ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「大丈夫さ、レオンハート曹長。君の仲間は無事だよ」
夜……闇に紛れての行軍中、隣を走るザクからの通信が入った。
後年のガンダムシリーズのメイン(ネタ)キャラとほぼ同じその声に驚きながら、僕も返答する。
「ありがとうございます、ニッキ・ロベルト少尉」
「仲間のことを心配する気持ちはわかるが、焦るなよ? 俺たちだって一緒だ。チームとして、仲間を助け出そう」
階級も一つ上で歳も近い彼には、なんだか兄のような雰囲気があった。
僕がその気遣いに感謝する中、少尉の言葉をからかうような通信が入る。
「はははっ! 少尉も年下の面倒を見るようになりましたか! 先輩風吹かせちゃって、かわいいもんですな!」
「からかわないでくださいよ、軍曹。仲間を気遣うことの何がおかしいんですか?」
「まあ、年下で階級も下の男の子が一緒になったら、先輩ぶってみたくもなるわよね」
「シャルロッテ! 君までそんなことを……!!」
「お前たち、盛り上がるのはいいが、気を抜くなよ。それとマットにも言ったが、レオンハート曹長はルウムから出撃しているから、ロベルト少尉とヘープナー少尉よりもMSパイロットとしては先輩だ」
「「うぐっ……」」
新たにフェンリル隊の紅一点であるシャルロッテ・ヘープナー少尉が加わってのやり取りを、現場の指揮官的ポジションであるル・ローア少尉が嗜める。
彼の言葉にヘープナー少尉共々唸って押し黙るロベルト少尉の声を聞いた僕は、おかしさを感じながら小さく笑みを浮かべていた。
「色々と不安な時に申し訳ありませんね、曹長。ロベルト少尉はただ、あなたを元気付けようとしただけなんです」
「大丈夫です、わかっていますから。スワガー曹長も、ありがとうございます」
温和な曹長のフォローにも感謝しつつ、リラックスした気持ちを取り戻すように息を吐く。
戦闘前に完全に気を抜くことはできないが、ここまで何度も厳しい戦いを切り抜けてきたであろうフェンリル隊が一緒だというのは、かなり心強い。
リリアたちのことは心配だが、だからこそ焦るわけにはいかない。
確実に任務を遂行し、みんなを助け出さなければ……と考える僕へと、スワガー曹長が声をかけてくる。
「そういえば、サブナック隊は特別競合部隊という変わった部隊なんですよね? 戦功を挙げた隊員がエースパイロット部隊に転属させてもらえるっていう、あの」
「へぇ~、そんな部隊があるんですね。だったら、もうクロス・レオンハート曹長の転属は決まったようなものじゃないですか?」
「最新鋭の専用機を与えられている上にガンダムをはじめとした敵のMSを多数鹵獲……確かに、普通に考えたら一番の大手柄よね」
「曹長殿、フェンリル隊に来ませんか? 代わりにサブナック隊にはロベルト少尉をお送りしますんで」
「ちょっと、オースティン軍曹!? ひどいこと言わないでくださいよ!!」
「……だから、はしゃぎ過ぎるなと言っているだろうに」
「ふふっ、ははははははっ!!」
やっぱり騒がしいフェンリル隊の面々のやり取りに、声を上げて笑う僕。
そうした後、僕はみんなに向けてこう言った。
「いいですね、こういうの。皆さんの仲がいいことが伝わってきます」
「……サブナック隊は違うんですか?」
「スワガー曹長も仰ってましたが、僕たちは同じ部隊の仲間であると同時に戦功を競い合うライバル同士でもあるんです。全員が全員、というわけではありませんが、やっぱり空気は良くないことが多いですね……」
「……曹長も苦労してそうね。出る杭は打たれるっていうし、やっぱり妬まれることも多かったんじゃない?」
ヘープナー少尉からの問いに、曖昧に笑って応える。
そんな僕の反応から色々と察したであろうフェンリル隊の中から、レンチェフ少尉が口を開いた。
「曹長、一つ聞かせてもらっていいか? お前はそんな奴ら、本当に助けたいと思ってるのか?」
「レンチェフ少尉、それは……!!」
「状況を考えろ、レンチェフ少尉。それは今、すべき質問ではない」
「そんなことはありませんよ、ル・ローア少尉殿。これは作戦の成功に大いに関わる話だ」
彼の僚機であるザクに乗る、マニング軍曹の困惑した声が響く。
ル・ローア少尉の制止を振り切ったレンチェフ少尉は、改めて僕へと質問を投げかけてきた。
「答えてくれ、曹長。お前にとっちゃ、自分をのけ者にしてきた仲間たちが死んでくれる上にライバルが減ってくれるこの状況はありがたいことこの上ないわけだ。実は仲間たちが死んでくれた方がいいって腹の中で考えてるなら、わざと作戦を失敗させようとしてくるかもしれないじゃねえか」
「クロスさんはそんな人じゃありません! 変なことを言わないでください!!」
「階級が上だとしても、その発言は見過ごせないですよ!」
レンチェフ少尉の問いに対して、ミアとヘレナが抗議の声を上げる。
そんな二人を制した後、僕は彼のグフに向かってこう答えた。
「僕は、そんなことは考えていません。誰一人として、死んでもらいたくないと思っています」
「ほう……? どうしてだ?」
「……あまりにも多くの死を見てきましたから。あんなもの、もうたくさんだ。誰かの死を背負うことほど、苦しいものはありませんから」
パプアのみんな、ヘンメ大尉、ハガー曹長とブーン大尉。
出会って、別れて、いなくなってしまった人たちのことを思うと、胸がズキリと痛む。
この間、セベロの話を聞いて思った。近くにいてくれた大事な人の死は、大きくて重い荷物になる。
もうこれ以上それを背負いたくないし……そうでなくても、大切な仲間に死んでもらいたいだなんて思わない。
みんなで生き抜くこと、そのために僕は戦っているのだと伝えれば、小さく鼻を鳴らしたレンチェフ少尉はこう答えた。
「はっ……! 甘いな。しかし、若い奴ってのはそんなもんか」
「ええ、そんなもんです。僕はあなたにだって死んでもらいたいだなんて思っていませんよ、レンチェフ少尉」
「言うじゃねえか。じゃあ、俺も不躾な質問の詫びとして、一つ教えてやる。お前は今、死を背負うことを苦しいと言ったが……そうじゃない奴もいる。仲間の死を背負い、敵を殺すことに全てを懸ける怪物……俺みたいな奴が生まれることもあるんだ」
そう言いながら、レンチェフ少尉のグフがモノアイをある一点へと向ける。
そこにいる61式戦車の姿を捉えながら、僕は彼に答えた。
「肝に銘じておきます。ご教授、ありがとうございました」
「へっ……! どういたしまして」
「……話は終わったな。クロス・レオンハート曹長、部下の言動を代わって謝罪する」
「気にしないでください。僕も気にしていませんから」
シュマイザー少佐の通信に、マシンガンを装備しながら答える。
完全に戦闘へと意識を切り替えた僕たちの間には、ぴりぴりとした緊張感が漂っていた。
「……ブリーフィングでも話したが、この作戦は迅速さが肝となる。各自で判断しつつ、敵指揮車両の撃墜と基地防衛に尽力してもらいたい」
「了解……!」
暗い、月も見えない夜。その闇に紛れて潜む群狼の一匹となった僕は、静かに牙を剥いた。
仲間たちに迫る危機を打ち砕き、夜明けをもらたすために……狩るべき獲物を見定めた僕の耳に、シュマイザー少佐の声が響く。
「では、作戦を開始する。全員、気を抜くなよ」