ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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長い夜も、きっといつか終わる日が来る

「クロス」

 

「ああ、サキ軍曹……体はもう大丈夫なんですか?」

 

「おかげさまでね。そっちは……うん、大丈夫そうだ」

 

 キャリフォルニア・ベースのMS格納庫。そこで作業を見守っていた僕は、ウルフ・ガー隊唯一の生き残りであるサキ軍曹と短い会話を交わした。

 リリアのおかげで精神を持ち直させた僕を見て、軍曹も何かを悟ったのだろう。

 優しい微笑みを浮かべた後、申し訳なさそうな声で彼女は言う。

 

「……ごめん、クロス。あの時の私の捕虜への扱いのせいで、あんたを追い詰めちゃったね」

 

「いいんです。結果として、サキ軍曹があの二人を拘束してくれたおかげで、無駄な死者を出さずに済みましたから」

 

 そう語りながら前を見た僕に続き、サキ軍曹も同じ方向を見る。

 作業用の巨大クレーンに吊るされて移動させられている橙色のG型ザクを二人で見ながら、僕は口を開いた。

 

「……もう、限界だそうです。これまでの酷使と新型との戦いで無茶をさせ過ぎたせいで、ほとんど動かなくなってしまって……予備パーツもないから、これ以上は修理できないって言われちゃいました」

 

「……そうか。寂しいよね?」

 

「ええ……」

 

 およそ五か月間……長いのか短いのかはっきりとはわからない期間だが、僕はこのザクと一緒に戦場を駆け抜けてきた。

 ヒルドルブの救出作戦から始まり、様々な任務をこのG型ザクと戦い抜き、その度に愛着を深めてきた。

 

 でも、機械はいつか壊れるものだ。これまで過酷な戦いを幾度となく繰り返してきたザクは、既に限界を超えていたのだろう。

 それでも、この時代最強格のMSであるガンダム・ピクシーを相手に踏ん張ってくれた。サキ軍曹を死なせたくないという思いに応えて、最後の力を振り絞ってくれた。

 

 出会った時に見た、鮮やかな橙色は大分くすんでしまったけれど……僕の目には、彼の姿が美しい夕日のように輝いて見える。

 

(ありがとう。君のことは、忘れないから)

 

 G型ザクは戦線を離れる。どうやら、研究のために宇宙(そら)に打ち上げられるそうだ。

 その先のことはよくわからないが……と、僕が考える中、今度はサキ軍曹が口を開く。

 

「クロス……私も、宇宙に帰ることになった。あんたのザクと今回鹵獲した連邦の新型、それと……大尉のイフリートと一緒に、一度宇宙に戻る」

 

「え……?」

 

「……今回の作戦の詳しい報告をしなくちゃいけないみたいだし、連邦のMSとの戦闘データをできる限り取っておきたいんだってさ。前線からは離れることになるし、この先のことはどうなるかわからないけど……ちょっと行ってくるよ。大尉たちの戦いを、ちゃんと記録に残してくる」

 

 ウルフ・ガー隊のMSの中である程度原型を留めていたのは、僕のザクとブーン大尉のイフリートだけだ。

 データ収集のために、ピクシーたちと一緒に研究機関に持ち運ばれるそれと共に、軍曹も宇宙に上がるらしい。

 

 寂しくなるなとは思いつつも、それが生き残った者の使命なのだと理解している僕たちが静かに見つめ合う中、サキ軍曹が言う。

 

「連邦の連中に復讐したいって気持ちは変わってない。でも、相討ちになってでもみたいな考え方はもう辞めるよ。あんたに救ってもらった命だ、粗末に使うことは許されない……そうでしょ?」

 

「……それが、軍曹の生きる理由になってくれたのなら、僕はそれでいいです」

 

 小さく頷きながら、僕は軍曹にそう答えた。

 彼女もまた頷きを返してから、僕へと言う。

 

