迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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「比較は喜びを盗む」

セオドバ・ツウズルッベルト(1858〜1919)




第45話 Life Will Change

ウリに出されたクッソおぞましいガタイの激しい競り合いは、最終的にハルトマンが天文学的な金額を提示したことで終わりをみた。

 

 

「やっべ。ホワイトマンじゃん。」

「ハルトマンだッ!!無礼者め、二度と間違えるな!

――ハハハ…全く!どうもどうも。やはり最後に勝つのは、俺だったようだ。

これにて、こちらのギリシャ彫刻のようなガタイは俺のものとなった。改めて、皆には心からの感謝を一一。」

 

 

「あとちょっとで勝てたのに!悪徳変態資本家め~…!」

悔しがるリンだが、内心「あんなのを大金で落札したら人生の汚点になる」とも思っていたのでホッとしなかったといえば嘘になる。

 

そして、まるで見計らったかのようなタイミングでリンのスマートフォンが震える。

 

「ん?ヒューゴさんからDMだ。『上を見たまえ』…?」

 

怪訝な表情を浮かべながらリンが視線をあげた瞬間、会場の電気が一斉に消えて暗闇に包まれる。

 

「て、停電だ!」「ハギャぎ!!?!!??!?」「やだ怖い……やめてください……アイアンマン!」

 

会場がざわめく。進行役のオークション男の狼狽する声が聞こえることから、どうやら機材トラブルのようだった。

 

 

そして、すぐさま闇を切り裂くように会場の上部がスポットライトで照らされる。

 

 

 

 

 

 

「レディース・アンド・ジェントルメン!

オークションを楽しんでいるだろうか?

下品かつ汚らしい前座に付き合わせてしまったことをお詫びしよう。能のないやつほどきまってよく囀るものだ…。どうか許してやってくれたまえ。」

「大人の世界って、怖いですよねぇ」

 

 

ライトの先には、舞台俳優のような衣装と仮面に身を包んだ二人の男たちが佇んでいた。

その手には、先ほどホワイトマンもといハルトマンが落札したばかりの『激エロのモロホスト像』が抱えられていた。

 

 

「あの人…なんだか見覚えがあるような…。」

仮面で顔は見えないが、あの佇まいと声には聞き覚えがあった。つい最近あったばかりなのだから、聞き間違いようがない。

 

 

「貴様!それは私の物だぞ!よりにもよって!!」

 

大枚をはたいたハルトマンが怒り狂うが、新エリー都を揺るがす怪盗『モッキンバード』は意に介さない。

 

リーダーらしき金髪の美男子が鼻で笑い飛ばす。

 

「なにか勘違いしているようだな?

俺はそこらのチンケなコソ泥とは違って欲張りでね。

これ一つではとてもとても満足など出来そうにない。

だから、こうさせてもらう。」

 

 

 

もう一人の黒髪の美男子がパチンと指を鳴らすと、かすかな駆動音とともに一瞬会場全体に冷気が流れた。

 

 

そして次の瞬間、オークション会場に並べられた煌びやかな品々が一人でに浮き上がった。

よく見れば品物の一つ一つに野球ボール大の小型ドローンが張り付き、浮遊させていた。

 

「会場の品物、全て頂戴する!」

「アッハッハ。 なんか芸術的。」

 

黒髪の美男子がオーケストラの指揮者のように指を振りながら開け放たれた窓から飛び出す。

すると、ドローンもその動きに合わせて彼に付き従って品物を抱えたまま次々と飛び去って行く。

 

 

鳥のように飛び去るドローンと慌てふためく群衆を前に満足げに微笑を浮かべたリーダー格の男は、最後の仕上げに名乗りを上げる。

 

 

「さて、今宵のショーも終わりが近づいている…。

会場のみな皆様、最後までどうか…素敵な夜を。

 

モッキンバードより、心を込めて。」

 

芝居がかった仕草で優雅に一礼してコインを弾く。

そして、ばっちい物に触るかのように顔を顰めながら『激エロのモロホスト像』のバカ乳首に埋め込まれたサクリファイスのコアを摘まんで取り外した。

 

コアを失った『激エロのモロホスト像』にもはや価値はないと言わんばかりに、彼はそれを乱雑に投げ捨てる。

 

