迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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「常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう。」


アナルベルト・オォン!アォン!・シュー…タイン(1879~1955)




第50話 Won't Call Sea Tail Color

※今回非常に汚いので嫌な人はブラウザバックして、どうぞ。

 

 

リンたちがささやかな親睦会を催した次の日、通信が入る。

 

メイフラワー市長からの、讃頌会に関する続報だった。

 

あのサクリファイスを製造していたのは、かつてヤヌス区で活動していた讃頌会の責任者であるランドンという男だという。

 

当人は数年前に事故で亡くなったが、生前はサクリファイスの研究に没頭し、生ける者をあの怪物へと変じさせる薬剤を開発したとされている。

ただ、薬剤の安定性には疑問符がつくものであり、そして、彼の死と共に製造方法も失われた。

 

ブリンガーが残した地図に記されている地点とは、当時讃頌会が、成功に最も近いサクリファイスの試作品を隠していた場所なのだ。

 

 

そしてその残党がハルトマン率いるレイヴンロック家と秘密裏に連絡を取り合っている痕跡がみられるという。

 

 

 

レイヴンロック家。

 

かつてはメイフラワー家と勢力を二分するほどの名門だったその旧家だが、年々その影響力は落ちており、いまとなってはかつての威光は見る影もない。

 

しかし、腐っても名家は名家。そして彼らがこそさらに手段を択ばない一族であることは、新エリー都の上流階級に身を置く者たちには公然の秘密である。

 

「メイフラワー家が零落すれば、その後釜に座ることも容易い。そのためなら讃頌会と手を組んで謀を企むことになんの躊躇もない。」

 

そのように考え、外法に手を染めることもいとわないことは想像に難くないと、彼らを知る者たちなら口をそろえる。

 

そして、それは事実であった。

 

 

ランドンの急死や対ホロウ六課の括約により規模が縮小し、地下に潜らざるを得なくなった讃頌会は、合法・非合法問わず様々なコネクションを構築してその根を深く大きく伸ばしていった。

 

 

 

 

 

このとある会員制レストランも、その一つである。

 

 

 

 

「人間の三大欲求は食欲、性欲、睡眠欲。スーッ

 

 

その中でも、えー食欲は人によって生命維持の為に必要な行動であり、

 

 

動物系においては快感をもたらし、スー 優先して行動するようプログラムされております。

 

 

食事を摂る事により満足感、また美味しいものを食べる事により喜びは精神上好ましい影響を与えます。ンンッ!

 

 

またその飽くなき追求に情熱を傾ける方が達が存在s します。それを、一般的に食通と呼びます。

 

 

当レストランではその世の中に溢れる様々な美味なものを、ンン!飽きてしまわれた方、がた、(ハァー…)食通の方々に相応しい食材を、提供しております!(半ギレ)。」

 

肩に目立つ大きなタトゥーを入れた上半身の素肌に直接黒いベストと蝶ネクタイを身に着け、下半身は同じく黒いブーメランパンツ一丁という常軌を逸した出で立ちの男が、己が経営するレストランにおいてハルトマンをもてなしていた。

 

 

男の名はじゅんぺい。

 

ランドン亡き後、彼の残した一人娘ディナの後見人として讃頌会の本部から出向してきた男であり、実質的にヤヌス区残党の指揮をとる大幹部である。

 

 

「お客様達に相応しい料理(皮肉)を提供しておりますので、どうぞお楽しみくださいませ。」

 

「もう待ちきれないよ!早く出してくれ!」

 

「はい、畏まりました!」

 

ハルトマンは彼を通じて讃頌会に接触・資金提供を行い、新エリー都に未曾有の危機を齎してTOPSにおいて己の地位を確立することを目論んでいた。

 

今宵はそのため大きな一歩。

 

讃頌会が主催する晩餐会に呼ばれた際、ハルトマンは大きく喜んだ。

 

一対一の晩餐会に呼ばれるということは、彼等と一定の信頼を得ることに成功した。

 

これを機にさらに彼等と関係を深め、計画の遂行を確実なものとせん。

 

 

その意気込みで晩餐会に臨んだハルトマンだが、彼は見誤っていたのだ。

 

 

 

 

 

讃頌会。

 

