ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
(急げ! 何が何でも、ミサイルの発射を止めるんだ!!)
ミサイル発射基地はオデッサの重要施設の一つ。僕たちが防衛していた宇宙船の打ち上げ施設からそう離れていない位置にある。
イフリートの機動力なら、到着まで時間はかからないはずだ。
どれだけの数が用意されているかはわからないが、一発でもミサイルが発射されてしまったら取り返しがつかなくなってしまう。
実際のオデッサ作戦でアムロがやっていたようなミサイルの信管を斬るような神業などできるはずがないのだから、発射自体を止めなくてはだめだ。
(連邦軍が発射基地を制圧してくれれば可能性はある。問題は、その防衛戦力だけど……)
ロメオ少将の話を振り返れば、この馬鹿げた作戦において最も重要な要素であるミサイル発射基地の防衛に誰が当たっているかなんて簡単に予想できる。
間違いなく、あの男が指揮を執っていると……そう確信する僕の耳に、聞き覚えのある声が響いた。
「あはははははっ! 死ねっ! 死んじゃえよっ!!」
「グール隊!! クローディオだな!」
少し前、黒い三連星たちとの合同作戦の際に聞いた、不快感がこみ上げてくる声。
アッザム改のパイロットであったグール隊のクローディオの声を通信機越しに聞いた僕がイフリートを走らせれば、連邦軍の部隊と戦う彼の姿が目に映る。
戦っていたのはクローディオだけでなく、グフやドムといったMSを駆る他のグール隊のメンバーも同じだったようだ。
その中に、特異なMSがあることに気付いた僕は、その機体をじっと見つめる。
トサカと指揮官機を示す鋭利な角が特徴的な長めの頭部。ザクよりも大き目なボディをしているそのMSは、ジオンの傑作機『ゲルググ』だ。
通常のカラーリングではなく、白を基調にどこか血を思わせる暗い赤色がペインティングされているその機体のパイロットは、おそらく
「あははははっ! 甘いんだよっ! 真下に潜り込めば攻撃できないとでも思ったのか!? ん……?」
そう考える僕の前で、クローディオが操るアッザム改が真下の陸戦型ジムへとリーダーを打ち出し、電撃の牢獄へと閉じ込めてみせた。
サディスティックな叫びをあげた後、何かに気付いたクローディオの声を耳にした僕は……同時に殺気を感じ、回避運動を取る。
アッザムが放ったメガ粒子砲が僕がいた地点に飛んできたのは、その直後のことだった。
通信機から響いた舌打ちの音を確かに耳にしながら、僕は相手へと言う。
「攻撃を止めろ! こちらはサブナック隊のクロス・レオンハートだ! 繰り返す、攻撃を止めろ!!」
「ふふっ……!!」
お前が狙っているのは味方だと、そう訴えかける僕であったが、クローディオは不敵に笑うだけで攻撃を中断する様子はない。
彼はわかった上で僕を狙っているのだろうと、そう理解した僕はイフリートを駆りながらマシンガンを構える。
この距離では装甲を強化したアッザム改にダメージを与えられないことはわかっていた。僕が狙っているのは別のものだ。
ばらまくようにしてマシンガンを斉射した僕は、アッザムの真下で電撃地獄を味わっているジムを救出すべく、牢獄を作り出していたリーダーを破壊する。
「ちっ……! こいつ……!!」
ザクよりも高性能な陸戦型ジムは、多少のダメージは受けていたものの動くこと自体に問題はなさそうだ。
ややぎこちないながらも武器であるマシンガンを上に構え、お返しとばかりにアッザムを攻撃し始めたジムによって、クローディオは僕への攻撃を一時中断せざるを得なくなる。
その間にグール隊と白と紅のゲルググに接近した僕は、大声で彼らに向かって叫んだ。
「ギベオン・グレイズ! 聞こえているか!?」
「ふっ……! あまり大声で叫ぶな、頭に響く」
気取っているような、粘着質な男の声が通信機から聞こえてくる。
ゲルググの前に立った僕は、警戒を強めながらそのパイロットであるギベオンに向けて言った。
「お前は、自分が何をしているのかわかっているのか!? 世界各地に核ミサイルを発射するだなんて馬鹿な真似は止せ!!」
「ははっ! 何を言うかと思えば……地球に住む蛆虫がどれだけ死んだところで、痛くも痒くもないだろうに。敵の国力を大幅に削れるこの作戦は、実に理に適っているではないか!!」
