迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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第32話 情熱の風

 

「やっぱ右利きだから右の方が若干太いと思います。」

ジャルマルの右腕が脈動し、その屈強な体躯の更に何倍もの大きさに肥大化していく。

 

その明らかに破壊のみを求めた暴力的なフォルムは、一撃で大地を穿って揺らす。

 

ひび割れた大地の割れ目から、間欠泉が如くマグマが噴出していく。

 

あまりの威力にシーザー・ライト・ルーシー・木村は吹き飛ばされて分断されてしまった。

 

 

 

その中でも己に最も近い位置にいたシーザーにジャルマルは狙いを定めた。

 

「クキキキ!」「オルルァ!」

エーテリアス化したことで、ジャルマルの笏の殴打はただそれだけで全てを打ち砕く、一撃一撃が必殺の威力を持つようになった。

 

一瞬の判断ミスも許されないその猛攻を、シーザーは剣と盾で巧みに捌いていく。

 

千を超えるシーザーの剣とジャルマルの笏の遣り取りは両者の間に無数の火花を生んだ。

 

ライトとルーシーと木村も、シーザーに加勢したいのは山々だったが動けずにいた。

 

それは彼らの気迫に慄いたからではない。

 

エーテリアス化したことで肥大化したジャルマルの笏は、その圧倒的間合いと威力で両者の周囲10メートルを更地に変えていた。

 

迂闊にその中に入れば、遠距離攻撃手段を持たない彼らはジャルマルに打撃を与えるどころか近づくことすら難しい。

 

しかし、このままでは彼らの敗北・ひいてはシンダーグローレイクの消滅を待つばかりなのは皆わかっていた。

 

「クキキキキ!(敗色が)濃いすか?」

エーテリアス化したことでジャルマルは疲れを知らぬ身体と化したが、シーザーはそうではない。

 

攻撃を受けるたびに腕は痺れ、集中力は削られていく。

 

 

 

「ルーシーさん!ヘルバたちを打ち出してください!」

木村がルーシーのいる場所の対角線上に陣取り、彼女を呼ぶ。

 

「何を言ってるんですの!?あのエーテリアスの真下に打ち込んだら、殺されますわ!?」

いかに普段ぞんざいに扱おうとも、かれら三匹は彼女にとって大切な子供達なのだ。

ヘルバたちも抗議するかのごとく怒って飛び上がる。

 

「エーテリアスのところじゃあありません!僕に向かってノックで撃ってください!」

そういって、木村は腰を落として手を広げて構える。

 

「...なにか考えがあるようだな。ルーシー、撃ってやれ。」

「ライト、正気ですの!?」

「万が一の時は俺がヘルバたちを抱えて離脱してやる。この赤いマフラーに誓ってな。

安心しな。ラッシュを避けられんようじゃあ、ボクサーの名折れだ。」

 

そういって、ライトは屈伸で身体をほぐす。

 

「ええい、わかりましたわ!ヘルバ・アルバ・ラテラム・木村!死んだら承知しませんことよ!!」

 

ルーシーの眼前でジャンプする子イノシシ。

それをルーシーはノックの要領で打ち出していく。一匹、また一匹と。

 

火球となって木村に飛んでくるそれは、まともに受ければ丸焦げになりかねない。

 

「しゃあ!!」

 

しかし、そうはならなかった。

木村の手のひらに受け止められた飛来する三匹の子イノシシは、そのまま流れるようにルーシーに投げ返される。

 

「なっ!?」

ルーシーは慌てつつもバットを三匹全員に的確にヒットさせ、木村に打ち返す。

ルーシーは戦慄した。投げ返された打球の球威は全く死んでいなかった。

 

寧ろ木村の力で若干強さを増しているようにすら感じた。

そしていま、ルーシーが打球することで更に球威を増していく。

 

木村は再びそれを勢いを殺さずに投げ返してくる。

 

「いけますわ!この威力なら!!」

ルーシーは体の向きを変えて再度打ち出す。

 

今度は狙いを木村ではなく、シーザーの相手をするジャルマルに向けて。

 

「うおっ!?なんだ!?」

シーザーの後頭部スレスレに飛んで行った子イノシシがジャルマルにヒットする。

 

「シーザー!!私にカリュドーンのボスの座を譲りたくないのであればそこから動かないことですわ!!」

 

