迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

16 / 50
第16話 The Hide Shine

 

ひでの身体に、カリンとエレンの刃が振りかぶられる。

 

金属と金属が擦れ合うような耳を塞ぎたくなるほどの高い異音がホールに響き渡った。

 

二人の刃が交差するように振り抜かれ、ひでは壁に叩きつけられる。

 

土煙に消えたひでだが、渾身の一撃を入れたにもかかわらず、二人は警戒を怠らない。

 

 

「うわ!」「げ。」

しかし、カリンとエレンはふと己の得物を見て戦慄する。

カリンの丸鋸は歯が全てもぎ取られ、ピザカッターのように丸い円になっていた。

エレンの鋏にも細かい亀裂が入っている。

 

適宜交換することが前提のカリンの丸鋸は兎も角、エレンの分厚い刃があの短い攻防でこれほど痛むのは前例の無いことだった。

 

粉塵を掻き分け、ひでがゆっくりと歩みを進めた。

その身体に一切の傷は無かった。

 

桁外れの硬度である。

 

 

Fairyの警告音声が鳴る。

 

『推定。あのエーテリアスの外皮はヤメチクリウムで覆われている可能性が高いと思われます。』

「ヤメチクリウム!」

「知っているのかゾ!ライカンさん!」

「....特殊な環境下のホロウにのみ生成される、希少な金属です。私も文献で読んだことがあるのみでこの目で見るのは初めてでございます!」

 

ヤメチクリウム。

原子番号810 元素記号HiとDeの化合物であることは解明されているが、人類は未だ人工的に精製することに至っていない。

 

今のままではジリ貧となり、飛行船奪取に間に合わなくなることは必須。ゆえにパエトーンは一計を案じる。

 

「エレン、カリン、三浦!少し場を持たせてもらってもいい!?策があるの!あと三浦!ポッチャマ・ボンプを貸して!」

 

「…構わん。任せたゾ。」

 

これ以上の戦力の分散は当然ながら危険である。しかし、三浦は即座に承諾した。知将を称する己を上回る計略があるのだと、そしてエレンとカリンの力量ならば互いに背中を任せられるとの判断だった。エレンとカリンも無言でうなずく。

 

「ありがとう!必ず勝機と一緒に帰ってくるよ!」

 

 

パエトーンはその場から一旦後退し、ライカン・リナ・木村と額をつきわせる。

 

「ライカンさん、このビルの水道設備はまだ生きてるよね!?」

「水道管、でございますか?はい、確かに復旧しておりますが...。」

その意図が掴みかねないライカンだが、木村は即座に察した。

 

「成程!面白いことを考えましたねプロキシ!」

 

木村は端に寄り、壁面に設置された消火栓の中のバルブを開ける。

ホースから噴射された大量の水が床を濡らした。

 

 

その水面の上に、ポッチャマ・ボンプを置いた。

 

 

 

「…ほう。」

 

その様子に、ライカンとリナも合点したように頷いた。

「そういうことでしたか。慧眼で御座いますね。では、私たちも。リナ?」「ええ。」

 

リナが天井にワイヤーを伸ばし、通電させることでスプリンクラーを誤作動させる。

ライカンは記憶してきた見取り図から壁面に埋め込まれた水道管の位置を割り出し、壁を踏み砕いて内部の水道管を引き摺り出した。

 

天井と壁面から噴き出す夥しい量の水分が、室内を満たした。

 

ライカンが、恭しくポッチャマ・ボンプに腕を差し出す。

「エレンのところまでは、私がエスコート致します。」

 

その腕にポッチャマ・ボンプを抱え、家政一の俊足を誇るライカンが三人の場に戻る。

 

あとにリナと木村が続いた。

 

「三浦様、ただいま戻りました。エレンとカリンもよく持ちこたえましたね。」

「ボス、ナイス。これ以上は持たせらんないトコだった。」

「ごめんなさい!カリンももう替え刃がありません!」

「木村も戻ったかゾ!こいつすっげえ硬いゾ~!?」

 

 

 

エレンを一旦下がらせ、代わりに木村とリナが三浦とカリンを援護する陣形に組み替えた。

 

エレンの横でポッチャマ・ボンプが跳ねる。

「ボス、これあいつらのボンプでしょ?これが秘策ってどういうこと?いつのまにか周り水浸しだし、歩きにくいんだけど。」

「ええ、確かに。歩くことは難しくなりました。…しかし、泳ぐことは容易い。そうでしょう?」

「いや、いくら鮫のシリオンだからってこんな足首も浸からない水場じゃ泳げないに決まって…。ああ、成程ね。」

 

