迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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第38話 迫真空手の最終兵器

 

「状況は、芳しくないわね。」

 

双眼鏡で戦場を見下ろすサラ。

 

 

 

二振り目の妖刀という予想外のイレギュラー。

 

段々とバイクのエンジン音が近づいてきていた。もうすぐ、本命たる最強の妖刀使いも参戦する。

 

ブリンガーは結局のところ捨て駒である。

 

そして、それは彼も納得してのことであった。

 

いや、正確に言えば讃頌会において、始まりの主が齎すもの以外のこの世の全ては捨て駒といって過言ではないだろう。

 

無辜の人々も、悪党も善人も、信者でさえも。

 

故に彼らの悲願の妨げとなる敵対者が増長するのは避けたい。

 

ブリンガーは制御が利かなくなってしまったが、その分強大ではある。

 

出来るだけ暴れて向こうの戦力を削ってほしいところだ。

 

それが彼という犠牲に報いることであり、信仰である。

 

 

傍受対策がとられたトランシーバーを口元にあて、サラは指令を出す。

 

「『サクリファイス・77』を出しなさい。奴らにぶつける。」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

一行を見失ったブリンガーは、彼らが盾にしたコンテナを飴細工のように砕きながら暴れ狂う。

 

身を隠しながら反撃の機会を伺っている彼らの前に、『それ』は上空から投下された。

 

そのポッドに推進力はない。いかなる燃料もエンジンも搭載されていない。

 

 

 

側面の安定翼を器用に使って軌道調整される肉のグライダー。

 

この侵入鞘に機械部品はほとんど存在しない。

 

培養された筋肉素材が翼を制御し、表面に埋め込まれた嚢胞を収縮させてポッド自体の形状を変化させることで、波打つサーフェースが機体にかかる乱気流や衝撃を劇的に和らげるのだ。

 

 

兵士を運ぶために作られ、中に入り込む本人たちからは『棺桶』と揶揄されるそれは基本的に滑空することで運用されるが、今回は直下に投下された。

 

 

衝撃とともにポート・エルピスに投下され、突き刺さる侵入鞘。

 

元・防衛軍所属故、その用途を知る月城は困惑を隠せなかった。

 

パラシュートも無しにそんなことをすれば、内部の人間は撹拌されるはめになるからだ。

 

しかし、今回中にいるのは人間ではないのでその懸念は不要だった。

 

その役目を終え、生体部品を維持する酵素が絶たれた侵入鞘は壊死していき、末期を迎えた老人の皮膚のように黒ずみ収縮していく。

 

 

その木乃伊のような萎びた身体を突き破り、それは現れた。

 

「こんなの生まれて初めてだよパパ…パパ生きてて良かった…(感動の物語)」

 

ガリガリの手足にそぐわないブヨブヨの腹。皺くちゃの餓鬼のような悍ましい姿のエーテリアスのようなナニカ。

 

元は敬虔な讃頌会の信者であり、優秀な暗殺者であった老人は、贄となることを自ら志願した。

 

その狂気ともいえる信仰心は、サクリファイス化による自我の崩壊をはねのけた。

 

正確には、崩壊した端から新たな人格を生み出して己の意思を継続し続けていた。

 

77歳の肛門モロ感の親爺、インラン親爺、74歳の好々爺、UTNMYKNJ、ナナちゃん、モロ感、市川・玉藻・グラジオ、小太りのウケ爺、ナナチ、おやじいさん、夢見りあむ。

 

そのどれもが確かに『彼』であり、そして等しく始まりの主への信仰を欠かすことはなかった。

 

 

 

「新手…ですか。」

 

「副課長。その汚物を連れて先に行ってください。」

それを一瞥すると、浅羽は殿を名乗り出る。

 

 

「浅羽隊員...!」

「わかってるでしょ。あのブリンガーに対して、僕らの攻撃よりその汚物の攻撃の方が有効打になっていた。適材適所ってやつですよ。」

 

彼らは対ホロウ六課の精鋭である。その強さに、自信も自負もある。

その上での冷静な判断である。

 

