ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「クロス、よく駆け付けてくれたな」
「遅れて申し訳ありません、ヨハンソン隊長」
「謝るな。お前や少佐たちが救援に来てくれなければ、我々は全滅していた。被害を抑えるために、お前は十分過ぎるほどの活躍をしてくれたよ」
ブリーフィングルームでは、ギャレット少佐とシュマイザー少佐と話をするヨハンソン隊長の姿があった。
普段の美貌を損なうほどの疲労と心労がありありと浮かんだ顔で僕に感謝してくる隊長の様子に痛々しさを感じる中、シュマイザー少佐が言う。
「我々が間に合ったのは、部下をまとめ上げて奮戦したヨハンソン大尉の力があったからこそだ。大尉も胸を張っていいと思うぞ?」
「お気持ちはありがたいのですが……素直には喜べません。部下……教え子たちを死なせてしまった私は、教官失格です」
そう言いながらブリーフィングルームを見回すヨハンソン隊長に倣って、僕もこの部屋に集まった面々の顔を見やる。
サブナック隊の仲間たちは、ほんの一週間くらい前に見た時より、明らかに数が減っていた。
ほぼ間違いなく……バクスリーと同じ運命を辿ったのだろうと考える僕の前で、各小隊の隊長たちが報告を開始する。
「ブルー小隊、隊員は全員無事です。しかし、ザクは全機ほぼ大破。これ以上の戦闘は不可能かと……」
「グリーン小隊、隊員一名死亡。自分のザクはまだ動きますが、他の隊員のザクはブルー小隊と大差ない状態です」
「ホワイト小隊、全員無事です。ですが、機体は全機大破しています。今のままでは戦闘はできません」
「パープル小隊、死者なし。ですが、グフ二機は大破、残る俺のグフもほとんど使い物になりません。ザクに至っては、スクラップ寸前です」
「……私が率いるレッド小隊が最も被害が少ないようだな。しかし、それでもザクは中破している、か……」
セシリア、オリバー、アクセル、そしてガス……各小隊の隊長を担っていたメンバーが、重々しい空気の中で報告を行う。
ヨハンソン隊長のレッド小隊も併せると、ここまでで五つの小隊が被害報告を行ったが……僕たちサブナック隊は、MS五機で編成された七小隊の部隊だったはずだ。
残る二小隊に関しては、誰も報告をしない。
……否、報告できる者が残っていないのだ。
「……ブラック小隊ですが、全滅しました。助けられず、申し訳ありません」
「同じくグレー小隊も……小隊員は、全員戦死しました」
ブラックとグレー、二つの小隊のメンバーは全滅してしまった。
グリーン小隊の死者も含めると、十一名の隊員がこの戦いで戦死したことになる。
およそ三分の一の人命と、大半のMSを失った僕たちは、その被害の大きさを認識すると共に戦争の厳しさを痛感する。
そうだ、これは戦争だ。敵を殺すだけではなく、仲間も死ぬ。もしかしたら、次に死ぬのは自分かもしれない。
そういった当たり前の恐怖を実感する僕たちへと、ヨハンソン隊長が言う。
「今回戦った連邦の部隊は、闇夜のフェンリル隊をはじめとする増援の活躍によって大打撃を受けた。しかし、いつ新手がやって来るかもわからん。心苦しいが基地を放棄し、オデッサに帰還する……シュマイザー少佐、ギャレット少佐、護衛をお願いできますか?」
「元々、ノイジー・フェアリー隊はレオンハート曹長をオデッサに送り届けることが任務でした。喜んでお供させていただきますよ」
「我々も一度オデッサに帰還し、補給を受けようと思っていたところだ。道中の警護は我々が担当しよう」
「ありがとうございます……!!」
おそらくは、単純な被害でいえば連邦軍もかなりのものを被ったのだろう。
ビッグトレーをはじめとした戦闘車両を多数と、MSもかなりの数を撃墜された。
僕が倒したMSだけでも十機近くあったし、ノイジー・フェアリー隊とフェンリル隊の撃墜数を合わせれば、こちらの被害よりも向こうの方が多いのかもしれない。
でも、ジオンと連邦の間には国力の差がある。同じ一機のMSでも、それを生み出すための力に大き過ぎる差が存在している。
この戦いは、実質痛み分けで終わった。しかし、戦争という観点で見てみれば、間違いなく僕たちの負けだ。
そのことを、誰もが理解しているのだろう。ヨハンソン隊長が少佐たちと詳しい話し合いをするために部屋を出て行っても、誰も動けずにいた。
このまま休むこともできない。しかし、何かをする気力もない。そんな空気が蔓延する中……僕は、一つ深呼吸をしてから口を開く。
「みんな……僕の話を聞いてくれ」
立ち上がり、みんなの方を振り向きながら僕は言う。
疲れ切ったみんなの表情を目にして、苦しさが胸に込み上げてきたが……この話は、今しなくてはならないことだ。
はっきりとした大声で、僕は話を続けた。
「みんなもこの戦いで連邦のMSの性能はわかったと思う。奴らにはマシンガンが効かない。今まで相手をしていた61式戦車とは何もかもが違うんだ。今まで通りの戦い方をしていたら……絶対に勝てない」
