Sie・Brechen・Online〜恋に初心なふたりと紡ぐフラグ回収〜   作:海澪

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13.ソロモンとの対峙と僕の意思

 

 2週間後。五の島であるイングラの館、六の島の淫靡なる湿原を飛ばし、僕たちは第七の島、アレスフェアに訪れる。ふたつのフィールドも気になるけど。

 

「だーいぶ遠いなぁ」

 

「けど不思議だね〜。モンスターの気配一つもないよー?」

 

「どう思うミカ」

 

「どうって言われてもなぁ……まぁ、大本命はあそこにいるって思うのが自然だと思うよ」

 

「やはりそうか。行こう」

 

 長い長いだだっ広い大地の真ん中を僕たちは進む。至る所にかつては建築物だったのであろう破片がまるで墓標のように突き刺さっていた。

 

「気味悪ぃな」

 

「う〜ん。わたしこういうのはちょっと苦手かなぁ〜」

 

「あたしもちょっと」

 

「僕は平気だけど、アサは?」

 

「私も問題ないぞ」

 

 とは言うけど、袖ちょっと掴んでるの分かってるからね?

 あ、こら目逸らすな。

 

「でもこうも何も無いと何に備えりゃあーいいのかわからねぇな」

 

「同感。生憎《危機察知》や《索敵》が全然反応ないや」

 

「そもそも本当にいるのかしら?」

 

「いるんじゃないのか?」

 

「どうだろ。業火竜さんが言うにはここ来ればいるってことだからまだなんともだね」

 

 どのくらいの時間歩いていたのかは定かでは無いが程なくして何かの建物が見えた。僕は目を細めて見据える。

 

「…………なんだ、あれ?」

 

「……城、か?」

 

「だいぶ崩れて見えるけど、城なの?」

 

「お城っぽいけど、どうなんだろうね?」

 

「全員分からないって感じだね」

 

 止めていた歩みを進める。その時だった。

 

「……っ!? みんな、警戒態勢!」

 

 《索敵》に何か引っかかった。見た感じ異常は……上!?

 

 ──────ズ、ドォォォォォンッ!!!!!

 

「ぐ、……っ!」

 

「おわっ!?」

 

「きゃっ!」

 

「なっ、によっ……!」

 

「ぐ、ぅっ!」

 

 突然の土埃に全員顔の前に腕を伸ばして顔を守る。薄く目を開けながらおずおずと腕から顔を上げる。

 

「……────なっ」

 

 全員が呆然した。目の前には真紅の鱗に覆われ、見上げねばならないほどの大きさの四つ足の竜だった。見た目はあの業火竜と似ているが、威圧感はそれ以上だった。

 

『ー〜ーーーー〜〜〜〜〜ーー〜ーーーー!!!!!』

 

 咆哮が大きい。空気が劈く。耳が痛い。それよりも今こいつはどこから!?

 

「────……ぁ」

 

 ふと考えに至った。そもそも、ソロモンという名は多くの悪魔、天使を統べたある王国の王だ。それに業火竜やシェリエールはあるものをモチーフにしてるじゃないか。なら、コイツは。

 

「────────────()()

 

 僕の呟きに呼応するように真紅の竜は唸る。……いや嗤った?

 

「……み、ミカ。今、なんて」

 

「憤怒。七つの大罪が一つの憤怒だよ。かつて、キリスト教の主にカトリック教会が用いる言葉でラテン語などで『七つの死に至る罪』って言われてる。そしてそのうちの一つが」

 

「憤怒、ということか」

 

 アサの言葉に頷く。

 

「最近……といっても何百年か前に再制定されたもので、憤怒は言葉が違うだけで最初からあるものなんだ。泉で出会ったシェリエールは虚栄心の具象なら、この竜は憤怒の具象、ってわけだよ」

 

 ソロモンは多くの人々による『悪意』によって生まれた。であるならば憤怒もまたそうなのだろう。

 

「じ、じゃあお兄ちゃん。コレがあらわれたのって」

 