威力を何倍も強化されたルーシーの打球は、ジャルマルの身体を穿ってもなお球威を保ったまま打ち抜ける。

 

その背後には、打球を捕捉した木村がすでに待ち構えていた。

 

「木村さん、活路を開きますわよ!」

「追いの木村、加速します!」

 

目にもとまらぬ速さでノックを打ち込み、それを投げ返す。

 

流星の如く降り注ぐ縦の動きではなく、横向きに飛び交う弾幕がジャルマルを打ち据え、拘束する。

 

防戦一方から一転攻勢し、戦いの流れは完全にカリュドーン側に傾いた。

 

「大将!決めにいくぞ!」

「!! おう!!」

スライディングしてイノシシの弾幕を避けながら、ライトがシーザーに駆け寄る。

その場からできるだけ動かず、シーザーとライトの剣と拳のラッシュがジャルマルに襲いかかる。

 

「この拳に誓って!!」

ライトの右腕によるボディーブローがジャルマルの腹部にめり込む。

 

「大将、いまだ!!」

「応!!」

シーザーが盾の内側に隠していた火打石を、悶絶して口を開いたジャルマルの口内にねじ込む。

すかさずライトのアッパーが炸裂し、ジャルマルの顎を砕いた。

 

「これで!トドメだ!!」

シーザーが盾を投合する。縁のエッジが回転しながらジャルマルに喰らい付き、その上から剣でめった切りを見舞う。

 

「未熟です....!!」

全身を切り裂かれたジャルマルは、シーザーとライトの突きで錐揉みしながら真っ赤に開いたシンダーグローレイクの火口に呑まれていく。

 

ぼとりとジャルマルが落ちる音がした直後、緋色の閃光が走った。

 

天をつく火柱が上がり、シンダーグローレイクを塞ぎかけていたエーテル結晶が粉々に破砕されていく。

 

それは、ツール・ド・インフェルという祭りの終わりを告げていた。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

全てが終わった後、ルシウスは地面に頭を擦りつけていた。

 

その前には、片腕を失ったポンペイが座っていた。

 

「…許す。顔をあげるのだ、ルシウスよ。」

 

「できません!

…なぜです。俺は親分をずっと裏切って...」

 

「トライアンフのメンバーは皆俺の子だ。子の失敗を許さぬ親がどこにいる。

それに前にも言ったはずだ。全ての責は俺にあると。

奴の企みを見抜けなかったのも、お前の痛み・苦しみに気づいてやれなかったのも、全てだ。

すまなかったな、息子よ...。」

 

その言葉に慟哭するルシウスを諭して下がらせたポンペイは、入れ替わるように入ってきたカリュドーンの子を出迎えた。

 

 

彼らの顔を一瞥したポンペイは、郊外の覇者の座をシーザーに明け渡すことを告げた。

 

 

当然、シーザーはこれを固辞した。

 

シンダーグローレイに先に着いたのはポンペイである。

それに何より、このような余計な横やりが入った形での勝利では、とても納得できなかった。

 

しかし、ポンペイは首を縦に振らなかった。

 

「シンダーグローレイクを守ったのはお前だ。それに、この腕では満足にバイクを駆ることもままならん。義手をつけてリハビリとなれば、覇者である俺が長期に不在となる。

それは責任ある者の行いではない。

 

一旦、覇者の座は貴様に預けてやる。」

 

「一旦?」

 

「そう、一旦だ。

つまりこれは引退宣言ではなく宣戦布告だ。

次のツール・ド・インフェルノで、俺はお前に挑む。

今度は覇者ではなく挑戦者(チャレンジャー)としてな。

 

逃げるなよ?」

 

片腕を失ったばかりの老体とは思えないほど、ポンペイは好戦的な笑みを浮かべる。

 

あのポンペイが己を覇者と認め、挑戦状を突きつけている。

 

その事実にシーザーは武者震いした。

 

「へへっ!そういうことなら、カリュドーンの子はいつだって受けて立つぜ!顔を洗って待ってな!」

 

「シーザー!それをいうなら首ですわ、首!というかそれはポンペイおじ様のセリフですわよ!?」

 

「…まったく、大した覇者だよお前は。」

 

参謀と先代覇者に呆れた眼差しを向けられながらも、この日から新たな覇者が誕生した。

 

 

 

 