 

地面に向かって落下する『激エロのモロホスト像』を前に、ハルトマンは絶叫しながら飛び出した。

 

「てめええええええーーーーー!!! 何してんだあああああーーーーー!!!」

 

そしてゴールデングラブ賞間違いなしの見事なダイビングキャッチでそのギリシャ彫刻のようなガタイを受け止めた。会場から拍手が上がる。

 

 

顔面を強打しながらもハルトマンはヨロヨロと立ち上がり、怒声をあげる。

 

「…やつを追え!あのコソ泥を逃がしてみろ!給料はないと思え!なにを突っ立っている!?オークション会場にぃ変態ゆっ、変態郵便屋が入り込んでるぞぉ…!不法侵入だ不法侵入!!とっ捕まえろ!国民全員でこいつを逮捕しろ!」

 

 

ハルトマンの号令とともに、警備員たちがオークション会場に流れ込んでくる。

 

「お、やべぇ、110番だな!」「仮面ライダーなんだろお前は(衝撃の事実)」「じっとしてろお前!逃げられねぇぞお前!」「治安局に通報しちゃうからなお前(お茶目)」「ムーミン野郎お前離せコラ!」「治安官だ!(インパルス板倉)」「何が目的だ!」「ウエハース・・・」「ンモノか!?金か!?」「ちぇん」「布団の上で枕を?!抱えて…?」「多分変態だと思うんですけど(名推理)」「お前もしかして、あいつのことが好きなのか?(青春)」

 

電気系統もいまだ満足に復旧しないまま、会場に流れ込む警備員たち。突然の劇場犯罪に加えてそんなことになれば、混乱という火に油を注ぐことになるのは明白であった。

 

 

いち早く動いたのはライカンである。

 

「プロキシ様!迫真空手部の皆さま!会場はパニックで危険です!群衆に巻き込まれぬうちに移動を!私が先導いたします。」

 

最も人の少ない出入口を使い、素早く4人を会場から離れたゲストルームに移動させた。

 

 

 

 

 

「ありがとうライカンさん。でも、ごめんなさい。任務、失敗しちゃった。」

 

「いえ、プロキシ様のせいではございません。

彼の怪盗が動いていた以上、我々が後手に回った時点で出来ることは限られたかと。

…真実を申しますと、先ほど現れた、あの…モッキンバードなる輩の首魁とは、面識がございます。」

 

「信じてもらえないかもしれないけれど、実は…私も。

あの人たち、知り合いなんだ。実はオークション会場のチケットもあの人たちから貰ったもので…。」

 

リンはライカンさんにヒューゴさんのことを簡潔に伝えた…隠すつもりはなかったことを特に強調しつつ。

 

「なんと、あなた様も…?しかし、チケットが彼奴からもたらされたものとは…。

どうやら今夜の出来事は、ヒューゴが描いた絵図のようですね。

 

…もうずいぶん昔のことでございます。

私がヒューゴとともに、怪盗団「モッキンバード」を立ち上げたのは…。

幼稚で壮大な夢を掲げ、自分たちが正しいと思うことを1つずつ成し遂げてゆきました。当初はすべてが順調だったのです。

――あんなことが起こるまでは。」

 

そういって、ライカンは天を仰ぐ。

 

ヒューゴを。彼の血族たちの血と臓物にまみれて立ち尽くしていたあの日の夜を回顧する。

 

「今思えば、予兆はあったのかもしれません。誰も気づく者がいなかったか、あるいは気づくこと自体を避けていたか…。

いずれにせよ、私はモッキンバードから足を洗い、市長閣下が差し伸べてくださった手を取りました。

当然、穏便に別れることは叶わず、今やヒューゴとは宿縁の仲という有様ではございますが。」

 

すぐさまモッキンバードを追い、サクリファイスのコアを奪還しようと動くリンとライカンと迫真空手部。

 

ヒューゴの手口を知る元相棒であるライカンはかつてそうしていたようにホロウを経由すると予測したが、その予想は外れることとなる。

 

オークション会場である天高くそびえる摩天楼の窓から飛び出したヒューゴと氷崎は、なんとドローンを足場や移動手段にして空中をそのまま逃走経路にするという新たな手口を開発していたのである。

