「ねぇ!どうなっちゃってんのよ!(マジギレ)」
ざわつく法廷で、裁判官・花岡は憤っていた。
自らが担当する新エリー都を震撼させた虐殺未遂。
それも社会的思想のある過激なテロリストの破壊活動ですらなく、著名な企業が己の利益の為という前代未聞の事件である。
力無き新エリー都市民が「次は自分たちが贄となるのでは。」「他の企業も皆そうなのではないか。」と不安を覚えるのも無理からぬことであった。
であればこそ、自分たち法の番人が如何なる干渉も忖度もなくパールマンに厳正な裁きをくださなければならない。
正義はここにあるのだのと。罪なき市民の明日は自分たちが守らねばならないのだと。
その花岡の思いは、虚しくも踏み躙られることなる。
「被告及び原告代理人を乗せた飛行船が行方不明!?」
「ハッキングを受けた可能性があります!」
「現在位置は!?」
「そ、それが途中から管制室に送られる座標データが通常ルートのものと入れ替えられておりまして、捕捉できていません!」
「飛行船をハッキングして奪ったうえで偽装データによる改ざん!?」
「どうみても個人で出来る犯罪のレベルを超えているぞ!!」
「誰がこんな…!」
皆一様に戸惑い、そしてこれによって誰が一番得をするのかわかっていた。
法という砦が、今まさに再び蹂躙されようとしていることも。
時が止まったかのような裁判所で、花岡が怒気をまき散らしながら叫ぶ。
「新エリー都の裁判はどうなっちゃうんだよこれ?こんなんで?いいのかよこれ?」
同時刻、武装集団を尋問するヴィクトリア家政・パエトーン・迫真空手部もその情報を掴んでいた。
正確には、より真相を得ていた。
「うわあああああ!!
分かった!言う!言います!全部言うからもうやめてくれ!!!」
「もっと早く素直になってりゃ、痛い思いしなくて済んだってはっきりわかんだね。」
「そうだよ(便乗)」
ライカン、リン、木村は「(お前ら話す前にヤることヤったじゃねえか。)」と内心で思いながら、哀れな捕虜に縄をかけた。
飛行船をハッキングしたのは、パエトーンの探し人レイン。
もちろん、レイン本人はこのような愚行を犯す思想犯ではない。
武装集団により拉致され、無理強いされていたというのが真相である。
飛行船をハッキングし、通常ルートから離したうえで、パールマンのカバンに仕込まれた催涙ガスでパールマンごと邪兎屋、操縦者を眠らせる。
ハッキングにより仕込まれた行先は、ちょうどリンたちのいるバレエツインズが呑まれたホロウである。
むろん、安全に着陸させるつもりなど毛頭ない。
ホロウという追跡困難な場所に誘導、墜落させてもろとも消し去るのが目的であろう。
サラというパールマンのさらに裏にいた黒幕の存在を知るパエトーンと空手部からしてみれば、そこに行きつくのは三浦以外は容易かった。
サラの思惑は概ねうまく運んでいたといえる。
誤算があるとしたら、ビリーがケチって故障した安物の呼吸モジュールをしたまま搭乗した結果、昏睡することなくパエトーンと連絡を取ってしまったということだろう。
即座に動き、武装集団の鎮圧及びレインの救出に成功した一行だったが、飛行船の制御を手動に切り替えるには、飛行船がバレエツインズの上空をわずかに掠めるまでに屋上に設置された防御装置を取り除くほかない。
当然、そうはさせまいと武装集団が屋上までの最短ルートは爆破して封鎖した。
一行が屋上にたどり着くには、高濃度浸蝕エリア__つまりは危険なエーテリアスが跋扈する魔境__を踏破せねばならない。
一行が、屋上につながるルートを目指し、B棟の広いホールに足を踏み入れた。
「やはり、来ましたか。」
それに、あの白いエーテリアスが立ちふさがる。
「でも、おかしいよあのエーテリアス。なんかボロボロだ。」
「カリンと戦った時も、あそこまで深手は負わせられませんでしたよ!?」
ドサリと重々しい音と共に白いエーテリアスが倒れ込んだ。いまにも消滅しそうである。
もしや、勝機なのでは。
そのように一行が期待したのも無理はなかった。
しかし、敵はそれだけではなかった。
「な!?」「エーテリアスが!」「もう一体!?」
白い小柄なエーテリアスの後ろからぬるりと現れたのは、それより一回り大型の黒いエーテリアス。腰には立派な大太刀を佩いていた。
そして、一行は次の瞬間に信じられないものを目撃する。
「ア゛ア゛ーッ! ざけんじゃねぇよオイ! 誰が負けていいっつったオイオラァ!(大声)」
大柄な方の黒いエーテリアスが、小さい方の白いエーテリアスを大太刀の峰で叩き始めたのだ。火花が飛び散り、金属と金属が擦れ合うような高音が響く。
「な、なにあれ...?」「同士討ち...でしょうか?エーテリアスが?」
「ヤダッキッヤダッユウコトキクネッチョ、ユ゛ウ゛コ゛ト゛キ゛ク゛カ゛ラ゛ヤ゛メ゛テ゛!熱い、熱っつ…あっついねん!(関西弁)」
あまりの威力と速度に、打たれた白いエーテリアスの身体は刀鍛冶が打つ刀の如く赤熱する。
「やーだやめてタタカナイデ!タタカナイデヨ!でら痛い!痛いんだよォォォォ!!(マジギレ)」
耳をつんざく絶叫とともに、凄まじい衝撃波が彼らを襲った。
「な、なんですか!?」
「エーテリアスが、復活した!?」
白いエーテリアスが飛び起きた。
消滅が止まり、再度の戦闘体勢に入る。
