スナカケババアの怒りが頂点に達した瞬間、地面が揺れ動き始めた。まるで地獄の門が開いたかのように、土砂が噴き上がり、木々が根こそぎ倒れる。神社の鳥居も例外ではなく、古びた朱色の柱が砕け散った。
「おいおい、これはヤバいな……」
俺は嘘吐鬼の方を見る。彼女も緊張した面持ちで頷いた。
「あれが本当の力ってわけね。怪童子と妖姫を倒されて完全にブチ切れてるわ」
スナカケババアの姿はもはや7メートルを超えていた。全身から紫黒い瘴気が立ち上り、ミミズのような舌が3本に増えている。その目は憎悪に燃え、まるで鬼火のように赤く光っていた。
「怒ったモグラは怖いって」
嘘吐鬼が冗談めかして言うが、その声には緊張が滲んでいる。
「冗談言ってる場合か!来るぞ!」
スナカケババアが地面を抉りながら突進してきた。その速度は尋常ではなく、瞬く間に俺たちの前に迫る。
「鬼糸!」
嘘吐鬼が左手を振ると、指先から極細の糸が何十本も伸びる。それは空気中で螺旋を描きながらスナカケババアに向かって飛んでいった。
糸はスナカケババアの足に絡みつくが、巨大な怪物はそれを物ともせず引きちぎっていく。
「やっぱり威力不足か……」
嘘吐鬼が舌打ちする。
「もっと濃い霧を出せないのか?」
「今の状態じゃ難しいわ。でも」
嘘吐鬼は両手を広げると、霧景色の術を展開した。紫色の霧が山の内に充満し、視界が急速に悪化する。
「これで少しは」
「いや、それだけじゃダメだ」
俺は如意を強く握りしめた。その重みが手に伝わる。
「少し時間を稼いでくれ」
「あら、何か秘策でも?」
「ああ。あいつの動きを一瞬でも止められればな」
嘘吐鬼は小さく笑うと、「了解」と言ってスナカケババアに向かって駆け出した。
鬼糸を巧みに操りながら、スナカケババアの注意を引く。その隙に俺は境内の中央に立った。
「よし」
俺は如意を頭上に掲げ、全身の力を集中させる。鬼の気を高め、一点に凝縮する。
「来い……」
声を漏らしながら集中力を高めると、遠くから何かが近づいてくる感覚があった。
バイクから、一本の槍が飛来する。
それは獣槍だ。
空中で弧を描きながら俺の方へと向かってくる。
スナカケババアが再び突進してきたが、嘘吐鬼が鬼糸で足を絡め取り、一瞬の隙を作り出す。
「今だ!」
俺は天高く跳躍した。
同時に、俺は獣槍を手に取る。
それと共に、俺は、猴鬼・斉天に変わる。
俺は獣槍を構え、腰の鞘から音撃鼓を取り出す。戦国時代の鬼が遺した清めの太鼓。それを高々と投げ上げた。
音撃鼓は光を放ちながら空中で回転し、スナカケババアの胸元へと向かっていく。
「鬼糸!」
嘘吐鬼が左手から糸を伸ばし、音撃鼓を誘導する。糸に導かれた太鼓はスナカケババアの胸に見事に張り付いた。
「よし!」
俺は獣槍を頭上に掲げ、全神経を集中させる。太鼓を叩くための構えだ。
スナカケババアが怒り狂い、紫色の瘴気を周囲に噴き出す。だが、もう遅い。
「清めの太鼓……打つぞ!」
俺は一気に跳躍し、獣槍を振りかざした。槍の先端が空気を切り裂き、音撃鼓へと向かっていく。
獣槍が太鼓の中心に触れた瞬間―
「音撃打! 天昇烈破!」
清めの音が炸裂した。
ゴォォン!
まるで天地を揺るがす雷鳴のような音が山に響き渡る。音撃鼓から放たれた音の波動はスナカケババアの全身を包み込み、その汚れた気を浄化していく。
「グワァァァ!」
スナカケババアが悲鳴を上げる。その身体は音の衝撃に耐えきれず、内部から光が漏れ出し始めた。
「まだだ!」
俺は更に槍を振るう。
「二打! 三打! 四打!」
連続して太鼓を打ち続ける。その度に清めの音が山を震わせ、スナカケババアの体表が光の粒子となって散っていく。
「ヴァ〜カが! とどめよ!」
嘘吐鬼が叫び、鬼糸を伸ばしてスナカケバアの動きを完全に封じ込めた。
「最後の一撃!」
俺は全身の力を込めて獣槍を振るい、音撃鼓を全力で打った。
バァァァン!
これまでで最大の音撃が炸裂する。それはスナカケババアの体内深くにまで浸透し、その邪悪な気を完全に浄化した。
「グゥゥ……」
スナカケババアの身体が光に包まれ、まるで砂の城が崩れるように分解していく。
そして、ついに—
ドォォン!
爆散した。
スナカケババアの巨体は光の粒子となり、風に溶けるように消滅した。後に残ったのは静寂と、微かに漂う清めの香りだけだった。