Sie・Brechen・Online〜恋に初心なふたりと紡ぐフラグ回収〜   作:海澪

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14.プレゼント

 

 ソロモンを倒した1週間もあとだった。ゴールの泉へはすぐに向かうつもりではあったけれど疲労しすぎていたのもあるし、平日で学校があるのもあって来るのが遅れた。

 

「あっ、よーやくきた〜!」

 

「遅れてごめん。シェリエール」

 

 僕の姿を見て腕を振りながら駆け寄って来るシェリエールに一言謝罪する。

 

「ほんとだよもー。それでそれで? 倒したんだよね?」

 

「うん。だけどごめん。きみとの約束が」

 

「分かってるよ。きみの背中押したのボクだもん」

 

「やっぱりそうだったんだね」

 

 そう。あの後に気付いたけど、シェリエールから貰った加護アイコンが無くなっていたのだ。

 だから、左手をピースして人差し指と中指をチョキチョキしながら笑ってるのを見て本当に助かったよと頭を下げる。

 

「も〜、頭上げなって。それでさ、もういっかいつける?」

 

「……いや、いまはやめておくよ。デスペナルティをくらわないのは良いけれど、他のプレイヤーからしたらズルいことだから」

 

「そっか。じゃあ……はいっ」

 

「これは……?」

 

 シェリエールは自分がつけていたネックレスを外して渡してきた。

 

「これあればいつでもボクと繋がってる証。どんな悪〜いことも弾いちゃうんだから」

 

「う、受け取れないよ! こんな大事なもの、きみがつけてたのに……」

 

「ボクはミカが大事。それにボクは()()()()()()()()()んだからつけてたって意味ないもん。だから貰って?」

 

 ふっと少し暗い影がある笑みを見た僕は渋々受け取ることにした。

 

「…………分かった。受け取っておくよ」

 

「えへへ、つけたげるね」

 

 爪先立ちになり、首の後ろに両腕を回してネックレスをつけてくれた。その時、距離は密着に近く、ふと見えたのはシェリエールの肌だった。陶磁のように麗らかで、白く、人の肌に見えてたけれど薄っすらと鱗のようなラインが見えた。下半身が魚の鱗が見えるけど綺麗な両脚でそこしかないと思ってたけど、首筋にもあるのだなと思った。

 

「んっ、よし! ちょ〜っと女の子っぽいものだけど、うんっ。違和感なし!」

 

「ははっ。きみがそう言うなら気にしないでおくよ。ありがとうシェリエール」

 

「ねね、今日は泉にはいる?」

 

「入ってもいいの?」

 

「いいよ〜! それじゃあいこいこっ」

 

 手を引かれ、泉に向かわされる。水着を買っておいて良かったかもなと思いながら装備を変える。シェリエールもいつのまにか両脚を魚の下半身に変えていて泉の中へばしゃんと飛び込んだ。

 

「ほーらー。ミカも……って服変えた?」

 

「うん。一応ね。それじゃあ失礼するよ」

 

 鼻を摘んで、目を閉じながら飛び込む。泡の音が耳に木霊して少し篭って聞こえたあと顔を上げる。

 

「っぷはぁ。あー、心地良いね」

 

「へへ、そうでしょ〜。泳ご〜」

 

 シェリエールの言葉に頷いて潜る。泉の中はとても綺麗で水面の方に顔を向ける。日差しがキラキラと輝いていた。

 その光を求めて僕は浮かぶ。顔を浮かべた時、その眩しさに目を細めつつも笑う。

 

「ミカって上を見るの好きだよね〜」

 

「そう?」

 

「うん。前だってこうして空見てたもん」

 

「あー……こうして見るのが良いんだろうねぇ。シェリエールは空を見るのは嫌い?」

 

「ボクも別に嫌いじゃないなー。でもこの前までずーっとひとりだったから寂しさ紛らわすために見てたからそこは嫌かも。ボクはここでひとりなのに雲は止まんないし」

 

「そっか。でもさ、今は僕がいるよ」

 

「えへへ、うん。ほんとにきみが来てくれて良かった」

 

 それから結構長い間、シェリエールと話をしたり、一緒に泳いで久々の気分転換になった

 

