ステータスプレートから2週間が経った。
現在、蓮は訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしている。その手には〝北大陸魔物大図鑑〟というなんの捻りもないタイトル通りの巨大な図鑑があった。
なぜ、そんな本を読んでいるのか。それは、この二週間の訓練で、メルド団長と渡り合えることを示すことができ、知識を蓄える事に注力できるようになった。
そんなわけで、蓮は、しばらく図鑑を眺めていたのだが……突如、「はぁ~」と溜息を吐いて机の上に図鑑を静かに置いた。
蓮は偽装を解いたステータスプレートを頬杖をつきながら眺める。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2
天職:錬成師・戦技団
筋力:250
体力:70
耐性:12
敏捷:80
魔力:350
神秘:90020
魔耐:310
技能:錬成[+精密錬成][+鉱物分離][+圧縮錬成][+高速錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・言語理解・全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛腕・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・重力魔法・魔力操作・駆魔召喚・祈ーー術・限界突破・機魔操作・聖火の祝福
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これが、二週間みっちり訓練したハジメの成果である。成長はしてるいるが、成長率低いもののステータスに表示されない技術的に必死にレベルを上げるよりはこの世界の知識を蓄える方が重要であると思ったからだ。
勇者と言う器用貧乏な天之川のステータスは
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天之河光輝 17歳 男 レベル:10
天職:勇者
筋力:200
体力:200
耐性:200
敏捷:200
魔力:200
魔耐:200
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読
高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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どれも同じ値で上がるらしい。やっぱり勇者は器用貧乏でハズレだと感じてしまう。貧乏くじを引いた彼のことは考える必要は無い。と思い直し、この2週間で地図や魔法概念を覚えることができた。この世界における魔法の概念をおさらいしておこう。
トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。魔力の操作ができない、これが本当に引っかかる。むしろ魔術、魔法の基本は魔力の操作だった。できなければ才無しとなる。それはそうだ。たとえ完璧な陣があろうとも均一に流せなかったら威力にムラが出てくるし複数人で行う儀式魔術はより高度な操作が必要になってくる。メイド達の目を盗んで実験したがムラが出た。聖教協会の情報統制なのだろう。粛清対象になるのは面倒だ。極力使わない様にしておこう。
そして、詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。それは必然的に魔法陣自体も大きくなるということに繋がる。
例えば、RPG等で定番の〝火球〟を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。基本は、属性・威力・射程・範囲・魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。
しかし、この原則にも例外があった。それが適性だ。
適性とは、言ってみれば体質によりどれくらい式を省略できるかという問題である。例えば、火属性の適性があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできると言った具合だ。
この省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。
大抵の人間はなんらかの適性を持っているため、上記の直径十センチ以下が平均であるのだが、蓮は癖で基本五式に加え速度や弾道・拡散率・収束率等事細かに式を書いてしまう。
そのため、トータス式〝火球〟を一発放つのに直径1メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。
ちなみに、魔法陣は一般には特殊な紙を使った使い捨てタイプか、鉱物に刻むタイプの二つがある。前者は、バリエーションは豊かになるが一回の使い捨てで威力も落ちる。後者は嵩張るので種類は持てないが、何度でも使えて威力も十全というメリット・デメリットがある。イシュタル達神官が持っていた錫杖は後者だ。
接近戦もできるが天職をどうにかしたいとメルド団長に言うと、錬成に役立つアーティファクトもないと言われ、済まなそうな顔で錬成の魔法陣を刻んだ手袋をもらった。
一応、頑張って落とし穴とか、出っ張り? を地面に作ることはできるようになったし、その規模も少しずつ大きくはなっているが……
対象には直接手を触れなければ効果を発揮しない術である以上、敵の眼前でしゃがみ込み、地面に手を突くという自殺行為をしなければならず、結局のところ戦闘では役立たずであることに変わりはない。両足、できれば片足が地面に着いていれば発動できるようにブーツへの陣の書き込みを王宮錬成師達と開発中だ。
