スラム出身が築いた大規模な傭兵団。
特定の拠点を持たず国から国へと渡り歩いた戦闘のプロ、竜に構成員の6割を焼かれ離散しかけるも故郷を焼かれた1人の男に脳を焼かれ騎士団となる。
ーー黒炎竜に我らは挑む!だが!案ずるな!我らが斃れようとも我らの跡を継ぐ者は居る!
ーー勝った!我らの勝利だ!
ーー魔獣達の大規模な移動を確認した?
ーー端の国が消失?日の国が神ごと避難してきた?
ーー我らが何をした!
ーーもはやこの世界には生き場所は無い…か
ーーあと少しだ!踏ん張れ!兄弟達よ!
ーー友よ!アルメアに幸あれ!王国に未来あれ!
ふと目を覚ます。目覚めても尚瞼に、脳に焼き付いた過去の情景と仮眠程度では拭いきれない三徹の疲れからくる二度寝の誘惑を振り払いベッドから降り服を着替える。
「陛下達は行けたのだろうか?」
何度も口にしたそれを言い苦笑する。過去を捨てるのも悪いが執着するのも悪い。そうして着替え終わりリビングへ向かう。リビングの扉を開けると両親と従妹の理恵が食卓にて待っていた。
「あらおはよう蓮」
「蓮兄遅い」
「遅かったな学校に行く前に小説の打ち合わせだけしたいんだが」
「分かったよ父さん。理恵先に学校行ってて」
「一緒にいきたかったのになぁ」
そう言い不貞腐れる様に頬を膨らませる理恵に苦笑しつつ妥協案を打ち出す。
「ごめんな。明日、駅前のスイーツ店に行こうか」
「分かった。香織や雫達も呼んでも良い?」
「光輝以外ならいくらでも呼んで良いぞ全部買ってやろう奢りだぞ?」
「やった!早速相談してくるね!」
そう言うと鞄を持って学校に向かった。
「忘れ物はしちゃダメよ!」
「はーい行ってきます!」
それから20分ほど、打ち合わせを行い学校に向かった。
蓮は、いつものように始業チャイムがなるギリギリに登校し、教室の扉を開けた。
その瞬間、教室の男子生徒の大半から妬みのを頂戴する。女子生徒も友好的な表情というよりは獲物を狙う目をしていた。無関心ならまだいい方で、あからさまに嫉妬の表情を向ける者もいる。
意識するほどでもなかった為普通に自席へ向かう蓮。しかし、毎度のことながらちょっかいを出してくる者がいる。
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す4人組。
声を掛けてきたのは檜山大介ひやまだいすけといい、毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斎藤良樹さいとうよしき、近藤礼一こんどうれいいち、中野信治なかのしんじの三人で、大体この四人が頻繁に蓮に絡む。
檜山の言う通り、蓮はオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。大人しくはあるが陰気さは感じさせない。ただ書いた小説がコミカライズし、アニメ化の話もあるために高校生ながら過労気味な隈があるだけである。
世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。では、なぜ男子生徒の殆どが嫉妬をあらわにするのか。
その答えが彼女だ。
「蓮くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒が蓮のもとに歩み寄った。このクラス、いや学校でも蓮にフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。
名を白崎香織(しらさきかおり)という。学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍とてつもない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。
そんな香織はなぜかよく蓮を構うのだ。過労徹夜のせいで居眠りの多い蓮は不真面目な生徒と思われており(成績は上位を維持している)、生来の面倒見のよさから香織が気に掛けていると思われている。
これで、蓮の授業態度が改善したり、あるいはイケメンなら香織が構うのも許容できるのかもしれないが、生憎、蓮の容姿は多少整っているが目の下の濃い隈のせいで台無しであり、〝趣味の合間に人生〟を座右の銘としていることから態度改善も見られない。
そんな蓮が香織と親しくできることが、同じく平凡な男子生徒達には我慢ならないのだ。「なぜ、あいつだけ!」と。女子生徒は単純に、香織に面倒を掛けていることと、なお改善しようとしないことに不快さを感じているようだ。そしてもう一つ
「あ、ああ、おはよう香織さん」
蓮からの名前呼びだった。香織達から強制されたとはいえ学校の3大女神と呼ばれている白崎香織、八重樫雫、八雲理恵の3人に囲まれているのは男女問わず不愉快なのだろう。事実名前で呼び返したところ嫉妬で人を呪い殺せそうな程の眼光に晒さらされ、若干頬が引き攣る感覚を覚えた。
それに嬉しそうな表情をする香織。「なぜそんな表情をする!」と、蓮は、更に鋭さを増した視線に冷や汗を流した。
蓮は毎度不思議でならなかった。なぜ学校一の美少女である香織が数居る友人の1人である自分にこうまで構うのか。蓮の目には、どうにも香織の性分以上の何かがあるようにしか思えなかった。
しかし、まさか自分に恋愛感情を持っているなどと自惚れるつもりは毛頭ない。蓮は、自分が趣味のためにいろいろ切り捨てている自覚がある。顔も成績も運動能力も多少上の方を維持しているがよく居る程度だ。自分など比較にならないほどいい男が彼女の周りにはいる。故に、彼女の態度が不思議でならなかった。
というか、最近呪いの一歩手前ぐらいのねっとりとし始めた眼光の嵐に気がついて下さい! と内心懇願する。だが、口には出さない。そうした瞬間、きっと体育館裏とかに強制連行だろうから……
蓮が会話を切り上げるタイミングを図っていると、三人の男女が近寄って来た。自分は嫌いだが他者から見れば〝いい男〟も含まれている。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫(やえがししずく)。香織の親友だ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。香織がお姫様なら雫は王子様という雰囲気がある。
