「ここは相変わらずだな」
そう言い、漆黒のクローブを纏い、オラリオを見つめる男。
遡ること5年
オラリオ史にのこる最も恥ずべき事件が起きる。
あるものは、未来の英雄の失墜。あるものは英雄を英雄たらしめる証であると。
ロキファミリアに所属する、いずれ時代を代表する英雄になると呼ばれるクライヴを標的とした裁判が起きる。次期英雄に汚名を着せ、個としての力を秘めすぎたロキファミリアを少しでも弱体化させるために何もかも仕組まれた、悪神達による暴挙。
きっかけは、些細な出来事であった。暇を持て余す神たちは人間を弄ぶものもいる。その一神が余暇の中で手に入れた当たり障りもない裏の情報とクライヴが一致していた。
ある大罪人は自身が捕まえた者を奴隷にし、奴隷の証に顔に呪いともいえる魔法でできた刺青を入れるらしい。
しかしながら、その大罪人と奴隷たちはもう存在しない。なぜならある日突如として現れた、炎の化身によってこの世にカケラを残さず死んだらしいのだ。
そのはずなのだ。しかし、その一神がみた奴隷の証である紋様には見覚えがあったのだ。大都市オラリオに所属する二大巨頭ファミリアの内、一つであるロキファミリアに所属するクライヴ・ロズフィールドの頬にである。それに加えて、クライヴ・ロズフィールドは炎を扱う者と聞き及んでる。
一神は大いに邪悪な笑みを浮かべ、人間を弄ぶため、ロキファミリアを陥れ自身の権力拡大を目的に、穢れた野心をもつ他の神を巻き込み、嘘の記事書き、情報をオラリア中に広げる。
大罪人クライヴ・ラズフィールドは元奴隷であり、主人と周りの奴隷たちを含め殺したと。
その際、証拠を隠蔽するために火を放ち、遺体をこの世から隠したのだと。
当初、この記事を信じるものは全く存在せず、ロキファミリアは勿論のこと真っ向から否定し、もう一つの二大巨頭のファミリア、フレイアファミリアすらもコレは全くの出鱈目であると否定した。
しかし、この事件は急展開を迎える。
渦中のクライヴが一部を認めたのである。
自身はもと奴隷であり、その主人を殺めたのだと。
これは多くの者を動揺させ、あれよあれと事件を悪神たちの優位な方に進めた。
その結果、次期英雄は裁判にかけられ、公判が下された。今までの実績と功績を鑑みて5年間のオラリオを追放。それに加えて、オラリオ外での奉仕活動である。
当初は永劫のステータスの剥奪と追放。つまりロキファミリアとオラリオに永久に関わることが許されず、孤独を享受しろという要求であった。
コレを主神であるロキとロキファミリアは許さず、長きにわたる抗議とロキの熱心な神友のたちにより緩和されたのだ。
だが下されたものは実質的に5年間のオラリオ、ロキファミリアからの追放。まだ納得がいかないと抗議を続けるロキ達を宥め、クライヴはこの判決を受け止めた。
判決から数刻。
ロキファミリアの一室からオラリアを眺めてる堕ちた英雄の影あった。
「ここに居たのか」
そうクライヴに声をかける人物は、ロキファミリアの副団長リヴェリア・リヨス・アールヴである。
「ああ、この景色を記憶に留めておこうと思ってな」
そう言いながら、目をリヴェリアに配らせたのち再度前を観る。
リヴェリアにはその背中はえらく儚げで風が吹けばすぐにでも崩れそうな、子供が泣いている様子を彷彿とさせた。
「裁判ではああなったが、お前が出ていく必要はない。私が...私達が必ずお前を一人にしない。何処にも行くな。ここにいろ!」
言葉を紡ぎ始めると沸々と奥に秘めていた感情が表に出てくる。最後の言葉なんて怒気すら含めていたかもしれない。しかしそんな事構うものかと次々と言葉が溢れ出る。
「お前がどんな奴かなんて私が一番知っている。王族であるお前が何故ここに来たのかも、どんな屈辱を耐えてここにいることも!他の誰にもお前を否定させない!そんなこと私が許さない!クライヴ!だから...」
目に熱いものが込み上げてくる。喉の奥がキリキリする。胸の奥がドクドクと締め付けてくる。きっと顔はみっともなく感情が剥き出しになっているだろう。それでも、目の前のクライヴを引き留めようと体が、頭が、心が動く。
そんな、リヴェリアを見てクライヴは困った様な笑みを浮かべた。
「そんな悲しい顔をしないでくれ。もう一生会えない訳でもないんだ。五年我慢すればまた会える。」
「でも..」
そんなのあんまりではないか。なんでこれ以上お前からなにかを奪うのだとリヴェリアはクライヴの運命に怒りと悲しみが沸く。
しかし、その怒りも悲しみ満ちた運命もクライヴは受け止めてみせるかの様な顔でリヴェリアを見つめる。
「約束だ。必ず帰ってくる。なに少しの息抜きにでもなるさ。だからロキファミリアを、みんなを頼む。」
私も連れていって。その言葉をロキファミリアとしての立場が、クライヴの言葉が、覚悟が押し留める。
「ずるぃ..ぞ...」
きっと私は今酷い顔をしている。そんなことをわかっていても表情を取り繕うことができない。胸の奥の悲しみを抑えることが出来ないのだ。
「や..く....そく..だぞ」
言葉もままならない。
「約束だ」
その言葉を聞き、クライヴに寄りかかるように近づき、泣きじゃくる。
もうこれ以上我慢する必要はないと言わんばかりに。
その次の日。
オラリオから未来の英雄は姿を消した。