 

そして彼らの提供する料理を。

 

 

 

 

 

 

「HRTMN様、スプーンが止まっ───て見えるのは、私だけでしょうか?」

 

じゅんぺいが冷徹な眼差しでハルトマンを見下ろす。

 

そこに、店と客というサービス関係も、ビジネスパートナーという対等性も存在しない。

 

「イヤチョットアジワッテテ…全部?(何処だ…。どこで俺は間違えた…!?こんな…こんなはずでは…!!)」

 

 

絶望するハルトマンを他所に、おぞましい料理は矢継ぎ早に運び込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

いっぽうたどころ。

ハルトマンが自業自得とはいえクッソ可哀想な目にあっているとは露知らず、リンとビビアンと迫真空手部は、市長からもたらされたハルトマンがサクリファイスのコアを隠しているとみられるホロウ内の座標を目指していた。

 

探索を続ける一行の前に、一人の人影が現れる。

 

 

「やはりあなたでしたか、ビビアン。」

「カミエル姉様!どうして、あなたがここでサクリファイスを…?」

「そのように畏まった呼び方は不要です、ビビアン。私はあなたの「姉様」などではないのですから。」

 

カミエルと名乗る女性は、かつて身寄りのなかったビビアンが讃頌会に身を寄せていたころ、姉のように親身にしてくれた女性だった。

 

 

「あなたがここにいるのは、讃頌会を止めるためですか?」

そうであってほしい、とビビアンは願った。彼女は、ビビアンにとって数少ない親しき人だったからだ。

 

 

「…ビビアン。私は、讃頌会を離れたことはありません。」

 

「どうしてです?あなたは、ランドンが何をしたか知っているはずなのに!」

 

「ランドン様は…あれも始まりの主のためでした。方法こそ過激でしたが、必要な犠牲だったのです。

 

ビビアン。あなたはあのとき既に、離れることを選んだ…再びこの件に首を突っ込む必要はありません。

今日はあなたを見なかったことにします。

お友達と一緒に、ここから出て行ってください。」

 

「カミエル?もしかして無理強いされているのではありませんか?もしそうなら、わたしが助けになれるのです…!」

 

「助ける?あの時、あなたが「彼女」を助けたようにですか?

ビビアン、あなたは涙を流していますね。そして、その視線は私に向けられている…。

涙を隠す必要はありません。私はこれから辿る結末について、ハッキリと理解しているつもりです。

ですが、あなたにはあなたの選択があったように、私には私の選択があります。

一言だけ忠告しておきます、この件には手を出さないことです。

彼女は…あなたをとても憎んでいますから。」

 

カミエルの背後から、もう一人の人影が現れる。

 

 

「元気そうで何よりね、ビビアン。」

「ディナ!」

 

「うふふ…!嬉しい、私のことを覚えててくれて…。あなたがあんまり元気そうだから、もう昔のことなんてキレイさっぱり忘れちゃったのかと思ってたわ!

どうしちゃったの?あなたのせいで死んだ人たちが、毎晩夢枕に立ってたまらないんじゃなかったの?」

 

ランドンの忘れ形見であり今は讃頌会の名目上のトップであるディナが、かつての親友であるビビアンを憎悪を孕んだ眼差しで責め立てる。

その手には、サクリファイスのコアが握られていた。

 

「あ、あの時わたしは、ほんとうに何も知らな…!」

 

「知らなかった?なら、お父様の愛と関心、そしてみんなからの賞賛を一身に受けていたあのとき…どうしてそう言わなかったの?

 

「ディナ様、ビビアンお嬢様はあのとき…。」

 

「お黙りカミエル。そもそも、なぜあなたがここにいるの?

