迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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第22話 Cocking star

「ご注文、まいどありぃ。お望みの品は言われた場所に確実に護衛付きで置くよ。

イニ義、タカダ。頼んだよ。」

 

「へい。」「任してください、(あね)さん。」

イニ義に続いて返事をしたタカダと呼ばれた男は、先ほどジェーンに酒とつまみをもっていった男だった。

 

「あら、このお兄さんただのウエイターじゃなかったんだ。」

「当然さ。アタシの護衛も兼ねてるからね。ウエイターとしちゃあ役不足じゃなきゃ困る。」

 

ジェーンは挨拶がてらタカダと握手をする。

「(なるほど、本職はスナイパーね。)」

ジェーンはタカダの指の感触から、トリガーガードに触れる中指側面や、反動を受ける人差し指と親指の間が常人よりぶ厚いことを見抜いた。間違いなく、日常的に狙撃銃を扱う者の指である。

 

「目的のルートまでは、アタイたちが手配したプロキシがあんた達を誘導するわ。三浦、アレ渡して。」

「お、そうだな。」

三浦は懐から通信機をとりだし、イニ義に渡した。

 

「訳あってプロキシに直接合わせることは出来ないんだゾ。

でも、向こうに話は通してあるから上手いこと連携してくれゾ。」

「三浦、ホロウ内では通信は出来んのやぞ?」

イニ義は訝しげに渡された通信機と三浦を交互に見つめる。

 

「そこは問題ないわ、安心して。」

「?」

「開けてびっくりのお楽しみよ。」

 

腑に落ちないイニ義に、ジェーンは意味深な笑みを浮かべて返した。

 

「わかったよ。行きな。」

「いいんですかい、姐さん。」

「ここであたしらに泥かけるようなマネをしても、奴らにメリットが無いからね。こういう手合いは、他の誰かを裏切っている間だけは信用できるのさ。」

 

店を後にする直前、NYN姉貴が「ああそうだ」とジェーンに声をかけた。

 

「ウチ、賭けボクシングの斡旋もやってるんだ。ここと郊外の狭間でね。お姉さん強そうだし、登録しない?

ちょうど最近女子の部も作ったんだけどなかなか盛況でねぇ。あんたみたいな花形が出来れば嬉しいんだけど。」

「冗談。あれ、借金で首が回らなくなったやつが行き着くトコでしょ?」

「ククク。なんだ、知ってたのか。」

 

お互い邪悪な笑みを浮かべ、牽制し合う。

 

信用はする。しかし、それは互いに握手して背中を預け合いながら、もう片方の手に握ったナイフを相手の背中に突きつけあう類の信用である。

弱みを見せれば即座に刺されるし刺す。

 

決して油断してはならない相手であることを、ジェーンもNYN姉貴も確信していた。

 

 

 

ジェーンと三浦が用事を済ませて中継地点に帰還したとき、内部はざわついていた。

 

「ちょっと、どうしたの!説明して!」

 

「あっ!ジェーンの姉御にミュラーの兄貴!大変でさァ!人質が逃げ出した!!」

 

「はぁ!?見張りは何してたのよ!?」

 

「そ、それが見張りごといなくなってやがるんです!!死体もねえ!発信器もいつの間にか取り出されて人質部屋のロッカーの中に捨てられてやした!」

 

「ポッチャマ…」

 

ジェーンはたまらず舌打ちをする。セスの安全確保のための策が完全に裏目に出てしまった。

 

「アタイとミュラーで奴らを探す!恐らくそう遠くまでは逃げていない!ホロウ内ならルートも限られるわ!

あんた達はボスをお出迎えして!早く!」

 

ジェーンは扉を蹴り飛ばさんほどの勢いで開けて駆け出す。三浦もそれに続いた。拓也組がいないことを確認し、走りながら、通信を繋ぐ。

 

 

「パエトーン、話は聞いていたわね!アタイらのいる中継地点から外に出る最短ルートを探して!大至急よ!」

「もう特定済みだよ!端末に送るね!」

「へえ、伝説のプロキシは伊達じゃないようね。イニ義とタカダの案内は?」

「ごめん、いまそっちと同時進行でやってる!いま作業を中断させて、最短ルートの裂け目に向かってもらってる!」

「了解。」

 

恐らく、拓也組は中継拠点周辺の構造を誰よりも熟知している。

事前に動いた分の時間的余裕とパエトーンという二つのアドバンテージを最大限に活かし、セス達に拓也より先に追いつかねばならなかった。

 

「全く、余計な仕事を増やしてくれたわね…。一体どうやって見張りごと逃げたのかしら。」

「きっと見張りに正義の心で訴えて改心させたんだゾ!」

「あのねえ、そんな馬鹿な話あるわけないでしょ。」

 

馬鹿な共犯者の池沼発言にげんなりしながら、ジェーンは最短ルートへの階段を走る。

 

視界の端で動くものを捉えた。

 

人質になっていた一般人の一人だった。

 