「そんなことわかってるよ……でも、どうすりゃいいってんだ……?」
「協力するんだ。もう個人プレーでどうにかなる段階は過ぎた。これからは、みんなで協力して、チームプレーで戦うんだよ」
これまで連邦の戦力を舐めていたサブナック隊のみんなも、今回の戦いで敵がどれほど強力なのか理解したはずだ。
戦車や戦闘機とはまるで違う強大な相手を前に、心が折れかかっている者もいるだろう。だが、だからといって敵は待ってくれない。
今、ここで何かを変えなければ……僕たちを待っているのは、全滅という末路だけだ。
直後に待ち受けるオデッサの戦いの過酷さを理解しているからこそ、僕はみんなに訴えかける。
「闇夜のフェンリル隊のMSを見ただろう? 彼らは僕たちと変わらないどころか、旧型のザクを使っているのに連邦のMSを圧倒した! それは綿密に練られた戦略と連携があってのことだ! 僕たちもあんなふうに戦えれば、連邦のMSにも勝てるはずさ!!」
「連携とか協力とか、そんなのできるわけないだろ……? 俺たち、ライバルなんだぞ……?」
「でもこのままじゃみんな死ぬんだ! 死んだら、エリート部隊への転属も出世も何もないだろう!? 変わるなら今しかないんだよ! ここが最後のチャンスなんだ!」
もう、この次はない。今、この時点でも間に合うかどうかわからないレベルだ。
ここから先、ジオンは一敗地に塗れる。そうなったら連携を学ぶ余裕も、そのための人員も、何もかもが失われてしまうのだ。
だからこそ、ここでみんなの意識を変える必要があった。
仮にもエースとして一目置かれている僕が話をすれば、多少なりともみんな耳を貸してくれるはずだ。
最大の鬼門であるオデッサを、犠牲を限りなくゼロに近付けて生き抜くためには……全員で協力するしかない。
ここが最後のチャンスなんだと訴える僕が必死の説得を続ける中……深いため息を吐いた後、ガスが口を開く。
「……仕方がねえ、か」
諦めたようなため息を吐きながら、ガスが立ち上がる。
忌々しそうな顔をしているが、自分が何をすべきかを理解しているであろう彼は、僕を見つめると口を開いた。
「クロス、お前はソンネン少佐やヨハンソン隊長から集団での戦い方を教えてもらってたよな? 俺にもそれを教えろ」
「ガス……!!」
「気に喰わねえが……お前の言う通りだ。のし上がるためには、色々変えなくちゃならねえ。今がその時なんだろうな」
サブナック隊の首席であり、僕と最も対立していたガスの発言は、空気を一変させた。
彼に続くように一人、また一人と僕の意見に同意し、協力して戦う方向へと意識が変化していった。
これで全ての悲劇を回避できるとは思っていない。でも、これで変えられる何かもあるはずだ。
一人でも多く、生きて帰ろう。もうこれ以上の犠牲を出さないように全力を尽くそう。
この戦いで失われた命を無駄にしないためにできることはそれだけだと思いながら……僕は、仲間たちと共に過酷なオデッサの戦いへと臨んでいく。
だけど、その前に少し話さなければならないことがある。オデッサの戦いを前に、様々な出来事があったから。
戦いは戦場だけで起きるものではない。その前段階の準備もそうだし、もっと言うならば政治的な戦いは常にどこかで起きているものだ。
戦場では肩を並べて戦う仲間も、もしかしたら別の戦いの中では敵になるかもしれない。
オデッサ作戦の中で僕は、味方の中にいる敵と戦うことになるし、敵と味方として共闘することにもなる。
そして、それ以前の準備の段階でとある人物からとても厄介で重要な任務も任されることにもなってしまった。
その人物とは、およそ一週間後のオデッサで出会うことになる。
僕ですら名前を知っているくらいに有名で、だけど詳しいことはよくわからないといった立場の人物。
次に僕が話すのは、その人物と出会い、そしてその人物の口から語られた政争の話だ。
戦場で起きてはいないこの戦いから、僕の知る宇宙世紀は大きく様変わりすることになる。
そして、僕が背負うエースとしての責務も、程なくしてさらに重さを増すことになった。
全ての始まりは……そう、とある人物に気に入られたことから始まる。
僕が思っていたよりもずっと大物の風格を漂わせる彼は、執務室でお気に入りの壺を眺めながら……激しく動く戦況を見守っていた。
次回からはオデッサ編なのですが、実際に戦うオデッサ作戦編とその前段階に色々あるオデッサ政争編の前後編スタイルでいかせていただきます。(先にオデッサ政争編です)
このオデッサ編でオリキャラたちを出した理由の一端だとか、ここまでクロスが昇進しなかった理由みたいなものを描けると思いますので、良ければ読んでいってください。
あと、イフリートくんの名前も決まります。ちなみに感想欄で正解出してる人がたくさんいて、びっくりしました。