──────

────

──

 

 「ちょっと〜? きーいーてーるー?」

 「あ、ごめん玲音(れいん)さん」

 「折角あたしが説明してあげたのにぼーっとするなんて良い度胸してるじゃないのー?」

 「ご、ごめんって」

 

 翌日。ショッピングモールに今は畔倉(あざくら)さんと2人で来ていた。理由は単純で阿佐上(あさがみ)さんに付き合い始めてもう少しで1ヶ月になるからだ。そういったものは贈り物をしたほうがいいと聞いて、畔倉さんと来た。

 

「もー教えないわよー?」

 

「後生なのでもう一度ご教授してください」

 

「ん、今度はちゃーんと聞いてなさいよー?」

 

 ピッと人差し指を指されつつバツの悪さを感じつつ頷く。

 

「まずは無難なのが消費系ねー。コスメは物によっては詰め替えもあったりして、人によっては重く感じちゃうかもしれないわね。服ももちろんバツ。相手のサイズ分かってないんだものとーぜんよね」

 

 館内のマップを指差しながら逐一教えてくれる。

 

「お菓子とかケーキの類いは?」

 

「全然アリ。というか一番無難な贈り物ね」

 

「ふむ……そっか」

 

「でー? あんたは詩能様に何上げたいのー?」

 

「まだ決めれてない。あっ、香水はどうなの? 詩能さんが使ってるのはあるのかな?」

 

「あたしは使ってるけど、詩能様はどうでしょうねぇ……使ってるとしても……あぁ、ここら辺だと思うわよ」

 

 スマホで香水を調べた玲音さんは画像を見せてくれた。

 

「そっか……ねぇ。さっき言ってたコスメ? ってなに?」

 

「化粧品。なーにー? 理和(りお)はそれ贈りたいの?」

 

「えっと……ダメ、かな?」

 

 僕が阿佐上さんに贈りたいものがなんなのか分かったのか、ふーんと呟いて少し考える素振りを見せた後頷いてくれた。

 

「……ま、いーんじゃない? あんたにしてはやるじゃない」

 

「……ぼ、僕にしては?」

 

「とりあえず、コスメあるのは……ここね。行きましょ」

 

「あっ、う、うん」

 

 ほんとに頼りになるなぁ畔倉さんは。

 

「それでー? なんのコスメがいいとかあるの?」

 

「そう……だね……」

 

 頭の中で阿佐上さんの顔を思い浮かべる。

 あ、待って。なんで今あれを……!

 

「なんであんた耳赤くなってるわけ?」

 

「い、いや……別に」

 

 その時思い出されたのは阿佐上さんとキスをしてることだった。煩悩に揺れている自分を今は振り落とし、改めて顔を思い浮かべる。

 

 「それなら……」

 

 コスメのコーナーを見回る。パッと目についたものを手に取る。

 

「コレにしようかな」

 

「あんたそれ……そう。それが良いのね?」

 

「うん。これが一番詩能(うたの)さんに合うと思うから」

 

 僕は手に取った()()を手にレジに向かった。

 

「あ、まだ時間あるしあのお店見てもいい?」

 

「良いよ。でも僕も行っていいのかな?」

 

「あんたの目で感想教えなさい」

 

 その後、近くの服のお店に立ち寄る。組む必要もないのに、畔倉さんに右腕を抱かれて。なんというか、そんなふうに気軽に来られると困る。阿佐上さんほどではないとはいえ、畔倉さんも割とある方だと……っていやいや! 僕は何を思ってんだお馬鹿!

