第19話 お青青はさぁ、ご褒美なんだよっ!
某日、治安局 第一会議室。
細長いテーブルを囲む治安官たちの放つ重苦しい空気で室内は満ち満ちている。
全員、疲労の色は隠せない。ここ数日、立て続けに事件にかかりきりでまともに休息をとれていないのだ。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。
議題につきましては全員おおよそ察しがついていると思われます。
最近、急激に活動及び危険性の増しているとある反社会組織についてです。」
目元に隈をつくりながらも、劇エロ痴安官の朱鳶はプロジェクターの電源を入れた。
ホワイトボードに一人の男が映し出される。
茶色に染めた長髪に日焼けした肌。趣味の悪いサングラス。筋骨隆々の上半身と、それに反比例した貧弱な下半身。
「首謀者は拓也。そして、率いる反社会組織の名は拓也組。」
同時に、朱鳶が作成した分厚いレジュメを各員がめくる。
「拓也組の違法活動は多岐に渡り、我々も完全には把握しきれていないのが現状です。
ホロウ内での窃盗・暴行・殺人・誘拐、武器の製造及び密売、未認可バーの経営、違法売春、未成年調教、怪文書作成、水没プレイ(2回目)、聴覚障害者と偽りゴーストライターを使った作曲による売名行為、大人気AV男優、5倍ナルガ、週刊少年ジャンプ連載、B°zのギター担当。
進撃の巨人のアニメのメインボーカルとして年末の紅白に出て、お茶の間の失笑を買ったとの報告も上がっています。」
悔しそうに朱鳶は拳を握りしめる。
無理もない。アニメのナレーションを担当した彼女にとっても無関係では無いのだ。
配られた資料の前半に載せられた、拓也組の起こした惨状に正義感の強い治安官たちが憤る。
後半の所業に関しては「水没プレイは加害者じゃなくて被害者だろいい加減にしろ」「人違いでは」「千年血戦編アニメ化おめでとうございます」といった声が相次いだ。
「拓也組は先月にホワイトスター学会の研究施設を襲撃し、施設にあった試作型AI一体装甲【のべ りすと】を強奪。それにより、大幅に戦力と組織運営能力を増強しています。」
治安局は拓也の身柄に3,000ディニーの懸賞金をかけたが、いかんせん有力な手がかりすら得られていないのが実情であった。治安官から「ふざけんな(声だけ迫真)」「流石に安すぎるだろ」「中学生のお小遣いかな?」「たくや?指名手配が入っています。すぐ来れますか?」等、その効力を疑問視する声が多くあがった。
「拓也組には、近年頭角を表し始めた二人の幹部がいます。
一人はこの女。通称:ジェーン・ドゥ。本名不明。」
資料にクリップで挟まれた顔写真には、妖艶な雰囲気のシリオンの美女が映っていた。
「そしてもう一人、こちらも本名不明。
通称:
もう一枚の写真には、口を開けて五歳児のような呆けた顔をさらす池沼のような大男が映っていた。
同時刻、RandomPlay店内__。
「盗聴してる分際でこんなこというのアレだけどさ、なんなのこの地獄みたいな会議...。(白目)」
「朱鳶さんだけじゃない、青衣もセスも、他の治安官も全員働き詰めで疲れてるんだよ。早くこんな案件は片付けて、通常の業務に戻してあげないと。(白目)」
『お、そうだな。です。』
「あーもう滅茶苦茶だよ。」
パエトーン兄妹は今回、依頼を受けて治安局の捜査に協力することになったのだが、よりによってその依頼主に盗聴という犯罪行為を行っているのには、もちろんそれなりの理由がある。
そもそも今回の依頼は、三浦から持ち掛けられたものである。より正確にいうのなら、三浦の仲介の元の孫請けに近い形式である。
本来の依頼主は、三浦たち迫真空手部の師匠である秋吉と名乗る男である。以前は刑務所の署長を務めていたのだが、現在は治安局及びその予備生を育てる訓練学校にて近接戦闘及び逮捕術の教官を務めているのだという。
電話越しの声からでも圧倒的強者の風格が漂うその男によれば、治安局は拓也組に対しすでに
そう、ジェーンと三浦である。
ジェーンは治安官の中でもごく一部しか知らされていない犯罪行動学の外部顧問として。
三浦は秋吉の弟子の中でも屈指の実力者として。
潜入捜査官と治安官による、内外からの同時捜査による一網打尽の作戦。
これらの作戦は、万が一外部に漏れる可能性を排除するため、朱鳶等のごく一部の治安官しか把握していない。
拓也組という危険な組織を排除することは、一市民であるアキラとリンにとっては喜ばしいことであるが、同時にパエトーンとしては特段積極的に関与する動機の薄い案件である。
それでも尚、盗聴という危険な橋を渡ってまで秘密裏に捜査協力を行っているのには理由があった。