「ブーン大尉、ハガー曹長、レスタとレイ……あいつらの最後の戦いを語れるのは、私たちだけだ。いつか、どこかで死ぬその日まで……この胸に刻んで生きていくよ。あの人たちのことを……」

 

 満足して逝った者もいれば、そうじゃない者もいる。戦争というのは、いつ降りかかってくるかもわからない死に怯えながら、それでも前へ前へと進んでいく日々の繰り返しだ。

 いつかは終わるこの戦いの中で、いなくなってしまった人たちのことは最後まで覚えていたい。

 ウルフ・ガー隊という、無謀で無茶だが最後まで戦い抜いた男たちの生き様を、死の間際の言葉を、一秒でも長く抱き続けようと……そう語った後、時間を確認した僕はサキ軍曹へと言った。

 

「……そろそろ行かないと。予定があるんです」

 

「そっか……じゃあ、またね。いつか、どこかで会おうよ」

 

「ええ、必ず。またどこかでお会いしましょう」

 

 そう言ってから、僕は格納庫から去っていく。

 またきっと会える……そんな希望を胸に、僕は前へ前へと足を踏み出していった。

 

 

 

△ ▽ △ ▽ △

 

 

 

「お時間を割いていただいたこと、感謝します」

 

「それはこっちの台詞だ。俺の方こそ、君に感謝しているよ」

 

 キャリフォルニア・ベース内、面会室……アクリル板で作られた仕切りを挟んで、僕は彼と話をしていた。

 ボルク・クライ大尉……先の戦闘でガンダム・ピクシーのパイロットを務めていた、連邦軍の兵士だ。

 今は二人の部下と共に虜囚の身分となっているが、その目には確かな生きる希望が宿っていた。

 

「若いな……まだ子供じゃないか」

 

 憐れみと悲しみをにじませたクライ大尉の言葉に、僕は何も答えない。

 この面会の会話は全て記録される。ここでうっかり「ジオンは僕みたいな子供を戦場に出すくらい余裕がないんです」みたいなことを言ったら、それだけで査問会議に送られる可能性だってあるからだ。

 

 ただ、こんな子供に捕らえられたことを悔しがる素振りも見せず、ただただ悲しそうにしているクライ大尉の様子を見ていると、彼の部下たちが命を投げ出しても惜しくないと思う理由もわかるような気がした。

 

「……君は俺を恨んでいないのか? 部隊の仲間を殺した、仇だぞ?」

 

「それは僕も同じですよ。あなたの仲間を何人も殺した。お互い様です」

 

「そうか……そうだな……」

 

 しんみりと、クライ大尉がそう呟く。

 お互いに敵であり、仲間を殺し合った関係でもあるが、それは戦場の常というやつだ。

 

 何より、僕たちの間にはお互いの気持ちを理解し合えるシンパシーのようなものがあった。

 

「……()()()()()()()()()()って言葉、痛いほど胸に響きました。みんな簡単に死んでいく。何を理由に戦えばいいのかわからなくなるその気持ち、わかります」

 

「俺も、君の気持ちはわかるよ。虚無感も絶望も、十分に味わいつくした。でも、戦争は終わらない……嫌になるよな」

 

 自嘲気味に、僕たちは笑う。今、お互いの最大の理解者が味方ではなく敵の側に存在していることが、どうにもおかしくて仕方がなかった。

 

「……もしも君が連邦軍の人間だったら、何か変わっていたのかもしれないな」

 

「あるいは、あなたがジオンの人間だったら……いえ、止しましょう。意味のない話だ」

 

 少しだけ物悲しさを感じた僕は、その話題を早々に切り上げた。

 そうした後、時間が迫りつつあることを時計を見て理解すると共に、改めて口を開く。

 

「別の基地に移送されるんですよね? 部下のお二人も、一緒ですか?」

 

