第9話 その辺のペガサス、街角のピーナッツ
ヴィジョンの騒動から数日後、パエトーンの兄妹はそのヴィジョンに代わって地下再開発請け負った白祇重工から依頼を受けていた。
白祇重工が誇る独自技術の粋を集めた『考える重機』。
知能構造体たちがホロウ内で失踪したのだ。
白祇重工は、かつて前社長が会社の資金を持ち逃げしたことで信用が地に堕ちた過去がある。
その後、その前社長の娘であるクレタが就任した。
まだ幼いながら優れた経営手腕を発揮した彼女と、それを支える優秀な社員たちの奮闘により這い上がり、再開発プロジェクトという大役を任されるまでに至った。
しかし、それはTOPSをはじめとする既存企業にとっては目障りな腫物でしかなかった。
そんな矢先の、知能構造体の失踪。
白祇重工という杭を叩く、格好の機会。
この事態を即座に打開すべく、クレタは邪兎屋の仲介の元、パエトーンを頼った。
彼らの熱き戦いに、密着___。
By田口トモ〇ヲ…」
「プロジェクト 〇ックス___!」
「♪さあ いこうぜ(野田内閣)」
「主題歌そっちじゃないでしょ。
てか、なんで空手部いるの?ここ工事現場だよ?」
そんなこんなで白祇重工に招かれたパエトーンのリン。
そして、なぜか工事現場で汗を流す迫真空手部。
「___事の起こりは 数日前にまで遡る。」
「その1ミリも似てないモノマネやめな?田口さんに失礼だよ。」
邪兎屋・本社___もといクッソ汚い雑居ビル
「ポッチャマの先攻ゾ。
…勝ったな『烙印融合』発動ゾ」
「『うらら』で。」
「ポッチャマ…。ターンエンド、ゾ。」
「(先輩、まずいですよ!)」
「(大丈夫だって木村。アンビー初心者だぜ。わかんねえから初動に誘発投げただけだよ。ビギナーズラックだ。)」
「私のターン。ドロー。」
「この瞬間、手札から『マルチャミー・フワロス』発動ゾ!さらにチェーンで『マルチャミー・プルリア』!またまたチェーンで『増殖するG』!」
「ええ(ドン引き)」
「大人げなさすぎてナオキです。」
「黙れ後輩ども!決闘とはときに非情ゾ!」
「メインフェイズ。『盃満ちる燦幻荘』を発動するわ。」
「あっ(死)」
「燦幻荘でパイドラサーチ。パイドラNSで『燦幻開門』サーチ。
バトルフェイズよ。
パイドラ攻撃(1700)開門efチュンドラss 攻撃時efファドラss(3200)
ファドラ攻撃(4800)
チュンドラef チュンドラ+パイドラでバイデントssバイデントef パイドラ蘇生 バイデント攻撃(7400)
パイドラ攻撃(9100)
パイドラefパイドラ+バイデントでトランセンドss トランセンド攻撃(12100)
墓地バイデントef自己蘇生 バイデント攻撃時ファドラefパイドラ蘇生(14700)
パイドラ攻撃(16400)
パイドラef パイドラ+バイデントでトライデントss トライデントで燦幻荘とトランセンド破壊(3回攻撃) 燦幻荘ef対象トライデント 墓地トランセンドef自己蘇生 トランセンド攻撃(19400)
トライデント攻撃×3(37400)」
「「「ヌゥン!ヘッ!ヘッ!
ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!
フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!」」」
「健闘虚しく、おれたちは冷酷非道な悪徳企業・邪兎屋にケツの毛まで毟られたんだゾ。」
「それで文無しになって工事現場でバイト?馬鹿じゃないの?」
あまりにもあんまりな経緯に、リンは大きなため息をついた。
「ははは。まあ、お陰でウチは助かってるよ。ホロウでの荒事と作業を両方任せられるバイト君なんてなかなかいない。
バイト代、色をつけさせてもらうよ。」
そう宥める偉丈夫は、白祇重工で経理を務める熊のシリオンのベンだ。
そのパワフルな恵体を活かし、ホロウでの戦闘も担当している。
「ベンさん…。あなたは身も心もでっかい人です…。」
「あったけえ…。涙が、で、でますよ。」
「ベンさん、ほんとこいつら甘やかすと秒でパブリック・エネミーに豹変するからちゃんと首輪つけたほうがいいよ?」
「ベンくん、このお若いかたは?見たところ、作業員ではなさそうですね。
インターンの方ですか?聞いていませんが。」
そういって詰所のプレハブ小屋から現れたのは、眼鏡をかけた生真面目そうな小太りの中年男性だった。
「ああ、こぐま課長。このお嬢さんはその、…例の『遺失物』捜索の件で『案内』を担当してくださるかたです。」
眼鏡の奥がきらりと鋭く光る。
「…成程。わかりました。
申し遅れましたね。わたくし、課長のこぐまと申します。大変にお若いようですが、この喫緊の課題において選ばれたということはすなわち大変優秀でいらっしゃる。そうですね。」
「は、はいっ。」
こぐま課長と名乗る男は、軽く会釈してリンに向き合う。おもわず声が上ずる。
「ベンくん、報酬はどのように。」
「はい、前金でこれほど。全額でこのようになっています。」
「…。」
電卓でベンが叩いた数字をチャックし、こぐま課長の眼がどんどん細く、険しくなる。
「(う、この人苦手かも。)」
リンは、ビデオ屋の税務調査でやってきた大変に厳しかった徴税官を思い出し、胃が痛くなる。
「ベンくん、件の依頼は新エリー都において少々憚られる行為であることは熟知していますね?当然、それに報酬を支払う行為も。」
「もちろんです。会社の帳面には合法な『キャロット作成代行費』で計上します。」
「結構。しかし、いささか高額ですね。こちらとしても税務署にいらぬ詮索を受けたくはない。
・・・失礼ながらリンさんは副業はされていらっしゃいますか?」
「あっ、ええと。六分街でビデオ屋を。」
「成程。では、報酬のいくらかは『社員の映画鑑賞会のためのビデオ及び機材レンタルに要した福利厚生費』という体裁で領収書を作っていただいても?」
「あーーー。そうですね。そうしましょう。」
普通に違法である。
「ああ~ダメダメダメ(西田敏行)」
突然甲高い声が工事現場で響く。
見ると空手部が現場監督らしき人に怒られていた。
「いや、でも俺らまだまだ元気だゾ。」
「そうですよ。あと1か2くらいで作業終わりなんで、キリのいいところまでやっちゃいます。」
「ナオキです。」
「ダメダメ。君らは現場入りしたばかりで慣れてないから、疲れてることに体が気づいてないよ。
俺は君らを監督するのが仕事だからね。君たちがちゃんと休んでくれないと、俺も休めないんだ。」
そういって、彼らを休憩場所に向かわせる。
「ははは現ちゃんはいつまでも真面目だな。そこがいいところだが。」
サングラスをかけ、ベテラン吹き替え声優のようなよく通った声の作業員が、空手部を出迎える。
「おお、ドカちゃんも終わったか。」
「ああ。新しいバイトの子たちだね。作業の後は塩っけのあるものを食べるといいよ。汗をかいて、塩分が出て行っちゃってるからね。
コンビニで酒とつまみ…は勤務中だから駄目だけど、塩飴を買い溜めしてるから、いくらかもらっておきなさい。」
「ハイチュウ!ハイチュウ!(森永製菓)」
