迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

44 / 50


「人はなろうした人物にしかなれない。
だからといって、必ずしも良い条件に恵まれるわけではない。
だが、なろうという意思がなければ、その人物には決してなれない。」

シャルルォ!?・ド・バール(1890〜1970)




シーズン1・アウトロ【もう顔中に涙と過去まみれや】
第44話 Shout It Loud


 

新エリー都の存亡を賭けた六課と讃頌会の激突から数か月後、パエトーン兄妹のもとにヴィクトリア家政のライカンから一報が入る。

 

あの日、ブリンガーが変異した語録しか話せないクッソおぞましい怪物と、その同種についての調査結果だ。

 

彼の怪物の名はサクリファイス。

 

かつて讃頌会が研究していた、ホロウ外でも活動可能なエーテリアスの亜種である。

 

そして、以前にホロウ内で白祇重工にケツをガン堀りされたクッソ哀れな怪物も同じものであることが判明した。

 

しかし、朱鳶を始めとする特務捜査班から引き継いだ六課を有するH.A.N.D.が件のサクリファイスから摘出したコアを研究していたそうだが、それが盗難にあったのだという。

 

ではなぜそんな市政の根幹に関わる事案を、一家事代行サービスであるヴィクトリア家政が把握しているのか。

 

その理由は実に単純明快であった。ヴィクトリア家政の真の主人とは、現・新エリー都市長であるメイフラワーだったのである。

 

兄妹の育ての親であるカローレとも知己であった市長は、バレエツインズでの一件や対六課との共同戦線を考慮し、協力関係を申し入れたのだ。

 

 

「私の兄にも会ったはずだね。郊外ではまた随分な火遊びをしたようだが。」

 

電話越しに兄妹に語りかけるメイフラワーの口から飛び出たのは、あの異例ともいえるルールの大改訂と潤沢な設備投資を受けたツール・ド・インフェルノの影にいたフィクサーの存在だった。

その正体は兄妹がレースの準備中に出会った謎の富豪カーリーであり、そして彼はメイフラワー市長の兄だという。

 

「火遊びというかほぼRTAだったんですけどね。」

 

「怪我の功名というべきか、兄が投入した資産のおかげで先代覇者は一命を取り留め、我々メイフラワー家も郊外や彼のモンテフイーノ家との新たなパイプを得た。

兄も、君たちを高く評価しているよ。

兄の趣味嗜好は兎も角として、人を見る慧眼だけは何よりも信頼できる。

あぁ、ライカンくんたちの名誉のためにこれだけは言わせてもらうが、決して家政が兄に君たちの素性を明かしたわけではないよ。

兄が自分で勝手に推論した結果だ。」

 

 

不幸にも黒塗りのコアを盗まれてしまった市長が現状数少ない味方とみなしたパエトーン兄妹に対し、言い渡した協力の条件とは…。

 

 

 

 

「僕たちがホロウに」「入れるようになる…!?」

 

彼は、兄妹が目に入れているインプラントをアップデートしてホロウ内での活動制限を緩和できるようにしてくれるだけではなく、彼らに秘められた能力を制御すべく、知己である虚狩りにも匹敵するとある人物を紹介してくれるという。

 

師の真実を追い求める兄妹は躊躇なくこの提案を承諾し、サクリファイスのコア奪取に動くこととなる。

 

 

 

そして肝心のサクリファイスのコアの行方だが、なぜか富裕層向けの闇オークションに出品されているという。

 

サクリファイスの存在を知るものを出来るだけ絞りたいという理由から、ライカンとともにオークション会場に赴き、コアを競り落とす。

 

それが、立場上そのような場に出ることの難しい市長から言い渡されたミッションである。

 

そもそもアンダーグラウンドなオークションであり、その存在すら秘匿されているような場である。

チケットの入手はメイフラワー市長やヴィクトリア家政の力を以てしても困難な案件であった。

 

しかし、思わぬところから助け船がやってきた。

 

 

年末のドバーランドで行われたアストラのライブにおいて美味しいワインを紹介してくれた、画廊とソムリエの二人組である。

 

兄妹がビデオ屋を経営している店に『偶然』訪れ、いつの間にやらすっかりなじみ客となっていた彼らに、接客がてらダメ元で闇オークションの件を振ってみたところ、なんと彼らの元には件の招待状が届いており、幸か不幸か二人とも都合で欠席せざるを得ないのだという。

 

