山の奥へと足を踏み入れる。鬱蒼とした森の中は月明かりすら届かず、懐中電灯の灯りだけが頼りだった。土の匂いに混じって、かすかに香る清浄な気配。それが俺たちの進むべき道を示していた。
「待って」
先頭を歩いていた俺が足を止める。懐中電灯の光が前方の地面を照らし出すと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「これは……」
森の中にぽっかりと開いた円形の空間。直径30メートルほどの平らな地面の中央に、巨大な切り株が鎮座していた。高さ5メートルはあるだろうか。その切り口は驚くほど滑らかで、まるで職人が丁寧に仕上げたかのようだ。
「切り株……?」
嘘吐鬼が首をかしげる。
「普通の切り株じゃないわね。こんなに平らで……それに」
猫猫が切り株に近づき、手で触れる。
「これ……ただの木じゃない」
彼女の手が切り株の表面をなぞると、微かな振動が伝わってきた。
「感じるわ。何かが……脈打ってる」
その瞬間、切り株の中心から淡い光が漏れ始めた。まるで呼吸をするように明滅するその光は、不思議と恐怖を感じさせない。むしろ安らぎを与えるような温かさがあった。
「見つけたぞ……」
俺は思わず呟いた。
「これが鬼石だ」
「え?」
「いや、正確には鬼石が宿る鼓だ」
俺は周囲を見回す。切り株の周りには苔むした石段があり、その上には小さな祭壇のようなものまで設けられていた。まるで古代の儀式場のようだ。
「こんな場所が……」
猫猫が驚きの声を上げる。
「この切り株自体が音撃鼓になっているんだ。巨大な鬼石を核として」
「鬼石って石なんじゃないの?」
嘘吐鬼が疑問を口にする。
切り株の周囲に点在する石に目を凝らす。表面には細かな凹凸があり、まるで脈動するかのように淡い光を放っていた。
「これらは……鬼石の破片だ」
俺は石を一つ拾い上げる。手のひらに収まる程度の大きさだが、その内部から発せられる清浄な気配は明らかに普通の石ではない。
猫猫が懐中電灯の光を切り株に向ける。
「でも、この切り株は……」
「樹齢千年を超える古木かもしれない」
俺は切り株に近づき、その表面を手で撫でる。滑らかな感触は普通の木とは明らかに異なる。
「千年……!?」
「この森の守り神だったのかもしれない。古来より山や森の中心には"鎮め"が置かれる。災いを鎮め、土地の気を整える存在だ」
猫猫が切り株の周囲をぐるりと回る。
「でもこの切り株……不自然なほど滑らかよね。誰かが故意に切ったみたい」
「・・・おそらくは、ここを儀式に使う為に過去の鬼が斬ってくれたのだろうけど」
「・・・少し力が足りない、このままじゃ」
「災害は止められない」