現場監督が嬉しそうにかごに入ったおやつをつまんだ。
「ああ、現ちゃんそれすきだよね。ワシ、金歯とれちゃうから苦手でさ。」
ドカちゃんと呼ばれた男は、苦笑しながら煙草を美味そうにくゆらせる。
「空手部のみんな、淹れちゃうよ(紅茶)」
現場監督が、使い込まれたポットに入った紅茶を人数分の紙コップに注ぐ。
「Foo↑工事現場でアイスティーとか粋スギィ!」
「ドカちゃんも現ちゃんも、この会社に長いのかゾ?」
ドカちゃんと木村が仲良く煙草を呑む傍らで、バイト先の上司_それも結構な年上_にまるで長年の旧友のように馴れ馴れしく話しかける三浦。
「そうだね。俺とドカちゃん、それにこぐまはだいぶ長いよね?もう、何年いるかすら忘れちゃッタァァァ~(恍惚)。」
「ワシら、新エリー都ドバーランドの建設も請け負ったんだよ。」
「マジかゾ!?あの超有名なテーマパークを!?」
「今年のアストラ様の年越しライブ、あそこのステージでしたよね。」
「ワシら施工の時のツテで優待券持ってるから、行きたかったら優先チケット手配してあげるよ。」
「はえー、すっごい大きい仕事。」
同時刻、リンはベンと、広報担当のアンドー、それに技術開発主任のグレースからも彼らの馴れ初めを聞くことになった。
「あの人たちはね、会社創設期の最古参なんだ。それこそ、前社長が会社を立ち上げるずっと前からね。」
「その割には、クレタはちょっとよそよそしい感じだったよね。」
いまはリンやベンら社員のはるか真上__エレベーターを上がった先の作業台の上から大声で溌剌と指示を出すクレタだが、彼らの紹介をされたときの表情には僅かに陰りが見えた。
「…ここだけの話だけどね。彼らは前社長…ホルスさんの資金持ち出しが発覚した後、会社を畳もうとしていたんだ。」
「気持ちは…わからんでもないけれどね。
彼らにしてみれば、上司以上に長年の友人に裏切られたに等しかったんだろう。
当時の書類や議事録を見るに、なにも完全に解散するんじゃなくて、必要最低限の特許やら資産を確保したうえでの再スタートって感じだった。
あの時の艱難辛苦を考えれば、その選択が絶対間違ってたなんて、俺にはとても言えないよ。
悪い人じゃ無いんだがね。俺はこぐま課長に電卓の叩き方から教わったよ。」
「俺もさ。ペーペーの新人の頃は、工事現場にどれほど危険があるのかまるでわかっちゃいなかった。
あのとき
アンドーが懐かしそうに空を仰ぐ。
重機や資材はもちろんのこと、ロープ一本、レンチ一つ、ネジ一個。
全て、一歩間違えれば凶器に変わる。
どれだけ気を付けても気を付けすぎることはない。
そうしてもなお、事故は起こるものだから。
迫真空手部を強引に休憩させたのも、決して自分も休みたかったからではない。
誰も傷ついてほしくない。その一心でのことだった。
「でもね。おチビちゃんはそれでも『白祇重工』を残すことにこだわった。
今も前社長のホルスさんを許してはいないようだけれど、『彼が残したもの』がなくなるのは嫌だった。
私は人の心より機械のほうが熟知してるほうだけど、そんな私でもそれくらいは分かったよ。」
「ワシらだって、好き好んで必死で立ち上げた会社を潰したかったわけじゃない。
ワシらにはワシらなりの考えがあった。
それでも、小さい子のあんな真剣な顔で、…字だってまだうまく書けないのに、震えた字で書類作って渡されたらさ…。」
懐かしそうに紫煙を吐き出すドカちゃん。そのサングラスの奥は読み取れなかった。
「うん。…折れちゃったッピ!ああ、ごめんね。バイト君にこんな湿っぽい話しちゃって。」
そういって、現場監督は膝のホコリを払うと片付けを始めた。
お互いが相手を思いやるがゆえに、お互い傷ついてしまった。
そんな悲しい現状に流石の迫真空手部も黙りこくるしかなかった。
「荒れるね…。」
空を見て呟くドカちゃんのつぶやきが、妙に迫真空手部の耳に残り続けていた。