第40話 Stuck With Me
ドバーランドにアストラがやってきた!
お ま た せ 歌姫・アストラの年越しライブ!!
デデデゲデー(♪創聖のクソエリオン)
「や っ た ぜ !」ワァアア!!(子供の笑顔)
ドバーっと 盛り上がろう!
ドバーっと ブッ飛ぼう!
グオォォ(臨場感あふれるGod in the Toiletの映像)
ど迫力の360度縦方向回転数17回!
「ゾゾゾゾ〜!」(鳥肌を立てるベテランアイドル)
中居さんありがとう〜!フラーッシュ!(文春砲)
世界最高を、お届けしたい...
ワァォ(ユニバ風)
「施工会社の一従業員がCMでこんな前面に押し出されることある???」
新エリー都の県北は、川の土手の下に滅多に人が来ない程過疎化が進んでいた土地であった。
しかし、裏を返せばその分地価が安いということでもあり、大規模な娯楽施設の建設も比較的容易であるということである。
そこに目を付けたTOPSは遊園地を作ることを決意。
白祇重工で建設員として働く傍ら、自費出版ながら絶大な知名度を誇る文豪・土方を前面に押し出した『新エリー都ドバーランド計画』を立案。
白祇重工も自社のRPを兼ねて施工を中心として全面的にバックアップし、子供のホモは喜ぶかもしれないテーマパークを完成させたのである。
パエトーン兄妹も大ファンである、新エリー都最高の歌姫アストラ・ヤオの年越しライブ。
そんな大舞台に選ばれたのは、何をトチ狂ったのかドバーランドであった。
偶然に匿名アカウントを使って募集をかけていたアストラと知り合ったリンたちは、彼女が敬愛する伝説的アーティストの故ヨラン・デウィンターの最期の音源を見つけ出すという願いを見事に叶えた。
直前にチケットの抽選に漏れ、もはや転売厨に首を垂れるしかないのかと絶望していた彼等兄妹だったが、会場となるドバーランドの建設・点検を請け負った白祇重工に顔が利くという偶然も功を奏し、アストラ本人から直接ライブチケットの手配を何枚かしてもらえる次第となった。
そうして5枚のチケットを握りしめたアキラとリンが訪れたのは、ルミナスクエアに居を構える治安局の分署である。
治安官に狼藉を働いた野獣先輩は、今日出所する。対ホロウ六課と共に八面六臂の活躍のした彼ら迫真空手部に、サプライズプレゼントをしようというのだ。
「彼が豚箱にぶち込まれて臭い飯を食べるハメになったのも、たぶん僕らを助けるためだ。半分くらいは僕らにも責任が無くも無く無く無い。」
「たぶん、て。まあ私も同意見かな。」
ルミナスクエアで先に三浦と木村と落合い、チケットを渡す。
「とんだ年末ジャンボっすね。」
腕にギブスを巻いた三浦やマスク姿の木村も、このサプライズにはいい歳こいて大喜びしている。
その足で治安局に向かった一行は、そこで予想外の人物たちと出会うことになる。
「で、僕たちはこうして野獣先輩を空手部のみんなと迎えに来たわけだけど、どうして邪兎屋のみんなもいるんだい?」
「あら、奇遇ね。プロキシ先生。」
「おお、店長じゃねーか!」
入口に屯していた邪兎屋が、一行を見つけた駆け寄ってくる。
「きっとあいつの出所祝いに来てくれたんだゾ!」
「みんななんやかんやで人情家ですからね!持つべきものは友達ですよ!」
照れくさそうにする三浦と木村だが、アキラとリンはどこか違和感を感じていた。
「猫又。君たちは誰の出所祝いで来てくれたんだい?」
「ん?どうしてそんなこと聞くんだゾ?」
アキラの質問に、三浦が怪訝そうに首を傾げる。
質問を投げかけられた猫又も同じような表情を受けべた。
「そうだよ、私たち邪兎屋が迎えに来る人なんて一人しかいないゾ。」
「野獣の出所祝いに決まってるゾ。」「ニコの出所祝いに決まってるゾ。」
「__え_え?ちょ、まって?あの馬鹿だけじゃなくてニコもとっ捕まったの!?」
想定外と案の定。
相反する感情が両立することを、アキラとリンは身をもって知った。
「もうすぐアストラ・ヤオの年越しライブがあるでしょ。ニコ、ダフ屋行為がバレてしょっ引かれたの。」
「ええ…。」「ナオキです。」
「あ、二人とも出てきたゾ。」
猫又が指さす先に、げんなりした顔の汚物と守銭奴がいた。
「親分、無事で何よりだぜ!」
「もう最悪よ!何が最悪ってこの汚物と牢屋で一緒だったこと!
