切り株の周囲を調査する。苔むした地面に足跡が残っていないか確認し、周囲の木々の状態を観察する。
「この場所は……長い間使われていない」
俺は周囲の木々を観察しながら言った。その多くは幹に亀裂が入り、葉は元気なく垂れ下がっている。
「自然環境が損なわれているな。最近の都市開発で森が切り開かれたんだろう」
「そういえば」
猫猫は、ここに来る道中の事を思い出す。山の麓には工場地帯があり、煙突からは白い煙が立ち上っていた。
「あの工場の排水が川に流れ込んでるんじゃないか?」
嘘吐鬼が指摘する。彼女は目を細めて遠くの光を見つめていた。
「昔はきれいだった川も今は泥で濁っている」
猫猫が溜息をつく。
「鬼石の鼓があっても土地の力が弱まっているんじゃ……」
俺は切り株に手を当てた。確かに鬼石の波動は感じられるが、かつての強さはないようだ。
「どうする?儀式をするにも条件が整っていない」
猫猫が考え込む。
「私が知っている古い文献によると、鬼石の力を呼び覚ますには土地全体の浄化が必要らしい」
「つまり?」
「この場所だけでなく、周囲の環境も浄化する必要があるってこと」
猫猫の言葉に俺は眉をひそめる。
「そんなことできるのか?」
「・・・確かにここの土地だけならば、この鬼石の鼓を使って土地の清めの力を高める事が出来る。しかし」
俺は懸念を口にする。
「この周辺だけを強化しても焼石に水だ。根本的な問題は解決しない」
「根本的な問題?」
嘘吐鬼が首をかしげる。
「魔化魍の大発生だ。これほど多くの魔化魍が生まれているのは、何か別の要因があるはずだ」
「確かに……」
猫猫も考え込む。
「単なる自然現象じゃないわよね」
「ああ。もっと根深い問題がある」
俺は切り株を見つめながら続けた。
「清めの太鼓を鳴らしても、その効果が持続しなければ意味がない。一度だけ魔化魍を退けても、すぐにまた同じ状況になるだろう」
「じゃあどうするの?」
嘘吐鬼の問いに、俺はゆっくりと答える。
「各地にある清めの力を集めるんだ」
「各地に……?」
「そうだ。日本各地には神社や寺などの聖域がある。それらの場所は自然の力と人々の祈りによって守られている」
猫猫が目を輝かせる。
「つまり、それぞれの場所から清めの力を集めて、この鬼石の鼓に注入するってこと?」
「その通り」
俺は頷いた。
「各地区の清めの力を集めることで、この土地の力を強化する。そして同時に全国的な魔化魍対策にもなる」
嘘吐鬼が面白そうに笑う。
「へぇ~面白いアイデアね。でも簡単にいかないでしょう?各地の神社や寺はそれぞれ独自の守護者や結界があるはず」
「だからこそ俺たち鬼の出番だ」
「俺たち?」
「ああ。俺と猫猫で各地を回り、清めの力を集める」
「私は興味ないんだけど……」
猫猫は渋い顔をしている。
「お前も手伝ってくれ。文献に詳しいのは猫猫だけだ」
「でも私は……」
「大丈夫だ。お前ならできる」
俺は猫猫の肩を軽く叩いた。
「それに……」
「それに?」
「お前は、俺が守るからな」