あの有意性は、恐らく妖刀という特異な武器によるもの。

自分たちに妖刀は振るえない。

 

そして、誰よりも強い妖刀の使い手ももうすぐ到着する。

 

ならば、他の強敵を殲滅することで後顧の憂いを断つべきである。

 

「…わかりました。浅羽隊員、御武運を。」

「月城さ〜ん、僕がそういう堅っ苦しいのでやる気出ると思います?」

「ふふ、そうでしたね。訂正します。

浅羽隊員、勝ったら次の休暇申請の判定を若干甘めにしてあげます。」

「流石、話がわかる〜!」

 

いつもの軽口ともに矢を番え、弦を弾く。

 

「では、俺たちも残ろう。野獣、今回は譲ってやるゾ。」

「仕方ないですね。まぁ、前章と前々章で僕らは美味しい役でしたから、今回は先輩に華を持たせてあげます。」

そう言って、三浦と木村も前に出た。

 

 

「いいよ、来いよ!」

物陰からブリンガーの前に野獣は飛び出し、駆け抜けた。それをブリンガーは追いかける(走るガンガーBB)。後に続く月城・蒼角・イアス。

 

 

「お前の相手は俺らゾ!!」

 

それに追い打ちをかけようとするサクリファイス・77の前に、浅羽・三浦・木村が立ちふさがった。

 

「…狂う゛ぅ^~!ア"ア"ア"~狂う^~」

サクリファイスと化し、老人の暗殺術はさらに磨きをかけた。

 

残像を残し消えたサクリファイス・77は、一瞬のうちに浅羽の背後をとってそのこめかみに指をあてる。

 

「――"激"だね」

その銃口のように構えた指先から、弾丸よりも危険なものを打ち出す。

 

「ッッッッッ!!」

 

それを寸前のところで反応し、避ける浅羽。直後、サクリファイス・77の指先から破裂音が響く。それは指をさす先にあったコンテナを容易く貫通した。

 

 

その後隙を縫うように、サクリファイス・77の正面に三浦が迫る。

「合わせろや 木村ィッッ」

 

「ハイッッ」

そして、その背後には木村。

 

迫真空手部たちによる目にもとまらぬ柔と剛のラッシュの挟撃。

 

「マジで亡くなったらどうしよう…ねぇ、マジで亡くなっちゃったらどうする?」

 

左半身で木村を、右半身で三浦を同時にサクリファイス・77は相手取ってみせた。まるで背中にも目玉がついているかの如く洗練された動きである。

 

「こ、こいつ…!」「強い…!」

 

「クッ!差し込む隙が無い!」

そして、これほどの動きをみせながら浅羽への警戒も全く怠っていなかった。

 

弓の狙撃。双刀の踏み込み。

 

いずれを狙おうにも絶好のポイントで同士討ちを誘うべく、空手部の身体が重なるように動いてくるのだ。

 

空手部もそれにすぐ気づいて浅羽のチャンスを作ろうとするが、そうして裏を掻く動きをすれば、それすらも手玉に取るかのようにそのまた裏を掻いてくる。

 

 

そうして高度な駆け引きを繰り返すこと数分。

 

 

 

 

異変が起こる。

 

 

それが最初に起きたのは木村。

 

 

「う…ゴハ…ッ!!?」

 

「木村!!?」

 

 

突如、木村が嘔吐した。

 

吐しゃ物に虹色の光沢が目立つ。

 

エーテル浸蝕の初期症状だ。

 

「ば、馬鹿な…!ここは…ホロウの外…だぞ…!!?」

 

 

状況は掴めないが、かなり危険である。

 

浅羽はそう判断し、矢を放つ。

 

サクリファイス・77はすかさず木村を盾にせんと位置取るが、浅羽の狙いは彼らの足元。

 

 

矢の先端に付けられた煙幕弾が破裂し、視界を覆う。

 

 

「でかした!」

 

三浦が木村を抱え、浅羽に駆け寄る。

 

 

追加の煙幕弾を放ち、彼らはコンテナの陰に隠れた。

 

 

「容体は!?」

「まずいゾ…。おもったより酷い浸蝕症状ゾ。」

 

