迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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第36話 剣、どうにかしろ。

「犯罪者を釈放するだけじゃなくて、帯刀させて事件現場に送り届けろ!?上層部は何を考えているんだ!」

 

護送車に野獣を押し込みながら、セスは激昂する。

 

昼間に捕らえられた性犯罪者は、がんとして口を割らなかった。

 

なにか言えない秘密でもあるのかとセスが勘ぐっていた矢先だった。そのような信じられない指令が下ったのは。

 

 

朱鳶も青衣も尊敬すべき先輩である。誤認逮捕などありえない。犠牲となった若い治安官は酷い怯えようだった。

 

こんなことは納得できない。しかし、上の決定を覆せるほどの力が自分にはない。

 

悔しさに顔を歪ませながら、セスは護送車のハンドルを握る。

 

 

覗き窓から、後部席に押し込められた野獣に目をやる。

 

野獣は釈放されることに安堵の色を浮かべるでもなく、治安官に憎悪をむけるでもなく、静かに眼を閉じて鞘に納められた刀の刃に耳をそばだている。

 

 

「…あの刀、どっかで見た気が。」

紙垂のついた特徴的な装飾は、彼の虚狩りの刀によく似ていた。

 

「いや___まさか、な。」

 

おそらく彼女のファンか何かなのだろう。よくできた模造品。本物であるはずがない。

星見雅から愛刀を盗み出すなど、彼のモッキンバードでも不可能だ。

 

前に向き直り、車を発進させた。

 

 

 

 

治安局から出て数分後、目的地であるポート・エルピス港が見え始めた時だった。

 

背後から、凄まじい叫び声が響いた。

 

「ハッ……アッ!アーツィ!アーツ!アーツェ!アツゥイ! ヒュゥー、アッツ!アツウィー!、アツーウィ!アツー、アツーェ! すいませへぇぇ~ん!アッツ、アツェ!アツェ!アッー、熱いっす!熱いっす!アッツ!

いや、寒いっす!寒いっす!サムェ!サムゥイ!サムゥイ!…サムゥイ!サムゥイ!サムゥイ!アー・・・サムゥイ!」

 

野獣が、燃え盛る青白い火炎に包まれていた。

 

「お!おい!どうしたんだ!!!!?大丈夫か!?」

 

まさか焼身自殺でも図るつもりか。慌てて備え付けられていた消火器を手に、セスは護送車の扉を開ける。

 

しかし、火傷を覚悟したセスに襲い掛かったのは、全く逆のものだった。

 

「痛ッ!!?こ、これは冷気!!?」

ピリピリと刺すような冷気が腕にかかり、軽い凍傷を引き起こす。

 

その燃えるような冷気は、かつて資料映像で見た星見雅が纏う霜烈に酷似していた。

 

「どういうことだよ!まさか本物!!?」

 

ともあれ、いまは彼の命を優先するべきだ。

消火器を放り出し、今度は救助者を温めるために用意されていた毛布を数枚重ねて野獣に覆い被させる。

 

「おい、しっかりしろ!!必ず助けるからな!!!」

 

霜烈に包まれ、昏睡状態に陥る野獣。それは偶然かそれとも主の危機に反応してのことだったのか。

 

 

 

無尾の本来の持ち主も似たような状況に陥っていた。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

サラが邪剣・夜の刀身に触れ、悍ましいエーテルの奔流をまき散らす。

 

 

 

 

それに意識を持っていかれた雅が目を覚ますと、そこは小さな和室だった。

 

雅も初めは実家の茶室かと思ったが、周りや調度品を見渡せばそこが見知らぬ部屋だとわかった。

 

 

 

部屋には見知った顔もいた。

 

手前では、三浦が下半身はパンツ一丁の姿で畳まれた布団を背もたれに寛いでいた。

奥では野獣が上半身裸で足を畳に投げ出している。

 

雅の手には、いつの間にか古い武術書が握られていた。

 

「MURさん夜中腹減んないすか?」「腹減ったなぁ」「ですよねぇ」「うーん」「このへんにぃ、うまいラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ」「あっ、そっかぁ…」「行きませんか?」「あっ、行きてぇなぁ」「行きましょうよ」「じゃけん夜行きましょうね〜」「おっ、そうだな」

 

部屋では三浦と野獣が他愛無い会話をしている。

野獣は夜中の空腹の話をしているのに、何故三浦はいま空腹を訴えているのだろうか。どう考えても会話が噛み合っていない。

 

