「よし……この力で大地を清める」
小刀を懐にしまい、俺たちは鬼石の場所へと向かった。
森の奥の開けた空間で待ち受けていたのは予想通りの存在—響鬼さんだった。
「おっ、来たか」
響鬼さんは振り返らずに声をかけてくる。その背中には既に戦いの覚悟が満ちていた。
「響鬼さん……!」
慌てて駆け寄ると、響鬼さんは振り返り笑みを見せた。
「久しぶりだな。成長したな」
その言葉に胸が熱くなる。尊敬する先輩に認められるのは何よりも嬉しかった。
「ありがとうございます。響鬼さんも変わりませんね」
「まぁな、さて、そろそろ始めるぞ」
響鬼さんの言葉に頷き、儀式の準備に取りかかる。巨大な切り株の中心に掘られた窪み。そこに小刀を差し込めば儀式が始まる。
「いきますよ……」
手にした小刀の冷たい感触。鞘から引き抜くと銀色の刃が月明かりに輝く。「響鬼」の文字が妖しく浮かび上がる。
「力を借りるぞ……」
呟きと共に小刀を窪みに挿入した瞬間—
ズズッ……
大地が唸りを上げる。切り株を中心に清めの波動が放射状に広がっていく。空気中に漂う澱んだ魔化魍の気配が浄化されていくのが肌で感じられた。
だが同時に—
ギシャァァァッ!
森の奥から耳障りな咆哮が響き渡る。儀式を妨害しようと魔化魍の群れが押し寄せてきたのだ。
「来たか……」
響鬼さんが低く呟く。俺は如意を構えながら位置に就いた。
それと共に、響鬼さんも構える。
「猫猫は、なるべく隠れていろ」
その大軍を前にしても響鬼さんは冷静だった。
「響鬼さん……援護します!」
「ああ、頼む」
その言葉を最後に—響鬼さんは、鬼石に音撃棒を叩く。
鬼石を通じて、清めを広範囲に行える。
だがその間に……
「来るぞぉ!!」
大地を割るような轟音と共に、次々と魔化魍が現れる。
狒々、牛鬼、蝕鬼……様々な種類の魔化魍たちが儀式の中断を図ろうと殺到してきた。
「ここを通すものか!」
俺は如意を旋回させながら飛びかかり、先陣の魔化魍を粉砕した。
猿鬼流の棒術が唸りを上げる。
響鬼さんは儀式を続行しているため戦線には参加できない。俺が全責任を持って護衛しなければならない。
しかし—
ドゴォッ!!
地面を揺るがす衝撃。
振り返ると響鬼さんが儀式を続ける鬼石を中心とした円の外側には無数の魔化魍が蠢いていた。その数は想像以上だ。
「響鬼さん!この量は危険です!」
「わかってる!だがもう止められない!」
清めの波動は既に周囲の森を覆いつつある。ここで儀式を中断すれば全てが無駄になる。
しかし—突如として森全体を覆うような大きな影が落下した。
ザバァン!!
地面から噴水のように湧き上がった水流。その中心から巨大な影が浮上した。
「あれは……オロチか」
俺の口から思わず漏れる言葉。以前見たことがあるオロチの姿—だが何かがおかしい。
「違います!」
猫猫の叫び声が響く。彼女は岩陰から這い出してきていた。
「あれはオロチではありません!」
「何だって!?」
「あれは……」
猫猫が言うよりも早く地面からさらなる影が噴出し始めた。
「なんだ……!?」
一つの影から二つ目の影。そしてさらに三つ目。
「おいおい……冗談だろ……」
計八つの影が地面から同時に噴出した。その全てが同じ姿形をしている。
巨大な蛇のような胴体に八つの首。それぞれが独立してうごめく不気味な動き。
「ヤマタノオロチっ……!」
猫猫の悲鳴のような声が森に響き渡った。
そう……あれこそは伝説にのみ存在すると言われていた怪物。八つの頭を持つ竜王「ヤマタノオロチ」だった。
「響鬼さん!あれはオロチではなくヤマタノオロチです!」
「なにぃ!?」
響鬼さんが鬼石を叩く音撃棒を止めずに叫び返す。