木村は昏睡状態に陥っていた。肌の表層にエーテル結晶こそ発生していないが、それも時間の問題である。

 

「あんたは…?」

「俺も少し気分が悪い…。妙だな戦った時間は同じなのに。

浅羽さんは?顔色が悪いゾ。」

 

「それはいつものことさ。僕は今のところ平気だ。」

 

そういって、サクリファイス・77のほうに目をやる。

 

そして、気づいた。

 

 

「足の先から身体中、全身が…燃えちゃった…燃え尽きちゃった(ASTNJYU)」

 

奴の足元の地面に、エーテル結晶が結露し始めている。

 

足とは地面に触れているのが常であるものだ。

 

ある仮説を立てる。

 

「まさか…触れた時間に応じて…エーテルに暴露するのか!?まるで…毒のように!」

「!! 可能性は高いゾ…。俺は拳で一瞬触れた程度だが、木村の柔拳は掴んだりするから接触が多い!」

 

三浦は忌々しそうに拳を見つめた。

 

「なら、一番無傷な僕が決めに行く。」

「あ、おい!待てい!それはいかんゾ。」

そういって立ち上がる浅羽の肩を、三浦が掴んだ。

 

そして、なにかを浅羽に差し出した。

 

それは、浅羽が普段から身に着けているチョーカーだ。

 

恐らく、最初の初撃で切れ込みが入っていたのだろう。

 

 

「あんた、エーテル適性減退症候群だろう。あいつは天敵だゾ。」

三浦の言葉に、浅羽ははっとして首元の注射痕を抑えた。

 

エーテル適性減退症候群は治療法の見つかっていない難病。

長くても二十代半ばまでしか生きられぬ宿命。

 

「あんたさ…人の病気とか最大のプライバシーって知ってる?」

「すまんゾ。チラチラ見えてしまってな。」

 

エーテル適性減退症候群の患者から採取された脊髄液は、人のエーテル耐性を底上げする違法薬物の原材料となる。

 

彼の首筋の注射痕は、かつて人体実験を受けていたことの何よりの証拠だった。

 

彼の境遇ならば、二度とホロウに関わらないことを選んでも誰が攻められようか。

それどころか、世を恨んで悪の道に走ったと言われても頷けた。

しかし、彼は六課のエースとして日夜人々のため己の命を賭けて戦っている。

 

尊敬すべき男であり、ここで死なせてはならない。

 

三浦はそんな思いだった。

 

それでもなお、浅羽は首を縦に振らない。

 

「僕も六課のメンバーだ。覚悟はできてる。

それに、目の前で一般人が死にに行くのを公務員として見過ごすわけないでしょ。」

 

しかし、三浦の意思も硬かった。

 

「頼む、俺にいかせてくれ。

このままではどのみち三人とも死ゾ。少しでいい、俺に賭けてくれ。

 

 

__策はある。上手く行けば、全員死なずにアレを倒せる。」

 

 

三浦の別人のように凛々しく真剣な表情に、苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも遂に浅羽が折れた。

 

「……40秒だ。それでカタをつけられないなら、僕も前に出る。」

 

「感謝する!充分だ。」

 

三浦は、道着の帯を千切って唾液で濡らした物を意識の無い木村と己の耳に捩じ込んだ。

 

「(なんだこれ?そういうプレイ?いや、耳栓か。)」

 

「すまない。作戦の都合上、浅羽さんには耳栓を渡せないゾ。」

 

「いや要らない。気持ち悪いし。」

 

「浅羽さんは俺の合図で矢を放って奴を止めたら、直ぐに耳を塞いでくれ。危ないからな。」

 

そう言い残し、三浦はコンテナの陰から出てサクリファイス・77にその身を晒す。

 

サクリファイス・77は好戦的な笑みを隠そうともしない。

 

「パパ寂しかったよ…こんなに愛してくれるのにパパ寂しかったよ…」

 

 

猛攻を駆けるサクリファイス・77。それを三浦は紙一重で避けていく。

 

 

 

もはやあとの無い戦い。

 

一瞬の接触も許されない。

 

