ユキニュウドウの巨大な体躯がゆっくりとこちらに向かってきた。その足音が響き渡る中、俺は白い鬼の手を引いて森の中へと逃げ込んだ。背後でユキニュウドウの怒号が聞こえるが、振り返る余裕はない。ただ前だけを見つめて走り続けた。
やっとのことで物陰に身を隠した俺たちは、息を整えながら互いの顔を見つめ合った。白い肌の鬼は、顔色こそ青ざめていたものの、その瞳には強い意志が宿っていた。
「あなたが助けてくれてありがとう……」
彼女は静かに言葉を紡いだ。その声には感謝の念がこもっていた。
「俺は猴鬼。こっちは猫猫だ」
自己紹介をすると、彼女は少し驚いた表情を見せた。
「私は深雪鬼。音撃戦士になってまだ1年しか経ってない新米です」
深雪鬼という名前の由来を聞くと、彼女は笑みを浮かべながら語り始めた。
「新米か?」
「えぇ、その去年まではフィギュアスケートの選手として活動していたの」
深雪鬼は、フィギュアスケートの選手時代には多くの大会で優勝し、その美しい演技が評価されていた。しかし、競技生活に疲れを感じ、音撃戦士への道を選んだのだという。
「引退した《吹雪鬼》の弟子なんだ」
「吹雪鬼さんとは、昔から師弟関係にあって、彼女の教えを受け継ぐためにこの青森で活動しているの」
深雪鬼の言葉には、師匠への尊敬と憧れがにじみ出ていた。しかし、その表情はすぐに暗くなり、重苦しい雰囲気が漂った。
「私の目的は、かつての友人を殺したユキニュウドウを倒すこと」
彼女の瞳には、決意と悲しみが入り混じっていた。かつての友人がユキニュウドウによって命を奪われたという事実が、彼女の心に深い傷跡を残しているようだった。
「けれど、力不足で殺されかけた……」
深雪鬼の声が震え、その言葉には悔しさと無力感が込められていた。
「それをさっき俺が助けたという訳か?」
「えぇ……」
深雪鬼は、ユキニュウドウとの戦いで自身の力不足を痛感していた。その悔しさと悲しみが、彼女の心に深く刻まれていた。
「これからどうするんだ?」
猫猫が尋ねると、深雪鬼は。
「また、戦いますっ!それこそ」
「新人」
無茶を言う。ユキニュウドウと戦うのはリスクが高すぎる。猫猫も深雪鬼の言葉に驚き、その表情には不安が浮かんでいた。
「一人で戦うつもりなのか?」
「……」
深雪鬼は沈黙した。彼女の中で葛藤が渦巻いていた。かつての友人の仇を討ちたいという思いと、自分一人では勝てないという現実が交錯していた。
「お前が一人で戦える相手じゃない。それは分かっているだろ」
「そんなの、やってみないと」
「分かるよ、さっきの戦闘で無理だった」
猫猫が言葉を添える。深雪鬼の表情は暗くなる。猫猫の言葉が痛いほど心に響いているようだった。
「それでも……」
深雪鬼は呟く。その瞳には決意が宿っているが、同時に不安の影がちらついていた。
彼女は自分の力不足を痛感している。それでも、友人の仇を討つために戦う覚悟を決めているようだった。
「一緒に戦えば、勝算はあるかもしれない」
俺は深雪鬼に提案した。
「えっ」
「元々、俺達は探る為に来たからな。それだったら丁度良い」
俺が、そう告げる。
深雪鬼は少し迷う。
だが。
「それで、仇を取れるならっ」