この二週間ですっかりクラスメイト達から訓練に出ない無能のレッテルを貼られたらしい。必要な知識を溜め込んでいるのであるが……なんとも先を見ることのないクラスメイト達のせいで、ここ最近すっかり溜息が増えた。
いっそ旅に出ようか、魔人との戦争に参加する気は無いし人殺しになるつもりは今のところ無い。
蓮は行くならどこに行こうかと、ここ二週間誰よりも頑張った座学知識を頭の中に展開しながら物思いに耽ふけり始めた。
(やっぱり、亜人の国には行ってみたいな。獣人は前世でも見たことなかったからなぁ。……でも〝樹海〟の奥地なんだよなぁ~。何か被差別種族だから奴隷以外、まず外では見つからないらしいし)
蓮の知識通り、亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側に南北に渡って広がる【ハルツェナ樹海】の深部に引き篭っている。なぜ差別されているのかというと彼等が一切魔力を持っていないからだ。
神代において、エヒトを始めとする神々は神代魔法にてこの世界を創ったと言い伝えられている。そして、現在使用されている魔法は、その劣化版のようなものと認識されている。それ故、魔法は神からのギフトであるという価値観が強いのだ。もちろん、聖教教会がそう教えているのだが。
そのような事情から魔力を一切持たず魔法が使えない種族である亜人族は神から見放された悪しき種族と考えられているのである。
じゃあ、魔物はどうなるんだよ? ということだが、魔物はあくまで自然災害的なものとして認識されており、神の恩恵を受けるものとは考えられていない。ただの害獣らしい。なんともご都合解釈なことだと、蓮は内心呆れた。
なお、魔人族は聖教教会の〝エヒト様〟とは別の神を崇めているらしいが、基本的な亜人に対する考え方は同じらしい。
この魔人族は、全員が高い魔法適性を持っており、人間族より遥かに短い詠唱と小さな魔法陣で強力な魔法を繰り出すらしい。数は少ないが、南大陸中央にある魔人の王国ガーランドでは、子供まで相当強力な攻撃魔法を放てるようで、ある意味、国民総戦士の国と言えるかもしれない。
人間族は、崇める神の違いから魔人族を仇敵と定め(聖教教会の教え)、神に愛されていないと亜人族を差別する。魔人族も同じだ。亜人族は、もう放っておいてくれといった感じだろうか? どの種族も実に排他的である。もう少し寛大になれば良いのにと故郷を思い出しため息を吐いてしまう。
奴隷以外でトータスで奴隷と会えるのは【海上の町エリセン】だけらしい、海人族と言われる亜人族の町で西の海の沖合にある。亜人族の中で唯一、王国が公で保護している種族だ。
その理由は、北大陸に出回る魚介素材の八割が、この町から供給されているからである。全くもって身も蓋もない理由だ。「壮大な差別理由はどこにいった?」と、この話を聞いたとき呆れてしまった。
ちなみに、西の海に出るには、その手前にある【グリューエン大砂漠】を超えなければならない。この大砂漠には輸送の中継点として重要なオアシス【アンカジ公国】や【グリューエン大火山】がある。この【グリューエン大火山】は七大迷宮の一つだ。
七大迷宮とは、この世界における有数の危険地帯をいう。
ハイリヒ王国の南西、グリューエン大砂漠の間にある【オルクス大迷宮】と先程の【ハルツェナ樹海】もこれに含まれる。
七大迷宮でありながらなぜ三つかというと、他は古い文献などからその存在は信じられているのだが詳しい場所が不明で未だ確認はされていないからだ。
一応、目星は付けられていて、大陸を南北に分断する【ライセン大峡谷】や、南大陸の【シュネー雪原】の奥地にある【氷雪洞窟】がそうではないかと言われている。
(やっぱ砂漠は無理かな……だとすると、もう帝国に行って奴隷を見るしかないんだろうけど……流石に奴隷なんぞ見て冷静でいられるかね)
帝国とは、【ヘルシャー帝国】のことだ。この国は、およそ三百年前の大規模な魔人族との戦争中にとある傭兵団が興した新興の国で、強力な傭兵や冒険者がわんさかと集まった軍事国家らしい。実力至上主義を掲げており、クーデターが楽そうな国だ。
この国には亜人族だろうがなんだろうが使えるものは使うという発想で、亜人族を扱った奴隷商が多く存在している。
帝国は、王国の東に【中立商業都市フューレン】を挟んで存在する。
【フューレン】は文字通り、どの国にも依よらない中立の商業都市だ。経済力という国家運営とは切っても切り離せない力を最大限に使い中立を貫いている。欲しいモノがあればこの都市に行けば手に入ると言われているくらい商業中心の都市である。
(はぁ~、結局、帰りたいなら逃げる訳にはいかないんだよね。さて、体を動かしてこようかな。)
結局、ただの現実逃避でしかないと頭を振り、固まった身体を解すため図書館を出る蓮。王宮までの道のりは短く目と鼻の先ではあるが、その道程にも王都の喧騒が聞こえてくる。露店の店主の呼び込みや遊ぶ子供の声、はしゃぎ過ぎた子供を叱る声、実に日常的で平和だ。
(やっぱり、戦争なさそうだからって帰してくれないかなぁ~)
蓮は、そんな有り得ないことを夢想した。これから始まる憂鬱ゆううつな時間からの現実逃避である。
奴隷
蓮の前世であるーーの生まれ故郷“戦士の国”では非戦闘者は労働力として他国に販売を行なっていた。
蓮の母親は幼い頃に国防軍に連れて行かれ死体として帰ってきた。
復讐を行おうと訓練し明日復讐を行うと言う時、黒炎竜に国を焼き払われた。生き残ったのは蓮と蓮の部下1人と4人の奴隷の6人だった。
その後、通りかかった戦技団に拾われーー王国騎士となる。