 

ちょうど彼らが現れた時刻は、飛行船の離着陸により新エリー都の空が渋滞する時間帯である。

 

もとより複数犯であることに加え、空を覆う飛行船の影に隠れた彼等の目撃情報は、インターノットに不自然なほど同時多発的に報告される偽造・増幅された情報を隠れ蓑にして、鮮やかに行方をくらませてしまった。

 

 

 

 

 

 

そうしてモッキンバードは見事逃げおおせ、アジトで一堂に会していた。

 

「こっからは、こんな小細工要らないですよ。あと必要なのは、この『手』ですねぇ。」

「なにが『手』、なのです。普通にドアノブを回しただけなのです。」

「ふふん。相変わらず手厳しいですねえ、ビビアン。裏工作、ご苦労様です。」

「ああ、いつも助かっている。」

 

 

氷崎たちは、オークション会場の停電やインターノットの偽情報などの工作を担当したモッキンバードの一員・ビビアンを労いつつ、盗んだ品々を検分する。

 

 

 

 

「この色!間違いない!」

氷崎は白色の器を見て歓声をあげる。

 

「ほう、白磁か。良い品だ。」

ヒューゴもそれを見て、満足げに顎を撫でた。

 

「形も良いし、音も良い。」

美しい磁器を指ではじき音色を楽しむ氷崎の横で、ビビアンも検分を始めた。

 

一枚の絵画を手に取る。

 

「それはたしか夭折した若き天才画家の遺作ですねえ。『人事は棺を蓋うて定まる』とはいいますが、酷な話だ。

ここでその絵に出会うとは、因果なものです。」

 

「どういうことですか?」

 

「ああ、俺たちが追っているサクリファイスやブリンガーについての情報提供者が現れた。その絵を描いた彼…その妻のシエナ氏だ。」

 

ヒューゴがパソコンを起動し、依頼人であるシリオンの女性の写真を表示する。

 

 

「彼女が…。彼女、オークション会場にも来ていたのです。」

 

「亡き夫の遺作を取り返すために、ですか。泣かせる話だ。ま、それはいま我々の手元にあるわけですが。

しかし、集合場所が郊外のホロウ内とはまた厄介ですね。」

 

「はい。プロキシに頼むのが定石なのです。アテはあるのですか。」

 

ビビアンの言葉に氷崎は頷き、パソコンを操作して別の写真を表示する。

 

「この方は、オークション会場で元メンバーのライカンさんと一緒にいた…。」

 

映っている写真は、以前ライカンとカーリーがリンやアキラ、それに迫真空手部とともにシェフ中野のレストランで食事をとったときのものだった。

 

「彼女とその兄は表向きは六分街のビデオ屋だが、それとは別に副業でプロキシ業をしている。

…いや、むしろこちらが本業で、ビデオ屋が隠れ蓑といったほうが正しいのだろう。」

俺たちも人のことは言えんがね、と画廊とソムリエは肩を竦めつつ言葉を続ける。

 

「忌々しい裏切り者だが、アレが仕事で懇意にするということはプロキシとしての能力の保証にはなるだろう。」

「ええ。一個人としての人柄も善良だ。彼女で問題ないと思いますよォ。」

 

メンバー二人が太鼓判を押すのであれば、ビビアンも異存はなかった。

 

「わかりました。

私が現地に赴き、依頼してくるのです。

…本当なら伝説の最強最推しプロキシであるパエトーン様にお頼みしたいところですが、背に腹は代えられないのです。

嗚呼、パエトーン様。一体どこにお隠れになられたのか…!」

 

目を伏せ悶えるビビアンと画面に映るリンを交互に見て何か言いたげな表情をヒューゴに向ける氷崎だが、ヒューゴが苦笑して口に指を立てるのをみて、同じような笑みを浮かべて沈黙した。

 

「ま、元気を出しなさい。きっとそのうち会えますよ。」

 




【Tips】エージェント紹介

<氷崎>
・陣営:モッキンバード
・属性:氷
・特性:撃破

ドローン使った戦闘はスーパーマンの映画(2025)に出てきたMr.テリフィックがかっこよかったので、あんな感じで脳内再生オナシャスセンセンシャル。
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