なんでコイツも女子房にいるのよ!?治安官は目ン玉腐ってんのかしら!?」
「ニコ、心から同情するわ。野獣ならスプーンで脱獄したり、トイレで囚人を掘ったりしかねない。」
「(そんなイベント)ないです。ショーシャンクの観すぎってはっきりわかんだね。」
映画脳全開のアンビーに突っ込みつつ、一行はルミナスクエアで腹拵えを済ませることにした。
「野獣、ちょっと痩せた?」
「あっちの飯は不味いらしいからね。」
「すいません。三色チーズ牛丼の特盛りに温玉付きをお願いします。」
「あんたよく娑婆に出てすぐにそんなドカ食いできるわね…。あたしは並盛でいいわ。」
駄弁りながら、みんなの話題はアストラに移る。
押しも押されぬ大スターであるアストラだが、そうあればあるほどに批判の声が大きくなるというが世の常である。
彼女は大企業の神輿。
スターの器ではない。
ヨラン・デウィンターの人気にタダ乗りしているだけ。
雁木にいくらもらった。いくらで雁木と寝たんだ。
ホモビに出たのがスッパ抜かれた大学野球選手どころではない誹謗中傷を日夜受けているのだ。
「『アストラは目尻に黒子があるからシンメトリー。ピンキー姉貴もシンメトリー。つまりアストラ=ピンキー姉貴。Q.E.D』!?ふざけるな!なんだこのガバガバな新説は!アナ〇グラムすら無いぞ!?ただの荒らしじゃないか!」「痛いですね、これは痛い。」
「見てください!こっちはアストラさんの曲にヘリントンの兄貴のケツドラムを使ったMADが!
アストラさんだけじゃなくて故人の尊厳まで毀損するなんて…あまりにナオキです!」「人間の屑がこの野郎…!」
「アストラはモニカ様のライバルだのなんだの言われてるが、実はプライベートじゃ仲良しってのはファンの間じゃあ常識なんだぜ!推しの推しの敵は俺の敵だ!」
『助手2号、アンチの身元はすでに特定しました。いつでも無修正ディープフェイクほんへ、投下できます。
彼等の情報は丸裸です。絶対に足はつきません。』
「でかしたFairy!」「やりますねぇ!」「よし、じゃあブチ込んでやるぜ!」「っしゃ!
「「「「「『イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!』」」」」」
「「「「おい!男子とFairy、五月蠅いよ!!?」」」」
アストラを思うあまり暴走する馬鹿5人が女性陣に冷ややかな罵声を浴びせられているころ、彼女をこの世で最も近く、そして深く心配する女性は苦悩を抱えていた。
他でもない、アストラの敏腕マネヱヂヤアのイヴリン・シェヴァリエである。
アストラが現在籍をおく大手レーベルである帝高エンターテインメントグループ、通称:帝高。
その帝高と対立関係にあるフーガ・ミュージック社が、合法非合法問わずアストラや帝高の活動を妨害していることは、アストラもレーベルも把握していた。
イヴリンは、フーガの最近の動向から帝高内部に内通者がいる可能性をアストラに指摘し、彼女に近辺に注意を配るよう進言していた。
しかし、内通者はすでに最もアストラの近くまですでに喉元にナイフを突きつけられるまでに迫っていた。
何を隠そうイヴリンその人である。
彼女の正体は、フーガとつながりのある違法組織からの依頼で派遣されて帝高に入社したエージェント。つまるところ、スパイである。
アストラの帝高での活動をリーク・妨害し、あわよくばフーガに引き込み、叶わぬならばヨランと同じ末路に導く。
組織に拾われ、組織に育てられ、組織を絶対とするように修正を受けたイヴリンのコードネームは『シェーレ・グリーン』。
彼女は、これまで幾度となくミッションを拝命し、それをこなしてきた。奪った命も一つや二つではない。
今回もいつもと同じように忠実かつ優秀に任務をこなすことを組織は期待し、彼女自身もそれを望んでいた。
しかし、見事潜入を果たしアストラの側近へと上り詰め寄り添ううちに、彼女の中で変化が起き始めた。
高飛車で傲慢な女王様気取り。そんな一般的なイメージは帝高の作り出した偶像だった。
本来の彼女は、少女のような純真さや善性と、プロフェッショナルとしての矜持と責任を併せ持った人間だった。
彼女の歌を真っ先に聞ける自分が幸せだった。
彼女が謂れのない中傷を受ければ、自分の古傷が痛むような感覚が走った。
彼女に魅了される大衆に当初は冷ややかな感情を抱いていたはずなのに、彼らが懸命に綴ったファンレターを整理すると胸が熱くなった。一枚たりとも無碍にできなかった。
こんな人間がいるのか。こんな人間がいていいのか。
いままで出会ってきた、この世の悪性を煮詰めて肉袋に詰め込んだようなあの人間たちは何だったのだ。
そう思い始めて、初めて気づいた。
お前だっておんなじ悪性に塗れた「闇」じゃあないか、と。
そして、それなのに彼女という「光」に焦がれている自分に。
【TIPS】
エタったらアストラファンに刺されたと思ってください。