違和感。

 

奇妙な居心地の悪さが常に空間を漂っていた。

 

「あっ、そうだ(唐突)おい雅ァ!」「なんだ。」

 

唐突に声をかけられ、雅は読んでいた武術書から目を離して顔をあげる。

 

「お前さっき俺ら着替えてる時チラチラ見てただろ」「いや、見ていないが。」「嘘つけ絶対見てたゾ」「何故見る必要がある(正論)」

 

まただ。おかしい。

 

会話が噛み合わない。

 

何かが、致命的に間違っている。

 

「あっお前さ雅さ、さっきヌッ…脱ぎ終わった時にさ、なかなか風呂来なかったよな?(鈴木福)」「そうだよ(便乗)」「お前たちと混浴などするわけが無いだろう。」

 

「見たけりゃ見せてやるよ」

 

雅の反論を無視して声を震わせながら三浦が立ち上がり、ズボンを脱いで逸物を晒そうとする。

 

 

 

 

すかさず、雅は左側に置いていた刀を抜き、その逸物を三浦の上半身ごと切り落とした。

その斬撃は、そのまま後ろの野獣の首を切り落とす。

 

血飛沫を上げる二人の男の死体を跨いで部屋の扉を蹴破ると、そこには何も無かった。

 

黒。黒。黒。

 

ただの虚空のみが広がっていた。

 

反対側にある野獣の血でべっとりと汚れた襖を開けても結果は同じだった。

 

「ふむ、やはり幻覚か。」

 

畳の香りも、鼻を刺す血の匂いも何もかもが現実と変わらなかったが、それでもここは幻のようだ。

 

 

そしてふと、新たな違和感に気づく。

 

先ほどの三浦を斬った一撃は、氷焔を纏わないただの斬撃だった。

無尾の刃渡はおよそ70センチ。

であるにもかかわらず、その太刀筋は後ろの野獣ごと一閃した。

 

何故か。

 

雅が無尾より長い刃を持つ刀を振るったからだ。

 

刃を眼前にもっていき、その刀身に顔を映す。

 

その手に握る大太刀は、黒く悍ましいエーテルを放っていた。

 

「邪剣・夜。これはお前が見せているのか。」

 

刀は何も話さない。その代わりに、再び視界が暗転した。

 

 

 

 

 

「―――枕に生を、背もたれに死を(宝具詠唱)。」

 

直後、首に縄がまかれる。

 

縄は雅の細い喉を潰さんと万力の如く締め上げる。

そうはさせまいと雅は相手の服を掴み、首を締め上げる何者かを朱鳶直伝の背負い投げで地面に叩きつけた。

 

「強いねぇ!おじさんねぇ、君みたいな強いねぇ、子が大好きなんだよ!」

 

「次は葛木師範か。」

 

それは、邪剣・夜の前の持ち主。

かつて雅も師事した剣豪。

 

その手には、この世に二つとないはずの邪剣がもう一振り。

 

かつての修行ではついぞ見せなかった本気の殺気と剣氣を葛木は滾らせる。

 

「一人の天才を一から調教するなんて久々だから、楽しみっすよ。」

 

「成程、承知した。感謝しよう、葛木師範。教えてくれ、この刀の全てを。」

 

同じ刀・同じ構えで両者は向き合う。

 

これより始まるは試合ではなく死合い。

 

命を賭した、最期の修行が始まろうとしていた。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「クウーン。」

 

仔犬に似ても似つかないクッソ汚い喘ぎ声とともに、野獣は目を覚ます。

 

 

ペチペチと顔を叩いてくるのは、無尾に憑りつく謎の生物・無尾ちゃんである。

 

二人がいる空間は、蒼天を塗り固めたような地面と空の境界も曖昧な奇妙な場所だった。

 

 

「なんですかクォレハ…。」

 

無尾を抜刀し、警戒しながら歩を進める野獣。

 

 

 

 

暫く歩むと、『四角い虚空』としか形容のしようがない奇妙な穴があった。

 

その長方形の穴の下部には、いくつかの模様があった。

 

『▶️』と『⏯』が横並びに刻まれ、その横にはスピーカーのマークがある。

 

 

 

 

 

「いやこれどう見てもYou〇ubeじゃんアゼルバイジャン。」

 

オカルティズム全開の謎空間に明らかに場違いな最大手オンライン動画共有プラットフォーム。

 