「そうだね。差し詰め、刺客ってことかな」

 

『よくぞ参った人間共よ』

 

『…………っ!?』

 

 まさか喋るとは思っていなかった。

 

『我が名はサタニエル。貴様ら人間を滅す者の名である。故に』

 

 《危機察知》が反応した。僕は急いで叫ぶ。

 

「全員っ、左右に跳べぇッ!!!!!」

 

『疾く滅せよ!』

 

 退避した瞬間、僕たちがさっきいた場所に炎のブレスが吐き出される。僕は転がって受け身を取りながら起き上がる。

 

 ────他のみんなは!? 良かった。全員無事だ。

 

 改めて、サタニエルを見つめる。全長は尾を含めれば優に5メートル以上はあるだろう。高さはそれこそ10以上。弱点が見当たらない。鱗もきっと、刃が通らない。あ、やば。目が合った。

 

『ほう。良く避けた。少しは認めてやろう。然し、貴様。その目は諦めることを知らぬな?』

 

「……当たり前でしょ。ソロモンを止めに行くんだから」

 

『クッハハハハハハハハ!!!!!! 四方(よも)や、止める! 止めると言ったか! 良い。その無謀。蛮勇(ゆうき)。評価に値する。では、()くといい』

 

「……なに?」

 

『特別に赦してやろう。我が主のもとへ行くことをな』

 

「……それは願ったりだけど」

 

 サッとみんなに目を向ける。みんなは行ってと頷いた。僕は目を伏せ、少し考える。

 

「────分かった。その言葉、信じるよ。アサ、ヴェイン、キョウ、ニノマエくん。先に行く。この傲岸な竜、ぶっ飛ばして来てよ」

 

 僕はそう言い、みんなには目をもう向けることなく、奥の城のような場所に走って向かう。

 

──────

────

──

 

『さて、貴様らをどう滅ぼそうか』

 

 ミカがいなくなったあともそうして傲岸不遜な態度を取るサタニエル。流石の私でもその態度は目に余る。

 

「ふん。お前など私らが倒してやる」

 

『ほう……? この我をか? 良い度胸だ』

 

 私は剣を抜いて、構える。ヴェイン、ニノマエ、キョウも各々の得物を手に取った。

 

『然し、今から始まるのは、蹂躙だ!!!!!』

 

「来るぞ!」

 

「囮は俺がやる! アサとヴェインは速攻! キョウは遊撃だ!」

 

『了解っ!』

 

 瞬時にニノマエがIGLをし、私たちは行動に移す。

 

「ぅぉっらぁッ!」

 

 ニノマエは和の軽装だというのに、私たちよりもしっかりとタンクを努めてくれる。であれば私も役目を努めねばなるまい。

 

「はぁぁああッ!」

 

「ハァッ!」

 

「せぇやっ!」

 

 やはり鱗は硬い。しかし、鱗と鱗の間には僅かな隙間があった。

 

「キョウ! お前のその剣で隙間を!」

 

「りょうかい! ニノマエくん、もう少し耐えて!」

 

「分かってらァ!」

 

「アサ様! どこを攻撃しても通らないわ!」

 

「分かってる! ニノマエ! 何かないか!?」

 

「腹の下! リザードマンの時のミカの動き!」

 

「了解!」

 

 各々アイデアを即座に出しながら動く。ニノマエに言われた通り、三獄砦の時のミカの動きを思い出す。体勢を低くして真下に潜り込む。

 

「フッ……!」

 

 ──────カァンッ!

 

 ここは違う。皮膚が厚いんだ。ならもっと内側。

 

 ──────ザシュゥ。

 

 ビンゴ!