私、そうしろって言ったかしら?」

 

「わ…私はただ、先にサクリファイスのコアについて、真贋を確かめるべきだと思ったのです。

ハルトマン様が何か小細工を弄するのではないかと…。」

 

「そうなの?ああカミエル、あなたの忠誠って本当に素敵…。

私ったらてっきり――あのとき、ビビアンの与太話を鵜呑みにしてお父様を殺したみたいに…私を殺す計画でも立ててるのかと思っちゃった。」

 

「滅相もありません、ディナ様。」

 

「裏切ろうなんて思わないでカミエル。

あの時しでかしたことで、あなたは私に大きな借りがあるんだから。

けど、あなたの心配はもっともね。

 

だってこのコア、たしかに偽物だもの。」

 

ディナが乱雑にコアを投げ捨てる。

 

コアは、衝撃に耐えきれず粉々に砕けた。

 

それは、コアがガラスで作られた真っ赤な偽物であることを如実に現わしていた。

 

 

「ねえ、ビビアン?本物のコアはどこにあるの?」

砕けた残骸をグリグリと踏みにじりながら、ディナはビビアンをにらみつける。

 

「…知りません。

本物のコアを持っていたとして、真っ先に砕いていたでしょうけど。」

 

 

 

 

 

 

「やべえよ…やべえよ…」

 

ビビアンを問い詰めるディナだが、その脇で三浦と野獣が真っ青な顔で話し合っている。

 

その様子に嫌な予感がしたリンが、彼らを問い詰めた。

 

「なに、あんたたちまたなんかやらかしたの?」

 

野獣たちがチラチラと送る視線の先には、ディナが持っていた偽のコアの破片があった。

 

 

「いやその、実はさ…。

 

昨日あの偽物コアにそっくりな石、見かけたんだよな。」

 

「「「「!!!?」」」」

 

野獣の言葉に、リンやビビアン、木村だけではなくディナすらも目を見開く。

 

「ど、どこ!?どこで見かけたの!?今すぐ言いなさい!!」

 

ディナが野獣につかみかからんばかりの勢いで食って掛かる。

 

「んにゃぴ…昨日の料理の…当たり景品の中に。

俺もこんなん用意したっけ?って思ったんだけど、三浦先輩が持ってきたやつなのかなって。」

「ポッチャマ...。俺もてっきり野獣が用意した景品かと。」

 

「「「は?」」」

なんのことか首を傾げるディナだが、心当たりのあるリンとビビアンと木村は顔を青ざめさせる。

 

 

 

「料理の当たり景品って…」

「昨日のお寿司に…?」

「頭おかしいよこの人…」

 

 

 

頭が痛くなる事実だが、認めなければならない。

 

昨日彼等が食べた、野獣と三浦が用意した景品入りの寿司。

 

 

その中に、件のサクリファイスのコアが入っていたというのだ。

 

 

実はビビアンがリンに渡した金のドカちゃん人形には、ヒューゴがこっそり本物のサクリファイスのコアを忍ばせていたのである。

 

なにかのはずみで仕掛けが外れて、不幸にも空手部の用意した景品の中に紛れ込んでしまったのだ。

 

「このおバカ!池沼!何考えてんのよ!!?」「ど、どど、どのお寿司にコアを入れたのです!?キリキリ吐くのです!」

 

ビビアンとリンが、馬鹿二人の首根っこを絞め殺さんばかりの勢いで掴んで揺らす。

 

「お、お稲荷さんだゾ!」

 

「いなり寿司!?」

 

「で、でもあのとき寿司桶の中に稲荷が入ってなかったよ!

私覚えてるもん!私は稲荷が食べたかったのに!」

 

リンの記憶の中の寿司桶には、いなり寿司などなかった。ビビアンも同じである。

 

「で、でも確かにいなり寿司ん中に入れたんだよ!絶対だって!」

 

 

 

しかし、いなり寿司の所在に心当たりのある男がいた。

 

 

 

「え…いなり寿司…ですか…?」

 

木村である。

 

「き、木村ァ!いなり寿司の場所に心当たりあるのかゾ!?冷蔵庫にはなかったゾ!?」

 

 

 

 

 

「…あの、すいません。

 

 その、…サクリファイスのコアなんですけど。」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

RandamPlay店内。

 

 

時刻は昨日にまでさかのぼる。

 

二人が寿司のなかにあれやこれやを詰め込めるだけ詰めっ…詰め込もうぜぇ〜していると、そうとは知らず木村がやってきた。

 

「あ。お寿司届いたんですね。じゃあ、二階に持っていきますね。」

「おお、頼むゾ。」

 

いい歳こいてしょうもないイタズラを仕掛けて可笑しそうに見つめあう二人を怪訝そうに見ながら、木村は寿司の入った桶を受け取る。

 