大変な惨事が起こったばかりとは思えないほどに盛大に行われた就任式のあと、ツールドインフェルノの準備の傍らでカリュドーンの子と迫真空手部が復興させたブレイズウッドのダイナー・チートピアで二次会が行われていた。

 

「あ、はじめまして、えーと本日、えー『素敵な覇者誕生会』のお料理を担当させていただきます、出張料理人の中野です。どうぞよろしくお願いします。」

 

「いなりが入ってないやん!どうしてくれんのこれ(憤怒)」「だけどないじゃんいなりが。いなりを食べたかったから注文したの!何でないの?」「僕がさっき、食べちゃいました」「いなり…いなりを食べたの?この中の中で?(マトリョーシカ)」「おいなりが――――二つもある(フタチマルゥ…)」「悲しいかな(世情) 」

 

二次会には、就任式には顔を見せていなかったカーリーやNYN姉貴といった面々もいた。

 

「貴様ら、よく俺の前に顔を出せたな?」

青筋を立てるポンペイもなんのそので、今回のルール変更の黒幕たちは中野君の料理に舌鼓を打っていた。

 

「おじいちゃん、そんな怒ると血管切れちゃうよ。許し亭許して。」

「そうそう。ポンペイさんももうええ年やろ?辞めたらこの仕事? こんなアホらしyeah…。」

 

「クソ共が。」

本当なら叩き出してやりたいところだが、彼らがレースに介入したことでNKTIDKSGが後手にまわったり、精鋭の医療チームを派遣していたことで自分は命拾いしていたりで、ポンペイもあまり強く言えなかった。

 

 

 

「親分、言われていたものをお持ちしました。」

 

そういって、ルシウスが木箱を持ってきた。木箱の中からガラス同士が擦れあうからからとした音が響く。

 

「うむ。」

そういってポンペイが木箱から取り出した酒瓶をみて、ビッグダディは目を丸くした。

その価値を知るであろう中野やカーリーも驚きの声を上げる。

 

「おい、ポンペイ。いいのか?そいつァ大変な値打ちもんだ。開けちまえば、もう二度と手にはいらんかもしれんぞ。」

 

ポンペイが手に持っているのは、酒蔵も畑も何もかもが既にホロウに呑まれて久しい、名高いワインだった。

 

 

「生憎、俺は蒐集家ではないのでな。俺にとって酒は骨董品ではない。嗜好品だ。

眼ではなく、舌で愛でてやらねば。飲みたい日と若人の門出が偶々重なった。

ただそれだけのことだ。」

 

そういって、テーブルにワインを置く。

 

「は、そういうことなら遠慮なく!」

 

ビッグダディがボトルを支え、ポンペイが残った片腕で器用にワインオープナーでコルクを抜いた。

何十年と空気に触れて来なかったそれが、ダイナーに芳醇な香りを放つ。

 

「まだこれほどの物が残っていたとは驚きです。」

 

皆にグラスを注ぎながら、中野が愛おしそうにワインのラベルを撫でた。

 

「中野君も呑めばいいじゃんアゼルバイジャン。」

「いえ、そういうわけには…。」

「全然全然全然。中野くんはファミリーみたいなもんやし。」

「中野くんもうまそうやな~ほんま」「冗談はよしてくれ(タメ口)」

 

結局その場にいた皆にワインは振舞われ、すっかりボトルは空になった。

 

「Foo↑美味スギィ!」「いいゾ^~これ」「ナオキです。」

 

 

 

 

「ん?おいバーニス。なに作ってんだ?」

「赤ワイン×オレンジジュース!ワインクーラーだよ!

のみやすくてとっても美味しいんだから!シーザーちゃんもどう?

トマトジュース入りのサングリア風なんかもあるよ!」

 

和気藹々とした酒の席の傍らで、カリュドーンの子の誇るバーテンダーは骨董品レベルのビンテージワインにジュースをぶち込んでカクテルを作っていた。

 

 

「「「「「「「は?(威圧)」」」」」」」

 

そのあまりに冒涜的な光景に、トライアンフ・迫真空手部・中野君・カーリーは信じられないものをみる目を向けた。

 

 

「ルシウス、あのバカ舌どもの息の根を次のツールドインフェルノで必ず止めるぞ!いいな!」「はい!」

 




【TIPS】

はい。ポンおじ生存者√&ルシウス残留√ 無事に挿入りました。

よかったね、ルシウス。まぁケツ穴は無事ちゃうねんけどなブヘヘヘ。
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