「白いエーテリアスのエーテル反応が増大!あ、でも同時にあの黒いエーテリアスの持ってる刀からエーテル反応が減衰してるぞ...。あの刀、エーテルを周りに供給できるのか!?」
『助手2号、観察が足りていませんね。刀のエーテル反応はいまこの瞬間も凄まじい速度で回復しています。』
確かにfairyの指摘通り、刀から漏れ出すエーテルは既に刀身から溢れ出さんばかりだ。
「馬鹿な!?あの一瞬でここまで!?一体どこから....。まさか、ホロウの大気中のエーテルを喰っているのか!」
『36点....。普通ですね。』
白い方のエーテリアスの復活に一行が動揺した瞬間、黒い方のエーテリアスが凄まじい速度で接敵し、剣戟を放った。
狙いはカリン。
「きゃ!?」
カリンは驚きつつも、手に持ったチェーンソーでその三連撃を凌ぐ。
しかし、それこそエーテリアスの狙い。
攻撃を受け切り、反撃を加えんとカリンが一転攻勢を狙うその刹那。
カリンの顔面に先程の斬撃とは比べ物にならないほどの速度の刃が迫っていた。
「「「「「「なっ!?」」」」」」
家政も空手部もパエトーンも、それに全く対応できなかった。
それに反応できたのは、ただ一人。
「ンアーーーーーーッ!!」
寸前のところで、カリンとエーテリアスの隙間に刀を刺し込んだ野獣のみであった。
刀と刀がぶつかり合い、火花を散らす。
必殺の一撃を防がれたエーテリアスは、深入りせず離脱を選んだ。
「カリンちゃん、無事!?」
エレンが駆け寄る。
顔面蒼白に染まるカリンの頬はパックリと裂けていた。
一瞬でも野獣が遅れをとれば、その細い首は地面に落ちていただろう。
「傷は浅いです!すぐに止血しましょう!」
木村とリナが、止血剤とテープで応急処置を行う。
それを庇うように、ライカンが前に出た。
「田所様、感謝致します!
一度ならず二度までもカリンの命を救っていたただきました。
あの妙技を初見で防ぐとは流石でございます...。」
「...初見じゃあないんスよ。」
「!?__と、いいますと?」
あえて速度を落とした三連撃で相手の武器と油断を誘い、間髪入れずに神速の一撃を放つ、葛木流の暗殺剣 淫夢之一太刀 四の型『
「どういうこと?あの技も淫夢之一太刀なの?」
リンが驚くのも無理はない。このような珍妙な剣術を使うものが他に__ましてやエーテリアスが使用するなど、想像だにしなかった。
そして、野獣は重々しく口を開き、隠していた事実。否、確信に至った事実を告げる。
「…あの小さいエーテリアスは、俺の弟弟子ひで!
そしてデカいのは俺の師匠・葛木さんだ!」
その男は、野獣の弟弟子にして葛木流最後の弟子。
その男は、野獣の扱う剣技・葛木流の師。
バレエツインズにおいて演武を行う予定であった彼ら師弟は運悪くホロウ災害に巻き込まれ、そのまま行方知れずとなっていたのだ。
「...わかってたんスよ。あの人たちが、エーテリアスに負けるはず無いってことも、周りの人を見捨てて自分たちだけ助かるなんて真似もできないってことも!
...その結果、あの人たちがどうなったかってことも。」
野獣が、刀を構える。その切先は僅かに震えていた。
「確かめるのが怖くて、認めるのが辛くて、ずっと見て見ぬ振りしてたんス。
でも、やっぱりこのままじゃいけないってはっきりわかんだね。
...俺がやらなきゃいけないんです。
師匠は俺がなんとかするからさ、みんなはあのバカ弟子のほうを頼むよぉ〜。」
「そんな、無茶ですよ先輩!せめて僕ら空手部だけでも加勢を...!」
木村は食い下がるが、三浦がそれを引き止める。
「....野獣、任せるゾ。必ず勝って、帰ってこい。先輩命令ゾ。」
その言葉に、野獣は振り向かずに無言で手を上げた。
三浦もそれに応じ、すれ違い様に互いの手を叩き鳴らした。
今は刻一刻を争う事態。本来なら、戦力を二等分して確実に2体を処理すべきである。しかし、そこには正論を挟ませない迫力があった。そこには男達の奇妙な詩があった。
「三浦様、よろしいのですね。」
「すまんゾ、プロキシに家政の皆。何かあれば責任は俺がとるゾ。」
三浦が頭を下げた。それには、野獣が失敗した時は彼の覚悟を踏み躙ってでも一騎打ちに手を出すという三浦の決意が含まれていた。
家政もパエトーンも、長年苦楽を共にした木村も、野獣の心の内を慮る。
無理もない。かつての師を斬らねばならないのだから。
まさに身を斬るような悲しみだろう、と。
それはある意味で正しかった。
しかし、野獣はそれ以上の感情を抱えていた。
それは、怒り。
葛木は、子供好きな男だった。
野獣やひでに対する鍛錬はもはや虐待と言われても差し支えのないものだったが、決して子供に本気の殺意を向けるような男ではなかった。
しかし、先程の一撃は刺すような冷たい殺気を放っていた。
それも、カリンのような少女を狙って。
一番弱そうだったから。殺しやすそうだったから。
ただそれだけの理由で。
エーテリアスからしてみれば、至極当然な合理的判断であろうことは間違いない。
それでも、子供に優しかった葛木がそのような凶行を犯したことに怒りを隠せなかった。
きっと一度や二度ではないのだろう。
葛木の背後の、血に濡れた小さな靴やぬいぐるみがそれを物語っていた。
「頭にきますよ!」
これを招いた師匠に、そしてなにより今まで放置していた己に対し、野獣は過去最高潮に怒っていた。