ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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その鼓動の名は、愛

「……以上が、今回の任務に関する報告です」

 

「ご苦労だったな、クロス。お前はよくやってくれた。ブーン大尉をはじめ、ウルフ・ガー隊に多くの戦死者が出たことは残念だが……彼らの死は無駄ではなかったぞ」

 

 別の場所で敵の輸送機を襲撃したサブナック隊のみんなから遅れること一日、僕もキャリフォルニア・ベースに帰還することができた。

 ゴビ砂漠での戦いの詳細を報告したところで、ヨハンソン隊長からみんなの任務内容に関しても報告を受ける。

 

「こちらはハズレではあったが、お前が遭遇したのと同じ量産タイプの人型MSと、以前に鹵獲したガンタンクと呼ばれるMSもどきとの戦闘は行ったよ。そちらに関しては、リリアやアクセルといった対MS戦闘を既に経験している隊員や、私が受領したばかりのドムの性能もあって、問題なく討伐できた」

 

「そうですか。それは、良かった……」

 

「自爆機能のせいで鹵獲はできなかったがな。だからこそ、お前の功績が大きい。木馬の白い奴にも負けない性能を誇る新型を鹵獲できた。それも、ビーム兵器を搭載しているMSとなれば、我が軍の技術開発も大いに進むことだろう。赤い方に関しても装甲の研究材料にはなる。本当によくやったぞ、クロス」

 

 ヨハンソン隊長の言う通り、ビームダガーを装備しているピクシーを研究すれば、苦戦しているであろうビーム兵器の開発も大きく進展するかもしれない。

 加えて、ピクシーもガンキャノンもルナ・チタニウム製だ。素材の研究自体も大きく進む可能性はある。

 

 そうは思いながらも、僕の心には誇らしさも晴れやかさもない。

 ただただ、疲れたという思いだけが存在していた。

 

「……すまないな。長話に付き合わせてしまった。過酷な任務のせいで疲労も溜まっているだろう。今後のことは追って通達するから、今日はもう休め」

 

「はっ……ありがとうございます」

 

 そんな僕のことを気遣ってか、ヨハンソン隊長は部屋で休むよう言ってくれた。

 部屋を出る寸前、改めてよくやったと褒めてくれた隊長に敬礼してから、僕は指揮官室を出る。

 

 ほんの数日離れていただけだというのに、見慣れたキャリフォルニア・ベースの光景が懐かしく思えて仕方がなかった。

 廊下を歩き、自室へと向かう最中、偶然にも休憩中だったサブナック隊のみんなとすれ違う。

 

「クロス! 帰ってきてたんだな! 聞いたぞ、相手の新型を鹵獲したんだろう?」

 

「……ああ、僕が何かをしたわけじゃないけどね」

 

「大手柄じゃないか。昇進どころか、ジオン十字勲章を与えられてもおかしくない働きぶりだ」

 

「けっ……! こっちが手柄を立てたと思ったら、それ以上の戦果を挙げてきやがる。面白くない奴だよ、本当にな」

 

「隊長から話は聞いたよ。もっと詳しくそっちの戦いについて聞きたいけど……ごめん、疲れてるんだ。今は休ませてくれ」

 

 僕に気付いたアクセルとガスが声をかけてきたが、そう言って強引に話を打ち切った。

 部屋へと歩く最中、誰かが「気取りやがって」というようなことを言っていたが……それに反応する気力もない。

 

 部屋に戻り、無言でベッドに倒れ込んだ僕は、眠ることもできずにただ目を閉じていた。

 そうしていても思い出すのは戦いの中で感じた死の恐怖と、ハガー曹長やブーン大尉の死の間際の言葉ばかりで、心が休まることはない。

 

(疲れた……本当に、疲れ果てた……)

 

 ブーン大尉の言った通りだ、僕は今、猛烈に後悔している。

 あの戦いに参加したことも、生き延びてしまったことも……ウルフ・ガー隊のみんなを仲間だと思ってしまったことにも、強い後悔を抱いていた。

 

 ただ無気力にベッドに倒れ伏しながら、虚ろな目で何も見ているようで何も見ていない状態になり続けていた僕であったが……不意に、明るい何かを感じる。

 緑色の光のようなそれが徐々に近付いてくることや、それを見ているだけで心が安らぐことを感じる中、部屋の扉がノックされる音が響いた。

 

「クロス、いる? 今、ちょっといい?」

 

 そんな声を耳にしながら、部屋の扉を開ける。

 そこに立っていたのは、多分……僕が今、最も声を聞きたいと思っていた相手だ。

 

「……大丈夫? アクセルも言ってたけど、ひどい顔してるよ」

 