 

「…追いついた!止まりなさい!!」

そこは、ビルの中腹にあるテラスだった。

その直下に、最短ルートの裂け目が開いている。

階段を下りればすぐたどり着けるが、彼らにとっては不幸なことに、そしてジェーンたちにとっては幸運なことに、その逃避行はここまでだった。

 

「クソ!もう追手が!」

「く、来るな!お、俺は抜ける!足を洗って、真っ当に生きるんだ!ジェーンの姉御やミュラーの兄貴もそうしたほうがいい!」

「そうだジェーン!こいつはまだ引き返せる!いや、引き返させてみせる!お前たちも来い!」

セスが、マジメをかばうように前に出る。

 

「え、嘘でしょ。本当に絆されたの?」

「おお、セス凄いゾ!」

「「おお」じゃないわよ。あんたたちには他の道が___。」

まさかの事態にジェーンは頭を抱えたい気分だったが、今はそんなことをしている場合ではなかった。

 

 

 

 

 

「ドジョウと俺のさ、子供ができたらどうする?ドジョウと俺と・・・え?総理大臣の誕生か?あ?そうだよな、ハハハハ!!」

 

拓也が階段を登ってやってきた。背後には多数の部下を連れている。

 

「ったくよぉ。この頃の若い奴はなってねぇよなぁ。調教しがいのある・・・?かわいい・・・犬はいいねーかなぁ。」

 

人質はあっという間に再び拓也組により捕まり、縄をかけられる。

「縛らなきゃ(使命感)。お~いい格好だぜぇ!それにしても…」

 

亀甲縛りで引き回される人質をいたぶると、拓也は裏切り者のマジメをにらみつける。

 

「お前もう生きて帰れねぇな?なぁおいジェーン、こいつにどんな道が残されてるってんだ?」

 

「…もちろん、投降して服従することよ。」

 

「裏切り者は死ぬ寸前まで痛めつけてやるのがルールだけどな、ジェーンの顔に免じて最後のチャンスくれてやるよオラ!

俺の目の前でこの治安官を殺れ!」

 

「え・・・・?」

マジメが困惑した声をあげ、拓也を、セスを、そして手に持ったアサルトライフルを見つめる。

 

「え?じゃねえ!今すぐこいつをそれで撃ち殺せっつってんだ!」

 

マジメは考えた。

 

走馬灯のように、これまでの人生が思い起こされる。

 

「そんな事無いよ……お前、何言ってんだよ」

「お前の病気は絶対治るって、言ってたじゃん」

「心配すんな、必ず治るよ」

 

そう言って根拠の無い励ましをかけた恋人。

 

助けられなかった恋人。

 

 

 

 

 

「何言ってんだよ……ケンのために……生きろ。」

 

 

そして、そんな情けない自分に生きる理由を示してくれた男。

 

そんな男をこの手で殺めるくらいなら……。

 

マジメの覚悟はとうに決まっていた。

 

「う、うわああああああああああああああああああああああ!!」

 

ピチッ……ヴッッ! バッ! ヴッ! ビッ! ブリュヴビイ゛イ゛イ……パシャア! ミリミリミリミリ……ポチャポチャン……

 

手にしたアサルトライフルを拓也に向けて3点バーストで撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

『弾丸軌道予測完了。電動アシスト作動するナリ。』

しかし、拓也は己に放たれた弾丸を、超人的な反応で避け、防ぎ、掴み取った。

 

 

「そ…そんな…、馬鹿な…。」

 

「マジムカツクなこいつぅ・・・。殺されてぇかお前・・・。」

拓也は掴んだ弾丸を握りつぶし、底冷えするような冷たい怒声をあげる。

 

この超人的な動きを可能にしているのが、拓也がホワイトスター学会から強奪した試作型AI一体装甲【のべ りすと】である。

 

 

「ジェーン、こいつは他の道を拒絶した!!どうするかわかるよなぁ!?」

 

「……」

 

ジェーンは無言で逃げるマジメの首根っこを捕まえ、テラスの外に突き出す。

 

「やめろジェーン!やめてくれ!君はまだ引き返せる!!」

 

セスが止めようと駆けだすが、それを三浦が取り押さえた。

 

 

 

 

「…言い残すことはある?」

 

死刑執行人のように、ジェーンはマジメに問いかける。

 

 

「お、おれは…人生をやり直すんだ……!」

 

マジメは怯えながらも、それでもまっすぐにジェーンを見つめてそう返す。それはまるで、旧文明の書物にある原罪を背負った救世主のようだった。

 

 

「そう、きっと できるわ。」

「堕ちろ!」

 

拓也の宣告とともに、ジェーンは迷わずマジメを屋上から突き落とした。

 

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

「堕ちたな(確信)」

 

セスの絶叫と、拓也の笑い声だけが虚しく反響する。

 

23時58分に大きく見えたバレエツインズタワーが三浦大先輩に無視され、戻ったときには消えていた。

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