 

「ねぇ、こっちとこっちだったらどっちが合いそう?」

 

「えっ……と、こっち…………かな?」

 

「へぇ〜。あんたって割と大人っぽい格好好きなのね」

 

「いや別にそういうわけじゃ」

 

「ふふっ。じょーだんよ。でもこっちね。分かったわありがと」

 

 本当に参考になったのだろうか。楽しげに服を見る畔倉さんを見ながら僕も服を見てみる。

 

「あっ、メンズの服は向こうみたいね。行ってみる?」

 

「そうだね。あとで行ってみるよ」

 

「あーけど……あたし、コレ試着してみたいんだけど…いい?」

 

 申し訳なさそうな顔でさっき僕が似合うと言った服を見せてくる。僕は二つ返事て了承する。

 

「いいよ。じゃあそっちを見るよ」

 

「え、でも」

 

「こっちに来たのだってきみが見たかったからでしょ? だから僕は大丈夫だよ」

 

「…………ほんと、あんたってお人好しね」

 

 毒付きながらも嬉しそうに微笑う畔倉さんについていく。

 

「そこで待ってなさい」

 

「りょーかい」

 

 カーテンを閉めて、試着室の中で物音が聞こえ始める。さすがにそこを見るのはだめじゃないかと気付いて、くるっと背を向ける。

 

「ん、? あれって」

 

 その時、目に留まったのはベンチで座り込んだ照明のせいかとても鮮やかな銀髪の少女だった。少し苦しそうな印象を受けて僕はその座り込んだ人のところに向かう。

 

「大丈夫?」

 

「……ぁ、えっと……あはは、人混みに酔っちゃって、ですね」

 

「そうなんだ。……あっ。じゃあちょっと待ってて」

 

「……? は、はい」

 

 近くに自販機を見つけて、水を買う。ミニサイズでも問題ないだろう。

 水のペットボトルを手に少女のもとに戻って手渡す。

 

「はい。水飲んで」

 

「えっ? あ、だ、だめです。受け取れませんよっ」

 

「良いから。水分は取った?」

 

「い、いえ。それはまだ……」

 

「じゃあちゃんと取って。気分が落ち着いたら良いね。っと、それじゃあそろそろ戻るから」

 

「あ、あの。お金を」

 

「ん? あぁ、良いよ全然気にしないで。それじゃあね」

 

 少し嫌な予感を抱いて、先ほどの服屋に戻る。すると、試着室で腰に手を当てて仏頂面の畔倉さんが睨んでいた。

 うわ、まずったかも。

 

「ちょっとー? 見・て・る・っ・て言ったのはどこの誰なわけー?」

 

「ご、ごめん。ちょっと目についたことがあって」

 

 大変に不機嫌な顔をしていた。僕は素直に謝罪する。

 

「ふーん。それってさ、あたしよりもじゅーよーなことだったわけー?」

 

「えっ、いや……どちらかというと命に別状は無かったみたいだし別に」

 

「そ〜う。あんたってばお人好しだもんねぇ。そのクセ、治したほうがいいわよ? あんた、自分の不利益とか考えないでしょ」

 

「……否定、出来ないね」

 

「まぁ? あたしはいま不機嫌なんだけど、それをどうしてくれるのかしらー? 理和は」

 

「……………………ごめん」

 

「ふふっ。このあともちょっと付き合いなさい」

 

 目を細めて、嗜虐心のある笑みを浮かべる彼女の言葉には否定も何も出来なかった。その後、ゲームセンターでへとへとになるまで音楽ゲームを遊び倒した。その頃にはもう畔倉さんの機嫌も治っていたのでまぁ良いかな。

 

──────

────

──

 

「今日泊まってくって親の人には行ってるの? 詩能さん」

 

「あぁ。問題ない。実を言うと、お前に会いたいと言っているくらいだ」

 

「えっ、話してるの?」

 

「家の前までもう何度も送ってもらっているからな。隠すことでもないから言っているぞ」

 

「そ、そうなんだ……じゃあ後で僕も会わせてほしいかも。聞きたいこともあるから」

 

「ん。分かった。言っておこう」

 

 夜、どうやら杏香(きょうか)が勉強を教えてもらうために阿佐上さんを招いていたようで連日になるから泊めさせると夕方に帰ってきた時に聞かされた。知らされてなかったから驚いたけれど僕は了承した。そしてさっきまで杏香の部屋で教えていたらしい。

 

「ところで、玲音とはどこに行っていたんだ?」

 

「へ? あー……実はさコレ」

 

 戻って来た時に抽斗(ひきだし)に入れていてそこから取り出して阿佐上さんの目の前に置く。

 

「これは……リップ、か?」

 

