ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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オデッサ基地司令官マ・クベ中将

「部下たちは新しい機体に慣れたか?」

 

「は、はい。あの、新型MSであるドムを三機も配備してくださってありがとうございます。他にも、サブナック隊全体のMSの修理までしていただけて、本当に助かりました」

 

「パイロットはいるが機体がなくて戦えなかった、では君たちを北米から呼んだ意味がない。戦場で私の期待に応えてくれれば、それで十分だ」

 

「はっ……!」

 

 字面だけ見ると普通に優しい上司なのだが、どうしてこう裏がある雰囲気を感じてしまうんだろうか?

 マ・クベという人間を知っているようで知らない僕は、思い切って気になったことを聞いてみることにした。

 

「司令、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ブリーフィング前に時間を取らせているのは私だ。その詫びとして聞こう。言ってみたまえ」

 

「ありがとうございます。どうして、サブナック隊にここまでしてくださるのでしょうか?」 

 

「どうして、だと……?」

 

「は、はい。同じ特別競合部隊であるマルコシアス隊と比べて、明らかに私たちが優遇されていると基地内でも噂されています。マ・クベ司令は、どうして我々にそこまでしてくださるのですか?」

 

「……なるほどな。()()なるわけだ」

 

「は……?」

 

 ちらりと、横目で僕を見たマ・クベ司令が意味深なことを呟く。

 どういう意味だと困惑する僕に向け、司令は僕のイフリートを見つめながら言った。

 

「……私はツィマッド贔屓でね。ツィマッド製のMSを使っている君を個人的に好いているんだ……と言ったら、どうする?」

 

「……ご冗談を。マルコシアス隊のシュナイド隊長も同じイフリートに乗っています。我々だけを優遇する理由にはなりません」

 

「フフフ……! 言われたことを鵜呑みにせず、考えるだけの頭もある。期待できる男だな、君は」

 

 この人でも冗談を言うこともあるんだな……と、ユーモアとは無縁そうなマ・クベ司令の言葉に僕は少し驚いていた。

 しかし、考えてみれば壺のような芸術品を愛する人なんだから、感受性は豊かなのかもしれないと彼への評価を改める中、マ・クベ司令は言う。

 

「質問に答えると言っておいて申し訳ないが、もう一つ聞かせてもらいたい。曹長は、自分の活躍についてどう思っている?」

 

「か、活躍、ですか……?」

 

 質問しているはずが質問されていることに困惑しつつ、マ・クベ司令からの問いかけの答えについて考える。

 そんな僕を一瞥した後、彼は淡々とこう語り始めた。

 

「『第603技術試験隊』の護衛という形でルウム戦役に参加後、サブナック隊に配属。地球降下作戦ではキャリフォルニア・ベースの制圧に貢献し、その戦果を認められて曹長に昇進、専用機も与えられた……ここまでは良い。問題はこの先だ」

 

 問題と言われるとなんだかとても恐ろしくなる。

 ダメな部分を指摘されるのかと思いきや、マ・クベ司令は予想外にもこんなことを言い始めた。

 

「アリゾナ砂漠では敵の行動を看破、自らの提案で出撃し『第603技術試験隊』とヒルドルブを救った。同時に鹵獲ザクを運用する部隊を撃破、続く作戦でも見事にこの部隊を退けている。G型ザクの運用データを入手できたことでJ型ザクやグフの性能は初期予想よりも格段に向上し、さらにビッグトレー、ガンキャノン、ガンダムといった連邦の兵器も鹵獲できたことで、我々のMS開発技術はさらに発展するだろう。君はこれだけの活躍をしている。なのに……どうして自分がまだ、曹長の地位に甘んじているのかと不思議に思ったことはないのか?」

 

「え……?」

 

 マ・クベ司令に褒め殺しにされたこともそうだが、続く彼の質問に僕は驚いてしまった。

 確かに不思議に思わなくもないが、僕は尉官としての勉強をしたわけではない。だから、昇進が遅れているのだろうし、そもそもそこまで地位に固執することもないので、深く考えることもなかった。

 

「……赤い彗星ことシャア・アズナブルは、ルウム戦役で五隻の戦艦と多数の戦闘機を撃墜した功績で二階級特進し、少佐となった。専用機はもちろん、専用の艦まで与えられている。今はガルマ様を戦死させた責任を問われ、左遷されているが……彼の功績すら、今の君のそれと比較すれば霞んで見えるほどだ」

 

「あ、ありがとうございます。そこまで褒めていただけて、光栄です」

 

「光栄、か……無欲な人間だな、曹長は。だからこそ、利用されているのだろう」

 

「利用……?」

 

「今、話した通り、君の戦功はあのシャア・アズナブルを凌駕している。本来ならば君の胸にはジオン十字勲章をはじめとした多くの勲章が飾られ、尉官どころか佐官に昇進していてもおかしくない。無論、特別競合部隊の当初の約束である、エースパイロット部隊への転属も果たして当然だ。そうなっていないのは……君の活躍を大々的に宣伝されては困る人間が上にいるからだ」

 

「……ギレン総帥、ですか?」

 

「怖れ知らずだな、曹長。しかし、聡い男だ」

 

 そう言うマ・クベ司令は、今までで一番の笑みを浮かべているように見えた。

 しかし、その笑顔が恐ろしく見える僕が息を飲む中、彼は平坦な声で語り続ける。

 

「ガルマ様が戦死なされたことで、これからザビ家の人間たちは対立を強めていくことになるだろう。特に、ギレン総帥とキシリア様は、お互いを強く警戒している。もしもキシリア様が蜂起し、第三陣営として戦いに参加することになったら……その時、大々的に英雄として祭り上げられている『暁の十字架』ことクロス・レオンハートという男がその傘下に入ったとしたら、それは如何ほどの影響力を持つと思う?」

