ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
先日も話を聞いた、ザビ家の派閥争い。上層部の政争がここにも影響しているとマ・クベ司令は言った。
黙って視線を向ける僕へと、司令は話を続けていく。
「この話をする前に、前提を二つ付け加えておこう。私に代わってこのオデッサの司令になるのは、ジャブローで指揮を執っているガルシア・ロメオ少将だ」
「が、ガル……っ!?」
その名前は、ある意味一番聞きたくないものだった。
以前、ノイジー・フェアリー隊の下を訪れたセクハラ少将ことガルシア・ロメオ……あんなのがマ・クベ司令に代わってここの指揮を執ることになったら、オデッサの戦いは絶望どころの話ではない。
そもそも、マ・クベ司令でもオデッサの戦いに勝てなかったのに、あんな無能を頭に置いたら敗北を通り越した大惨敗しか見えてこないと唖然とする僕に対して、マ・クベ司令は二つ目の前提を述べる。
「二つ目は、私はこのオデッサから大量の鉱物資源をジオンに送り届けた。既にこのオデッサには大した量の資源は残っておらず、ジオンはあと十年は戦えるだけの資源を得ている。あくまで鉱物資源のみの話だがな」
多少変わってはいるが、【ガンダム】本編でも彼が言っていた名台詞を口にするマ・クベ司令。
その二つの情報を前提として理解した上で、ザビ家の政争とでもいうべき話を聞いていく。
「私の更迭には、ザビ家のトップとでもいうべきお三方の思惑が絡み合っている。とは言っても、大半はギレン総帥とキシリア様の思惑だがね。ドズル中将は何も考えていない……というより、ガルマ様の敵討ちとそれを邪魔した私への怒りで頭がいっぱいになっている。元々、私はあの方からは嫌われていてね……それもあって、ラル大尉から話を聞いた中将は、我慢がならなくなったのだろう」
割と短絡的というか、ザビ家の派閥争いを考えずにランバ・ラル隊を地球に送ったドズル中将の反応は、僕にだって想像できる。
マ・クベ司令が言ったように怒り狂い、シャア・アズナブルを左遷した時のように司令に何らかの処罰を与えるようにギレン総帥に進言したのだろう。
しかし、ギレン総帥も馬鹿ではない。このタイミングで重要拠点であるオデッサの指揮官を変えるということが何を意味するかくらいわかっているはずだ。
ならばどうしてドズル中将の進言をそのまま実行してしまったのかと疑問に思う僕へと、マ・クベ司令が言う。
「前に話したはずだ、ギレン総帥はキシリア様の影響力が増大することを恐れていると……キシリア様の強みは数多くの特殊部隊とそこに所属するエースパイロットたちを擁しているということと、このオデッサから手に入る大量の鉱物資源だ」
「キシリア様の配下であるマ・クベ司令を引きずり下ろせば、その影響力を削げるとギレン総帥は考えたということですか?」
「三分の一程度の正解だな。もはや、ギレン総帥にとってオデッサなどどうでもいいのだろう。鉱物資源を吸い尽くされた土地になど、戦略的価値はないとお考えなのだろうな。ここで敗北しようとも、ジャブローを落としてしまえばジオンの勝利になる……そういうお考えだ」
そんなはずはない。ここで連邦に反撃の狼煙を上げることを許してしまったばかりに、ジオンの不利は決定的なものになっていく。
地上に残る兵たちの苦難を想像しないギレン総帥の判断に怒りすら覚えながらも、僕は感情を必死に押し殺しながらマ・クベ司令へと聞いた。
「では、キシリア様は……? ギレン総帥の思惑を阻止するために動いてもおかしくないのではありませんか?」
「あの方も自分の利を考え、動かないでいる。敗色濃厚なオデッサの戦いの責任はガルシア・ロメオを司令に据えた兄に押し付けられる上に、私も宇宙に脱出できる……自分にとって有能な部下が生き延び、少なからずギレン総帥を糾弾できる材料を手に入れられるのだ。無理に対立することもしないだろう」
マ・クベ司令の話を聞きながら思い出したが、キシリア様もそういう性格のお人だった。
あの有名なMA『アッザム』が初登場した回でまだ兵士たちが残る基地をマ・クベ司令の制止を無視して爆破するよう命じたのも、キシリア様だ。
鉱物資源という部分では、既に十分過ぎる量のものが宇宙に送られている。
政争という面でも、相手の影響力を削れる材料が手に入る上に自分たちにとって利益になる部分もある。
ただしそれはオデッサで戦う兵士たちのことをまるで考えていない判断だと……そう考える僕の前で、マ・クベ司令は言った。
「現場主義であるはずのドズル中将ですらこの有様だ。悲しいかな、上層部というのは往々にして下々で働く者たちの姿が見えなくなるものなのだよ」
「しかし……それでも、オデッサは重要拠点であるはずです! ここを失えば、北米での苦戦も相まって、ジオンの勢いは完全に死んでしまいます! ギレン総帥ならば、そのくらいのことはご理解いただけてるはずです!」
「……そうだな。その通りだ。私は十年ジオンは戦えると言ったが、あくまでそれは鉱物資源の話……兵士たち、人的資源を度外視した発言だ。オデッサを失うことは、多くの将兵を失うということ。ギレン総帥はそれを理解できていないとは思えない。であるならば……どうして総帥は、こんな真似をしていると思う?」
……そこまで政争が重要なのだろうか? キシリア様やドズル様の影響力を強めないことが、オデッサを失うことよりも大事だということなのか?
そうとは思えない。あのギレン・ザビがそこまでの愚行を犯すわけがない。
何かがある……マ・クベ司令の言葉も相まって、僕はそう思った。
この命令の裏には、僕などが想像もできないような何かが隠れていると、そのことを直感的に理解した僕へと、小さく微笑みを浮かべた司令が言う。
「……クロス・レオンハート曹長。一つ、聞かせてくれ」
「は……?」
このタイミングで何を聞くのか? そう思いながら僕はマ・クベ司令を見やる。
僕を真っすぐに見つめる彼は、静かな声と口調で……こう尋ねてきた。
「君は、