ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
RTX-440【陸戦強襲型ガンタンク】……機体名にガンタンクと入っているが、実際は全くの別物といって差し支えないほどの改造が施されている。
その最たる例があの機動力であり、変形機能を活用して突撃形態になることで機体の被弾面積を減らしつつ、驚異的な速度での突撃が可能になるという、支援機としてデザインされたガンタンクとは真逆の突撃機としての運用が前提のコンセプトになっていた。
【MS IGLOO】の続編とでもいうべき作品に登場し、猛威を振るった強襲型ガンタンクだが、本来ならばとある事情のせいで三機までしか生産されなかったはずだ。
しかし、今の僕の前には敵陣に乗り込んで暴れる一機と、後方から砲撃を繰り出しつつこちらへと突撃してくる五機。合計六機の強襲型ガンタンクの姿がある。
どういった経緯で増産されたのかはわからないが……よりにもよってこのMSがこの場に登場したという事実が何より最悪だ。
この強襲型ガンタンクは、今の僕たちにあまりにも刺さり過ぎている機体なのである。
「クロス! 前線を突破された! あの戦車もどきに支援部隊がやられてるぞ!!」
「わかってる! だけど、ここで僕たちが引くわけにはいかないんだ!」
そう、ガスの必死の叫びに応えながらビームサーベルを振るい、ジムを撃破する僕であったが……そうしている間に、後方部隊に突撃を仕掛けた強襲型ガンタンクは次々とザクを破壊していた。
全く知らないMSの特攻にも近しい戦い方に翻弄される後方の部隊は、ただやられるだけでなく陣形までもを崩してしまう。
(あの機動力を活かせば、後方に特攻を仕掛けた上で陣形を崩すことなんて簡単だ! 完全に前衛と後衛の連携が分断された!)
僕たちの撤退戦のプランは、近接戦闘に優れるMSが前に出て、それを後方支援のMSが支援しつつじりじりと後ろに下がっていくというものだった。
つまりは前に出る僕たちと後方のリリアたちの連携が肝になっており、そこを崩されることが最もマズい。
いや、崩されたとしても最悪逃げの一手を打つことができれば、まだ生き延びられる可能性は十分にあった。
しかし、陸戦強襲型ガンタンクの機動力の前で背中を見せるということは、そのまま追い付かれて撃墜されるということになってしまう。
機体コンセプトとして正しいのかはわからないが、このMSは逃げる敵を追討して撃滅するという部分に関しては、他の追随を許さないレベルで適している機体になっているのだ。
「後方部隊の陣形が崩された! このまま戦闘は不可能だ! どうにかして離脱し、態勢を――ぐああっ!!」
また一機、仲間のザクが強襲型ガンタンクに撃ち抜かれて爆散した。
迫るジムや戦車を迎撃しながら、この状況をどうにかしなければと必死に打開策を探る僕の耳に、セベロの叫びが響く。
「この、タンクもどきがぁっ!! これ以上やらせるかああああっ!!」
「だめっ! セベロっ!!」
雄叫びを上げながら強襲型ガンタンクの前に立ち、マシンガンを乱射するセベロ。
対するガンタンクもミサイルを発射しながら正面のザクを轢殺しようとする。
制止するリリアの叫びが響く中、ザクとガンタンクの撃ち合いは真正面から銃弾を放ったセベロの攻撃を受けたガンタンクが爆発四散し、セベロもまた放たれたミサイルの至近弾を受けてザクが吹き飛ばされるといった形で終息する。
「ぐっ、くそっ……!」
「セベロ、機体の状態は!? まだ動けるか!?」
直撃こそしなかったが、セベロのザクは頭部を失い、一目見てわかるほどに大きな損傷を受けてしまった。
彼の身を案じる僕がザクの状態を尋ねれば、彼は少し間を空けて確認を終えた後で答える。
「メインカメラを喪失、バランサーもやられたのか上手く機体を動かせない……どうやら、俺はここまでみたいだ……」
「何を言ってる!? ザクにダメージはあっても、君は無事なんだろ!? 諦める理由なんてないじゃないか!」
「クロスの言う通りだよ! 機体が動かないなら脱出して! 私かガスのMSに乗せてあげるから!!」
「もういいんだ。俺は置いて行け。ジオン軍人らしく、ここで勇敢に戦って散ってやるさ」
「馬鹿が! そんなザクで戦うもクソもねえだろうが! 一方的に撃たれて終わりになるに決まってんだろ!」
予感が当たってしまった。セベロにはもう、生きるつもりなんてない。
殿を自ら希望したのもここを死に場所と定めたからなのだろう。もはや、自暴自棄といっても差し支えない状態にまで精神が落ち込んでいる。
「早く行け! もうあのタンクもどきたちがすぐそこまで来てるんだぞ!!」
「無駄死にするってわかってる人を置いてけないよ! 馬鹿な事言ってないで、後退してってば!」
セベロをここに置いていくわけにはいかない。リリアもガスも言っているが、そんなことしても彼は無駄死にするだけだ。
状況は刻一刻と悪化している。味方の部隊も散り散りになりつつあるし、ここから態勢を立て直すのはかなり厳しい。
(退却しながら戦うのはどのみち無理か。だったらもう、取るべき手は一つしかない!)
