迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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第28話 Call Me Maybe

ポンペイとの邂逅からしばらくたった日、リンとアキラと迫真空手部はルーシーに呼び止められた。

 

曰く、あれ以来シーザーはどこか上の空であり、その原因を掴み対処して欲しいとの依頼であった。

大将が腑抜けていては全体の士気に関わるからなどと嘯いてはいるが、心から彼女の心配をしていることの照れ隠しであることは流石に皆わかってしまった。

 

「やっぱ好きなんすね~(百合)」「口では否定しても心は正直ゾ。」としたり顔の馬鹿二人を4人がかりでボコボコにしたあと、HDDシステムにオフラインデータをコピーする用事があるのでついででシーザーを連れ出して気分転換をさせる手はずとなった。

 

因みに、万が一迫真空手部が借金を踏み倒して雲隠れした場合に備え、三浦はブレイズウッドにて人質兼奴隷として留守番となった。

 

空手部がアイアンタスクにぶつけたレンタカーを運転し、ひとまずRandomPlayで一息ついた。

 

 

「へ~!ここがかの名高いパエトーンの住処ってわけだな。

にしてもマジにビデオ屋を経営してるとは!郊外から流れてきた作品は置いてねーのか?」

「申し訳ないけどウチは18禁作品はNGなんだ。」

 

 

「ん?ジュウハチキン?なんのこったよ。純金製のビデオなんか勿体無ェだろ。」

「「「「『ファッ!?』」」」」

 

きょとんとした表情のシーザーを、リンとアキラと空手部とfairyは二度見した。

その純粋無垢は表情は、どうみてもとぼけているようには見えない。

 

 

「…ええと、シーザー。君はその…カーサさんが撮影していたビデオについては把握していたんだよね?」

 

額から汗をダラダラと流しながらも、兄として妹に先陣を切らせるわけにはいかないとアキラが切り込む。

 

「あ~、タイトルをちょっと聞いただけなんだよな!『最強筋肉』ってのは聞こえたから、総合格闘技の大会かなんかを撮ったやつだと思うんだけどよ、ルーシーが頑なに観せてくれねぇんだよな。

もしかして全然違う内容なのか?」

 

 

「あっ…(察し)」

アキラが「(どうしようこれ)」といった表情でぎこちなく妹と空手部に振り返る。

 

「やべえよやべえよ…」と空手部が震え声を絞り出す中、リンはオーバーヒートしかけた脳をフル回転させる。

 

 

 

「シ、シーザー!あれね、一応私たちも観たんだけどね、ほんっっっっとうにつまんないアクション作品だったの!もう酷かったよ!大学生の自主制作以下!デビルマンとかメタルマンを24時間耐久で観たほうがまだマシってレベルなの!」

「そ、そうなんです!あんなのを観てシーザーのテンションがダダ下がりするとレースに悪影響でナオキだから、観ないほうがいいってルーシーはシーザーを心配していたんです!」

「大会近いからね、しょうがないね。」

 

キャベツ畑やコウノトリを信じている可愛い女の子に無修正のポルノをつきつけることを躊躇する(なさけ)が、プロキシや迫真空手部にも存在した。

 

シーザーが「あっ…そっかぁ…」と納得したように頷いたとき、間違いなく皆の心は一つになった。

 

「あ、そうだ(唐突)。シーザー、あんまり新エリー都に来たことないんでしょ!私たちが案内してあげるよ!」

「わかった!ここじゃお前が大将だからな!」

「この辺にぃ、美味いラーメン屋の店、出てるらしいっすよ。」

 

兎も角シーザーをこのビデオ塗れの空間から出来るだけ遠ざけなくてはならない。長年住んだ馴染み深いこの場所が、こんなにも居心地が悪いのは初めてだった。

 

その後、滝湯谷でお昼を食べたりルミナスクエアで映画を観たりと皆で楽しんで時間を潰した。

途中、シーザーが強盗相手に大立ち回りを演じたり、花で着飾った女優のポスターからして恋愛映画だと思って選んだ映画が、陰惨な因習村が舞台のホラー映画で、アキラと野獣先輩が卒倒するハプニングもあったが、なかなか充実した一日だったといえるだろう。因みに映画に関してはリンは監督の名前をみた時点でぶっちゃけお察ししていたがあえて黙っていた。

 

 

「おまたせ。アイスティーしかなかったけど、いいかな。」

 

いま、一行は治安局の前で経営されている「リチャード・ティーミルク」で一服していた。

 

「へ~。都会の連中は洒落たモン飲んでんだなぁ。」

「コ↑コ↓のティーミルクは新エリー都で一番ってはっきりわかんだね。」

 

 

 

「おや。皆様、奇遇でございますね。」

 

和気藹々と駄弁る5人に、二人の男の影が近づいてきた。

 

「おや!ライカンさんじゃないか。家政の買い出しかい。」

 