 

「見つけた!」

 

「オーケー! 続けてくれ! 悪ィ! ヴェインもタンクお願いしていいか!?」

 

「任せなさい!」

 

 ヴェインは即座に中型の盾をアイテムボックスから取り出して前足の振り下ろしを盾で受け止める。

 

「ふッ、ぐ、ぅ……! おっも……! に、ニノマエ……あんたよくこんなもの」

 

「へへ、お手のもんだよ」

 

 真下から一度出て辺りを見る。キョウはいつの間にやらサタニエルの真上におり、身軽に動きながらヒットアンドアウェイを繰り返していた。

 

「ちょっ、お兄ちゃんほど正確さ無いんだってば〜! ってやっと当たった! どれくらい削れたの〜!」

 

「ちびっとしか削れてねェ!」

 

「うわーん! 地道すぎるよぅ!」

 

「弱音吐いてられるうちはマシじゃないの、よっ!」

 

 皆が躍起になっている。それもそうだろう。ミカが私たちに託してくれたのだから。

 

『クハハハハハハハハッ! 軽い! 児戯! 些末! そんなものかぁっ!? 人間共!』

 

「うるっさい! デカブツのクセにしゃしゃんな!」

 

「吠えヅラ掻かせてやんよ!」

 

 なんだかんだ言ってヴェインとニノマエは似ているなとその時にふと思った。

 

──────

────

──

 

 城の中とは名ばかりでそこかしこが崩れている。瓦礫だらけの廃墟のようでいて城の様式美は整っている。そんな奇跡的な様相。そして。

 

「────そこにいるのは」

 

「良く来たな。人間よ」

 

 奥のど真ん中に背凭れが長い椅子に背を預け、これでもかと余裕のある笑みを浮かべていた。

 

「我が名はソロモン。貴様ら人間を滅ぼす名だ。貴様の名を聞こう」

 

「ミカ。きみを止める者の名だ。きみのこれから行おうとしてることを止めに来た」

 

「クックク、ハハ……クッハハハハハハハハ! 面白い! 面白いぞ! たかが人間如きが我を止めるだと?」

 

「あぁ。業火竜さんとも約束したんだソロモン」

 

 ソロモンはゆっくりと悠然と立ち上がる。僕は長刀を抜いて鋒を向ける。

 

「僕がきみの計画を潰す!」

 

「フッハハハハ! 来いッ! 人間ンンンンン!」

 

 鞘を地面に突き立て、深く腰を落とし、強く地面を踏み、そして蹴る。《縮地》が発動する。

 

「は、ァァアアアッ!」

 

 後方へ寝かせた長刀を振り抜く。

 

 ──────ガァチィィィィインッ!

 

「っ……!?」

 

 ソロモンは右手を前に翳して、不可視の()()に阻まれていた。

 

 ────いま、何をされた。いや、なんで阻まれた!?

 

「不思議か?」

 

「…………」

 

「これは、怠惰の権能」

 

「なに……?」

 

「貴様の攻撃は我には届かない。ということだ」

 

「なっ!? ……っけんな!」

 

 あってたまるかそんなもの。まるでチートなものがこのゲームにあるなんて思えない。だから突破口はあるはず。思考を止めるな。そして今は。

 

「ハァァアアア!」

 

「無駄だと何故分からぬ!」

 

「ぐ、っ……!」

 

 今度は何で吹き飛ばされた。今のは……咆哮か? じゃあこれは……。

 

「あの竜と同じ憤怒……っ!」

 

「正解だ。そこは賢いのだな人間」

 

「くそっ……やっぱりそういうことか」

 

 なんらかの方法であの竜の咆哮を使用した。一体何の……。

 

「諦めろ。貴様如きでは我を倒せぬ」

 

「諦めない……! 諦めてたまるか」

 

 方法は分からない。けれどやりようはあるはずだ。探せ。探しながら、

 

 ────戦え!

