ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
その命令に返事をする前に、ガンタンクの砲撃が飛んできた。
攻撃を回避し、こちらを一方的に撃ってくる敵を潰すべく、僕はイフリートを駆る。
(ここまできたんだ、死んで堪るか! 死なせて堪るか!!)
自分も仲間たちも無事に生きて宇宙に上がる……その決意を改めて抱えながら、僕はビームサーベルを振るい、目の前のガンタンクを斬り捨てた。
仲間をやられて反撃に出た陸戦型ジムのサーベルを受け止めれば、その背後からヴィンセントがマシンガンを撃ち、援護してくれる。
「クロス、あまり突出するなよ!」
「わかってる! だけど、ガンタンクを潰さないと狙い撃たれるだけだ!!」
まずは砲撃を行う射撃機を潰さないとこちらが一方的に攻撃され続けることになる。
【08小隊】の最終局面というわけではないが、誰かが多少の無茶をして、ガンタンクを撃破しなければ戦いにすらならない。
そう考えたのは、僕だけではなかったようだ。
ヨハンソン隊長のドムとシュナイド大尉のイフリートが前に出て、ガンタンク部隊を次々と撃破していく様が目に映った。
「お前たち、あまり無茶はするな! 今回はザンジバルの出航まで耐えればいい! 敵の真っただ中に突っ込む役目は、俺たちが担う!!」
「敵を宇宙港に近付けないように戦え! 脱出まで生き延びれば、私たちの勝ちだ!!」
大型のヒートホークを振るうシュナイド大尉と、ジャイアント・バズで敵を撃破していくヨハンソン隊長の声が響く。
機動力で敵陣を掻きまわしてくれる二人に感謝しつつ、同時に教え子であり、部下でもある僕たちを守ろうとしてくれる彼らの気持ちを感じ取った僕は、迫る敵を接近戦で迎撃していった。
「ガンタンクは隊長たちがどうにかしてくれている! こちらに迫る敵だけを迎撃するんだ!!」
仲間たちに指示を出しつつ、61式戦車をマシンガンで破壊する。
徐々に増える敵を迎撃する僕たちは、まるでタワーディフェンスゲームのユニットみたいだ。
「クソっ! クソっ!! あと少しなんだ! あと少しで宇宙に帰れるんだ!! 死にたくない! 死にたくない!!」
「来ないでくれ! もう帰らせてくれよ!!」
通信機からは、誰かの泣き言とヤケクソのような声が聞こえていた。
誰もが限界で、心が壊れそうになっているところをギリギリで踏ん張っているのだと、その声を聞いて思う。
ギーたちがエリート部隊への転属や昇進を強く願っていたのも、もしかしたら目の前の不安を掻き消すために何かに縋りたかったのかもしれない。
今は絶望的な状況でも、進み続ければ明るい未来が自分を待ってくれていると……そう思わないとやっていられない状況に僕たちがいるのは確かだ。
(でも、だからこそ――!!)
その絶望を乗り越えるために、道を切り開かなくてはいけない。
勝利にみんなを導くことはできずとも、生きる道を開くことはできるはずだと思いながらバズーカを放った僕は、何機目かわからない陸戦型ジムを撃破すると共に息を吐いた。
「想像以上に敵の士気が高い……! MSの性能もあるけど、ここまで押し込まれたのはこれが原因か……!!」
「これまで俺たちに良いようにやられ続けてた連邦が、ようやく反撃に出れたんだ。士気も高くなるだろう」
ヴィンセントの呟きに、アクセルが反応する。
ここでこちらの戦力を潰し、脱出を阻止することが後の戦いに影響することを理解していることもそうだが、連邦軍の士気の高さは勝利を目前とした状況とこれまでの恨みを爆発させていることも大きい。
逆に僕たちは士気を低下させ、危ういところで踏み止まっている。
これが戦局が逆転した要因なのだろうと、アクセルの言葉を受けながら建物の陰に隠れて敵の様子を確認する僕へと、リリアが声をかけてきた。
「マズいよ、クロス。どんどん押し込まれてる。このままじゃ、突破されるのも時間の問題だよ」
「わかってる。物量差も士気の差も、圧倒的なんだ……!」
みんな、最後の力を振り絞って奮戦している。それでも敵の攻撃を跳ね除けるには至らないのだ。
ガンタンク部隊は一旦全滅させられたが、それでもすぐに後続の部隊がやって来るだろう。どれだけ敵を撃破しても、すぐに次の敵が襲ってくるのだから堪ったものではない。
(マシンガンの弾は余裕があるけど、バズーカは残り少ない。射撃戦が難しくなったら、ショットガンに持ち替えて接近戦を挑むか……?)