いつも通りの仕立ての良い紳士服に身を包んだライカンが恭しく一礼する。

 

「なんやライカンくん、知り合いか?」

その後ろには、同じく見るからに高そうなスーツとサングラスを身に着けた中年男が控えていた。

 

「はい。

皆様、ご紹介致します。この方はカーリー様でございます。

私共ヴィクトリア家政が大変お世話になっております方のご親族であらせられます。」

 

そういって、カーリーと紹介された男は気さくに微笑む。

 

「カーリー様、此方の方々は以前私の義足が破損した際に希少なヤメチクリウムを供与してくださった方々です。

左からアキラ様、リン様、田所様、木村様でいらっしゃいます。

...お初にお目にかかる方もいらっしゃいますね。

申し遅れました。私はフォン・ライカンと申します。

新エリー都にて家事代行サービスを営んでおります。」

「おう!よろしくな!カリュドーンの子の首領(ドン) キング・シーザーとは俺様のことだぜ!」

 

ルーシーがその場にいたらバットがフルスイングで飛んできそうな自己紹介だが、この場には残念ながらパエトーンと空手部しかいない。

 

「ははは、なんやおもろい子らやなぁ。丁度晩飯どきや。みんなで飯食いにいこか。俺の奢りや。」

 

「いえ、そんな悪いですよ。僕たちみたいな一般人が。」

 

その身なりとライカンにこれほど気さくに接してる時点で、並みの富豪でないことは見て取れた。

アキラが申し訳なさそうにするが、カーリーは意に介さない。

 

「なに言うてんねんな。ライカンくんが信用してるいうこと以上の担保なんかあらへんで。なあ?」

 

カーリーはパシパシをライカンの肩を叩くが、ライカンの表情に不快感は見られない。そこには、自らの主人の親族に信頼されているという嬉しさと誇りが感じられた。

 

「じゃあ行きましょうよ!ライカンさんと前に行ったステーキ屋さんも美味スギたから、絶対間違いないッスよ。」

「あんたはなんでいつの間にライカンさんとお出かけしてんのよ…。」

 

 

 

あれよあれよと案内されたビルの最上階で、リンたちは目の前の巨大な鉄板で調理される数々の料理に舌鼓を打った。

 

「うん、おいしい!」

「やっぱ中野くんの料理を…最高やな。」

レアで焼かれたステーキを口に運び、赤ワインで脂を流してカーリーがシェフを褒めたたえる。

 

「ありがとうございます…。」

中野と呼ばれた若いシェフはその賞賛を謙遜して気恥ずかしそうにするが、その腕前を疑うものはこの場には誰一人いなかった。

 

最初は緊張していた一同も、料理の美味しさとアルコールに絆されて打ち解けていく。

 

カーリーは初対面の印象のままの気さくな男であり、迫真空手部のホロウ内での家政との大立ち回りやビデオ屋の経営などを興味深そうに聞いていた。

話の途中でアキラとリンがパエトーンであることに繋がらないようにライカンがそれと無く話を軌道修正してくれているのも大きかったといえる。

 

「そういえば、そっちの姉ちゃんはなんの仕事してんの?」

バレエツインズでの一件を聞き終えたカーリーの興味は、シーザーに向かう。

 

「俺様は、郊外で走り屋…まあ運送業やってんだ。育ての親の会社引き継いで、一応経営者ってことになんだけどよ。」

「ほーん、ええやん!若いのに立派なモンや。」

「でもよ。最近、同業の先輩っつーのかな。そのオッサンに格の違いみてえなものを見せつけられちまって…。」

 

眉をへの字に曲げてぽりぽりと頬を掻くシーザーに、兄妹も空手部も少し酔いが醒める。

ルーシーが気にしていたのは、きっとこの事なのだ、と。

 

 

確かに、あの後のポンペイの対応は見事だったと言わざるを得なかった。

 

復帰の目途がたった新たな輸送ルートの3/5を半年間カリュドーンの子に任せるという破格の条件を出してきた。その新輸送ルートの地域住民の支援をセット、という注文付きでである。

 

確かにそれはトライアンフとしては手痛い出費といえるが、逆に言えばそれだけの条件を先に提示して誠意を見せられてしまえば、カリュドーンの子はそれ以上の条件を上乗せすることはできなくなってしまった。

 

「確かに勿体なかったといえばそうかもしれませんね。先に僕らが盗聴器とか見つけて糾弾しちゃえば、もっとトライアンフから毟れたかもですし。」

「だよなぁ~。他人にイチャモンつけて美味しい思いすることに関して、俺と三浦先輩の右に出るものはいないんだよね。」「あんたは黙ってなさい。」

 

 

シーザーは水が注がれたグラスをぎゅっと握りしめた。

 