 

 

 

 

寿司桶をもって軽快にRandamPlayの階段を駆け上がる木村だが、なぜか突然立ち止まり、ごくりと唾を呑み込んだ。

 

「……。」

 

 

その視線の先には、お揚げに包まれたきつね色のいなり寿司があった。

 

 

 

「一つくらい…食べてもバレへんか!」

 

そう独り言ちると、ラップをはがしていなり寿司を掴み、口に運んだ。

 

 

 

しかし、次の瞬間ドアが開いてリンが顔を出した。

 

「ヴヴッヴン……!はっ…はっ…ゲホッゲホッ!」

 

慌ててつまみ食いした証拠を隠滅しようとした結果、木村は稲荷寿司をほとんど噛むことなく丸のみしてしまう。

 

「木村さん、大丈夫?」

怪訝そうに見つめるリンに、木村は慌てて取り繕う。

 

「あ、はい。大丈夫です。」

 

「そう?ならよかった。入って、どうぞ。」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「その、サクリファイスのコアなんですけど。

 

 

 

 

 

 

 僕がさっき、食べちゃいました。」

 

 

 

 

「食べた?この中の中で?(マトリョーシカ)」

 

讃頌会、モッキンバード、パエトーン。

 

各々の様々な思惑が混在する空間ではあったが、今のこの瞬間だけは皆の心は一つになった。

 

「「「アァァァアァァアァァア!!テメェェェェェェェェェェェェッ!!

なにしてんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

敵も味方も関係なく、皆一様に迫真空手部を殴り飛ばす。

 

 

「ど、どど、どういうことよ!?

あのコアは体内のエーテル粒子を極限まで増幅させる代物なのよ!

もし食べたりなんてしたら、一瞬でエーテリアスになってるはずなのに!」

 

信じられないものを見る目でディナが木村を見つめる。

 

 

木村はその疑問に、勝ち誇った顔で答える。

 

「ふん!僕たち迫真空手部を見くびらないでください!

風評被害とこじつけで20年以上に渡ってインターノットという電子の海を泳ぎ汚染してきた淫夢という巨大コンテンツが、エーテル侵蝕ごときに負ける道理はありませおぼろろろろろろろろろろろろろろ!

 

しかし木村の勝利宣言を遮るかのように、その口から仄かに虹色に光る吐しゃ物がとめどなくあふれ出す。

 

 

「ダメじゃん!全然侵蝕抑えられてないじゃん!?」

 

「な、なんか朝からお腹の調子悪いなって思ってて、体内エーテルを循環させて治氣(ナオキ)していたんですが、どうやら限界みたいです!おえええ。」

 

 

見つけたコアは偽物。

 

肝心の本物は食い意地の張ったホモ野郎の腹の中。

 

辺り一面ゲロまみれ。

 

「あーもうめちゃくちゃだよ(呆れ)」

 

収拾不可能の惨状に、リンは頭を抱えた。

 

 

 

 

 

「フ、フフ。ウフフフフ!はじめてよ…!

このわたしをここまでコケにした おバカさん達は…! 」

 

この有様に堪忍袋の緒が切れたディナは、狂気的な笑みと青筋を浮かべながら指を鳴らす。

 

 

付近から爆発音が数回響きわたり、地面が揺れ始めた。

どうやら大量のエーテリアスが急速に接近しているようだ。

 

 

「ディナ、あなたはサクリファイスがなんであるか、これ以上ないくらいわかっているはずなのです!

彼らにあんな「祝福」が授けられたこと自体、間違いだったというのも!

ランドンにとってあれは犠牲者を選ぶための口実に過ぎませんでした!

わたしの涙に関係なく、生きた人間であれば誰しもが、サクリファイスの被験者として扱われたはずです!

わかっているでしょうディナ!

ランドンは最終的に、あなたを犠牲にすることさえ厭わなかった――!」

 

ディナの、かつての親友の凶行を止めんとするビビアンだが、それは彼女の怒りという火に油を注ぐだけだった。

 

 

「黙れ、黙れ、黙れ…!

すべてはお父様自身の理想のためだった!