 

「………」

 

「前回の作戦で共闘した闇夜のフェンリル隊も、ノイジー・フェアリー隊もキシリア様の傘下の部隊だ。恐れているのだよ、ギレン総帥は。キシリア様の影響力が強まることをな。だから君を昇進させない。キシリア様もギレン総帥のお考えを理解しているから、不用意な真似はできない。敢えて静観し、機を見計らっている……といったところだ。つまり君は、キシリア様の『今は何もするつもりはない』というギレン総帥へのアピールに利用されているのだよ」

 

「……ご説明、ありがとうございます」

 

 わかっていたことだ、ザビ家が一枚岩ではないことなんて。

 だが、その対立の中に僕もわずかではあるが巻き込まれていることを、マ・クベ司令の話を聞いて改めて自覚した。

 

 昇進という、今まで意識してこなかった部分にもこんなにも大きな政治的な思惑が働いているのかと、その事実に驚く僕に対して、マ・クベ司令は言う。

 

「だが、その膠着も流石に限界だろう。ここまでの功績を上げた兵士を曹長のままでいさせられるものか。既にヨハンソン隊長からも尉官として必要な要素についても教育されているだろう?」

 

「えっ? あっ、そういえば、そんなこともあったような……?」

 

 G型ザクを失ってから手持ち無沙汰になっている間、僕はヨハンソン隊長から様々なことを教わった。

 それが尉官になるための学習だっただなんてと驚く中、マ・クベ司令は頷きながら口を開く。

 

「多少、付け焼き刃ではあるが、十分だろう。もう間もなく、君の新しい階級章が届く。心構えをしておきたまえ、クロス・レオンハート()()

 

 二階級特進を告げたマ・クベ司令は、息を飲む僕へと改めて最初の質問に対する答えを述べていった。

 

「さて、どうして私が君たちを優遇するのか? だったな……答えは単純だ。君が、それに相応しい成果を挙げているからに他ならない。むしろここまでの戦果を挙げている君を冷遇しては、兵の士気に関わる。誰かが君の功績を認め、それに相応しい扱いをする必要があった。その誰かが、私になったというだけだ」

 

「司令……」

 

「妙な噂は気にするな。無能の僻みだと思え。普通の人間は、君の功績を認めている……まあ、ジオン軍にはその普通の人間が少ないのが面倒なところだがな。だからこそ、君には期待している。話の分かる男としてな……私の期待に応えてくれよ、レオンハート中尉」

 

「は、はいっ!!」

 

 事も無げにそう言った司令を見つめながら、僕は予想もしていなかった彼の答えに驚愕していた。

 僕が知るマ・クベという男は、もっと冷酷な人間だったような気がしていたのだが……目の前にいる彼は、とてもそうとは思えない振る舞いを見せている。

 

 合理的ではあるが、同時に人情も感じられる。そんな度量のある、中将という地位に相応しい大人物に見えた。

 

「それにしても、イフリートか……惜しいことをしたな」

 

「は……? それは、どういう……?」

 

「私の下にも届いているのだよ、カスタムをされたイフリートが。ツィマッドのMSはいいものだ、君もそう思うだろう?」

 

「え、ええ、まあ……」

 

 ……そういえば、ギャンってツィマッド製だったな。

 もしかして、さっき言ってたツィマッド贔屓って冗談じゃなかったのか? と思う中、マ・クベ司令は話を続けていく。

 

「イフリート・ナハトという機体だ。徹底的にステルスに特化した機体になっている。その分、扱いも難しく、パイロットが決められずにいてな……君がこの機体を受領していなければ、ナハトを預けても良かったのだが」

 

「ナハト……! そっ、そうだったんですね。そちらの機体もさぞ、素晴らしいMSなんでしょう……!!」

 

 有名なイフリート・ナハトの名前を聞いた僕も、ちょっと惜しい気持ちになった。

 歴史が変わってしまうことは間違いないが、僕もあの格好いい機体に乗ってみたかったなと考える中、マ・クベ司令は僕のイフリートを見つめながら口を開く。

 

「ところでだが、このイフリートには名前はないのかね?」

 

「あっ、それなんですけれども、自分も決めようと思っているのですが、なかなかいい名前が思い付かないでいて……」

 

「そうか、なら……()()()()()、というのはどうだ?」

 

 ミアとも話していたイフリートのコードネームについて、マ・クベ司令が提案してくる。

 ただ、その意味がわからずに困惑する僕に対して、司令は小さく笑みを浮かべながら説明をしてくれた。

 

「ナハト、というのはドイツ語で夜という意味だ。デメルングは同じくドイツ語で、夜明けと黄昏を意味する。黄昏の大蛇として敵から恐れられ、暁の十字架と呼ばれ味方から頼りにされる中尉に相応しい名前だと思うが」

 

「夜明けと黄昏……イフリート・デメルング……!」

 

 いい名前だと、素直に思えた。

 流石はインテリかつ美的センスに優れるマ・クベ司令だと感心した僕は、敬礼しながら彼へと言う。

 

「素晴らしい名前だと思います! では、これからはその名前で呼ばせていただきます! 流石は美術品にお詳しい司令ですね!!」

 

「フフ、私の趣味をどこで聞いた? まあ、大方噂でも流れているのだろう。地球の美術品に興味があるのなら、今度見せてやってもいいぞ。少し、話は長くなるがね」

 

 どこか上機嫌なマ・クベ司令の話を聞いた僕は、その申し出は辞退しようと決めた。

 こういう時の()()は全然少しではないのだと、そう思いながら曖昧に笑う僕の前で、遠い目をした司令は言う。

 

「……その日が来れば、の話だがな」

 

 ――僕がその意味深な言葉の意味を理解するのは、それから三日後のことだった。

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