「ポンペイのオッサンは、黙ってりゃあシラを切れた手下の悪事を自分でバラしたうえ、手打ちまでもっていきやがった。

そのうえ、カリュドーンの子とブレイズウッドの問題まで片付けてな。

ルーシーだってそうだ。あいつはあの話を切り出されてすぐに旧油田エリア全体のことまで頭が回ってたってのに、俺様はあいつに説明されるまでチンプンカンプンだった。

カーサも、生存と仁義で板挟みになりながらも、町長としての責務を全うしようとしてた。

…それにくらべたら、俺様なんて周回遅れのドンケツもいいとこだ。」

 

シーザーの苦悩を神妙な顔で聞き入っていたカーリーは、短くなった葉巻を灰皿に押し付けて重々しく口を開く。

 

「…せやな。経営者・代表いうのは周りがおって初めて成り立つものや。

せやから上に立つ奴は部下を食わしていかなならんし、部下のやらかしも自分が被らなあかん。誰かに責任を擦り付けるいうんは許されへん。一回でも逃げたら絶対誰も付いて来えへん。

わかる?この罪の重さ(哲学)」

 

「わかってる…つもりだったんだけどよ。いざ自分が直面したらこのザマだ。はは、情けねえったらありゃしねえよな。」

 

 

 

「んにゃぴ、シーザーはあの時一番最初に言ったのはカーサ姉貴に「物資を早く持っていけ」って指示じゃんアゼルバイジャン。」

「そ、そうですよ。あのとき僕らはみんなカーサさんのことを疑ってたけど、シーザーさんはそれより町の皆のことを第一に考えてたじゃないですか!これって、勲章ですよ…?」

 

 

「『弱いってことはもっと強くなれるってことやん』」

突然、カーリーが妙なセリフを吐く。

 

「なんだそりゃあ?」

 

「とある活殺古武術の継承者が、決闘で相手を打ち負かした時に言うたそうや。

三流の奴はな、そういうときにメンツや意地を気にして、下の奴の生活なんか考えずに怒鳴り散らすもんや。

でも君はそうせんかった。今自分がドンケツやいうんやったら、こっから先はもう伸びしろしか無いいうこっちゃな。」

そういってカーリーはからからと笑うと、腕時計をみて目を見開く。

 

「お、なんやもうええ時間やな。いやぁ~久しぶりにええ話きかせてもろたわ。楽しかったで。」

 

そういって立ち上がる。

 

確かにそろそろRandomPlayに帰らなければ、終電を逃しかねない時間帯だった。

 

「カーリーさん、今日は本当にありがとうございました。」

アキラが皆を代表して頭を下げる。皆もそれに続いた。

 

「ええてええて!寧ろ楽しませてもろたんはこっちやがな!がんばりや!ほな!」

 

そういって、千鳥足でその場を後にした。

ライカンも「ではまたいずれ」と会釈してそれに続く。

 

 

 

 

帰りの電車を待つホームで、一行は夜風にあたって酔いを醒ましていた。

「いや~美味しかったねえ中野さんの料理。」

「もう僕下手な肉や魚介類で満足できなくなりそうでナオキです。」

「何だシーザー嬉しそうじゃねえかよ~」

「へへ、確かに美味いもん食って色々吹っ切れたからいい気分だぜ!」

「それにしても、カーリーさんは何者なんだろうね…。」

 

 

 

 

 

一方、ライカンはカーリーを乗せて黒塗りの高級車で新エリー都の高速道路を走っていた。

 

「ええ友達を持ったなあ。」

「はい。ヴィクトリア家政としても私個人としても、得難き方々であるといえるでしょう。」

 

「シーザーいうとったか。あの子もデカなるで。間違いない。」

 

「カーリー様の目利きとあらば、このライカン、疑いの余地はございません。」

 

政治屋としての手腕は弟には遠く及ばないことはカーリー自身が一番よくわかっていた。しかし、だからといって自分が弟に劣るとは微塵も思っていなかった。

投資家・勝負師としての手腕では、自分の方が遥かに上である。これは傲慢ではなく事実である。

 

あのシーザーという若い走り屋は、必ず大成する。

そう確信があった。

 

「ああいう子には自然と人が集まるんや。

知っとるか、モンテフィーノ家の放蕩娘はいま郊外におるんや。ルシアーナ・オクシスィース・テオドロ・デ・モンテフィーノ。」

 

「ルシアーナ…。まさか、シーザー様の話されていたルーシー様が...!」

「そういうこっちゃ。ま、あれの親父も昔はなかなかヤンチャしとったらしいからな。血は争えんいうことやな。」

 

からからと笑うカーリーの頭の中には、すでにある絵図が完成しつつあった。

 

近々開催される、郊外の覇権を賭けた一大イベント。

 

下馬評ではトライアンフの圧勝であるという。

それは、カリュドーンの子のオッズが途方もないものであるということでもある。

 

 

「さあ、郊外解体ショーの始まりや。」

 




【TIPS】

勝手にホモビ男優を兄貴にされたメイフラワー市長かわいそう。
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