なのにビビアン、どうしてあなたはいつも私のすべてを台無しにするの?

昔も、今も。

あなたはいつも私の邪魔をする!あと少し、ほんの少しで、お父様のご遺志を果たせるところだったのに!

 

ねえ、ビビアン…。

 

あなたがお父様を殺した後、私がどんな目に会ったか知らないでしょう!?

 

あのじゅんぺいとかいう男がやってきてから!私はね!

 

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日!!

あいつの経営するレストランで働かされたのよ!!

 

作るのを手伝わされて!客が食べるのも手伝わされた!

 

私の苦しみが分かる!!?」

 

ディナの脳に去来する屈辱の日々。

 

父の愛も。研究も。立場も。

 

なにもかも無くした彼女に、言葉は届かない。

 

 

「レ、レストラン…?お料理…?」

 

ビビアンの困惑に、ディナは側の瓦礫を殴りつける。

 

「あんなもの!!料理でもなんでもないわ!!

 

私はねえ!あそこで働いたせいで二度と!

 

大好きなハンバーグも!スパゲッティも!野菜スティックも全部!

受け付けない体になったのよ!!

 

あなたがコアを渡さないというなら、エーテリアスの餌になってもらうまでよ!

 

全員殺しなさい!とくにあの木村とかいう大馬鹿は絶対に逃がさない!

 

死体の腹を搔っ捌いて!私たちの大事なコアを取り戻さなきゃならないんだから!!!」

 

「嗚呼、ディナ!可哀そうに…。可哀そうに…。」

狂乱するディナを見ていられなくなったのか、カミエルが背後から彼女を羽交い絞めにして抱きしめ、ホロウの裂け目に消えていく。

 

後には波のように押し寄せる大量のエーテリアスだけが残された。

 

倒せども倒せども、数が一向に減らない。

 

 

「こ、これは!いくらなんでも多スギるのです!」

「ああ~ダメダメダメ!(西田敏行)」

「ポ、ポッチャマ!ハイドロポンプだゾ!一点突破ゾ!」

 

昏睡状態の木村を抱えているため思うように戦えない三浦が、ポッチャマ・ボンプに指示を飛ばす。

 

ビビアンと野獣の一撃で僅かに薄くなった包囲網に、大放水が穴をあける。

 

 

「い、いまです!パエトーン様! 

 せめて…あなただけでも…!」

 

「何言ってるの!プロキシがあんたたちを置いて一人帰るなんてできるわけ…!」

 

 

 

「その必要はない。」

 

突如響く凛とした声とともに、包囲網のほつれから何かが飛来した。

 

 

「え…墨汁?」

「あ、あれは…鳥?」

 

「先輩、アレもしかして!」

「うむ、間違いないゾ!」

 

 

 

 

 

「異宮は吉__。杜門に活__。」

 

 

全ては一瞬だった。

 

 

墨汁と、白檀のような香りとともに円陣が形成され、瞬く間にエーテリアスを殲滅していく。

 

エーテリアスは成すすべなく、彼女に傷一つ与えることすら叶わず塵に帰っていく。

 

 

 

並みいるエーテリアスを沈黙させると、呪符を携え、銀髪をたなびかせながら彼女はその金色の双眸でリンを、ビビアンを見つめる。

 

そして最後に迫真空手部を視界に入れた瞬間、

 

 

 

 

哇!(うわ、)野獣先輩存在大草原(ヤジュセンおって草)

 

 

 

思いっきり顔を顰めた。

 

 

 

儀玄師匠(イーシェン師匠)押忍押忍!(オッスオッス!)

本日好塗料綺羅星(今日もいいペンキ☆)

 

意味が伝わるようで全く伝わらない珍妙な言語で会話をする、伸縮性のあるボクサー型のちょっとスパッ…ツに近い感じの衣装に身を包んだ銀髪の美女と迫真空手部を前にして、リンとビビアンの頭上に困惑とクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「ええと…あなたは?」

 

 

「私こそは雲嶽山第十三代宗主…。お前さんは儀玄(イーシェン)と呼ぶがいい。

 

お前さんがどんな人間なのか、メイフラワーがよこした資料を見て興味が湧いた。わざわざ見に来てやったというわけなんだが…。」

 

 

 