「ふざけるな! ここで核を解禁すれば、連邦軍だってジオンに向けて核を使い始めるんだぞ!? 待っているのは血で血を洗う地獄のような戦争だ!! 兵士だけじゃなく、民間人もその脅威に晒される! この作戦がきっかけで、数え切れないほどの犠牲が出ることになるんだぞ!!」
「ふっ、はははははは……っ! やはり貴様は愚かな紛い物だ。わからないのか? それこそが、ギレン閣下の目的だということが……!!」
「なんだと……?」
意味深なギベオンの言葉を聞いた僕が困惑したのと、感じ取った殺気に反応したのはほぼ同時だった。
抜かれたビームナギナタを受け止めるようにサーベルを振るい、鍔迫り合いを繰り広げながら、僕はギベオンとぶつかり合う。
「増え過ぎたんだよ、人間は!! この地球に収まり切らないほどに増えた愚民など、消し去ってしまえばいい!! 未来を作り上げるのは真に選ばれし者だけだ! この戦争は、生きるべきエリートと死ぬべき愚民をふるいにかけるためのものなんだよ!! だから激しくなればなるほどいい! 凄惨な戦いを生き抜いた者にこそ、未来を生きる権利が与えられるべきだ!」
「世迷言を!! ギベオン・グレイズ! お前に大勢の人々の未来を左右する権利があるものか!!」
「それがあるのだよ! 私は未来を築き上げるべきエリートだ! だから私はここにいる! そして、お前は死ぬべき愚民なんだよ! クロス・レオンハートォ!!」
鍔迫り合いの最中、僕とギベオンが相手への憎しみを込めて叫び合う。
プレッシャーを感じた僕たちがお互いに離れるようにバックステップを踏めば、その間にアッザムのメガ粒子砲が飛んできた。
「クローディオ! 何をしている、この愚か者が!!」
「ご、ごめんなさい……! あいつを、あの橙色を殺そうとしただけなんです……! 殺していいんでしょ? こいつのことは気に入らなかったんだ。殺してやりたいと思ってたんだ!!」
狂ってる……ギベオンもこいつらも、狂い果てている。
共感性を取り除いた人間だということは聞いていた。どこまでも自己中心的に動く人間だということもわかっていた。
だが、そのレベルは僕が想像していたものを大きく超えている。
人類を絶滅戦争に追いやるような真似をしているというのに、こいつらには一切の葛藤もないどころか自分の欲望のみを優先し、動いているのだ。
絶対に止めなければならない。ミサイルの発射だけではなく、こいつらの暴走も止めなくては。
そう強く思う僕の耳に、グール隊のものでもギベオンのものでもない声が聞こえてくる。
『黄昏! 聞こえているか!? だったらこちらが指定するチャンネルに接続しろ!』
「この声、フェデリコか!?」
オープンチャンネルで呼びかけてきた相手が、宿命のライバルとでもいうべきフェデリコ・ツァリアーノであると気が付いた僕は、彼が駆る陸戦型ガンダムを視界に収めると共に彼が指定したチャンネルへと無線を繋ぐ。
そうすれば、混乱している彼の部隊員の声に交じり、状況を理解しようと努めるフェデリコの声が聞こえてきた。
『どういうことだ? 何故、俺の部下を助けた? それに奴らはお前の仲間だろう? どうして同士討ちしている?』
「……質問を質問で返してすまないが、そちらはどこまで状況を把握している?」
『お前たちが地球の各地に核をぶっ放そうとしていることは知ってるよ。今、こっちはそれを阻止するために全力を尽くしている。これがギレン・ザビ直々の命令だって話も広まってるぜ』
フェデリコの答えに、僕は深く息を吐いた。
そうした後、自分がすべきことを考える。
思うところはある。それに、この話に相手が乗ってくれるとは限らない。
それでも……これが最善の策であると考えた僕は、静かに口を開く。
「……核ミサイルの発射はギレン総帥の指令なんかじゃない。これは、オデッサ基地の司令を務めていたガルシア・ロメオとその直属の部下であるグール隊の暴走だ。僕たちも、民間人を戦争に巻き込むことなんか望んじゃいない」
『なんだって……?』
これがギレン総帥の指示だという話になれば、絶滅戦争が始まる。それだけは避けなければならない。
あくまでこれはロメオとギベオンたちの暴走であると強調した上で、僕はフェデリコたちへと言った。
「今だけでいい、手を貸してくれ。ミサイルの発射を阻止するために……力を合わせよう」