気が付けば、ルナ・チタニウム製の装甲に有効な打撃を与えられるバズーカの残弾が少なくなっていた。
マシンガンでは牽制程度にしかならないと考えた僕は、遮蔽物の陰から飛び出して接近戦を挑むことを視野に入れながらこの先の動きを考えていく。
僕と同じように、みんなも手持ちの武装に余裕がなくなっているはずだ。
ここからはリスクを背負わないとどうしようもないと……そう、僕が危険を承知で敵陣に切り込もうとした、その時だった。
「っっ……!? 何、この音!?」
突如として地面を揺らすような大きな音が響く。
すぐ近くにいたリリアの声に反応しながらその音の出所に視線を向けた僕は、防衛目標である打ち上げ施設から勢いよく飛び立っていくザンジバルの姿を見て、言葉を失った。
「へ? おい! ザンジバルが!」
「まさかっ!?」
「ふざけんな! 俺たちを置いていく気か!?」
僕と同様に飛び立っていくザンジバルを目にした仲間たちの驚きの声が響く。
誰もが……僕たちだけでなく連邦軍の兵士たちもがその光景に動きを止める中、完全に見えなくなったザンジバルの飛び去った方向を見ながら、ヴィンセントが呆然とした声で呟いた。
「行ってしまった……」
その声が、今しがた自分たちが目にした光景が、ギリギリで保っていた心の均衡を崩すきっかけになってしまったのだろう。
仲間たちの焦りと恐怖がありありと浮かんだ声が、次々に通信機から響いてくる。
「最悪だ……最悪だ!!」
「ロメオの奴、俺たちを見捨てたんだ! 俺たちを見殺しにするつもりなんだ!!」
「闇夜のフェンリル隊と黒い三連星はどうなった!? まさか、もうやられたのか!?」
「嫌だ、死にたくない! 死にたくな――うわああああっ!!」
「リトナーっっ!!」
不用意に飛び出し、逃げ出そうとしたマルコシアス隊のザクが撃ち抜かれた。
ここまで来て、最悪の裏切りに遭って絶望の最中に命を落とした彼の心境を思い、悔しさに唇を噛み締める僕であったが、下手をすれば次に自分がああなってもおかしくはない。
「どうしよう、クロス……!? ここからどうすれば……!?」
「落ち着くんだ、リリア。焦ったら死ぬ。まずは冷静になるんだ」
パニックになりかけるリリアを落ち着かせながら、敵の陣形を見やる。
包囲網の中で突破が容易に見える場所を血眼になって探す中、隊長たちが指示を出してきた。
「全員、落ち着け! パニックになるな!!」
「我々は生き残らなければならん。なんとしてでも、目の前の敵を突破するぞ!」
隊長たちからの指示を受けて、仲間たちも多少は動揺が落ち着いたようだ。
そうだ、僕たちは生き延びなければならない。味方の裏切りに遭って、こんなところで死んで堪るか。
……僕が、そう思った時だった。その声が聞こえてきたのは。
「あ、あ~……オデッサで戦う勇敢なジオンの将兵諸君! 私の声が聞こえているだろうか!?」
「この声は……ロメオか!?」
突如として、通信機から聞こえてきたロメオ少将の声に驚き、目を見開いた僕はこの事態に再び動揺してしまった。
ザンジバルから通信しているのか、はたまた脱出前に基地に残した音声データが僕たちの下に届いているのかはわからないが、これは間違いなくロメオ少将の声だ。
「こいつ! 俺たちを見捨てておいて、何を言ってやがる!!」
「絶対に許さねえ……! 許さねえぞ!!」
血の気の多いガスとギーはロメオ少将に対して、怒りを爆発させていた。
彼らの怒号が響く中、そんなことを知る由もない少将が話を続けていく。
「残念ながら、このオデッサの戦いは我々の敗北ということになりそうだ。しかし、既に鉱物資源は取り尽くしている! 連邦軍は大量の軍勢を投入し、労力を費やして、何の価値もない拠点を手に入れたということだ! その愚かさを笑ってやろうではないか! ガハハハハハハッ!!」
