「興奮させてくれるねぇ!好きだよ、そういう顔!」
葛木の剣と野獣の剣が交差する。
間合いも膂力も、葛木に分がある。
「動くと当たらないだろ?動くと当たらないだろぉ!?」
野獣はそれを補うため、危険を冒してでもより深く踏み込むほかない。
エーテリアス化しても衰えぬ葛木の一刀一刀を紙一重で避けていく。
「ちょっと刃ァ当たんよォ~! 九の型
「まったく困ったもんじゃい」
挑発なのか、エーテリアスに堕ちてもなお残る剣士としての矜持か。
野獣の放つ葛木流の技を、葛木は全く同じ技で叩き潰してくる。
野獣の
野獣の技を容易く呑み込み、夥しい裂傷を負わせた。
「あーもう面倒くせーまじで。師匠相変わらず強いっすね。」
苦笑しながら口内の血を吐き出す。
技の力強さ、冴え、練度。
どれをとっても己の遥か高みにいる。
それがどうしようもなく、このエーテリアスが葛木だという残酷な事実を突きつける。
葛木の刀を持った腕が、ハチドリの羽がごとく細かく振動する。
質量のある残像ともいうべきそれが、野獣に襲い掛かる。
「ファっ!?まずいですよクォレハ…。」
その技の正体を知るが故、野獣は戦慄する。
葛木流 淫夢之一太刀 七の型
武器破壊の技である。
当然人体に無害なわけでもなく、葛木ほどの練度のそれを生身で受ければ挽肉より酷い事になる。
かといって、今の負傷で避けることも不可能。
苦渋の選択で野獣は刀で受け、一命をとりとめる。
代償として、野獣の刀は柄を残して刃を砕かれた。
「オイオラァァァァァァ!!!YO!!!(日顕)」
もはや野獣に勝算は無しと踏んだか、葛木が大太刀を振るう。
野獣の手には、砕かれた刀しか残されていないのか。
否。
野獣の武器はもう一つある。
「俺の奥の手、見とけよ見とけよ~!」
刹那のタイミングで葛木の大太刀の鍔に折れた刀を打ち付け、その勢いのまま逆立ちするほどの勢いで回転して葛木の手元を蹴り上げた。
指を砕くことは叶わなかったが、刀は葛木の手を離れて高く高く舞い上がる。
野獣は渾身の力で飛び上がり、葛木より先に空中でそれを掴んだ。
「俺の、俺だけが掴んだ奥義。」
その瞬間、膨大なエーテルの奔流が刀身から放たれた。
適性のない人間なら、それだけで即座にエーテリアス化しかねないほどの凶悪な波長。
「葛木流
だから力貸してくれよなぁ〜頼むよ〜。)」
刀を構え、眼下の師の成れの果てを見据える。
狙いは頭部のコア。
振り下ろすは邪剣・夜。
「____
その一閃が、葛木の外皮を容赦なく貫く。
「イクイクイクイクイクイクイクイク_____」
迫真空手においてイキスギ・ラッシュと呼ばれる野獣の得意技。
そのホモ特有の呼吸をのせた乱撃を、拳ではなく刀で放つ。
迫真空手と葛木流剣術。その両方に精通する野獣の、野獣だけのオリジナル。
並の刀なら、その余りの威力に耐えきれず刀の方が即座にへし折れかねない。
しかし、いま野獣が手にするのは妖刀にして邪剣・夜。
刀身に触れたエーテルを喰らい、研磨と自己修復を繰り返す、葛木流の至宝である。
故に、唯一この技に耐え得る。
「______イクイクイクイクイクイクイクイクイクイク、ンアーーーーーーッ!!」
土煙と轟音とともに、葛木が地面に叩きつけられた。
何かが潰れた音が響く。
「__ずっとこの技を師匠に見てもらいたかったんスよ。やっと叶いましたね。」
よろめきながら葛木が立ち上がらんとする。
しかし、野獣は刀を抜かない。
コアは完全に貫かれ、砕けている。
もはや、決着はついていた。
それでも葛木はゆっくりと背筋を伸ばし_____、
一礼を行なった。
「ファッ!?」
野獣も、反射的にそれに倣う。
考えてのことではなかった。
試合の後の一礼を欠かせば、葛木から折檻を受けることが確定する故に叩き込まれた反射的行動。
命の取り合いの場において相手から視線を逸らすなど愚の骨頂である。即座に頭を上げようとする野獣は、その刹那に確かに聞いた。
「
「え!?」
視線をあげるが、そこには何も無い。
葛木はチリ一つ残さず消え去った後だった。
残ったのは、手元の刀一振りのみ。
「……。」