「うん。もうそろそろ1ヶ月が経つでしょ? それに前誕生日なんだってね。それ聞いて早く用意しとけば良かったって思って、プレゼント。マシなラッピングとかしてないからそのままだけどごめ……ってう、詩能さん?」

 

 薄紅色のリップをぎゅぅっと宝物を抱くように持ってから僕に(もた)れ掛かる。

 

「理和……。なんで、リップなんだ?」

 

「えっと……目に見えないものよりこうして目に見えるもののほうが良いかなって」

 

「それならばもっとあったろうに」

 

「そうだね。今更ながらそう思う。でも」

 

 阿佐上さんの背中に両腕を回して抱き締める。

 阿佐上さんは少し動いて、顎の下辺りに息がかかる。

 

「僕がその時には()()()()()って思った」

 

「そうか……そうか。なぁ、理和。リップを贈るのには意味があるらしいんだ。分かるか?」

 

 僕は素直に左右に振る。阿佐上さんは優しく微笑んでソフトキスをした。

 

「こういうことなんだ」

 

「……キス、が?」

 

「あぁ。リップを贈る意味は『キスがしたい』という意味だそうだ」

 

 それを聞いて全身に電流が走るようだった。腑に落ちたと言ったほうがいいだろう。

 

「……そっか。僕、」

 

「……?」

 

「詩能さんともっと触れ合いたかったんだ」

 

「〜〜〜〜〜っ!」

 

「こうして密着して熱を感じて、頬を撫でて、吐息を感じて、香りに包まれて、それでも……僕はもっときみを感じたいんだ」

 

 スリっと阿佐上さんの頬を親指で撫でる。阿佐上さんはほんの少し擽ったそうに目を細めつつも嬉しそうに笑う。

 

「理和は、……ロマンチストだな」

 

「多分、そうかもね」

 

「それじゃあ……もっと、スる?」

 

「うん」

 

 チェアに僕は背を預けて、その上に阿佐上さんが跨った。そしていつかの日のSBOでしたようなキスをした。とても熱くて、溶けそうで蕩けそうだった。

 

──────

────

──

 

「はーあー。も〜お兄ちゃんたちってばすーぐ近くにわたしいるのにさー。そーやっていちゃついちゃってさー」

 

 わたしはにんまりしながら独り言を漏らして、PCに挿して頭につけていたヘッドホンを取る。

 

「お兄ちゃんがこれならだいじょぶそーだし、わたしも動こ。だからあとで回収しなきゃなー。バレてないと良いなー」

 

 PCに映る音声波形アプリを閉じて、電源を落とす。

 そう。だいぶ昔からお兄ちゃんの部屋に仕掛けていたものがあるのだ。

 

()()()()()()()♪」

 

 わたしはちっちゃい頃から歪んでいた。そう分かるくらい暗いディスプレイに反射するわたしの目には感情が無かった。スマホを取り出して、創くんに連絡する。

 

「『あした会わない?』っと。およ、返信はやーい」

 

『全然良いけど、理和とかは呼ぶのか?』

 

「わ、やーっぱり気付いてないじゃーん」

 

『ちがうよー』

 

『?

 じゃあ2人ってことか?』

 

『そゆこと』

 

『まぁ良いけど

 どうするんだ?』

 

「んーどうしよっか」

 

 スマホ片手に思案してから文字を打ち込む。

 

『デートしよっかー』

 

『で、デート!?

 えっそれってあの

 いつものとこか?』

 

『そーだよー』

 

 いつものゲーセンで良いよねーと更に打つと創くんは二つ返事で了承した。

 

『それじゃあちょーっと早いけどおやすみ〜創くん』

 

『おう

 (おやすみのスタンプ)』

 

 LIMEを閉じ、スマホを置いて、ベッドに横になる。

 

 ────お兄ちゃんたちは今頃イチャイチャしてるだろーなー。

 

 良いなぁ。そう思える人いて。ううん。違うや。わたしがこんなんだからこんなわたしでも愛してくれる人がいないって考えてるからだ。きっと創くんなら……。

 

「────にゃは。だめだなーわたし。創くんのこと…。多分、好きなのになぁ……」

 

 そう独り言を漏らしたあと気付いたら眠っていた。

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