他にやることもないので、とりあえず再生を試みた。

 

「ふむふむ。タイトルは… 星見雅ショートアニメ「英雄の旅路」…。」

 

 

そこに映し出されたのは、幼き日の星見雅と、その母との美しい思い出。

 

野獣はそれを微笑み頬杖をつきながら鑑賞していた。

 

 

 

 

 

 

しかし、その幸福は長くは続かなかった。

 

 

 

新エリー都で生きる限り、ホロウという厄災から逃れることはできない。

 

 

旧都陥落という未曽有の大災害。

 

 

星見家も例外ではない。高名な武家の一門であるなら猶更である。

真っ先に危機に駆け付けるのも、犠牲になるのも、彼等のような戦うものたちなのだ。

 

雅の母は浸蝕症状に犯されていた。

 

エーテリアスと化すのは時間の問題。もしそうなれば、真っ先に己が殺めることになるのは愛する愛娘。

 

一刻の猶予もなく、選択の余地もなかった。

 

幼い雅に抜き身の無尾を握らせ、雅の母は彼女の目の前で果てた。

 

 

「なんてことを……。」

 

そのあまりに悲しい結末に野獣は一人慟哭し、哀叫した。

「オォン!アォン!」

観終わった後、バーニスEP「バーニング・ディザイア」の一時間耐久レースで心の均衡を保たなければ耐えられないほどの悲しみに包まれた。

 

 

エーテリアスと化する前に人として母の命を絶った雅。

 

エーテリアスと化して多くの死を齎した師の命を絶った野獣。

 

 

彼らは逆の結末を迎えていたかもしれない。そして、どちらであっても等しく悲劇である。

 

 

悲しみに暮れる野獣の手の中で、無尾が狐火を燃え上がらせた。

 

刀から伝わってくるものがある。流れ込んでくるものがある。

 

 

 

 

「これは…葛木師匠と雅はんが…死合ってる?」

 

それは妖刀の使い手同士が刀を交換するという奇縁が齎したものか。

 

野獣は雅の現状を正しく認識していた。

 

 

 

雅は、今も戦っている。

 

あのような悲劇にあっても尚、前を向いているのだ。

 

なら自分はどうする。ただ手をこまねいて待っているのか。

 

 

否。

 

断じて否である。

 

くるりと無尾ちゃんに向き直り、頭を下げた。

 

「無尾はん、俺にも剣を教えてくれ。オナシャスセンセンシャル!」

 

無尾に口はない。当然、何か答えるわけもない。

 

 

しかし、何処からか響く声がある。

 

「笑止。」「『夜』の使い手よ。貴様のような部外者が口を挟むか。」「くさそう。」「きたない。」「甲高い声が気持ち悪い。」「枕がデカすぎる。」

 

口々に響く、老若男女の声。その何れもが野獣先輩を認めようとしない。

 

 

 

「あ、ふ~ん(察し)。俺の強さにビビッてるってはっきりわかんだね。」

 

それを聞いた野獣は、小馬鹿にしたようにせせら笑いながら顎を撫でた。

 

「「「「「「は?(威圧)」」」」」」

 

その調子コいた様子に、声の主たちは怒気を滾らせる。

 

「モザイクを貫通する男」「昏睡レイパー」「喋るゴミ」「肖像権が機能しない男」「うんこの擬人化」「汚物」

 

 

しかし、並大抵の誹謗中傷は野獣先輩には子守唄も同じである。

「口先だけならなんとでも言えるんだよなぁ…?」

 

したり顔で尚も煽り散らす一生インターノットの晒し者に、遂に声の主の堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「ふざけんな!(声だけ迫真)」「おい、ちっとあれ、どうする?」「おぅ、やっちまおうぜ、あれ!」「やっちまうか?」「やっちゃいますか?」「やっちゃいましょうよ!」「そのための右手、右手・・・あと、そのための刀・・・?」「刀・・・?」「刀は斬るためにあるでしょ」「金!暴力!SEX!」「金暴力SEXって感じで・・・」

 

 

わらわらと声の主たちが狐火を纏って実体化していく。その手には無尾が握られていた。

 

「じゃあ特別な稽古つけてやるか!」「オッス、お願いしま~す!」

 

 

虚狩りと汚物。彼らの命を懸けた鍛錬は、遂に危険な領域へと突入する。




【TIPS】
嫁入り前の女性をホモビに出演させる刀とか、ヘシ折ったほうがいいと思う。
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