ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「失礼、します……」
僕がマ・クベ司令に会いに行けたのは、その日の夕方のことだった。
彼から呼び出され、司令室に赴いた僕は、片付けられつつある部屋の様子を見て、小さく息を飲む。
おそらくは壺をはじめとしたもっと多くの美術品がここに飾られていたのだろう。
大切に保管されているが、空白が目立つ棚の様子を見ていると、昼間の噂は本当だったのだなと実感してしまう。
「クロス・レオンハート曹長、呼び出しに応じて参上しました。マ・クベ司令……」
「フフフ……! その呼び名は返上しなければならないようだがな」
オデッサ基地の司令という立場を失うというのに、マ・クベ司令は驚くほどに普段通りだった。
地位や周囲からどう見られているかという部分に拘る人物だと思っていたから、僕にとって彼の反応は予想外で、何を言えばいいのかわからなくなる。
「司令は、どうして……?」
どうして、僕をここに呼んだのか? 更迭されることになったのか? そこまで落ち着いていられるのか?
頭に思い浮かんだ質問は山ほどあったが、今の僕には彼に何を聞けばいいのかわからなかった。
「どうして、オデッサ基地司令という立場を失うことになったのか、かな? フフ、簡単な話だよ、曹長」
僕の頭の中に思い浮かんだ質問の中の一つを見抜いた司令は、愉快気に笑いながらそう言った。
驚く僕へと、彼は詳しく話をしていく。
「ランバ・ラル隊が木馬と戦い、敗北したことは聞いているな?」
「はい。ラル大尉はからくも生き延びたということも存じております」
「では、話は簡単だ。その生き延びた大尉の口からこんな訴えがドズル中将の耳に入った。自分の隊にドムが配備されるはずだったが、マ・クベに断られた……とな」
「……!!」
「元々、ランバ・ラル隊はガルマ様の敵討ちを命じられて地球にやって来た。ドムの配備も、ドズル中将直々の命令だったわけだ。彼が生き延びたことで、それを握り潰したことが露見してしまったのだよ」
そうだった……確かにこの人は、そういうことをやっていた。
ランバ・ラル隊が受領したザンジバルを取り上げたのもマ・クベ司令だったし、ドムの配備命令を握り潰したのもこの人だ。
そして、【ギレンの野望】シリーズでは定番の話なのだが……ここでランバ・ラル隊がドムを受領していれば、彼らはホワイトベース隊に勝利するIFルートに入れる。
今回は特にグフたちの性能が上がり、原作以上に彼らを追い詰めていたのだ。ドムがあれば、間違いなくラル大尉は勝利していただろう。
千載一遇のチャンスを逃した司令の罪は、確かに大きい。
そう思いながら、僕は彼に問いかける。
「何故、そんなことを……? 命令であるならば、それに従っていれば……!!」
「前にも話しただろう? ザビ家は今、政争の真っただ中であると……一番大きな理由はそれだな」
ドムを回さなかったのはキシリア様の命令だと、僕は理解する。
無論、表立ってこんな命令を出すわけにはいかないから、秘密裏に指示が出されたのだろう。
ザビ家の争いのせいで千載一遇の好機を逃してしまったことを無念に思う僕であったが、マ・クベ司令はこう言葉を続けた。
「しかし、理由はそれだけではない。私はこのオデッサ基地を預かる者として、正しい判断を下す必要があった」
「正しい判断……?」
「……レオンハート曹長、君に質問だ。仮に私がラル大尉にドムを渡していたとしよう。それで、何が変わった?」
「それは……きっと、ラル大尉は木馬を墜としていたと思います。それで――」
「その先は? 何か、大局に影響するか?」
……マ・クベ司令の質問に、僕はそれ以上何も言えなかった。
先にも挙げた【ギレンの野望】シリーズでは、ドムを受領したランバ・ラル隊はホワイトベース隊を撃退し、ガンダムをはじめとしたMSたちと艦を鹵獲する。
そこでホワイトベース隊関連のイベントはストップし、彼らの手で名だたるエースたちが撃墜されることを防げるというメリットはあるが……これには大前提として、そもそも
今回の件でいえば、そもそもガルマ様の敵討ちにランバ・ラル隊を派遣しなければ良かったのだ。
さらに言ってしまえば、このルートに突入したとしても、アムロ・レイをはじめとしたホワイトベース隊のメンバーは普通に連邦軍に合流する。
後の歴史を知っている者からすれば、ガンダムという兵器よりもあの悪魔の方が影響力が強いとのことだから、そっちを防げなければ意味がないという気持ちがあった。
そもそも、僕がドムを送っていればいいと思えるのは、そういうゲームでのIFルートを知っているということが大きい。
マ・クベ司令からすればドムを送れば確実に勝てるかどうかわかるわけもないのだ。
しかも今回はドムを送らずとも大きな打撃を与えられているわけで、ホワイトベース隊は本来の歴史を外れ、オデッサ作戦に参加するどころか移動もままならない状況になっている可能性が高い。
であるならば……黒い三連星を撃墜するイベントも含め、オデッサ関連のイベントは起きなくなるはずだ。
ランバ・ラル隊がある程度の打撃を与えていた時点で、そういったイベントは回避できていた……つまり、ドムを受領したルートとあまり変わらない話になっているのである。
「既にガンダムをはじめとする連邦軍のMSは君が鹵獲した。ドムを配備し、ランバ・ラル隊が木馬を墜としたとしても……その局地的な勝利に何の意味がある? そしてこれは、損害を抑えてランバ・ラル隊が勝利したという最高のパターンでの話だ。そうならない可能性も十分にあっただろう」
「だから、命令に逆らったと……?」
「手強い相手にわざわざ真っ向勝負を仕掛ける必要もなければ、こちらと連携を取るつもりのない連中に手を貸す必要もない。そもそもこれはドズル中将の私怨による命令だ。連邦の反抗作戦が予見される今、どうして貴重な戦力を回さなければならない?」
報告を受けるまで僕はランバ・ラル隊がホワイトベース隊と戦っていることを知らなかったし、マ・クベ司令も詳しくどんな状況になっているのかを教えてもらえなかったのだろう。
それに、ランバ・ラル隊はドズル中将の麾下部隊で、マ・クベ司令はキシリア様の配下だ。
軍事的に対立している双方の連携が取れなかったことは仕方がないこと……というより、ザビ家の状況を考えると当然の結果だと言わざるを得ない。
そして……続く意見にも、確かに理解できるところはあった。
勝利できるかわからない上に勝ったとしても特に意味を見出せない局地戦かつ私怨を発端とした敵討ちのために最新鋭のMSを配備するというのは、非合理的に見えるだろう。
「私は正しくないことをしたのかもしれん。しかし、間違ったことはしていないはずだ。少なくとも、三機のドムを正しく戦力となるよう配備したことは間違いない」
「三機の、ドム……? まさか……!?」
「フフ、安心したまえ。君の心にしこりを残すような真似はしないさ」
もしや僕たちが受領したあのドムたちは……という不安を、笑って否定するマ・クベ司令。
色々と気を回してくれる彼を見つめながら、僕はまた別の疑問をぶつける。
「しかし、どうして今なのです!? 連邦軍が一大反抗作戦を計画しているのは間違いありません! その実行直前で頭をすげ替えるだなんて、これではオデッサは陥落してもいいと言っているようなものじゃありませんか!!」
「……その通りだな。残念ながら、ギレン総帥たちには前線の兵のことが見えていないようだ。何より、これもまた政争の結果というやつなのだよ」