 

「────、あ、ぁあああッ!」

 

 ソロモンから目を離すな。意識がある限り動け。手足が動くなら、動かせ。

 

「諦めの悪いッ……!」

 

「それが、僕なんでね!」

 

 また弾かれる。なぜ通らない。ソロモン……悪魔、天使……そうか。そういう、ことか。もし、この仮説が確かなら。

 

「っらぁっ!」

 

 再度振り下ろした長刀を途中で振り止め、下から右腕を切断する。戦ってる最中に見えたんだ。ソロモンの両手中指に()()があったことを。ふたつあるのがなんでかは分からないけど、でも。

 

「ぬァ、にィ……!?」

 

 吹き飛んだ右腕に目を奪われた瞬間だった。

 ギラリと睨まれソロモンの目を見た時、何か来ると察した。けれど反応が出来なかった。

 

「がっ……!?」

 

 後ろまで勢い良く吹き飛ばされる。受け身が出来ないと分かり、頭を打たないことだけは注意して転がる。

 

「ぐっ、ぅ……」

 

 顔を顰めながら起き上がる。視界がグラグラしてなかなか視点が定まらない。

 

「……さぬ」

 

「…………ぁ?」

 

 突如、僕を睨み据えたソロモンから覇気のようなものが溢れた。そして。

 

「ぐっ、ァアアッ!?」

 

 何をされたのか分からなかった。見えなかった。けどさっきと同じなことに変わりはないと思う。学ばないと。何をされたのか。起き上がらないと。ソロモンを止めるために。

 

 ──────ズルリ。

 

「……ぁ?」

 

 力が入らなかった。足に目を向ければ、両足が吹き飛んでいた。

 赤いポリゴンが両足から散っているのが見えた。

 

 ────なぜ。なんで。いつ。どうやって。なにをした。なんだ。なんで。

 

 意味が分からないことだらけで頭がパンクしそうだ。それと同時に、HPがみるみるうちに減っていった。継続ダメージだ。けれどズボンも斬撃とかには耐性があったはずだ。なのにそれを……。

 

「四方や貴様如き人間に、腕を取られようとはなァ! 決して! 一片の! 塵も残さぬ!」

 

 その光景は信じられなかった。一体どこから光門を生み出したんだ。それを視認してから再度また吹き飛ばされる。壁にぶつかり、視界が明滅する。

 

「ぁ、ぐ────────────、……が、っ」

 

 避けないといけないのに体が動かない。長刀は……あぁ、そこか。いま、そこに……くそ、動け。動いてくれ。頼む。

 

「疾く、失せよ!!!!」

 

 眩い光が迸った。その瞬間、動けなかった僕はその光に飲まれて意識を落とした。

 

『あなたは死にました』

 

 

『人魚の加護が発動します』

 

「なに……? まだ滅んでいなかったか。であれば失せ」

 

 

「させないっ!!!!!」

 

──────

────

──

 

「は、っあああああ!」

 

『クッハハハハハ! ……み、ご……と…………だ』

 

 なんとか私たちで倒し切れた。ニノマエもキョウもヴェインもみんな地面に座り込んでいる。

 

「っかぁー! っよっしゃぁぁぁああああ!」

 

「かてたー!」

 

「つ、疲れたわ……」

 

 ヴェインと目があった。「行くとこ、あるんでしょ。行きなさいな」そう言っているようだった。私は頷いてミカのあとを追った。

 

「ありゃ、行っちまったなー」

 

「お兄ちゃん大丈夫かなぁ?」

 

「さぁ、どうでしょうね。でも……あーあ。もう、いつまで引きずってるのよあたしは。頑張んなさいよ。アサ様」

 

 

 

 城に入れば轟音が響いた。ミカのHPが消えて、復活したのを目にする。急がなきゃ。

 

「──────であれば失せ」

 

 アイテムボックスに眠っていた大盾を取り出しながらミカの前に躍り出る。

 

「させないっ!!!!!」

 

 ガンッと地面に大盾を突き立てて攻撃を防ぐ。

 

「ぬ、ぐぅぅぅ……ぅ、ぁあああッ!」

 

 体勢を低くして大盾の中に入り、吹き飛ばされないように踏ん張る。ミカは……あの様子だと意識がない。それなら起きるまでは。

 

 ────私が時間を稼ぐ!

