迫真エリー都!ホロウレイダーと化した先輩   作:我蔦早瀬

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第7話 Play the GAY

「猫又ァ!てめえホロウ内にいるはずだろ!?

どういう魔法を使いやがった?」

開口一番、谷岡の怒号が飛ぶ。

 

「企業秘密だ!

それより聞いてくれ谷岡。時間がない!

いまからあたしは奪った電車をあんたのいるカンバス区まで届ける。それに乗ればみんな助けられる。

あんたは逆に、今すぐ地下鉄の線路を車でたどってくれ!

分岐点にはあたしが目印をつけて誘導する!」

 

「ああ!?何言ってやがる。話が見えねえぞ。」

 

「別動隊だ!同時にあたしの仲間がパールマンを拉致する!」

 

「!?

敵のアタマを交渉の材料にする気か!!」

 

「そうだ。『存在しないはずの避難民』『パールマン』。

どちらも最高の切り札になる。

だけど、この役はパールマンの身柄がこっちの手札にないと成立しない。」

 

これは猫又にとって、賭けだった。

 

1つ目は空手部によるパールマンの身柄確保の可否。

 

2つ目は谷岡が猫又の要件を受諾するか否か。

 

「馬鹿じゃねえの?

俺がそんな危ない橋を渡って、なんの利がある?なんの得がある?」

 

「いいや、あんたは来るさ。」

 

「根拠は!?」

 

「赤牙組だからだッ!お前も!!あたしも!!」

 

赤牙組の原型は、貧しい者の多いカンバス区の自警団だった。

 

TOPSの搾取。ホロウ。

 

この世界は弱者にあまりに厳しすぎた。

 

故に彼らは立ち上がった。

力を合わせ、それらと戦った。

 

一人で生きていけない孤児たちに、戦い方と読み書きという牙を与えた。

 

猫又も、そんな孤児の一人だった。

 

いまの赤牙組にはもはや見る影もない、遠い昔話。

 

「…どっちだ谷岡?

あの人たちを見捨ててクズみたいに生きるのか?

あの人たちを助けるため損な役回りをするのか?

 

いまの赤牙組はどっちだ!?

あんたらの作った赤牙組はどっちだ!?

 

あたしはいまどっちにいるんだ!?答えろ谷岡!!」

 

沈黙。

 

一分一秒を争う事態に、貴重な時間が流れていく。

だが、猫又は待った。

 

そうするだけの価値のある沈黙であるとわかっていたから。

 

「…おう、考えてやるよ。」

 

そういって、電話は一方的に切られた。

 

「ね、猫又。大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫。あれ、あの人の口癖なんだ。

ああいったら絶対来るよ。大声出して悪かったにゃ。」

 

「いや、そっちじゃなくてあんたが…。」

 

そういって、ボンプの小さな手が猫又の頬を拭った。

 

その丸い手は濡れている。

 

「あ、れ。あたし、なんで。

うう、みるなよ。」

 

その姿をみた空手部は、何も言わずに奪った装備を身に着け、イアスを抱えて全速力で駆け出した。

同時に、Fairyによりハッキングされた電車が猫又を乗せて走り出す。

 

「おろろろ」

「プロキシ悪いね。ちょっと揺れるよ。」

「あんなかっこいい啖呵みせられて、時間切れで失敗したらナオキですからね。」

「当たり前だよなあ。」

 

 

人が己の足で出せる最高速度は、最年少虚狩りの星見雅が叩き出した時速200キロ。

 

当然それには遠く及ばなかったが、それでも人生最高の速度を維持したまま、迫真空手部はヴィジョンの本部へと到着した。

 

 

重々しい警備のなか、ひときわ大きな建物が見える。おそらく、そこにパールマンがいる。

 

「わかってたけど、警備は厳重だね。」

「大丈夫だって安心しろよ。

それより谷岡はんはどう?来そう?」

「うん、信号がどんどんすごい速さで近づいてる。

ヴィジョンの警戒網ギリギリまで来てくれるつもりだ…。」

「谷岡さん!俺らも負けてられないゾ。」

「そのことですけどね、先輩がた。見えますかあそこ。」

「ん?なに木村さん。ただの給湯室でしょ?」

「ポッチャマ・・・」

「アイスティーがあります。」

「「勝ったな。」」

「ええ、間違いなく。」

「もうわけわかんないよ。」

 

 

 

パールマン長官のいる一室に、軽快なノックが響く。

 

「入りたまえ。」

「長官、おまたせさまです。暑いですね。

アイスティーしかなかったけど、いいですか?」

 

治安官が差し出したのはグラスに入ったよく冷えたアイスティーだ。

 

「おお、すまんな。最近の若いのは気が利くんだな。

ほれ、これで旨いもんでも食うといい。」

パールマンは美味そうに飲んだ後、財布を開き何枚か握らせてやった。

 