「ああ、そうみたいだ。しばらくは捕虜として過ごすことになる……だが、耐えていくよ。部下の命も、俺自身の命も守る。戦場に立っていなくとも、俺の戦いはまだ続くみたいだからな」

 

 生きるための戦い……屈辱や汚名を耐え、自分を敬愛してくれる部下たちと共に明日を生きるための戦いが始まる。

 清々しくも悲しさを宿した目で僕を見つめたクライ大尉は、静かにこう言ってくれた。

 

「クロス・レオンハート曹長……君には、俺の何倍も過酷な戦いが待ち受けているだろう。だから、これが君の重石になることを理解した上で、敢えて言わせてほしい……()()()()。君は、生きるべき人間だ」

 

「あなたもですよ、ボルク・クライ大尉。死なないでください。どうか、ご無事で」

 

 その会話を最後に、面会時間の終わりを伝えた係員に連れられて、クライ大尉は部屋を出ていった。

 敵味方と陣営が分かれていても、こうしてわかり合える。お互いの生きる道を祈り合える。

 クライ大尉との対話の中で確かな希望を抱いた僕もまた、明日に続く道を歩むように足を進めていった。

 

 

 

△ ▽ △ ▽ △

 

 

 

「ただいま、リリア。調子はどう?」

 

「ご覧の通り、まだ足腰立たない状態だけど?」

 

「あの、えっと……ごめん。加減とか、そういうのわからなくって……」

 

「……別にいいけどさ。甘えていいって言ったのは私だし、むしろ嬉しいくらいだし……」

 

 面会を終えて部屋に戻った僕は、ベッドの上で寝転がったままのリリアへとそう声をかけた。

 訓練用のスポーツブラ&パンツ姿の彼女は上体を起き上がらせながら文句を言いつつ、僕の返事に頬を赤らめてそう答えてくれる。

 

 改めて、昨晩のことを思い出した僕は、緊張しながらも彼女へと言った。

 

「その、ありがとう……リリアのおかげで気持ちを切り替えられたっていうか、前向きになれたよ。本当に、感謝してる」

 

「……そう。良かったね」

 

「あ、あと、その、体だけの関係に留めておくつもりはないから! ちゃんと責任は取るよ!」

 

 あわあわと慌てながら大切なことを言う僕のことを、じっと見つめていたリリアが不意に吹き出す。

 普段通りのメスガキのような笑みを浮かべた彼女は、楽し気な声で僕へと言った。

 

「ホントに面白いんだから……! まあ、うん。私もクロス以外にこういうことをさせるつもりはないし……しょうがないからなってあげますか、()()()()()()にさ!」

 

「そ、その言い方、止めようよ。ちょうど今、僕のザクも回収されてなくなっちゃったところなんだからさ……」

 

「ほう? ってことは、しばらくは私がクロスを独占できるってわけだ! じゃあ、しっかりチューニングしておいてよね!」

 

「ほ、ほどほどにね? ほどほどにだよ?」

 

 こういうのって普通は立場が逆だよなと思いつつ、昨日は心の中にあった苦しみや悲しみが大分晴れていることを感じる僕は、リリアに本当に感謝していた。

 同じ部隊の仲間であり、小隊の隊長と隊員でもあったところに、恋人にもなってしまって……これからも長く続く彼女との関係は、また変化の時を迎えている。

 

 ただやっぱり、リリアの明るさや強引さに救われることも多い僕にとって、彼女は文字通りの僕の()()()()()になってくれていると思う。

 長い夜でも、彼女が傍にいてくれるならきっと夜明けはやってくると……そう思わせてくれるだけの何かがリリアにはあった。

 

 ……そう、どんなに夜が長くたって、夜明けは必ずやってくる。

 次に僕が話すのは、長い夜の話。闇夜を駆ける魔狼との邂逅と、姦しい妖精たちとの再会と、そして――

 

 ――長い夜に終わりをもたらす、()()()()()との出会いの話だ。

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