 

 攻撃が止んだのを確認して、大盾の中から身を出して剣を片手に走る。

 

「新手か。貴様も失せるがいい!」

 

「っ、ぐ……はぁっ!」

 

 左手に中盾を装備し、光弾を防ぎつつ振り下ろす。

 

「ミカをやらせるものか! 私が守る!」

 

「小賢しいっ!」

 

 蹴りを盾で防ぎつつ、後退する。

 

「なぜだ! なぜ貴様ら人間はいつもこうまでして……! あぁ、腑が煮えくりかえる!」

 

「……っ!」

 

 光の門が私に向かって照準を合わせてくる。防げるか? いや、防がなくてはならない。

 

「────っつぅ!」

 

 ガンガンと盾が打ち鳴る。何度か被弾して元々1割減ってたHPがさらに1割減った。それでもまだ生きてるなら────。

 

「……あぁぁぁッ!」

 

 飛んでくる気配がなくなり、前進しようとしたその時。

 

 ──────ガラガラガラッ。

 

 そんな時後ろから音がした。ハッとして後ろを振り返る。そこには、待っていた人が立っていた。立ち上がっていた。

 

「────……! ミカっ!」

 

 ゆっくりとした足取りでミカは長刀を拾って私の隣まで来る。

 

「ごめん。アサ。ありがとう」

 

「うん……っ!」

 

「…………決着をつけよう。ソロモン」

 

 強く、決意に満ちた顔でミカは言う。あぁ、ついさっき一緒だったのにずっと会っていなかったような感覚で心が震えた。

 

──────

────

──

 

 どこか遠い場所で音がした。けれど僕はここから動けない。動きたくても、動けない。だからもう────。

 

『大丈夫だよ』

 

 誰だ?

 

『大丈夫。ミカは動けるよ』

 

 この、声。

 

『ほら、がんばって? ボクの友達はこんなとこで止まらないでしょ?』

 

 無理だ。ソロモンを止めるには、何かが足りない。どう考えても、無理なんだ。

 

『大丈夫。きみなら倒せるよ』

 

 どう、して……?

 

『だってきみにはソロモンには無いものがあるから。ボクが眩しくて手に入らないものをきみは持ってる』

 

 それ、は……。

 

『理解、できた?』

 

 あぁ。そうだ。僕には、あるんだ。ソロモンに唯一打ち勝つものが。そう理解した時、とんっと背中を押された。

 

『きみの大切な人を守って戦って、自分に打ち勝ってよミカ』

 

「────そうだね」

 

『もう大丈夫でしょ?』

 

「うん。行ってくるよ」

 

『行ってらっしゃい♪』

 

 眩い景色に包まれて、僕は目を開く。その時に見えたのは、少し切なそうにだけど優しい微笑みの人魚だった。

 

『────頑張って。ボクの友達(ヒーロー)

 

 ──────ガラガラガラ。

 

 止まっていた、止めていた息が出来る。感覚のなかった手足が動く。あぁ、行ける。これだったら。

 

 ────行けるよね。僕。

 

 長刀を拾い上げる。いつもの、慣れしたんだ重さ。グッと握って僕は歩く。

 

「ミカっ」

 

 少し先で愛しい人の声で名前を呼ばれた。僕は自然と口が綻び、まだ少し揺れる体と視界を奮い立たせて隣に並ぶ。

 

「ごめんまたせて。けどアサ、ありがとう」

 

「うんっ……!」

 

 アサと笑顔で見つめ合う。そしてソロモンへ顔を向ける。

 

「…………決着をつけよう。ソロモン」

 

 真っ直ぐにソロモンを見据える。ソロモンは嗤い、そして慟哭した。

 

「そうだな。……(しか)し不思議なものだ。何故貴様は立ち上がれる? 打ちのめされたはずだ。なのに何故……貴様に……お前に何がある!」

 

 その慟哭を一身に受けて僕はアサを見てからソロモンを見返してはっきりと答える。

 

「意地だよ。ここで立ち上がらないと、僕はきっと弱いままだ。僕を、信じてくれる彼女のために僕は諦めない。こんな僕を()()()()()()。そんな彼女の信用(あい)信頼(あい)が僕にあるものだ。それが答えだ」

 