百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。
事実、彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で〝お姉さま〟と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。八重樫流でライバルとして鍛え合っている。
次に、些いささか臭いセリフで香織に声を掛けたのが天之河光輝(あまのがわこうき)。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人、、、に見せかけた理想主義者だ。いつもいつも自分の考えを他者に押し付けてくる。なまじカリスマがあるせいで一種の宗教に似た事になってるのを自覚しろ
サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。
小学生の頃から八重樫道場に通う門下生だったが試合後の不意打ちで破門されたが、別の道場でエースとして雫と同じく全国クラスの猛者だ。雫とは幼馴染である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる雫や香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。
最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。指導者光輝のカリスマ(笑)に脳を焼かれた脳筋バカだ。手の施しようが無いことが挙げられる。
龍太郎は努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、蓮のように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうな人間は嫌いなタイプらしい。現に今も、蓮を一瞥いちべつした後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。八重樫道場で雫と試合をしていると知っている筈なのにこの扱いは流石は天之教の信者だ。
「おはよう、雫さん、天之河くん、坂上くん。はは、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
雫達に挨拶を返し、苦笑いする蓮。「てめぇ、なに勝手に八重樫さんと話してんだ? アァ!?」という言葉より明瞭な視線がグサグサ刺さる。雫も香織に負けないくらい人気が高い。
「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」
光輝が蓮に忠告する。光輝の目にもやはり、蓮は香織の厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようだ。
蓮としては「甘えたことなんてないよ! むしろ放っておいてくれ!」と声を大にして反論したいのだが、そんなことをすれば強制連れションが実行されるだろう。光輝自身、思い込みが激しいところがあるので反論しても無駄であろうことも口を閉じさせる原因だ。
そして〝直せ〟と言われても、蓮は趣味を人生の中心に置くことに躊躇いがない。なにせ、父親はゲームクリエイターで母親は少女漫画家であり、将来に備えて父親の会社や母親の作業場で手伝いをしつつ小説を書きそれの漫画の展開を指示し、アニメ化の準備をしているくらいなのだ。
既にその技量は即戦力どころか第一線で戦っているほどである。趣味中心の将来設計はばっちりである。蓮としては真面目に人生しているので誰になんと言われようと今の生活スタイルを変える必要性を感じなかった。香織が蓮を学校で構わなければ、そもそも物静かな目立たない一生徒で終わるハズだったのである。
「いや~、あはは……」
それ故に、蓮は笑ってやり過ごそうとする。が、今日も変わらず我らが女神は無自覚に爆弾を落とす。
「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が蓮くんと話したいから話してるだけだよ?」
ざわっと教室が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりに蓮を睨み、檜山達四人組に至っては昼休みに蓮を連れて行く場所の検討を始めている。
「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」
どうやら光輝の中で香織の発言は蓮に気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点があり、理想主義者めとハジメは苛立ちを流す様ために現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めた。
「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」
この場で最も人間関係や各人の心情を把握している雫が、こっそり蓮に謝罪する。蓮はやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。雫はここでの癒しであった。
そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、いつものように蓮が夢の世界に旅立ち、当然のように授業が開始された。
そんな蓮を見て香織が微笑み、雫はある意味大物ねと苦笑いし、男子達は舌打ちと軽蔑の目を、女子達は明日のスイーツ食べ放題に想いを馳せていたのであった。
国を焼いた竜
世界は焼けなかったものの存在を焼くことができた4祖竜の1体。
ほぼ無傷で神々の連合を3回も焼いたらしい