「まさか、こんな大物が現れるとはな」
呟きと共にその手には既に獣槍を持つ。
獣槍を持つと同時に、こちらに迫るヤマタノオロチ。
俺もまた、それに合わせるように走り出し、瞬時に鎧を身に纏う。
ヤマタノオロチ達は、その口を大きく開き、炎を球体にして、真っ直ぐと俺に放つ。
そのタイミングと同時に、鎧から翼を広げて飛翔し、避けつつ急降下。
一直線にヤマタノオロチの首に向かい、獣槍で斬る。
首は刎ねられ血が吹き出すが、痛みを感じる様子もなく他の首が俺を睨みつけていた。
「まずは一本……」
「油断しないで!まだ七本もある!」
猫猫の警告通りだった。
切断された首を気にせず他の七本が一斉に襲いかかってくる。
牙を剥き出しにして噛み付こうとする奴。毒液を滴らせながら威嚇する奴。尾を振り回して叩き潰そうとする奴……
それぞれの個性と能力を持った七匹の龍が複雑に絡み合いながら攻撃してくる様はまさに混沌そのものだ。
(なるほど、これがヤマタノオロチか)
伝承通りの厄介さだ。
しかし今は驚いている場合じゃない。俺は翼を広げて空高く舞い上がった。
眼下には炎を吹き上げるヤマタノオロチの姿が見える。
「上等だ!まとめて相手になってやる!」
叫びながら急降下する。
一番左端の首が大きく口を開いた瞬間を狙い、獣槍を投擲する。狙い違わず首に突き刺さった獣槍が爆発のような音撃を放ち、首は粉砕される。
続いて右側の二本の首が同時に炎を吐きかけてくるが、それを紙一重でかわしつつ着地。素早く地面を蹴って残り五本の首へと迫る。
「獣槍!行くぞ!」
手元に戻ってきた獣槍を両手で構え直し、最も近くにあった首の根元めがけて袈裟懸けに振り下ろす。
刃が鱗を切り裂き肉に食い込む感触。
「グオオォッ!!」
悲鳴にも似た咆哮をあげるヤマタノオロチ。
だが致命傷には至っていないようだ。残り四本の首が怒り狂ったように暴れ出す。
(ちっ、浅かったか)
舌打ちしながらバックステップで距離を取る。
するとそこへ追い打ちをかけるように炎の塊が飛来した。
咄嗟に身を翻して回避するものの、ほんの僅かに掠ってしまい皮膚が焼ける匂いが鼻につく。
「熱っ……!」
歯を食いしばりながら前を見据えると、そこにはすでに三本目の首が大きく開いた口腔を向けていた。
(まずい──!)
反射的に獣槍を盾にするように掲げる。直後、灼熱の炎が直撃した。
幸いにも衝撃で吹き飛ばされることはなかったが全身を焼き尽くされるような痛みが襲いかかってきた。
「ぐうぅっ……!」
思わず膝をつきそうになるほどの苦痛。それでも意識だけはしっかり保つべく奥歯を噛み締める。
(ここで倒れるわけにはいかない)
背後では響鬼さんが清めの儀式を続けているはずだ。
「まだまだ、やる事があるからな!」
自分自身に言い聞かせるように呟きながら立ち上がる。
正面にはまだ四本の首が残っている。
しかも先程倒したはずの二本も徐々に再生し始めているようだった。
「クソっ……不死身なのかコイツは……!」
焦燥感が募る中でも思考は冷静さを失わないよう努める。とにかく今は一体でも多く倒すことが先決だ。
再び獣槍を構えて突進しようとしたその時だった──
「避けろ猴鬼!!」
突然聞こえてきた猫猫の声。
(なんだ?)
考える暇もなく本能だけで身体を動かす。斜め前方へと飛び込むようにして回避行動を取ると同時に背後から凄まじい轟音が響いた。
振り返るとそこには先程切ったばかりの首が再生し終えた姿があった。
しかもよく見れば周囲に散乱していた他の魔化魍の死骸を喰らっているではないか。
「……マジかよ」
呆然と呟くしかない光景だった。
(コイツら魔化魍を糧にして復活してるのか……)