ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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ジオンの明日と依頼料

「え……?」

 

 らしくない質問だと思った。

 マ・クベ司令の言うことにしては抽象的過ぎるし、ロマンティックが過ぎる。

 だが、その質問を投げかけてきた彼の表情は真剣そのもので、とても深い意味があることが見て取れた。

 

(地球を愛しているか、か……)

 

 頭の中で、その答えを探る。

 この地球は僕がかつて住んでいた星ではない。今の僕……クロス・レオンハートの故郷は、宇宙にあるスペースコロニーだ。

 

 しかし、僕の中にある前世の記憶は、この星のことを懐かしいと思っている。

 そう簡単にこの気持ちは消せるものではないと思いながら……僕は、わざと回りくどい言い方で答えた。

 

「……地球は母だと、よく呼ばれることがあります。僕たち子は、いつか母の下を離れて独り立ちする日が来る。ですが……離れていたとしても、母への愛はその魂に深く刻み込まれているものではないでしょうか?」

 

「フフ、なるほどな……いい答えを聞かせてもらった。君になら、()()()()()

 

 ぼそりと呟くように言ったマ・クベ司令が、机の中から書類を取り出す。

 それを僕へと差し出しながら、彼は続けた。

 

「妙な質問に答えてくれた礼も兼ねて、これを見てほしい。私が上に提案している、とある計画についての企画書だ」

 

「これは……!?」

 

 『統合整備計画』……その書類には、そう書かれていた。

 ジオンのこれからを大きく左右するその書類の内容を確認すべく、僕はページをめくっていく。

 

「拡大する戦線、日々変わる戦況、それらに対応すべく、大量の兵器を生み出したまでは良かったが……その生産ラインは今や、現場の混乱を招く一端となっている」

 

「わかります。MSの種類も多く、手持ち武器の弾丸にすら互換性がない現状は、かなり問題があると思っていますから」

 

「フフ、慧眼だな。私も開戦初期から提案してはいたのだが、なかなか意見が通らずにいた。しかし、君の活躍のおかげでその状況に風穴を開けられそうだ」

 

 あまりにも多岐に渡り過ぎているMSのパーツや武器弾薬の種類を共通規格にまとめる。

 これにより、生産性や整備性を高めるだけでなく、様々な現場でMSの運用ができるようにし、操縦系統も共通にすることで機体の習熟訓練も短期間で済ませられるようにすることを目的とした大規模な計画、『統合整備計画』。

 

 この計画の提案者がマ・クベ司令であったことは、初めて知ったかもしれない。

 驚く僕の前で、彼は話を続ける。

 

「君が連邦のMSを多数鹵獲してくれたおかげで、我々にもその技術が手に入った。新技術を採用するにあたって、大きな変革が必要なのは明らかだ。その最中にこの統合整備計画を実行できれば……ジオンは新たな生産体制の下、さらに性能を向上させたMSを運用できるようになる。絶好の機会を作ってくれたのは君だよ、クロス・レオンハート曹長」

 

「光栄です、マ・クベ司令」

 

「フフ……! これも天の導きと考えよう。オデッサ司令の座は降りることになるが、宇宙でこの計画を通すことが次の私の戦いだ」

 

 そう言ったマ・クベ司令が僕へと近付いてくる。

 どこか愉快気な笑みを浮かべる彼は、その手に握った何かを僕へと差し出してきた。

 

「長話に付き合わせて悪かったな。そろそろ、すべきことを成す時だ。昇進おめでとう、クロス・レオンハート中尉」

 

「……ありがとうございます」

 

 その手に握られていた階級章を受け取り、敬礼の姿勢を取る。

 マ・クベ司令はそんな僕を見つめながら、また別の何かを差し出してきた。

 

「それと……これも受け取ってくれ」

 

「これは……?」

 

「個人的な贈り物さ。君への投資であり、依頼料でもある」

 

「は……?」

 

 渡されたのは、何かの記念硬貨のようなものだった。

 金色に輝くそれは高価そうでもあるが、それよりも依頼料という発言が気になる。

 

 僕はいったい、何を頼まれようとしているのか……? と考える中、マ・クベ司令は言った。

 

「詳しく何かを言うつもりはない。ただ、先の質問の答えが真だというのならば、君は君の良心に従って行動してくれ。私の頼みは、それだけだ」

 

「良心に、ですか?」

 

「ああ、そうだとも。それだけでいい……だが、この言葉の意味を理解した時、君はきっと私を恨むだろうな」

 

 ニヤリと、マ・クベ司令が笑う。

 彼がそこまで言うということは、相当に厄介な頼み事をされたということなのだろう。

 

 そのことに恐ろしさを感じる僕の肩を叩いた司令は、小さな声で言った。

 

「……信頼に足りる整備兵たちに声をかけてある。彼ら以外の者に君やサブナック隊のMSを触らせるな。真に恐ろしい敵は、身内にいる可能性もあるのだからな」

 

「はっ……!」

 

 ガルシア・ロメオ少将が来るということは、あの男もここに来るのだろう。

 ギベオン・グレイス……僕に強烈な憎悪を向けてきたあの男が、何か妨害工作をしてくる可能性は十分にある。

 

 そこまで見抜いているのかはわからないが、マ・クベ司令は自分ができる最大限のことをした上で僕に何かを託してくれたようだ。

 そのことに感謝する僕へと、彼は言う。

 

「死ぬなよ、中尉。君には私と共に明日のジオンを背負って立ってもらわなければ困るからな」

 

 ……それが、地球で交わしたマ・クベ司令との最後の会話になった。

 ほどなくして彼は宇宙へ上がり、代わりのオデッサ司令としてガルシア・ロメオ少将が着任する。

 

 予想通り、その傍らにはあのギベオン・グレイスと……美青年と美少女たちで構成された、冷たい雰囲気を放つ部隊の姿があった。

 ロメオ少将はマ・クベ司令への対抗意識からか、部隊の布陣を大きく変え、それがまた混乱を招く結果へとつながる。

 

 唯一、謎に薄かった左翼の陣形が厚くなったことだけは良かったという声が上がっていたが……それ以外は全てが悪化したという声が大半だった。

 

 何故、ギレン総帥はこんな無能を重要拠点であるオデッサの司令に置いたのか? マ・クベ司令は何を見据え、僕に頼み事をしたのか? その答えは、未だにわかっていない。

 答えを探る余裕も、時間もなく……戦いはやって来る。

 

 鉛の弾と、多くの死と、本当の意味での戦い。

 オデッサの激戦が、始まろうとしていた。

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