「愛、だとぉ……? ふざけるなっ! ふざけるなふざけるなふざけるなァ! 愛があるからなんだという! そんなもの(まやか)しだ! あってはならないことだ!」

 

「僕はそうは思わない。人が人たらしめるのは誰かを愛し、誰かに愛されて初めて人は生きる意味を得るんだ。誰かのために生きるのは周り回って自分のためになるんだから。だから」

 

 強い眼差しでソロモンを見据える。

 

「そんなことで否定なんてさせない。僕がそうであったように、ソロモンにだってあったはずなんだ。誰かを想い、誰かに想われていたことが」

 

「そんなものは無いッ! あってはならない! 我は人間を滅ぼす者! それ故に人間を、人類を愛することなど無いからだ! 不必要だからだ!」

 

「滅ぼすことにだって意味はある。きみが悪を成すのならそれは人類を愛していることに変わらない。それが悪だソロモン。きみはただ破壊の限りを尽くしたんじゃない。愛を無くさせないために止められたんだ。だから僕は……いや、僕たちがきみを止める。止めてみせる」

 

 きっとソロモンの姿は僕に()()()()()()()()()()()()姿なんだ。アサたちと出会わなかった時の……あのままひとりぼっちでいた頃の。

 

「行くぞソロモン。これで決着をつけよう」

 

「……良いだろう。貴様の妄言は聞き飽きた。我の全てで以って、貴様の全てを叩き潰してやろう!」

 

「だったら、全身全霊をかけてきみを打ち負かす!」

 

 ソロモンの雰囲気が更に変わった。オーラがより黒く、濁り始めた。さぁここからが正念場だ。チラリと隣を見る。

 

「行こう。アサ」

「あぁっ!」

 

 合図は無かった。それでも互いに走り出す。話し合わせたわけでもない。それでも、互いのすること、したいことが手に取るように分かった。

 

 当初浮かんでいた光門。それが更に増えていた。10……いや20以上。

 

 ────任せてくれ。

 

 ────任せたよアサ。

 

 ダッとアサは強く踏み込み、僕の前に出る。それと同時に光弾が掃射される。アサはそのどれもこれもを弾き落とす。多少の被弾を覚悟に。道を切り開くために。

 僕はその隙をついて、アサの横を通り抜ける。ソロモンは僕の行動に気付き、不可視の斬撃──────恐らくこれは風の魔法なのだろう──────が飛んでくる。一瞬の空気の揺らぎに集中して躱し、躱しきれないものを長刀で両断する。

 

「ぐ、ぅ……落ちろォッ!」

 

「させるものか!」

 

 ソロモンの注意が僕に向き、矛先が向き始めた瞬間にアサは《挑発》を使う。

 

「ぬぅ……! こ、娘ェェエエエ!!」

 

 後ろで甲高い金属音と衝撃音が響く。後ろを向きたくなる。けれど向くな。前を見続けろ。そんな時、後ろから大きな声が上がった。希望を乗せる声。僕に勇気をくれる声。

 

「行っけぇぇぇぇえええええええ!!!!!」

 

「────なっ、ぁにィっ!?」

 

「ハッ、ァァァァァアアア!!!!!」

 

 グググと上半身を右後ろへと捩り、引き絞る。ゴォゥッと風切り音が轟きながら真白に輝く長刀を突き放つ。長刀はそのまま吸い込まれるようにソロモンの胸へと深々と突き刺さった。

 

「────────────……っガ、ァ……ッハハ。クッハハハ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……僕の勝ちだ。ソロモン」

 

 数秒の沈黙。その時、右手に添えられる感触が。目を向ければそれはソロモンの左手だった。

 

「認めざるを得まい。貴様の方が強かったのだ」

 

「僕だけの力じゃないさ。アサがいてくれたから勝てたんだ。けれど、その言葉は素直に貰っておくよソロモン」

 

 だから今は、もう眠ってくれ。

 

 僕の小さな言葉はソロモンに聞こえていたのだろう。ソロモンは笑みを浮かべ、塵となって消えたのだから。

 

