ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
状況をまるで理解していないロメオ少将の言葉に、僕はそう叫ばざるを得なかった。
自分が絶滅戦争の引き金を引こうとしていることすらわかっていないであろう彼の言葉が途切れた後、コックピットの中には僕の荒い呼吸音だけが響いている。
「……俺たちは、捨て駒にされたのか? ミサイル発射までの時間を稼ぐための……」
「ふざけんな! そんなのまっぴらごめんだ! そんな命令は出てないし、仮に出てたとしても死ぬ未来しかない命令に従うかよ!」
ヴィンセントとギーの会話を聞きながら、僕はロメオ少将の考えを想像してみた。
多分彼は、今の命令で敗北寸前だったオデッサの兵たちが奮起すると思っていたのだろう。
一矢報いるどころか敵に大打撃を与えられると、自分たちが戦い続ける意味はあると……兵たちが死を恐れずに戦うようになると、そう思い込んでいた。
だが、そうなるわけがない。だって、指揮官である彼が真っ先に脱出しているのだから。
上の人間が死を恐れずに戦うからこそ、部下も同じように奮起し、命を捨てる覚悟を決められるのだ。
しかも尊敬できる上官からの命令ならまだしも、あのロメオ少将からの命令なんて、そんなの微塵も士気が上がるわけがない。
この瞬間……オデッサの戦いでのジオンの完全なる敗北が決まった。
指揮官は真っ先に脱出し、士気は完全に低下。ギーが言うように、ミサイル発射まで、命を捨てて時間稼ぎをしようと考える兵など、一握りも存在していないだろう。
(強いて挙げるならば、ギベオン・グレイズくらいか……? でも、何故だ? あいつがどうして、こんな無茶な役目を……?)
ロメオ少将は、自身の右腕である部下がミサイル発射作戦に従事していると言っていた。
おそらくそれはギベオンのことで、奴の手下であるグール隊も参加しているのだろう。
だが……どうして、あのギベオン・グレイズがこんな馬鹿げた作戦に参加しているのだろうか?
脱出ルートは確保されているのだろうが、死のリスクが高過ぎるこの作戦に参加する理由はなんだ?
指揮官となったロメオ少将からの強い命令に逆らえなかったのだろうか? いや、ギベオンはそんな男ではないはずだ。
……と、考えたところで、僕はハッと息を飲むと、
「
……マ・クベ司令の問いかけの意味が、ようやく理解できた。彼はこうなることがわかっていたのだろう。
ほぼ間違いなく、マ・クベ司令はギレン総帥からの核ミサイル発射命令を突っぱね続けてきた。
しかし、上の命令に忠実なガルシア・ロメオ少将が自分に代わってオデッサの指揮を執ることになれば、彼が総帥の命令に逆らわずにミサイルを発射することは間違いない。
先に述べた通り、南極条約を破った核兵器の使用は、この後の戦争をルール無用の殺戮戦線に変えてしまう禁断の一手だ。
誰かが核ミサイルの発射を食い止めなければ……地球は汚染され、ジオンや連邦の将兵だけでなく、多くの民間人も犠牲になる戦いの幕が上がってしまうだろう。
(司令……これがあなたの
君は君の良心に従え……マ・クベ司令はそう言っていた。
その命令に従うならば、僕がすべきことは一つだ。
「クロス、聞こえるか!? 指揮官が脱出した以上、我々の防衛任務は達成したと私が判断した! サブナック隊はマルコシアス隊と連携し、オデッサから脱出する! ポイントD27で合流するぞ!」
「……隊長、申し訳ありません。自分には、すべきことがあります。自分を置いて、みんなと脱出してください」
「……!!」
僕の言葉に、ヨハンソン隊長が息を飲んだことがわかった。
彼女はすぐに僕の言葉の意味を理解すると共に、確認のための質問を投げかけてくる。
「……マ・クベ中将からの指令か?」
「はい」
短い会話だったが、それだけで隊長は全てを察してくれたようだ。
小さく息を吐いた彼女は、しばし考えこんだ後で僕へと言う。
「……合流ポイントをF91に変更する。中将からの指令が達成できようとできまいと、自分の役目を果たしたと判断したらすぐにお前も我々と合流しろ」
「ありがとうございます、隊長」
「……死ぬなよ、クロス」
その言葉に、イフリートの首を縦に振って応える。
そうした後で周囲を確認した僕は、包囲網を敷いているジムたちが少しずつ後退している様を目にして、彼らもまた核ミサイルの発射を察知したことを理解した。
彼らもこの状況に際して、今、自分が何をすべきかを迷っているのだろう。
そのおかげで包囲網に隙ができている。彼らには悪いが、そこを突かせてもらおう。
「行こうか、デメルング……!」
マ・クベ司令から与えられた名前を呟きながら、僕は愛機を駆る。
目指すはミサイルの発射基地。世界を、戦争を、多くの人々の運命を変えてしまう悪夢を生み出そうとしている場所。
この地球に、僕たちの未来を夜の闇に閉ざさせはしない。
そう強く思いながら、僕はひたすらにMSを走らせていった。