彼等…ヒューゴと氷崎が招待状の譲渡の条件として提示してきたのは、かつてはメイフラワー家と双璧をなすと称され、しかしていまやその栄華に陰りの目立つ旧家であるレイヴンロックの当主・ハルトマンの尾行だった。

 

示し合わせたように降ってきた絶好の機会を前に、兄妹に他に選択肢はなかった。

 

 

 

そうして紆余曲折を経て、なんとかオークション会場の招待状を手に入れたライカンとリンは無事会場入りを果たしていた。

 

 

 

オークション会場はすでに満員であり、欲望と謀略の渦巻く戦場と化していた。

 

そこに陳列されている品々は、その多くが出所故に表のオークションに出せないシロモノばかりであった。

 

 

 

そして、非合法な場に非合法な商品が並ぶのはある種必然であるといえよう。

 

ライカンとリンが目当ての品がないか館内をまわっていると、どよめきが聞こえた。

 

 

「さぁそれでは!ここでコイツを競りたいと思うんですよ。まず、30万から!コイツの出来る技は、バックはもちろん、ローソク、鞭打ち、それから…小便を飲んだりも、クソを食ったりも、調教次第では出来るかもしれませんよ?まず、30万から!さぁお客さんどうぞ!」

 

ガラの悪そうな長身瘦躯のオークション男がパンツ一丁の男を壇上に引きずり出し、まるで獲れたての魚を競りにかけるように来場客に見せびらかしていく。

 

それに群がる男たちは、嬉々として落札の輪に入っていく。

 

 

「40!」

「40!」

 

「50!」

「50!もう一声!」

 

「60!」

「60!もう一声いないか!」

 

「70!」

「70もう少し欲しいなぁコイツは、こう見えても、身体は、しっかりして…バッチリの筋肉質ですよ。さぁもう一声どうだ!」

 

「75!」

「もう一声!」

 

「90!」

「90!もう一声!歯切れのいい所で!」

 

 

 

「100!」

「はい!100お客さんに決まりだ!」「あぁうっ…」

 

 

「お客さんどうもありがとうございますさぁ!そしたら触っていってみてくださいよ、し、まず品定めして、納得いくように!何でも出来ますよコイツは!立つんだよ!」

 

「なかなかいいケツをしているなぁ!」

 

「胸とかどうです?鍛えられたこの、筋肉。なかなかのモンでしょ」

 

「なかなか…ちょっとこれイケそうだな。」

 

赤いサングラスをかけた身なりのよさそうな紳士が男を落札者し、満足げに頷く。

その紳士は、つい先日リンが尾行したレイヴンロック家の当主ハルトマン氏に相違なかった。

 

 

「ナニアレ…。」

 

ドン引きするリンに、ライカンもため息をつく。

 

「プロキシ様。大変お見苦しい場面を見せてしまい誠に申し訳ございません。

歯がゆくはありますが、新エリー都の富裕層にこのような暗い欲望が根付いていることもまた事実なのです。

市長閣下のお力を以てしても、このような輩を排除することは容易ではありません。

私も市長閣下と…いえ、その遥か以前からこのような者たちと戦ってまいりましたが、未だ撲滅できていないのが現状です。」

 

ライカンの「傷つくのは、常に力無き者の側ばかりというのに…。」という悔恨の声は、眼前の群衆にかき消されていく。

 

 

 

商品を売り飛ばし、したり顔のオークション男は次なる商品を陳列する。

 

「本日最後の、出物ですよ!さぁ!歩け!とっととここに上がるんだよ!」

 

そういってオークション男は舞台袖から3人の男たちを引きずり出した。

 

一番左の男は、髪を逆立てた整った顔立ちの優男だった。

真ん中の体格のいい男は、坊主頭で池沼のような顔で放心状態である。

右端にいる眉間にイボのある浅黒い肌の汚物は、アンニュイな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「…プロキシ様、私の見間違いでしょうか。たったいま競りに出されている者たちに非常に見覚えがあるのですが…。」

「ライカンさん、無視だよ無視。他人のフリしよう。」

 

 

 

「コイツ!コイツらはですね、テン六*1で、半年前にひらってきてみっちり調教した、まだ、SMにしては初心者なやつですよ。この、身体!なかなかいい身体してるでしょ?さぁどうですお客さん、この初心者Mを、お客さんの…プレイで、1から10までみっちり仕込んで!お客さん、死ぬまで楽しんでみませんか!?」

 

 

「半年間みっちり調教したのならすでに初心者ではないのでは?」

「そんなこと真面目にツッコまなくていいから…。」

 