「FOO↑ありがとナス!」

「ははは、元気がよくて大変よろしい。ハイ…いや…」

次の瞬間、パールマンは昏睡した。

 

「お、大丈夫か大丈夫か。」

野獣がわざとらしく駆け寄る。

 

「おい、どうかしたのか。」

物音に気付いたのか、偽治安官が一人入ってきた。

 

「長官、疲れて眠っちゃんだゾ」

「無理もないです。このプロジェクトのため、毎日寝ずに働いてましたからね。立派な方だ。」

迫真の演技で涙を流す空手部。

 

「プロジェクトも大詰めです。本番の爆破解体まで寝かせてあげましょう。

こんなにかっこいい長官が、もし晴れ舞台で寝落ちしたらナオキです。」

「そ、そうだったのか。うう、わかった。長官を頼む。俺たちが全力で守ってやろうじゃないか。」

「ありがとうございます。」

「最後にでっかい花火を打ち上げて、盛大に祝いましょうゾ!」

「ああ!」

見事に騙され、感激してその場を後にする偽治安官を尻目に、空手部は笑いをこらえるので必死だった。

 

「「「(チョロ過ぎて草www)」」」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

現在。カンバス区。

 

 

「あまりに手際が良すぎてドン引きだったんだよね。

あんたら初犯じゃないでしょ?」

 

しかし、Fairyがそれを否定する。

『否定。迫真空手部に犯罪歴は一切記録されていません。』

 

 

「迫真空手の掟その三」

「証拠は残すな。」

「明るみにならなかった犯罪は犯罪とは呼ばない。」

迫真空手部、一糸乱れね渾身の宣誓。

 

「滅びるべきだよその流派…。」

 

「帰りにおれの大事な(クルルア)にビールこぼしやがって。お前ら覚悟しとけよ。」

 

 

縛られたパールマンの携帯に電話がなった。

流石に不在に気づかれたのだろう。

野獣が通話に応じる。

 

「はいもしもし、愛と性技の使者ジュッセン・パイヤーです。

君らの長官は僕が拉致りました。

長官をガン堀りされたくなかったら言うことを聞いて、どうぞ。」

 

「なんだと、やはりか!いますぐ長官を解放しろ。人間の屑がこの野郎。」

「貴様ら命はないぞ。」

 

「そうですねえ。fairyはんお願いしていいっすか?」

「了解。…検索完了。」

「fairy、早いっすね。

ふむふむ。DB君にTDN君か。すごいねあのR大学なんだ。」

 

「!?」

 

「DB君はTOPSの一つ日本ペイント(ニッペ)に内定済み。

TDN君は…。はえーすっごい。ベイスが指名確実⁉たまげたなあ。

僕、あすこのファンなんですよ。君が入れば優勝間違いなしだ。」

 

「な、なにっ!?」

「やべえよやべえよ。」

 

「でも、こんな反社みたいな会社に関わってたことがばれたら大事ゾ。ホモビに出たのがスッパ抜かれるよりひどい人生を送る羽目になるゾ。」

 

「な、なにが目的なんだ。」

 

「いい大学出てるんだし、俺らみたいなクズがして欲しいことなんてきっと理解できてるゾ。」

「もしいうことを聞いてくれなかったらどうなるかも、ね。ナオキキキキキキ。」

「な、なにを…。」

「わっかんねえかなあ。」

 

「…」

 

「「「爆破をいますぐ中止しろ!さもないとバラ撒くぞこの野郎!!」」」

 

「お前ら、早く中止するんだ!ワシの貞操が危ない!」

 

 

「怖いよこの人たち。」

 

 

 

 

 

「失礼。選手交代したいのだけれど、よろしいかしら?」

電話の主が、哀れな大学生から変わった。

知性。そして冷徹さを感じさせる女の声だ。

 

「あ、いいっすよw

大炎上したピッチャーTDN君に代わりまして選手交代をお知らせしますw

えーとお姉さん登録名は?」

 

「サラと呼んでちょうだい。」

「自分から名乗っていくのか(困惑)」

「ナオキキキキキ。神様仏様fairy様、ちゃちゃっとサラ姉貴の身元を割っちゃってください。」

『・・不明。該当する者はヴィジョン社に登録されていません。』

 

「ナオキ!?」

 

「1ストライクね。

2球目行くわよ。爆破はやめないわ。あなた方は全員吹き飛んで、どうぞ。」

 

「ポッチャマ...。」

 

「2ストライク。

後がないわね?

3球目、投球予告よ。外角高めストレート。

パールマンに人質としての価値はないわ。」

 

「ファ⁉」

 

「…3ストライク、3アウト、チャンジ。

あら、ゲームセットね。

次からは、人質の価値をちゃんと確認しておくことをおすすめするわ。」

 

通信は途絶した。それは、計画の失敗を意味していた。

 

 

 

 

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