ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「そういえばなんですけど、名前はどうしましょうか?」
「え……?」
イフリートを受領した数日後、僕とノイジー・フェアリー隊の面々はオデッサへと向かう潜水艦の中にいた。
前回、ゴビ砂漠に向かった時はガウを使ったため、こうして海(というより海中だが)の旅を楽しむのは初めてである。
オデッサまで僕とイフリートを無事に送り届けたら、ノイジー・フェアリー隊のみんなはガウでそのまま北米戦線にとんぼ返りということで、かなり過酷なスケジュールになっている。
僕の方もサブナック隊のみんなと早く合流するために急いで機体の調整を終えたわけだが、イフリートの想像以上の性能には本当に驚かされた。
ビームサーベルやルナ・チタニウム製のシールドを容易に破壊するショットガンの威力もそうだが、機動性はG型ザクが比較にならないレベルまで向上しており、ツィマッドの技術の粋が結集しているのだと思わされたものだ。
そんなイフリートと一緒に海の中を進んでいた僕は、ミアから冒頭の質問を投げかけられた……というわけである。
「イフリートの名前です。まだ決めてなかったなと思いまして」
「名前って……イフリートはイフリートでしょ?」
「それはそうなんですが、あれはもう通常のイフリートとは別物ですし……コードネーム的な名前を付けておいた方がいいんじゃないでしょうか? その方が、クロスさんも愛着が湧くでしょうし」
イフリートの名前、という話に僕は腕を組んで唸る。
そのタイミングで、アルマとヘレナも話に入ってきた。
「普通に名前を使えばいいんじゃないか? クロス・イフリートとか、イフリート・クロスとかさ」
「それはちょっと嫌かな……定番だけど、自己顕示欲強そうな気がするし……」
「だったら色から取ります? オレンジイフリートとか?」
「流石にそれは安直過ぎませんか? もっといいのがあると思うんですが……」
ヘレナとアルマの意見をミアと一緒に却下しつつ、僕も彼女たちと一緒に頭を悩ませる。
確かに考えてみれば、イフリートはパイロットごとに固有の機体名が付けられていることが多いような気がした。
僕が知っているのだと、EXAMシステムを積んだイフリートは『イフリート改』という名前だったし、一年戦争後に発見された機体は『イフリート・ナハト』という名前だったはずだ。
多分だけど、マルコシアス隊のシュナイド隊長の愛機である専用カスタムのイフリートも名前が付く気がする。勘だけど、割と安直な名前が付く気がしてならない。
と、そこまで考えたところで、名前を付けるならばイフリートの後に何かを付ける的な感じになっていることに気付いた僕は、ノイジー・フェアリー隊のみんなとああでもないこうでもないと話を続けていたのだが……そこで、潜水艦内に通信が入った。
『聞……こち……基地。現在……を、受け……』
「なんだ? かなり途切れ途切れだな?」
「距離が離れているんでしょうか? でも、ユーコンはそこまで深海を進んでいるわけじゃないですよね?」
「……待ってくれ、この声は……ヨハンソン隊長!?」
かなり通信が悪い状況だが、聞こえてくる声の主が隊長のものだと気付いた僕は、血相を変えた。
既にオデッサに到着しているはずの隊長が、どうして海を進むユーコンに通信を送っているのか? 一気に緊張感を高めた僕の耳に、今度は渋い男性の声が響く。
『この通信を聞いている部隊はいるか? 繰り返す、この通信が聞こえている部隊がいたら、返答を求める』
ヨハンソン隊長のものとは違う、はっきりと聞こえる声。
どうやらこの声の主は近くにいるらしいと考察する中、ギャレット少佐が代表してその声に応える。
「こちらノイジー・フェアリー隊、隊長のキリー・ギャレット少佐です。通信は聞こえています。そちらの部隊名を教えていただけますか?」
「貴殿の応答に感謝する。こちらは闇夜のフェンリル隊、ゲラート・シュマイザー少佐だ。そちらは私の通信が入る前に、友軍からの救援要請が聞こえたか?」
「救援要請……!?」
シュマイザー少佐が発したその言葉に、汗が一気に噴き出す。
ヨハンソン隊長が救援要請を発したということは、今現在サブナック隊は相当な危機に瀕しているということだ。
いったい、何があったのか? リリアやアクセルは無事なのかと僕が焦る中、シュマイザー少佐は僕たちが聞き取れなかった救援要請について説明してくれた。
「現在、ここから少し離れた位置にある補給基地が連邦軍に包囲され、攻撃を受けている。拠点防衛の命令を受けたサブナック隊が応戦を続けているが、状況は良くないようだ。既に基地の機能の大半が停止させられ、通信を受信することもできなくなっているらしい」
「……隊と基地の被害は? 報告にありましたか?」
「幸いなことに、サブナック隊にはまだ死者が出ていないようだ。しかし、防衛戦力はほぼ壊滅したとも言っていた。次の攻撃はおそらく耐えられないだろうともな」
みんなが無事だという報告も、素直には喜べなかった。
ヨハンソン隊長の指揮と防衛戦力が命を張ってくれたおかげで今日まで耐え切ることができたが、次はもう無理だという隊長の言葉に嘘や誇張はない。
連邦軍が次の攻撃を仕掛けてきたら……大きな被害が出る。リリアも、やられてしまうかもしれない。
大切な仲間たちに危機が迫っていることを知り、増々焦りを募らせていく僕のことを、アルマたちノイジー・フェアリー隊のみんなが不安そうに見つめていた。
「友軍の危機を見捨てるわけにはいかない。我々はこれから補給基地に救援に向かう。可能であれば、ノイジー・フェアリー隊にも協力を願いたい」
「了解しました。合流ポイントを指示してください。そこでブリーフィングを行いましょう」
僕の気持ちを汲んでくれたのか、ギャレット少佐はこの救出作戦に参加を決めてくれた。
まさかこんな事態になるとは思っていなかった僕は、落ち着かない気持ちを抱えたまま海の中を進んでいく。
光の届かない海の暗さは、まるで今の僕の胸中を表しているかのようだった。