「今、俺たちが笑える状況にいるとでも思ってるのかよ!? このアホが!!」
「尤も、諸君らが私の指令を忠実に実行してさえいれば、連邦軍に大きな打撃を与え、オデッサからも撤退させられていただろう。そうならなかったのは残念ではあるが……もうこれは言っても仕方がないことだ。水に流そう」
最後まで自分が悪いとは微塵も思っていないロメオ少将は、本当にどうしようもない人間だった。
今も戦い続ける兵たちを見捨てて自分だけ脱出した時点で士気は底を抜けて低下しているのに、そこから詰りの言葉まで残してくれるだなんて、「実は連邦軍のスパイでした」と言ってもらえた方がありがたいと思えるレベルの愚行でしかない。
しかし……僕はこの後に続く話を聞き、彼の本当の愚行を知ることになる。
「既に総大将である私は戦域を脱出している! これは撤退ではない! 未来への進軍だ! その証拠に、既に連邦に大打撃を与える秘策も発動してある!」
「大打撃を与える秘策だって……?」
猛烈に嫌な予感がした。【ガンダムSEED】であったような、味方の軍勢を犠牲にしての自爆作戦を実行するくらいの嫌な大胆さがロメオ少将にあると知っていたからだ。
だが、僕のその予想は悪い意味で裏切られることになる。
「脱出の直前、私はこのオデッサのミサイル基地から
「……は?」
一瞬、僕は彼の言葉の意味を理解できなかった。
今、ロメオ少将は何を言った? 大陸間弾道ミサイルを地球の主要都市に向けて発射すると、そう言ったのか?
僕の知識が間違っていなければ……それは核兵器を使用するという宣言に他ならない。
地球の各地に核ミサイルを発射すると、この男はそう言っているのだ。
「この命令には私の右腕とも呼べる部下が多大なる戦果を挙げた部隊と共に従事している! 作戦成功はほぼ間違いないが、諸君らの力も貸してもらいたい!」
「何を、言っている……? いったい、何を……?」
「この作戦が成功すれば、コロニー落としほどではないが地球連邦軍に多大なる損害を与えられるだろう! これが我々の怒りだと、ジオンの強さと恐ろしさを全世界に知らしめることができる!!」
「お前は、何を……っ!?」
この作戦を得意気に語るロメオ少将は、自分が何を言っているのかを理解しているのだろうか?
これは大量虐殺宣言だ。しかも、自分たちが結んだ南極条約を反故にするという最低最悪の行為を嬉々として語っているのだ。
そんなことをすれば、戦いに関係ない人々が大勢死ぬ。連邦の国力は低下するだろうが、同時に恨みは強まり、こちらが南極条約を破ったことでルール無用の戦いが幕を開けてしまう。
核戦争が地球の内外で行われれば、本来の歴史以上の犠牲者が出ることになるだろう。
地球は核で汚染され、ジオンも連邦も手段を選ばない作戦を実行し、より壮絶な戦いが繰り広げられていく。
自分が大量虐殺を宣言していることを、地獄のような戦いの幕を開けようとしていることを、ロメオ少将は理解しているのだろうか?
……しているはずがない。目の前の戦況を正しく理解できない男が、大局を見れるはずがない。
(この、男は……! こいつは……っ!!)
目の前が怒りで真っ赤に染まる。血が沸騰するような感覚を、僕は生まれて初めて感じていた。
激憤に駆られる僕が歯を食いしばる中……ロメオ少将が、得意気な言葉で演説を締める。
「諸君らの犠牲は無駄ではない! 我々の怒りを、共に連邦の愚か者共に叩きつけようではないか! 全てはジオンのために! ジーーーーク! ジオンッ!!」
「お前は何を言っているんだっ!!」