敵の攻撃をいなしつつ、隙を見つけて少しずつ退却していくというプランは瓦解した。
しかし、ここまでの戦いで追撃部隊も多少なりとも消耗している。ここからの追討の中核を成す陸戦強襲型ガンタンクを撃破すれば、撤退の隙が作れるはずだ。
どのみち、あの部隊を放置していたら先に撤退したみんなが危ない。
ここで全滅させておかなければならない脅威なのだから、戦うしかないのだ。
そう自分に言い聞かせる僕であったが……かなり困難な状況であることも理解していた。
ジムたちは他のザクを追撃しに行ったか、あるいは僕に倒されたかで姿が見えなくなっているとはいえ、それでも五対一。
MSらしからぬ機動力を誇る強襲型ガンタンクの小隊をたった一人で相手しなければならないというのは、相当に厳しい戦いであることはわかっている。
(でも、やるしかない。あいつらだけはここで止めないとダメなんだ)
撤退戦における最大の脅威ともなり得るMSをここで撃破する覚悟を決めた僕が、シールドとマシンガンを構える。
強襲型ガンタンクたちは綺麗な編隊を組み、適度な距離を空けてこちらへと突進してきていた。
(まずは脚を止めさせないとダメだ。でも、一機にだけ構っていたら他の四機に囲まれて集中砲火で墜とされる。手こずっている間に後ろに行かれてもアウト。厳し過ぎるだろ!?)
頭の中で状況や条件を整理するほどに、この戦いの困難さが明確になっていく。
それでも僕がやるしかないと、そう自分自身に言い聞かせようとした、その時だった。
「は……?」
ゴウン、という空気が唸る音がした。
その音が響いた直後、こちらへと疾走していた強襲型ガンタンクの一機が、空中に浮かび上がると共に真横に回転しながら吹き飛ぶ。
吹き飛んだ機体の側面に大きな穴が空いていることに気付いた僕が息を飲む中、そのガンタンクは近くを走っていた編隊の仲間を巻き込むようにぶつかり、大爆発を起こした。
「な、何!? どうしたの!?」
「味方の援護射撃か!? でも、どこから撃ってきた!? ってか、あの速度で走るMSに直撃させるとか、どういう腕してるんだよ!?」
僕から少し遅れて、二機のガンタンクが側面からの砲撃でスクラップになる様を目にしたリリアとガスが大いに驚きながら叫ぶ。
直後、空中で何かが爆発した音を耳にした僕が見つめる前で、ガンタンクたちが降り注ぐ煙に包まれ、それから逃げるように陣形を崩して回避運動を取り始めた。
「スモーク弾……!? それにさっきの砲撃は、まさか……!?」
神業レベルの技術を要する遠距離狙撃と、スモークによる攪乱……敵の不意を打ち、完全に陣形を崩した何者かの援護射撃に驚く僕は、同時にある予感を抱く。
こんなことができる人物……正しくは、これを可能にする機体とパイロットの組み合わせなんて、僕には一つしか思い付かない。
でもまさか、そんな出来過ぎたことがあるのかと目の前の現実を信じられずにいる僕であったが、その困惑を振り払わせるかのように通信が入った。
「――まさか、なんだ? 続きを言ってみろよ、クロス」
「っっ!!」
もう数か月は聞いていなかったはずなのに、今日までずっと聞き続けていたような、傍に居てくれたような感覚を覚えてしまうくらいに頼もしい声。
僕をからかうようなその声に続いて、疾走する無限軌道の音が響く。
新たな敵の接近を察知したガンタンク部隊がレーダーに映った反応を確認し、その方角を見やる中、その機体は砂埃を巻き上げながら姿を現した。
深緑色のボディに戦いの中で得た傷という名の勲章を刻み、大地を我が物顔で駆ける不遜な輩を威圧するように砲身を向けるその機体のことは、とてもよく知っている。
あの機体がこの場に来てくれたということは、パイロットはつまり……と考える僕の耳に、期待通りの人物の声が響いた。
「まったく、無茶しやがって。本当、お前は手のかかる馬鹿弟子だな」