そこまで言って儀玄は口を噤み、迫真空手部に目線を向ける。

 

「メイフラワーの奴から現地に戦闘員がいるとは聞いてたが、よりにもよってあの三馬鹿か。

 

道理で邪気がヤバいワケだ。」

 

「俺らがいるなら儀玄師匠も安心だルルォ?」

 

「いやお前さんたちだから尚更安心できんのだが....。

 

まぁ…男がいないなら手を出さんか。多分。きっと。

 

それで、なんで木村の奴は死にかけているんだ?」

 

 

見るからに酷い浸蝕症状に侵されながら吐しゃ物をまき散らす木村に若干後退る儀玄に、一行は「実は…」とここに至る経緯を説明する。

 

かくかくしかじかと迫真空手部から事情を聴く儀玄は、話が進むごとに顔を顰め、頭を抑えた。

 

 

そして一部始終を聞いた彼女は、ため息と共に首を振る。

 

 

「お前さんたちは 実に馬鹿だな。」

 

ド正論を前に、リンもビビアンも何も言えなかった。

 

 

「儀玄えも〜〜ん(ドラえもんに見捨てられたのび太BB.)」

 

 

「ハァ…全く。まあ、ここで死なせたら公序良俗の為にはなるが秋吉に悪いか。

 

 

おい馬鹿二人。木村のやつを立たせろ。応急処置はしといてやる。」

 

儀玄が指示を飛ばし、野獣と三浦が肩を貸して木村を立たせた。

 

 

「大黄甘草湯、麻子仁丸、調胃承気湯…。」

 

儀玄が指を己の眉間に当てて呪詛を唱えると、その指先が金色に光った。

 

 

 

そして腰を落として発光する手を構え、ぐったりしたまま先輩二人に無理やりたたされた木村の前に立った。

 

 

リンもビビアンも、メイフラワー市長が寄越した特記戦力の実力を見定めんと固唾を呑む。

 

 

 

 

そしてその金色の拳が____、

 

 

 

「滅殺!」「はうっ!」

 

 

 

木村の鳩尾に深々と突き刺さった。

 

 

「まさかの腹パン!?」

「治療どころかトドメを刺しているのです!?」

「まぁ、見ていろ。」

 

腹パンを見舞われうずくまる木村の顔が見る見る青ざめていく。

 

「厠はあっちだ。結界で露払いはしてやった。

とにかく行け。」

 

しっしっと汚いものを追い払う仕草で儀玄が少し遠くの壊れた公衆トイレを指差す。

 

「イ、儀玄師匠、・・・ありがとう・・・ございます。」

 

脂汗をダラダラと流しながら、木村が内股のまま尻を抑えてダッシュで厠に駆け込んでいく。

 

 

その様子を見届けた儀玄は懐からウエットティッシュを取り出して手を拭きながら、「この手に限る。」と呟いた。

 

 

 

「お、思ったよりだいぶフィジカル寄りの術法なんだ…。」

「術法ってのはな、不思議なんだ。」

「不思議すぎるでしょ!?」

 

 

ジョロロ…ブリュリュイブリュリィ…ジョボッ…ブチュリッ…

 

 

 

 

PON!(迫真)

 

 

「あ、コアが出てきたみたいだゾ。」「やりますねえ!」

 

「汚っいなぁもう。あんたたちが責任持って運んでよ。」

「私たちは絶対触るの御免なのです。」

「私も断る。」

 

 

「ひぎぃ~。」

女性陣の氷河期より冷たい視線を浴びながら木村はコアを懐にしまい込む。

 

「根本は排出させたが、あくまで応急処置だ。

後で病院で診てもらえ。ついでに頭のほうもな。

 

わかったらとにかく行け。

 

お前さんたちは存在自体が恥みたいなもんだが、今以上に恥を晒すようなら秋吉の奴に言うからな。」

 

 




【Tips】

ディナとカミエルは調理・給仕しただけです。決して食べてはいません。
彼女たちの名誉と尊厳のためにこれだけは伝えたい。

糞喰漢が大陸だと4章と双璧を成す人気らしいね、なんで?(素朴な疑問)

私はノンケなので(たとえコメント有でも)いやーきついっす(素)。
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