一つはパエトーンの協力を朱鳶すら知らないということ。知っているのは秋吉と、今まさに潜入捜査を行っているジェーンと三浦の3名のみである。因みにパエトーンの正体はジェーンにも知らされていない。
もう一つは、司法取引である。
秋吉曰く、アキラとリンがパエトーンであることは一部の治安局上層部にすでに知られているのだという。
それでも逮捕に至っていないのは、パエトーンが積極的に危険な反社会的行動及びそれらへの加担の兆候が見られないこと。そして彼らのホロウ内での調査能力を高く評価している故に、敵対するよりは味方に引き入れたいという思惑があった。平たく言えば泳がされていたというのが実態であった。
既に非公式とはいえ別件でパエトーンと協力体制をとった経験のある朱鳶と青衣が、然るべきタイミングでその担当窓口となる予定となっている。無論、未確定事項ということもあり本人たちには未だこの件は知らされていない。
そのため、これはパエトーンにとって治安局という公的組織との共同捜査のデモンストレーションともいえた。
「食い止めろォ!」「クソ、なんだって治安官が」「またピネだ」「俺もうね、逃げる」
朱鳶・青衣・セスたち捜査班は、たった三人で数多の拓也組を戦闘不能にしていく。
「大人しく投降するんだ!」「三人に勝てるわけないであろう!」
しかし、その進撃を食い止める二人の影があった。
「警戒!二時の方向!」
拓也組に潜入するスパイのジェーンと
「お巡りさん、こんな所までご苦労様ね。」
「貴方たちは包囲されています。逃げ場はありませんよ?(このまま私たちと交戦したのち撤退。その後拓也組の拠点を特定してください。)」
「冗談でしょ?アタイらは拓也組でもっともっとのし上がる(拓也組における親衛隊昇格の目途が立った。)
あんたら程度、追い払うのに何の支障もないわ(了解、作戦に支障なし。)」
ジェーンは朱鳶と事前に示し合わせたジェスチャーや隠語を用いて、作戦の進捗及び今後の行動を確認しあう。
因みに朱鳶とのハンドサインの情報交換を三浦も行うことをジェーンは試したのだが、池沼の三浦はそれらを一向に覚えることができず、やむなく背後で知将面をしながら無駄に威厳をだして仁王立ちする他に無かった。
朱鳶が牽制としてショットガンをジェーンの足元ギリギリに着弾させる。
同時に、ジェーンが回り込むように柱の陰に隠れる。
「青衣先輩!セス君!ジェーンの後ろの二人を無力化!私はジェーンを確保します!」
それを合図に青衣とセスは突入し、拓也組との戦闘が始まる。
火炎瓶を持った拓也組構成員は、青衣の三節棍に手元を弾かれて無防備を晒し、セスの警棒に意識を狩り取られる。
「喝ッ!」
その隙に乗じて三浦の重たい一撃が迫るが、それをセスは難なく盾で受け止めた。
セスの装備や身体を傷めないようにある程度手加減こそした三浦だが、それでもその一撃を軽やかにいなして見せた年若い治安官に内心舌を巻いた。盾で半身を隠しつつ、三浦の体勢を崩さんと秋吉直伝の足払いを放つ抜け目のなさも驚嘆に値した。
「オルルァ!!」
しかしすかさず裏拳を放ってそれを妨害し、セスの身体を弾き飛ばす。
背後から捜査班を銃で狙っていた拓也組は、そのまま壁に向かって吹き飛ばされたセスによる体当たりによって気絶させられた。
「神妙にお縄につけい!」
変幻自在の青衣の三節棍の動きを、三浦は完璧に見切ってその端を掴んでみせた。
「なんと!?」
そのまま知能構造体特有の重量を物ともせず、体を回転させて三節棍を青衣ごと振り回して投げ捨てる。
「ぎゃあああああ!?」
その落下点にはまたしても拓也組構成員がおり、空中で体勢を立て直した青衣に踏み抜かれて戦線離脱を余儀なくされた。
「(先ほどからの こ奴の動き、まさか…。)」
ここで青衣も、この作戦行動の裏に隠された真意を読み取った。
「(成程。彼を知り己を知れば百戦殆からず、というわけか。これはセス坊に聞かせれんわけだ。しかし、いささか過保護がすぎるぞローウェル監察官殿。)」
青衣はまだ青々しい正義感をその身に宿す後輩と、恐らく彼に作戦の詳細を伝えることを良しとしなかった上層部を案じた。
拓也組構成員はあらかた倒され、残りはジェーンと三浦を除けばあと二名ほどしか残っていなかった。
「アタイ、飽きてきちゃった。そろそろ潮時にさせてもらうわ!」
朱鳶と偽りの一騎打ちを演じていたジェーンが、頃合いと判断して撤退の合図を送る。
朱鳶も頷き、いったん引いて柱の陰に隠れてリロードを行いつつ、ジェーンにスモークグレネードを放つ猶予を与える。
煙幕が焚かれ、視界が煙に包まれる。
しかし、辺りが白く埋まる刹那、その隙間から明らかにホロウに迷った一般人の集団が歩いているのを朱鳶の視界がとらえていた…。
【TIPS】
セス兄は鰤の白哉お兄様とか踊るの室井さんみたいなキャラだとおもう。
相棒の内村完爾警視長みたいな奴だったら…ナオキです。