ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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大蛇はルウムに消えた……されど、その姿は心の中に残り続ける

 地球に対するコロニー落とし……ブリティッシュ作戦は、地球全土に多大なる被害をもたらした。

 しかし、連邦軍艦隊の必死の抵抗に遭い、当初の目的であった地球連邦軍司令部ジャブローへの攻撃は失敗。

 コロニーはオーストラリアと北米に落下し、ジオンの目論見は半ば阻止される形となった。

 

 ジオン軍最高指揮官ギレン・ザビ閣下はこの結果を受け、次なる作戦に打って出る。

 宇宙での主導権を握るべく、ジャブローへの攻撃失敗を逆手に取った罠を仕掛けたのだ。

 

 その作戦とは、連邦軍に「ジオン軍は第二のブリティッシュ作戦を決行すべく、サイド5に艦隊を集結させている」という偽の情報を流すもの。

 コロニー落としの甚大なる被害を目の当たりにした連邦軍は、ジオン軍の作戦を阻止するため総力を上げて艦隊を集結させた。

 

 両軍はサイド5のスペースコロニー『ルウム』周辺の宙域で邂逅した。

 今ここに、ジオン軍と連邦軍の宇宙での覇権を決める決戦の火蓋が切って落とされたのである。

 

 僕が一時的に世話になっている『第603技術試験隊』も、試作兵器ヨルムンガンドと共に後方ではあるが戦場にいた。

 後にルウム戦役と呼ばれる戦いにおいて、勝敗を決する切り札としての活躍を期待されているヨルムンガンドを擁する彼らは、自分たちの立場に興奮を隠し切れずにいる。

 

 特にヨルムンガンドの運用を任されたヘンメ大尉は、誰よりもやる気を見せながら発射の時を今か今かと待っていた。

 マイ技術中尉も、プロホノウ艦長も、キャディラック特務大尉ですら……自分たちがジオン軍の勝利を決定付ける活躍をするのだと、興奮と共に意気込んではいるが、僕はこの先に待ち受ける運命をなんとなく理解している。

 

(ルウム戦役で勝敗を決定付けたのは、MSの活躍だ。ヨルムンガンドは、戦果を挙げられずにここで散るんだろう……)

 

 ガンダムシリーズの中でもあまりにも有名な話であるルウム戦役の内容は、僕もある程度ではあるが知っている。

 ここで赤い彗星のシャアや青い巨星ことランバ・ラル、さらには黒い三連星といったエースパイロットたちがMSを駆り、多大なる戦果を挙げたことで、その有用性が証明されることになったはずだ。

 

 逆に、時代遅れの大艦巨砲主義の象徴とも呼べるヨルムンガンドが活躍したという話は聞いたことがない。

 おそらくは、大した活躍はせずに出番を終えるのだろう。

 

 ただ、ヨルムンガンドは不思議なことにジオン軍司令部からは大きな期待を寄せられている。

 これが僕が『第603技術試験隊』に参加している影響なのか、あるいは本編でもそうだったのかはわからないが、とても奇妙に思えた。

 

(それでも、僕は僕のできることをやろう。敗戦という結果に向かうまで、やれることをやるんだ)

 

 色々と不思議に思うことやわからないこともあるが、今は僕のできることをやる。

 マイ技術中尉との話し合いを経て、過程の中に意味のある何かを見つけ出そうと決めた僕は、愛機であるザクⅠのコックピットの中で深く息を吐いた。

 

 艦の砲撃を担当するヘンメ大尉たちがヨルムンガンドに乗り込んでいる今、ヨーツンヘイムは攻撃手段を持たない無防備な状態である。

 それを護衛すべく、パプアから回収できた数少ない武器を手に、僕はこうして宇宙を漂っていた。

 

(戦闘は既に始まっている。だけど、こっちに砲撃指示は出てないみたいだな)

 

 視線の先では、ジオンと連邦の艦隊が激しい砲撃戦を繰り広げていた。

 ヨルムンガンドは前線に出ている味方からデータを受け取り、決定打となる砲撃を撃ちこむ役目を任せられているらしいが、肝心なそのデータが届かない。

 

 ヘンメ大尉のみならず、『第603技術試験隊』が苛立っている声が通信から聞こえているが、僕としてはMSの姿が全く見えないことの方が気になっていた。

 

(連邦軍はセイバーフィッシュを出して、攻撃を仕掛けている。なんでこっちはザクを出さないんだ?)