 

壇上に引きずり出された迫真空手部は、真っ青な顔で陳列される。

 

 

「やべぇよやべえょ...!このままじゃ悪の金持ちに買われてあんなことやこんなことをさせられちまうんだ!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

「先輩、まずいですよ!?そんなナオキな展開になったら、ゼンゼロがエッチなゲームだと思われてしまいます!」

「女の子になんて辱めを!悔しいでも(ビクンビクン)」

「やめてくれよ...(絶望)。いやだ、ひぎぃ〜!」

 

「やめんかぁ!」

 

「「!?」」

しかし、それを一喝する三浦。その顔は、別人のように凛々しかった。

 

「お前たち、向こうの方を見てみろ!」

「「ん?」」

 

三浦が指さす先にいるのは、下賤な金持ちばかりである。

しかしその奥に、ライカンと壇上に並べられる商品(自分たち)を軽蔑した目で見るリンがいるのを野獣の眼光は見逃さなかった。

 

「あっ店長!ご無沙汰じゃないですか。」

 

「げ。」「不覚!」

しまったと顔を逸らすリンとライカンだが、時すでにあずま寿し。

 

「え!?わあ、本当だ!僕たちを買い戻すためにきてくれたんですね。ありがとうございます。」

「HELP!!HELPゾ!!」

 

千載一遇の好機と声を上げる迫真空手部だが、その期待は盛大に裏切られることとなる。

 

「いや完全に別件だよ。

自分たちでどうにかして、どうぞ。

頑張ってウリで狂って稼いで自分を買い戻してね。」

 

リンのすげない態度に、空手部は落胆を隠せない。

 

「ポッチャマ・・・」「ナオキです。」「泣きました。私は黒人女性でレズで讃頌会教徒です。」

「申し訳ないけどゼンゼロはポリコレTCG(カードバトル)じゃなくてアクションRPGなんだよね。」

 

「リンちゃんのけちんぼ!」「ビデオ屋のゴミ!」「駐車下手スギイ!」

 

「なんとでもいいなさい。」

 

目論見が外れて落胆する迫真空手部を、オークション男は嬉々として競りにかける。

 

「コイツらが!さぁどうです?30万から!さぁ、お客さんどうです?」

オークション男は自信満々な表情で『商品』を紹介し、来場者に向き直る。

 

「…」「…」「…」「…」「…」「…」

しかし、ホールはしんと静まり返ったままである。誰一人声をあげるものはいなかった。

 

当然である。『何が悲しくてこんなのに30万も出さにゃあならんのだ』というごく自然な感情で来場客の心は一つになった。

 

空気がヒエッヒエになったことで、オークション男は目に見えて動揺していく。

 

「じゃ、じゃあ20!20から!」

 

「下げた!?下げたよコイツ!」「プライドとかないのか?」「オークショニアの屑がこの野郎…。」

 

 

しかし、どんな世界にも物好きはいるものである。

 

勇ましく手を挙げるものが出始めた。

 

「10!」

 

 

しかも更に値切りだした。

もはやオークションというより家電売り場である。

 

 

「10!?初心者ですよ?10は安くないですかぁ?さぁどうだ!」

 

「9!」

 

「9!初心者ですよなかなか、こういうのはひらえませんよ?もう一声!どうだ!」

 

「8.5!」

 

「8.5、渋いなぁ〜初心者のM!なかなか、手に入らないでしょ!さぁどうする!」

 

それでもなんとか値を吊り上げようと粘るオークション男だが、来場者に「ふざけんな(声だけ迫真)」「てめえも商品扱いで並べるぞこの野郎」と凄まれ、さらなる値引きを余儀なくされる。

 

「7!」

 

「7もう一声!」

 

 

売れ残って放逐される可能性に一縷の望みをかけていた木村は、まさかの薄利で売り飛ばされる展開に狼狽える。

 

「ど、どうしましょう先輩!」

 

しかし、野獣はまだ望みを捨てていなかった。

 

「大丈夫だって安心しろよ。

ライカンさんは義理堅いだら、カリンちゃんの命の恩人である俺らの頼みなら無下に出来ないってはっきりわかんだね。」

「あっそっかぁ!じゃあ助けてくれるのは、当たり前だよなあ?」

「ナオキです。」

 

 