 

 

 戦いの余韻が消えないまま2人はそのまま地面に座り込んだ。

 

「助かったよ。アサ。本当にベストタイミングだった」

 

「間に合って良かった。ミカ。あの時お前は」

 

「一回死んだ。だけど、シェリエールの加護のおかげで生き永らえたよ」

 

「やはりそうだったか」

 

 クエストのクリア表示を確認したあと、鞘を探しに立ち上がる。幸い、すぐに見つかった。

 

「ミカ! 来てくれ」

 

「ん? どうしたの?」

 

「これを見てくれ」

 

 アサはそう言って、2つの指輪を見せてきた。片方は黒く、もう片方は鈍色だった。

 

「やっぱりそうだったんだ」

 

「やっぱり?」

 

「ソロモンっていう名前は旧約聖書と偽典に登場してて、旧約、新訳共に唯一神? 創世神? とされるヤハウェの(めい)でミカエルがソロモンに譲渡した指輪なんだ。片方は真鍮、片方は鉄で出来てて、色んな悪霊を使役できるとされてるんだ」

 

「ふぅむ。だからあの竜が現れたわけか」

 

「そうだね。本とかで聞いたことないかな。『ソロモン七十二柱』って」

 

「あー……用語だけは聞いたことあるな」

 

 アサの手の上にある指輪の一つを手に取り、説明する。

 

「この名称は『ゴエティア』っていう作者不明の本のことで、本は全部で5冊。そのうちの一つがその『ゴエティア』。それでその5冊ひっくるめて『レメゲトン』って呼ばれてるんだ。そしてソロモン七十二柱ってのはその『ゴエティア』にある72人の悪魔で、例を挙げればバアルやアスタロトなどだね。それらを使役した王として畏れられてたんだ」

 

「その本って存在するのか?」

 

「してるらしいよ。なんでも『ゴエティア』は悪魔を召喚するための陣や呪文とかもあって悪魔図鑑だなんて呼ばれてたりするみたい。それで、僕が戦ったときはこの鈍色の指輪は右手にしてた。真鍮繋がりなんだろうね。

 その『ゴエティア』には真鍮の器に悪霊たちを入れて海の底へ沈めた。そしてバビロニアの民たちは縁起のあるものだろうとしてその器を手に取り、開封した結果、悪霊がたくさん溢れた云々って記述があるみたい。だからのこの鈍色の指輪」

 

 ()めつ(すが)めつするが、輝きはなかった。

 

「ソロモンは不可視の突風と壁を作り出してた。壁は怠惰の権能だとか言ってたっけな。突風は恐らく憤怒だろうね。あの竜、サタニエルが憤怒だったから使役しているやつの力を行使できるって考えても良いと思う。

 けど、吹き飛ばされる前に僕が右腕を斬り飛ばして、吹き飛ばされたあとに色々あってきみが来たって感じだね。あぁ、でも……その後の咆哮は全くダメージを感じれなかったな」

 

 先ほどの戦いを思い返す。思い返しながら言葉に出す。

 

「多分、アサたちがサタニエルを倒したからそれでリンクが途切れた……のかな。うん。多分召喚できるのは1体程度で指輪を媒介にしないと召喚には時間がかかるんじゃないかな?」

 

「今はその確証も得れないが……」

 

「それが悲しいところだね。確かめようもないし」

 

「装備しないのか?」

 

「……悩んでるよ。彼の力は絶大だ。でもそれを使ってもいいのかなって」

 

「そうか。では、こちらの指輪もお前に渡しておこう」

 

「アイテムボックスの中に入れておくよ」

 

 アサから指輪を受け取り、それらをボックスに入れる。

 

「さて、と。帰ろっかー」

 

「そうだな。私は疲れたよ」

 

「同じく。ゆっくり休みたいね」

 

「ふふっ。同感だ」

 

 

───────────────────────

 

【獲得アイテム】

 

 ・真鍮の指輪

 ・黒鉄の指輪

 

【称号獲得】

 

 〈勇ましき破魔〉

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