その極限状態の緊張が三浦を冴えわたらせ、動きを研ぎ澄ましていく。

 

 

 

「おぉ~ドッピオ…」

中々三浦を捕らえられず、サクリファイス・77が苛立とともに大ぶりな攻撃を繰り出した。

 

 

それこそ、三浦が待ち望んでいた勝機である。

 

 

「浅羽さん!!いまだ!!!!」

 

三浦の合図で浅羽が物陰から飛び出し、矢を放つ。

 

一心不乱。さすれば必中!(拳士が拳で触れずに敵を倒すだって?どんな魔法を使うつもりだ?さぁ、見せてくれ!)」

 

感電とともに、サクリファイス・77が一瞬硬直する。

 

「俺の奥の手、見たけりゃ見せてやるよ。」

 

その懐に、滑るように三浦がもぐりこんだ。

 

 

 

 

 

「迫真空手___、」

 

鞭、という武器がある。

 

古くは家畜の調教や刑罰に使われてきた武器である。

 

 

その威力は、使い手次第で肉を引き裂き骨を砕く。

 

手首のスナップを利かせることで、その先端の速度は音速を超えるほどにもなる。

近接武器としてはケタはずれの速さだといえるだろう。

 

 

 

では、そんな鞭が最高速度を得るのはどの瞬間だろうか。

 

 

振り上げた初速。

 

 

否。

 

 

 

獲物を引き裂いたとき。

 

 

否。

 

 

 

「___奥義!」

 

 

手元に引き戻した瞬間こそ、鞭は最も早い。

 

 

 

では、その動きを拳で行えばどうなる?

 

その拳が、常日頃から音速を超えていればどうなる?

 

 

 

 

その過程で何が起こる?

 

 

 

 

それは武神・秋吉すら未だ到達していない領域。

 

虎咬・雷音(ココア  ライオン)!!!

 

 

 

 

 

文字通り落雷の如き衝撃と轟音。

 

周囲の窓ガラスは全て砕け散る。

 

その威力はサクリファイス・77を容易く吹き飛ばし、そのまま鉄のコンテナに叩きつけた。

 

 

「パパ先イっていい?ねぇ?イっていい?ねぇ!ねぇ!ねぇ!ねぇ!うわぁ!あぁイグイグイグイグイグイグゥイグッ!アァ~イッチャッタァ・・・」

 

苦悶の咆哮ののち、そのコアは完全に砕け散りサクリファイス・77は沈黙した。

 

しかし、これほどの攻撃を行いながらも、三浦には一切の浸蝕反応はみられなかった。

 

それは何故か。

 

答えは『そもそも触れていないから』。

 

 

当てない打撃(・・・・・・)

 

 

『如何に攻撃を当てるか』という武術の大前提すら捨て去った、狂気の発想。

 

 

その正体は、音速の拳の引き戻しにより発生する回避も防御も叶わぬ零距離空気砲ともいうべき衝撃波である。

 

あまりに常識外れな技に、浅羽は乾いた笑いを漏らす。

 

「は....はは、驚いた。魔法なんてもんじゃ無い。漫画だよ、もはや。」

 

 

「う…。やはり、未完成だったかゾ!」

撃破に安堵し、緊張の糸が切れたのか三浦がうずくまる。

 

その腕はあらぬ方向に曲がり、紫色に鬱血していた。

 

「無茶しすぎだよ、あんた。」

 

浅羽はそういって彼を労い、木村を抱える。

大けがを負った彼には悪いが、意識があって足が無事な以上は自力で歩いて避難してもらわざるを得なかった。

 

「よっと。やるじゃん三馬鹿。」

 

しかし、満身創痍の三浦を抱える姿があった。

 

この緊急事態に似つかわしくない、メイド姿の現役女子高生だった。

 

浅羽の背後から声をかけられる。

 

「失礼。お初にお目にかかります。HANDS所属・対ホロウ六課の浅羽悠真様とお見受け致しました。

我々は、本件に協力なさっているあなた方もよく知るプロキシ様の知己でございます。

空手部のお二人は私どもにお任せを。」

 

 




【TIPS】
ナナチは可愛いですね> (l)
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