいつらの命はない!!」

 

「ま、待て! 待ってくれ!!」

 

「大尉! こいつの話に耳を傾けないでください!」

 

「そうです! もうこうなったら死ぬ可能性の方が高いんだ! だったら、潔くそれを受け入れましょう!!」

 

 部下たちの生存を知ったクライ大尉に、初めて迷いが生まれた。

 彼の気持ちはとてもよくわかる。絶望の中で光を目にした、そんな感覚なのだろう。

 

 だからこそ……その光を守りたいと思ってしまう。

 だが、彼にとっての希望である部下たちは、自らの死を願うように叫び続けていた。

 

「大尉、最後までお供しますよ! 一緒にあの世に行きましょう!」

 

「やれるもんならやってみろ、ジオン女!! 俺たちは、死ぬことなんて怖くねえぞ!!」

 

「お前ら……! 上等だ! 人質は一人いれば十分! 望み通りに片方を殺してやるよ!!」

 

「やめろ……! やめてくれ……!!」

 

 渦巻く怒り、悲しみ、そして絶望……それらの負の感情が、半壊した基地の中に渦巻いている。

 ピクシーの中から響くクライ大尉の声を聞き、彼の心に共感した僕は……自らの心をかき乱す悲しみと苦しみを吐き出すように、大声で叫んでいた。

 

「いい加減にしてくれっ!! こんなのもう、たくさんだっ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、サキ軍曹もクライ大尉も、彼の部下二人すらも息を飲んで静かになった。

 一度堰を切った想いを止められなくなった僕は、涙を流しながら叫び続ける。

 

「どいつもこいつも、満足そうに死のうとして!! なんで命を簡単に捨てようと思えるんだよ!? 死んだ奴はいいだろうさ! 満足して逝って、祈ってもらえるんだから! でも、でも……残された側は、その死を背負わされた人間は、苦しいだけなんだよ! つらいだけなんだよ!! 自分の死を他人に背負わせるなよ!! もうこんなこと、たくさんなんだよっ!!」

 

 今なら少しだけ、カミーユ・ビダンの気持ちがわかる気がした。

 みんな死ぬ。自分に何かを託して死んでいく。その悲しみが癒える前に新しい悲しみがやって来て、心を引き裂いていく。

 

 死にゆく者たちは、自分たちへ祈りを捧げる生きる者たちの苦しみを理解できない。

 それを知る前に散っていった者たちへの叫びを涙ながらに吠える僕が握り締めた拳をシートへと振り下ろす中……ゆっくりと、ピクシーのコックピットハッチが開いた。

 

「……ザクのパイロット、名前を聞かせてもらえるか?」

 

「……クロス。クロス・レオンハートです」

 

「そうか……クロス、君の言う通りだ。命は簡単に捨てるものじゃない。この場の戦いは終わった。俺たちは生き延びたんだ。だったらもう、これ以上の悲しみを生み出すべきじゃないよな」

 

 コックピットから姿を現したクライ大尉は、両腕を上げて投降の意を示す。

 驚く僕の前で、自嘲気味に笑った彼は言った。

 

「ピクシーに自爆装置は搭載されていない。自分が何のために戦っているのかわからなくなって、自暴自棄になっていただけなんだ。でも、君の叫びを聞いて思ったよ。これからは、部下と自分の命を守るために戦おうって……捕虜としての汚名も、新型MSを奪われた無能としての誹りも、生き延びるためなら甘んじて受け入れよう。それが、俺の戦いだ」

 

 モニターに映る彼の瞳には、強い意志の光が宿っていた。

 ついさっきまで絶望していた人間が持つものとは思えない、確かな生きる力を感じさせるその光を目にした僕は、息を飲んでから彼へと言う。

 

「……ボルク・クライ大尉。あなたの勇気ある決断に敬意を表します。そして、あなたにもあなたの部下たちにも、非人道的な行いはしないと約束させていただきます」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 ……こうして、僕がウルフ・ガー隊と共に過ごした長い一日は終わった。

 ピクシーはほぼ五体満足と呼べる状態で鹵獲され、二機のガンキャノンたちも損傷こそあるものの研究材料にするには十分という状態で同じくジオン本国に運び込まれることになった。

 

 戦果だけを見れば、連邦軍の基地を破壊できた上に新型MSを鹵獲できたというのだから、最上以外の何物でもないのだろう。

 これをたった六機のMS部隊が達成したというのだから、軍上層部からすれば感涙ものだ。

 

 誰もその作戦の中で死んでいった者たちには目もくれない。華々しい戦果だけを見て、死んだ四人のことは見ようともしない。

 僕からの通信を受け、夜が明けてから輸送機で駆け付けてくれた部隊の人たちは、僕のことを英雄だと賞賛してくれた。

 

 だけど……その言葉も、僕の心には響かなかった。ただただ、虚しいだけだった。

 

 死にゆく者たちへの祈りを捧げることが、生き延びた者たちが背負う責務なのだろう。

 この場で何があったのか、どんな戦いが繰り広げられたのか、それを知っているのはもう、僕たち五人だけしかいない。

 

 たった一日、ほんの数時間だけの戦いの中で、随分と重過ぎる荷物を背負わされてしまった。

 迎えに来た輸送機の仮眠室でそんなことを思いながら、僕は一時の安らぎともいえないまどろみの中に身を沈めるのであった。

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