 

 こちらの部隊は大きな戦力であるザクを全く出撃させていない。それが不可解で仕方がなかった。

 僕が自軍の動きにきな臭いものを感じ始めたその時、轟音が響き、ヨルムンガンドから青白いビームが発射される。

 

「うっっ!?」

 

 想像以上の出力を誇るヨルムンガンドの一撃は敵艦に命中こそしなかったものの、かすめただけで航行中のサラミスが引き寄せられるという威力を見せつけた。

 艦隊決戦砲の名に恥じないヨルムンガンドの威力を目の当たりにした僕は、確かにこれならば勝敗を決する一撃を叩き込むこともできるだろうと思いながら息を飲む。

 

「くっ、外したか……! どうした!? 観測データはまだか!?」

 

 しかし、ヘンメ大尉ほどの腕前があっても、観測データなしに長距離狙撃を成功させることは不可能であるようだ。

 徐々に押し込まれていくムサイたちの姿を見ながら、どうしてデータが届かないのかと悔しさを募らせる僕の前で……ヨーツンヘイムから一機の観測機が飛び出す。

 

 驚き、並走するように旧ザクを駆った僕は、その観測機へと通信を試みた。

 

「観測機! こちらレオンハート二等兵、搭乗しているのは誰ですか!?」

 

「レオンハート二等兵、こちらはオリヴァー・マイ技術中尉だ。前線からのデータが届かない以上、我々が直接計測するしかない。すまないが、護衛を頼む!」

 

「そんな、無茶なことを……!!」

 

 必要なデータが届かないなら、自分で計測しに行く。あまりにも無謀な真似をするマイ技術中尉の言葉に唖然としながらも、彼を死なせるわけにはいかない僕は言われるがままに計測機の護衛に就いた。

 マシンガンを構えながら飛行する僕は、こちらへと迫る戦闘機の姿を目にして、舌打ちを鳴らす。

 

「敵戦闘機、数は四! どうにかできるか!?」

 

「やるしかないんでしょう!? やってやりますよ!!」

 

 ヤケクソになって叫びながら、ザクマシンガンを戦闘機に向けて発射。

 散開して回避するセイバーフィッシュたちのお手本のような動きを見切り、移動先に先撃ちすれば、弾がその内の一機に直撃し、小さな火球を生み出した。

 

「来るなよ! そうすれば、殺す必要もないのに!!」

 

 散らばった状態で連携を取り、攻撃を仕掛けてこようとする敵に向かって叫びながら、牽制射撃を繰り返す。

 なんとしてでもマイ技術中尉たちが乗る観測機を守らなければと敵の接近を阻む中、後方に控えているヨルムンガンドから二発目の砲撃が放たれた。

 

「っっ! 今っっ!!」

 

 無論、その一撃は僕たちへの援護のために発射されたものではない。

 しかし、超が付くレベルの強力な砲撃が近くで放たれたことで、セイバーフィッシュの操縦士たちの意識が一瞬そちらに向いた。

 

 その隙を見逃さず、二機の戦闘機を撃ち落とした僕が最後の一機に狙いを定める。

 相手も味方が撃ち落とされ、半ば自棄になったのだろう。相打ち覚悟で僕の方へと向かってきているのがわかった。

 

 どうにか相手の機銃を回避し、マシンガンを撃とうとした僕であったが……引き金を引いても弾が出てこない。

 マガジンが空になったのだと、自分の迂闊さに気付いた僕はリロードではなく、持っていたマシンガンそのものを敵機に向けてぶん投げた。

 

「これでええええええええっ!!」

 

 本来の使い方ではないが、僕の予想外の攻撃は相手の虚を衝けたようだ。

 こちらが弾切れを起こしていると見ていたセイバーフィッシュはいきなり飛んできたマシンガン本体を回避できず、羽を引き千切られてすぐに爆発した。

 

 どうにか敵の戦闘機を破壊することはできたが、もう僕に武器は残っていない。

 これ以上は本当に危険だと、マイ技術中尉にヨーツンヘイムに戻るように言おうとした、その時だった。

 

接近警報(アラート)!? しかも後方から!? この反応は……ザク!?」

 

 コックピットに鳴り響いた警報に、敵の新手を警戒した僕であったが……その反応は先ほどのセイバーフィッシュたちとは真逆の方向から近付いている。

 識別番号を確認した僕が、接近している相手が味方のザクであると気付いた次の瞬間には、無数のMSたちがその横を通り過ぎていった。

 

「速い! っていうか、多い!! いったい、どこにこれだけのザクが……っ!?」

 

 突如出現したザクたちが、戦線を押し上げようとしていた連邦の艦隊を次々と撃破していく。

 伏兵の登場に慌てふためく連邦軍の狂乱を目にしながら、僕はジオン軍が最初からこれを狙っていたことを理解した。

 

(最初から、伏せてあったMS部隊を消耗した敵にぶつけるつもりだったんだ。ヨルムンガンドは囮として使われただけで……最初から、戦力として数えられてすらいなかったんだ……!)