野獣は誰もいなくなったホールにもう一度と深々と一礼を行い、その場を後にした。
「野獣、戻ったかゾ!」
階段の下に、三浦が立っていた。
「先輩、良かった…。」
その後ろで木村が安堵の表情を浮かべる。
「お ま た せ。」
「……。」
いつも以上におどける野獣の様に、三浦は無言で肩を叩いた。
「いくぞ。帰って木村でお楽しみだゾ。」
「台無しだよ。」
顔をしかめる木村の蹴りと共にリンが三浦の尻にグレース謹製スタンガン(若干手心)を浴びせる。
「空手部の皆さま、屋上はすぐそこです!急ぎましょう!」
懐中時計をしまって駆け出すライカンを先頭に、階段を駆け上がった。
月に照らされた屋上から、激突しそうなほど迫る飛行船が見える。
「飛行船の制御は返したよ!!!急いで!!」
屋上の制御装置をレインが素早く解除し、その制御を手動に切り替える。
「時間がありません!カリン!エレン!」
ライカンの号令とともに、カリンとエレンが刃の破損した武器を構える。
両足で武器を踏み込ませ、カリンとエレンがライカンをかちあげた。
「木村!俺たちもだ!野獣が行け!!」
「はいっ!」「ん おかのした。」
空手部もそれに便乗し、腰を落とした木村と三浦の両手が踏み台になって野獣をかちあげる。
仲間の支援をもらい、ライカンと野獣が素早く屋根を走り抜ける。
「す、すごい!ライカンさんめちゃくちゃ早いですよ!」
「間に合うぞ^~コレ!」
二人が高速で屋根を走る姿に安堵するパエトーンと木村と三浦。
しかし、ヴィクトリア家政の面々の表情は芳しくなかった。
「ボス、全然速度が出てない....!」
「ライカンさん!やっぱり、さっきの戦いのせいで義足の調子が!」
横で走る野獣も、見るからに苦しそうに走るライカンの表情からそれを察していた。
みるみるうちにライカンの速度が落ち、ついには野獣と並走したあたりで、3人も異変に気づく。
しかし、歩みを止めるわけにはいかない。
「飛行船行き過ぎィ!行く行く行く!(さっきのエレンちゃんとカリンちゃんみたいに俺がライカンはんを打ち上げるしか無い!
素手じゃ無理だから、あの義足に耐えられる棒かなんかを速攻で探すしかないってはっきりわかんだね。)」
少しでも速度を出すために刀を下に置いてきてしまったことを悔やみ、野獣は歯軋りした。
それでもなんとか屋上で同時に上り詰めた野獣、そしてライカン。
義足の破損を考えれば、驚異的な速度であった。
しかし、時間とは残酷なものである。
飛行船は限界距離を通り過ぎ、ライカンの跳躍力が万全であっても辿り着けない位置を飛行していた。
「こっちだーーっ!早く来てくれーーっ!」
必死で手を振るビリーが遠くなる。
「なんかないか!?でっかいパイプとかなんか!?」
野獣が必死で辺りを見渡す。
当然、そんな都合の良いものは存在しない。
ライカンの踏み込みに耐え得る物など、せいぜい野獣が先程手に入れた邪剣のみ。
そして、それが今、二対のボンプに抱えられて野獣の目の前にあった。
「ファッ!?!?!?」
「持ッテキタ。持ッテキタ。」「シクジッタラ バラ撒クゾ ステハゲ!」
「お客様のご要望に完璧にお応えする。ヴィクトリア家政のモットーですわ。」
階下でリナが恭しく野獣に一礼する。
「流石は家政、やりますねぇ!
ライカンさん、行きますよ~行きますよ~行く行く!」
「田所様、お願い致します!」
野獣がライカンに峰打で刀を振い、それをライカンが義足で受け止める。
「ヌッッッッッッッ!!!」
野獣の膂力と膨大なエーテルの奔流の支援を受け、ライカンが空を駆ける。
空中を錐揉みするライカンだが、やはり距離が離れすぎていたのかわずかに距離が足りない。
この高さから地面に落下すれば、確実に命はない。
「(間に合わないか…!!)」
ライカンが苦悶の表情を浮かべるが、落ちる寸前に金属質な冷たい拳がそれを掴んだ。
「へへっ!あんた命綱もナシに無茶しすぎだぜ!初代のアレみたいだな!」
まるで特撮番組からそのまま飛び出してきたようなメタルなヒーローが、今宵のヒーローを飛行船のブリッジに引きずり上げた。