「これが……清めの力?」
灯鬼に案内されたのは境内の最奥にある祠だった。厳重に封印された扉を灯鬼が開くと、埃っぽい空気が立ち昇る。
「長らく眠っていた」
灯鬼が言う。その声には畏怖の念が滲んでいた。
祠の中、台座の上に安置されていたのは一振りの小刀。黒檀の鞘に収められたそれは、確かにどこにでもありそうな一般的な造りだった。
しかしその存在感は尋常ではない。
「これは……」
手に取らずともわかる。刀身から発せられる清めの波動が肌に触れてくるようだ。触れれば即座に清められるだろうという確信があった。
「抜いてみよ」
灯鬼の声に促され、私は慎重に手を伸ばした。革紐でしっかりと固定された鞘に手をかけ、ゆっくりと引き抜く。
「っ!」
眼前に現れた刀身を見て思わず息を呑む。研ぎ澄まされた鋼の光沢が月明かりを受けて青白く輝いている。その美しさは言葉にならない。
そして—刀身の中心には確かに「響鬼」という文字が刻まれていた。
「まさか……」
猫猫が目を見開く。彼女の知識なら当然知っているだろう。響鬼という名は現代において特別なものだから。
「お前たちも知っておるか?」
灯鬼が問いかけてきた。
「ああ……もちろん」
俺は言葉を選ぶように慎重に答えた。
「俺達の先輩だ。けれど、なんで」
疑問に思う俺を余所に、灯鬼は続ける。
「この小刀は、戦国時代でオロチを納めたとされる鬼の名が刻まれている」
「えっ、マジで」
「あぁ。当時、鬼が迫害されていながらも人々の為に戦った7人の戦鬼。その中心に立ったのが、響鬼だ」
「戦国時代の響鬼さんもとんでもないけど、なるほど」
それと共に、見つめる。
「この小刀は当時の響鬼の弟子。そして、オロチとの戦いを経て村民からの偏見が無くなり、彼らが立ち上げた鬼を補助する組織の名として提案した「猛士」の名を持つ物」
「えっ、それって、つまり猛士って、人の名っていう事」
「あぁ」
「・・・そうか」
その事を知り、改めてその刀を見る。そこから感じたのは確かな魂。この時代まで脈々と受け継がれてきた清めの意志そのものだった。
「これを使っていいのか?」
灯鬼は静かに頷いた。
「かつての響鬼と同じくオロチを討伐してくれ」
そう告げると、灯鬼は踵を返した。
「行きましょうか」
猫猫の声に俺は我に返った。二人で並んで歩き出す。
手には「響鬼」と刻まれた小刀。
「これで儀式は行える。後は」
「オロチをなんとかしなければな」
迫るオロチによる脅威を前に、俺達に最期の戦いが迫る。