「あはは……僕、そんな顔してるかい?」

 

「うん、ひどい。中、入ってもいい?」

 

 僕を心配してくれるリリアを、無言で部屋に招き入れる。

 自分の椅子に座った僕に対して、リリアは少し足を止めた後……ベッドの上に腰掛け、口を開いた。

 

「大変だったんだね。上手く言えないけど……体よりも心が疲れてるって、そんな顔してる」

 

「……ありがとう。心配してくれて」

 

「クロスが前に言ったんじゃん。僕が苦しい時は、私に助けてもらいたいって……私がつらかった時にクロスにしてもらったことを、クロスに返してるだけだよ」

 

 そう言って微笑んでくれたリリアを見ていると、心の痛みがわずかだが和らいだことを感じる。

 今、僕はどんな顔をしているだろうか……? 彼女に見せられる、まともな顔をしているだろうかと考える僕の前で、彼女は言う。

 

「吐き出したい弱音があるなら聞くよ。ここだけの話にしておくから……全部、ぶちまけちゃいなって」

 

「……ありがとう。でも、何もないんだ。吐き出したいことなんて、何もないから」

 

 そんな僕の返事に対して、一瞬リリアが言葉を詰まらせる。

 そうした後、顔を上げた彼女は泣きそうな顔をしながら僕へと言った。

 

「嘘吐かないでよ……そんな顔しといて、強がらないでよ。ずっとずっと、聞こえてるんだよ? クロスの心が軋む音、私には聞こえてるの! なのに、なんでそんなこと言うの? そんなに私のこと、信用できない?」

 

「……そうじゃないよ。そうじゃないんだ。本当に何もないんだよ。何を言えばいいのかすら、僕はわからないんだ」

 

 僕は今、見ているだけで不安になる顔をしているのだろう。声だって覇気のない、力の抜けたものになっているのだろう。

 だから不安になる。不安にさせる。それをわかっていても、弱音らしい弱音を吐くこともできないのだ。

 

 疲れた。もう嫌だ。休みたい。眠りたい。誰かの死なんて見たくない。

 そのどれもが正しいようで、正しくない。僕の心を正しく表現できる言葉なんて、どこにもないように思えてならないのだ。

 

 子供のように泣き叫べたら、どんなに楽だっただろう。だけど今の僕には、そんな気力だって残っていない。

 そんな僕の消耗を感じ取ったのか、息を飲んだリリアは……顔を伏せながら、静かな声で言った。

 

「……言葉にできないって言うのなら、行動でなら気持ちを表せる?」

 

 そう言ってゆっくりと顔を上げた彼女が、大きく両腕を広げながら僕を見つめる。

 

「クロス……こっちに来て。私の傍に来て」

 

 小さく、心臓の鼓動が響いた。

 何も言わずにリリアの言う通りにした僕は、彼女に抱き締められてその腕の中に導かれる。

 小さなリリアに全てを委ねた僕の心は、確かな安らぎを感じていた。

 

「あっ……!」

 

 無意識の内に、ベッドに腰掛けていたリリアを押し倒す。

 彼女の声を聞きながら、そっと上から見下ろすように覆いかぶさろうとした僕に対して……リリアは抵抗せず、優しく微笑みながら頬に手を添えてくれた。

 

「……いいよ。おいで、クロス」

 

 その言葉を聞いた僕は、そっとリリアの唇を自分の唇で塞いだ。

 くぐもった呻きのような声が彼女の喉から響き、やがて甘く温かい感覚が僕の心の中に広がっていく。

 

 数十秒だったかもしれないし、数分間だったかもしれない。あるいは、もっと長くて短い時間だったのかもしれない。

 そっと唇を離した僕へと優しい眼差しを向けながら、リリアは口を開いた。

 

「一緒にシャワー、浴びよっか? 今日は傍にいてあげる。好きなだけ甘えさせてあげるから……ね?」

 

 そう言って微笑むリリアの小さな体を抱き締めながら、僕はもう一度キスをする。

 愛おしいという気持ちと、傍にいてほしいという欲望を入り混じらせた僕の感情を、リリアは黙って受け入れてくれた。

 

 

 

 

 ……その日僕は、リリアと長い時間を一緒に過ごした。

 愛してる、だなんて似合わない言葉を口にする度に、彼女は小さな手に力を込めて、僕の手を握り返してくれた。

 その手から伝わる脈動が、確かに感じられる愛の鼓動が、僕に生きたいと思う理由を与えてくれる。

 

 ベッドの中で彼女を抱き締めながら何度も繰り返したキスの甘さと温もりは、いつか彼女と語り合った時に飲んだコーヒーの味とよく似ていた。

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