その言葉にライカンは「フーッ…」っと大きくため息を吐きながら眉間を揉んでブツブツと呟き始めた。

リンが耳をそばだてると、「しかしこんなことに市長閣下の資金を使うわけには。ここは私のポケットマネーで…」と聞こえたので流石に居た堪れなくなり、この不毛な根切り合戦に参戦することを決めた。

 

リンも勢いよく競りの群衆の前に躍り出て勇ましく手をあげ、金額を叫ぶ。

 

 

「あ~もう! 0.9!9,000ディニーよ!」

「す、すげえ!ついに4桁にまで…!」「なにもんだあの姉ちゃん…。」「そんなに値切ってまであんなのが欲しいのか…(困惑)」

 

 

プライドやら体裁やら、自分の中のなにかが音を立てて崩壊するのを感じながらもリンは値切る。もはやヤケである。

 

その後も面白がって悪ノリで根切り合戦に参戦するアホが続出し、あれよあれよと値下がり続けた三馬鹿は、最終的に10ディニーでリンに落札された。

 

 

「10いいね10で買った!」

 

恥も外聞もかなぐり捨てた値切りっぷりに周りから拍手喝采を送られるリン。その雄姿に感銘を受けたのかはたまた同情したのか、ライカンが沈痛な面持ちで財布から5ディニーを取り出して折半し、三馬鹿は人権を買い戻した。彼らにそんなものは元々存在しないのではと問われれば、返す言葉もない。

 

「さぁ身体よく見せろ!回るんだよ!ほらケツもよく見せろ!バックも出来るんだなぁ?!おーし!お客さん、とっとと持っていってください!」

 

落札した品が目の前で引き渡される。これが件のサクリファイスのコアや高価な品々であれば良かったのだが、現実はクッソ汚いホモ3匹である。嬉しくないことこの上ない。

 

「涙がで、でますよ。」

「ありがとうございます。」

「リンちゃん、ライカンさん!この恩は忘れないゾ!」

解放され涙を流す迫真空手部だが、ライカンとリンは「泣きたいのはこっちだよ」とでも言わんばかりの表情だ。

 

「いえ、それには及びません。むしろ完全に忘れていただいたほうがお互いの為かと…。」

「3人セットで10ディニーの時点で、あんた達の価値はところ天の助以下だよ。」

 

またこのクッソ汚いのと一緒なのかとため息をつくリンの耳に、マイクの電源が入るプツプツした音と革靴の足音が響く。

 

 

 

「レディース&ジェントルマン!

さぁ、お客さんどうです?楽しんでます?」

 

オークション男が再び壇上に現れる。その背後には、天幕で覆われた次なる品が鎮座していた。

 

 

「続いての品こそ、本オークション最大の目玉――!」

 

 

そういって、品を覆う布を取り去った。

 

 

 

 

 

 

「比類するものなき『激エロのモロホスト像』ですよ!

 

はるか昔、真に勇気ある者*2だけが見ることを許されたというこの逸品…!

しかも見てくださいよ!この!胸とかどうです?

奇妙な宝石がついとるでしょう!?

私もこのようなものを見るのは初めてです…。何やら、怪しげな霊圧のようなものを漂わせていますねえ!」

 

オークション男が紹介するギリシャ彫刻のようなガタイのバカ乳首の片方には、確かに怪しく輝く宝石がはめ込まれていた。

 

「(あまりのキショさに全細胞が『敵対』を選んだライカン)」

「頭えぐれてるのかと思った。」

「くさい子。」

「大昔に生息していた北京原人みたいでした。」

「…乾燥途中の干し柿みたいなのです。」

「今日は…ずいぶんと賑わっているようじゃないか。相応しい者から場違いな者まで、あまねくこの場に寄せ集めてしまったようだな。

『激エロのモロホスト像』か…フン。素晴らしい逸品だ。コアとセットでなんとしても手に入れてやるぞ――。レイヴンロック家の栄光に懸けて。」

「…はい、『例のアレ』です。どうやら本物のようですが。いえ、南佳也には全く似ていません。…はっ、見張っておきます。」

 

 

その怪しい輝きに、その価値を知るものも知らぬ者も目を奪われていく。

*1
ティンズコーヒー 六分街支店

*2
蛮勇・物好き・肝試し




【Tips】
バレエツインズとかリバーブアリーナでの駐車の仕方だいぶ終わってるよね。


あ、そうだ(唐突)

39話んとこに挿絵追加したゾ。みんな見とけよ見とけよ~。

(挿絵の追加も)おう考えてやるよ。(毎回描くとは言ってない)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。