 

 目立つ巨体と強力な砲撃、その二つを併せ持つヨルムンガンドは、嫌でも目を引く。

 特に未だに大艦巨砲主義の思想が根付いている連邦軍からしてみれば、その究極体とでも呼ぶべきヨルムンガンドは特に警戒すべき対象だろう。

 

 ジオン軍は、それを利用した。『第603技術試験隊』をおだて、自分たちこそがこのルウム戦役の勝敗を決定付ける存在だと思い込ませたのも……全ては、本命であるMSの存在を秘匿するためだった。

 道理で前線から計測データが届かないわけだ。何せ、ヨルムンガンドは最初から兵力としてカウントされていないのだから。

 

 ただ、期待を寄せられていると思い込んでいた『第603技術試験隊』のみんなやヘンメ大尉のことを思うと、胸が締め付けられるような苦しみが襲ってくる。

 自分たちは最初から囮でしかなかったと、その残酷な事実を突きつけられた彼らがどんな気持ちでいるか想像し、苦悶の表情を浮かべていた僕の目に、青い爆発が映った。

 

「うっ! うわああああっ!?」

 

「ヘンメ大尉!!」

 

 どこからか飛んできたミサイルがヨルムンガンドの近くで爆発し、その巨体に甚大なダメージを与える。

 聞こえてきたヘンメ大尉の悲鳴に反応し、弾かれるように破損した艦隊決戦砲へと向かう僕は、彼へと大声で呼びかけた。

 

「ヘンメ大尉、脱出の準備を! 今、救助に向かいます!!」

 

 視界の端に、手負いのマゼラン級が突っ込んでくる姿が見える。

 もはやこれまでと死を覚悟した乗組員たちは、ヨルムンガンドを道連れにしようとしているのだろう。

 

 あれが激突する前に、なんとかヘンメ大尉やヨルムンガンドに乗り込んでいる砲術兵たちの救出を……! と考える僕の耳に、苦しそうな彼の声が響く。

 

「へ、へへ……! 動きたくても動けんよ。それに、今からじゃ間に合わん。お前も巻き込まれるだけだ」

 

「何を言ってるんです!? 諦めず、最後まで足掻いて――!!」

 

「ああ、足掻かせてもらうさ。ただし、大砲屋としてな」

 

 その言葉を聞いただけで、ヘンメ大尉が何をしようとしているかわかった。

 それでも……彼を救いたいと願う僕は、必死にペダルを踏んでザクⅠを走らせる。

 

「敵艦がこっちに来てくれてるんだ……これなら、観測なんていらん……」

 

「無理だ! そんなことしても、本来のデータは!!」

 

「いいんだよ、技術屋。どうやら、これからはMSが主役のようだ……せめて、大砲屋時代の幕引きは、俺に……やらせてくれや……」

 

 ウォン、という悲しい音が響いた。

 それは神話の時代を生きた大蛇の、最後の咆哮だったのかもしれない。

 

 迫るマゼラン級に向けて牙を剥いたヨルムンガンドは、その一撃を以て敵艦を木っ端微塵に粉砕してみせた。

 大きく、大きく……かつてパプアが墜ちた時に見た爆発よりも、さらに大きな火花を散らして星屑になったマゼラン級を見つめながら、僕は言う。

 

「やりましたよ、ヘンメ大尉……! 見ましたか? マゼラン級が一発で粉々だ。ヨルムンガンドは、大尉は……本当にすごいですね……!!」

 

 その声に、大尉は応えない。彼以外にヨルムンガンドに乗り込んでいたはずの砲術兵たちも、誰も、何も……僕の言葉に応えてくれない。

 わかっていたはずだ、こうなることは。だけど……頭で理解していても、心が納得してくれない。

 

 ヘンメ大尉は、これで満足だったのだろうか? 最期、自分たちの時代に幕を引けて、それで満足して逝けたのだろうか?

 ……その答えはわからない。わかるはずがないんだ。

 

「……レオンハート二等兵、君はヨーツンヘイムに帰投しろ。ヨルムンガンドには、既に艦長たちが救出部隊を送り込んでいるはずだ」

 

「……了解です」

 

 マイ技術中尉が僕を気遣ってくれていることはわかった。

 その命令に従い、僕は母艦へと帰投する。

 

 ヨーツンヘイムに乗り込む寸前、全ての役目を終えたヨルムンガンドの姿が目に映る。

 このルウムの戦いの中に、歴史の闇に葬られていく大蛇の姿を、せめて僕だけはこの瞳に焼き付けておこう。アレクサンドロ・ヘンメという不器用な男がいたことも覚えておこう。

 

 僕たちを救おうとしたわけではない。だけど、あの一射がなければ、僕がセイバーフィッシュたちを撃ち落とすことはできなかったはずだ。

 彼らは確かにこの戦場で戦っていたんだと自分に言い聞かせながら……僕は、ルウムに消えた大蛇の雄姿を心に刻み込むのであった。

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