製氷機能を下げた代わりに、ポッチャマ・ボンプが周囲に展開および操作できる水分の量は、ペンギン・ボンプのそれをはるかに凌駕する。

 

ポッチャマ・ボンプの周りにかき集められた水が渦巻き収束していくことで、直径2メートルほどの巨大水球を形成した。

 

「よっと。」

エレンはその水球に勢いよく飛び込んだ。

 

「さぁ、反撃開始とさせていただきましょう。」

ライカンが突進する。

 

ひでの拳とライカンの脚が激突した。義足のフレームがキリキリと悲鳴をあげ、一部が砕ける。

 

ここまで見てきた手札では、己の防御は貫けない。

 

 

ひでには勝利への確信があった。

 

それ故、気づかなかった。 

ライカンの大柄な身体の背後に巧みに姿を潜ませていた、もう一人の刺客に。

 

「押し流されろ!」

エレンがひで目掛けて突進する。

 

即座にそれに気づき迎撃しようと爪を突き出すが、その場にすでにエレンはいない。

 

ひでは背後を取られていた。

先程とは比べ物にならない、驚異的な遊泳速度である。

 

その理由は、ポッチャマ・ボンプが生み出した巨大水球。

ポッチャマ・ボンプがエレンの尾にしがみつくことで、遊泳する彼女に追従するように巨大水球を展開し続けていた。

正に水を得た魚の如く躍動するエレンに、ひでは全く対応出来ずに後手に回るしかなかった。

 

鋏の刃でなく柄や峰での殴打は、確実にひでの内部に鈍い痛みを蓄積していく。

 

「サメハダーにアクアジェット!鉄板ゾ。」

「性格:ずぶとい なのはちょっと厳選妥協しましたね。」

「こいつらはふざけてないと心臓が止まるの!?マグロ以下じゃん!」

「マグロ野郎は流石にナオキですよ!」

「ああもう...。マジ黙れ。」

 

「ああ逃れられない(カルマ)!溺れる!溺れる!」

 

エーテリアスに酸素は必要ない。しかし、流れる水に絡めとられれば危機に陥るのは人もエーテリアスも変わらない。

まして、その周囲で捕食者が狙いを定めているのだからなおさらである。

 

 

しかし、いまだ致命的な一撃にはならず。

 

 

耐える。

 

耐えれば、その先の相手の渾身の一撃の間際の僅かな膠着こそ勝機。エーテリアスと化してなお、ひでに染み付く武芸者の経験と勘。

 

それは正しい。

 

 

エレンが、己にまとう水の鎧もすべて引き剥がして攻撃に転換する。

 

津波の一つ一つが鋭利な氷牙となってひでに襲い掛かった。

小規模な氷河とも呼べるそれはまさしく後のない、必殺の一撃。

 

迎撃せんと、ひでは前面に全力の防御を集中する。

 

 

 

それ故、気づかなかった。

 

己の背後に迫る2対のボンプに。

 

ドリシラとアナステラの電撃がひでに浴びせられる。

金属質な体のうえに、先ほどまでの攻防で水浸しになったひでにとってはまさに猛毒ともいえる一撃に硬直せざるをえなかった。

 

直後、エレンの一撃により壁に叩きつけられ、一部の装甲を貫かれた。内部に隠されていたコアが露出する。

 

なんとか動かせる腕で氷河を砕こうとするが、その動きが虚しく空を切った。

 

その手にあるはずの指が、捥ぎ取られていた。

 

 

 

 

「このような盗みの技、今更使うことはないと思っていたのですが...。」

ライカンがベロリと長い舌を出し、何かを吐き捨てた。

それは、鋭い爪の生えた指。ひでの指だった。

 

「その無作法な指、確かに頂戴致しました。」

 

もはや勝敗は決した。

 

エレン、カリン、ライカンが氷の檻に拘束されたひでに歩み寄る。

 

 

「ではその喉、嚙み潰して御覧に入れましょう。」

 

底冷えするような咆哮と共にライカンの牙が、人体において最も柔らかい喉笛に喰らいつく。

同時に、エレンとカリンが露出したコア目掛けて武器を振りかぶる。

 

「やだ、やだ、ねぇ小生やだ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!

 

 

 

…アーボ!」

 

哀れな絶叫を最期に、ひでは沈黙し塵に還る。

 

あとには、鈍く輝くヤメチクリウムのみが残された。

 

 




【TIPS】
因みに原作のバレエ姉妹の公演はホロウ災害の前日に行われたため、二人は今も元気にバレエを続けています。
ひでは死に、双子は生き残った。
なんだ一石二鳥じゃないか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。